LCCタイガーエア台北便搭乗記

 11月の完成に向けて建設が進む旭川空港の国際線ターミナルビル。しかし、現在海外から旭川空港に乗り入れている定期便はLCCの台湾タイガーエアによる週2往復(火曜日・土曜日運航)だけだ。記者がゴールデンウィークの連休を利用してタイガー便に搭乗し、「唯一の国際定期便」の現状を探った。

利用者の大半は台湾人ツアー客
 「航空便の維持や便数増加のためには、旭川市民による積極的な利用が不可欠だ」─過去、繰り返されてきた言葉だ。実際、初めての国際定期便として韓国アシアナ航空が旭川─仁川間で就航した際には、民間の有志が「アシアナ友の会」を結成して、実際に韓国へのツアーを企画するなどしてきた。
 現在運航されているタイガーエアの旭川─台北(桃園)便についてはどうなのか。結論から言えば、旭川市民が応援のため利用できる余地は少ない。記者はタイガーエアのウェブサイトを利用して3月13日に予約を入れたが、その時点で「残り席わずか」だった。利用者の大部分は台湾の旅行会社が企画したツアーに参加した台湾人。日本人による利用はほとんど見込まず、ネットを通じた日本での販売枠もわずかしか確保していないとみられる。

食事持ち込み禁止
 台湾行きの便に搭乗したのは5月1日。離陸する前から、現在の空港ビルの片隅にある国際線搭乗口の前には、台湾人観光客が集合し、台湾語と北京語が飛び交っていた。出国検査を通った先には免税店があるのだが、彼らは搭乗直前まで土産物の購入に忙しい。この時点で空気はもう台湾と変わらない。
 往路は12時10分発。機内はほぼ満席だった。台湾の旅行会社はこの時期、「今年最後の桜が楽しめる」との触れ込みで北海道旅行を販売している。記者の隣に座った人に話しかけると、家族数人で団体旅行に参加、函館空港から入国し、4泊5日の旅行を存分に楽しんだと教えてくれた。
 LCCは前後の座席の間隔が通常の航空会社と比較して狭い。身長170㌢の記者が腰をぴったり背もたれに付けた状態で座席に腰掛けると、膝と前の座席の間には数㌢の間隔があり、それほど窮屈には感じなかった。しかし、背もたれを倒している人はほとんどいなかった。
 離陸後まもなく機内食の配膳が始まった。タイガー便の機内食は座席予約と同時に購入しておくのが基本なシステムで、メニューは「排骨飯」(揚げた豚スペアリブをライスに載せた台湾の庶民料理)など台湾の大衆料理を基本に機内食用にアレンジしたもの。機内でも注文はできるが、値段は320元(約1150円)と、台北市内の食堂の価格100元(360円)の3倍以上に達する。なお、タイガーエアでは機内への食事の持ち込みを禁じているので注意が必要だ。
 これがタイガーエアだけの特徴なのか、ほかのLCCとも共通しているのかは不明だが、飛行中の機内は記者が過去に経験したことがないほどにぎやかだった。家族連れの旅行客が話し続けていることに加え、男女のキャビンアテンダントによる免税品の販売が非常に積極的だった。少しでも手が空くとクルーがワゴンを押して通路を往復。機内放送でも「ただいま15%引きセールを実施中です。桃園空港の免税品店よりお得です」と繰り返していた。航空運賃を安く設定している分、物販を通じた売り上げの確保が不可欠なのだろう。
 記者の近くに座っていた女性は手を挙げてクルーを呼び、カタログを指さして韓国製化粧品を注文した。クルーは「申し訳ありませんが売り切れです。でも(別のページの化粧品を指さして)こちらも人気ですよ。うちの会社の女性CAはみんなこれ使ってます」とまくし立てた。そんなセールストークが成立するのかと記者は疑問に思ったが、女性は2つ購入していたから、効果はあったようだ。
 桃園空港到着は現地時間15時50分。空港MRT(鉄道)に乗って台北駅に移動し、夕方5時までに台北市街に入った。夕食を台北市内で楽しむにはちょうどいい時間設定の便だ。昨年、空港MRTが開通するまではバスやタクシーを利用しなければならず、また空港と台北の間の高速道路がしばしば渋滞するため、台北への到着時間が計算しにくかったのだが、空港MRTの登場でアクセスは大幅に改善した。

帰国便は朝6時発
 問題は4日後の帰りの便。桃園空港から旭川空港に向けての便は朝6時15分に出発、11時10分に到着する。空港MRTは始発が6時だから利用できず、台北市内から空港までは約1000元を払ってタクシーを利用するか、台北駅の北側にあるバスステーションから深夜・早朝も出発している空港バスを利用するしかない。日本人観光客はホテルにタクシーの手配を依頼しておくのが安全だろう。なお、エネルギッシュな台湾人も朝6時台の飛行機は辛いのか、機内では旅行客も添乗員も眠る人がほとんど。機内販売のワゴンも一度やってきただけだった。
 記者が支払った航空運賃は往復で6万1648円。これはゴールデンウィークに合わせて高めに設定された料金で、5月中旬には往復4万2662円に設定されていた。この値段で海外に行けるとすれば手頃な料金であることは確かだが、問題はやはり帰りの便の時間設定。出国のみ便利な旭川発のタイガー便を利用し、帰国の際には時間的に便利な他の航空会社の新千歳着の便を活用するのも一つの方法かもしれない。
 旭川空港では現在、国際線ビルの建設が進むが、タイガーエアの運航が確定しているのは10月末まで。その先は未定だ。同社はまだ旭川空港に搭乗券の発行に必要な機器などを持ち込んでおらず、普通のプリンタで印刷した簡便な搭乗券を乗客に渡していることからも、「本気度」には疑問符がつく。同じ台湾のエバー航空は9月15~10月14日の季節運航を予定しているものの、こちらも以前のような通年運航を復活させるメドは立っていない。
 海外の航空会社が、たとえ搭乗率が高水準を維持しているとしても、道内・国内の他の空港のほうが多くの利用が見込めるとなればすぐに路線を見直すことは、過去の実例が証明済みだ。現時点で唯一の国際便である旭川─台北便の維持または増加を願いたいが、購入できる座席が少ないこともあり、旭川市民にできることはほとんどない。

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この記事は月刊北海道経済2018年6月号に掲載されています。
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