旭川の個人所得は「中の下」

旭川市から東西南北にクルマを走らせれば、どの方向にも「田舎」が広がる。しかしその地域は、旭川市よりリッチかもしれない。統計を見る限り、上川でも道北でも道内でも、個人の平均所得がもっと多い自治体はいくらでもある。旭川市の順位の長期的な下落傾向も気になるところだ。

ついに全国3位
 「北海道第2の都市」は、旭川のキャッチフレーズの一つ。札幌との格差は拡大する一方だが、函館、釧路などの主要都市も苦戦していることから、2番目の地位は当面安泰。道北では文句なしに最大の都市だ。
 上川、留萌、宗谷管内、そして「道東」に組み込まれる網走管内を合わせた広大なエリアの中で、人口規模を比較すれば旭川市が34万211人でダントツの1位。北見市は11万8787人で、10万人台以上はこの2都市だけ。網走は3万6322人、稚内は3万4834人、名寄市、富良野市、紋別市、留萌市はいずれも2万人台であり、旭川市がこの地域ではガリバー的な存在であることがわかる(いずれも住民基本台帳、2018年1月時点)。
 しかし、それはあくまでも人口規模を比較したときの話。「1人あたり」をキーワードにすれば、まったく別の状況が見えてくる。
 総務省が毎年まとめている「平均課税対象所得」というデータがある。各個人の市町村民税の所得割の課税対象となった前年の所得金額を、課税対象者の人数で割った金額だ。この数字から、自治体別でみた収入の多寡が浮き彫りになってくる(東京都は23区の数字が個別で算出されており、他の地域は市町村別)。
 2017年版のデータによれば、全国1741自治体のなかで1位は東京都港区で、その額1115万円超。白金、六本木、麻布、赤坂、虎ノ門といった地域に高級マンション、豪邸、オフィスビル、繁華街が並ぶ港区なら、唯一の1000万円超えも意外ではない。2位は同じく東京都の千代田区で944万円余り。こちらも順当と言えるだろう。
 3位に入ったのは北海道宗谷管内の猿払村。その額は813万円以上で、東京都渋谷区、東京都中央区、兵庫県芦屋市、東京都文京区など、全国の著名な「金持ち自治体」を上回った。注目すべきは猿払村の近年の順位だ。2010年の76位から翌11年に18位へと急上昇。11位、25位、14年に5位に入り、翌15年に3位、一昨年は4位となったものの、1ケタ台には定着していた。17年の千代田区との差は130万円余り。今後猿払村が千代田区を抜く可能性もありそうだ。
 なぜ猿払村はこれほど経済が強いのか。全国最大の水揚げ高を誇る天然ホタテ漁が最大の強みだ。水揚げされたホタテの加工業も盛ん。本誌では数年前、猿払の海に面した高級住宅を取材したことがある。30代の若手漁師が建てたばかりの豪邸は建築費数千万円で、リビングは16帖。ダイニングキッチンは18帖で、天井の高さは4㍍だった。他にも猿払村の漁港に近いエリアには高級住宅が並んでいた。「潮風で外壁が侵食されやすいことから、10年も経たないうちに高級住宅を建て替えることも珍しくない」というエピソードが、この地域の経済力を物語る。
 猿払村を支える二大産業はホタテ漁と酪農。ランキングを見れば、畑作や酪農が主力の町や村がいくつも上位に食い込んでおり、猿払村は二枚看板を持っていると言えるだろう。
 道内2位、全国15位の遠軽町は海がなく、広大な牧草地が広がっているわけではないが、なぜ平均所得が多いのか。ある町民は強さの理由として渡辺組など有力な建設会社が複数あることを挙げる。ヤマハと取引している北見木材はピアノ業界ではよく知られた存在。ほかにも、自衛隊の基地の存在、そして旭川や北見から一定の距離があることから、消費が町内で完結することなどが影響しているようだ。

音威子府より下
 ひるがえって旭川市はどうか。2017年のランキングで旭川市は全国1741自治体の中で887位。ほぼ中間に位置しているものの、下から数えたほうが早い。道内179自治体のなかでも114位と、やはり「中の下」。道内ランキングの上位は軒並み漁業と酪農・畑作の強い町が独占している。上川管内では「北海道で一番小さな村」音威子府が24位(全国341位)に入ったのが最高だった。音威子府の人口は771人。旭川市の400分の1にも満たないが、1人あたりの平均所得では旭川市を上回っているのが現実だ。
 道内主要都市のランキングに注目すれば、札幌市は道内28位(全国372位)、帯広市は64位(570位)、室蘭市は76位(668位)、苫小牧市は84位(698位)、北見市は87位(722位)、函館市は104位(857位)で旭川市よりも上。旭川市を下回ったのは釧路市、岩見沢市、小樽市などだ。ランキングの下位は赤平市、芦別市、三笠市、夕張市、歌志内市といった旧産炭地によって占められている。
 道内のランキングの上位30自治体に入った「市」は、札幌市だけだった。猿払村をはじめ、真狩村、神恵内村、音威子府村、鶴居村などが上位30自治体に入るなど健闘が目立つ。村のほうが儲かるというよりも、十分な所得、税収がある村は周辺自治体との合併という道を選ぶ必要がないということだろう。
 都市部は先天的に不利な要素を抱えている。低所得者層は町村部では仕事を見つけにくく、パート仕事が比較的多い大都市部に流れる傾向が強いためだ。町村部での職探しが厳しくなるほど、都市部の平均所得を押し下げる役割を果たすことになる。

稲作より畑作・酪農
 ランキング上位に注目すれば、高収入の自治体に共通する特徴は「漁業、酪農、畑作」だ。とくに漁業は漁船だけでなく、魚の加工業、船舶、港湾設備の土木工事など幅広い裾野を持つ。「200カイリ前はもっと儲かった」と、昭和の留萌・宗谷・網走地方を知る経済人は振り返るが、漁業を主力産業とする地域は依然として強い。一方、農業については稲作が主力の地域の弱さが顕著だ。 旭川市近郊の自治体では、東神楽町の66位(580位)が最高、これに鷹栖町の97位(815位)、美瑛町の109位(871位)が続いている。比布、東川、愛別、当麻、上川の各町はいずれも旭川市を下回っている。
 気になるのは旭川の順位の低落傾向だ。1977年以降、5年ごとの数字に注目すれば、77年は436位、82年には420位だったものが、87年から順位を大きく下げ、92年818位、2002年861位、07年901位と低迷が続く。17年の887位という数字は一時よりも若干巻き返したといえる数字だが、それでも70~80年代には遠く及ばない。

巻き返し可能か?
 本誌は昨年10月号で、旭川地区(旭川中、旭川東の両税務署の担当エリア)の法人所得総額が2015年度、苫小牧地区に抜かれて道内5位に転落したと伝えた。上位4地区は札幌、帯広、函館、苫小牧。旭川地区はこれらの地区に、企業1社あたりの法人所得でも大きく差を付けられており、企業の収益で旭川が劣勢にあるのは明らか。本稿で示した課税所得データは、個人の懐事情についても同様の状況が発生していることを示している。
 全国でも道内でも「中の下」という旭川市民の所得の状況や、全国順位の下落傾向を見る限り、何らかの対策が必要となっていることは明らか。11月に行われる旭川市長選で、地域経済の巻き返し策が争点の一つとなり、候補者の間で真剣な議論が繰り広げられるかどうかに注目したい。

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この記事は月刊北海道経済2018年11月号に掲載されています。