さようなら「堂前宝くじ店」

 高額の当たりくじが出ることで知られる「堂前宝くじ店」が19年3月に閉店することが決まり、旭川市民の間で驚きが広がっている。幸運の女神・輝子さん(89)を中心に家族で仲良く経営していた堂前一家、名物売場に一体何が起きたのだろうか。

名物売場
 「この度、当店は平成31年3月を以ちまして閉店とすることになりました。長年のご愛顧大変ありがとうございました 堂前宝くじ店」
 短い文章が書かれた白い看板が堂前宝くじ店の店頭に掲げられたのは11月下旬のこと。看板は売場窓口の近くに控えめにひっそりと掲げられていたため、よもや閉店の知らせだと気づく人はそう多くはなかった。年末の挨拶に訪れた記者も実は看板に気付かず、長男・聡さん(67)の妻、星子さんから閉店することを知らされた時には驚きを隠せなかった。
 堂前宝くじ店は、旭川市民なら知らない人はいない有名店だ。高額当たりくじの全国ランキングで13位にランクインしたことがある名店で、市内だけではなく道内各地から宝くじファンが足を運び、観光バスで日帰りでのツアーが組まれるなど、ちょっとした観光スポットにもなっている。
 昭和26年にたばこ組合の勧めでわずか30枚の宝くじを販売した小さなたばこ店が、2年目にして1等くじ100万円を出したことが、堂前伝説の始まり。「高額のくじがよく当たる」 と、その名は一気に広がった。

7億円の当たりくじ
 当時はコーヒー1杯が30円でラーメン1杯35円。国家公務員の大卒初任給が7650円という時代。100万円がいかに大金であるかは想像に難くない。
 第2期高度成長期を迎えた昭和40年代になると一攫千金を夢見て宝くじ人気が一段と高まり、同店には長蛇の列ができるようになった。人気がピークを迎えたのは同51年。本州では宝くじを買い求める人が売場に殺到して死者が出るほどの騒ぎとなり、同店でも発売初日には早朝から約5000人という長蛇の列ができ、年末の風物詩となった。
 この頃から毎年のように1等くじを出し続けるようになり、旭川や道内のみならず全国にもその名が知られるようになった。その〝戦績〟は実に見事。左の表は平成以降の1億円以上の当選実績を記したものだが、平成10年と16年の2カ年を除き、2年から21年まで毎年1億円以上の高額くじを出し続けてきたのだから驚きだ。26年には1等と前後賞合わせて7億円の当たりくじを出すという奇跡ともいえる快挙を成し遂げた。
 同店は家族経営で、宝くじファンから〝幸運の女神〟と呼ばれている堂前輝子さん(89)をはじめ、平成30年3月に亡くなった輝子さんの夫の嗣延さん(享年94)、長男の聡さん(67)と妻の星子さん、長女のみゆきさんが仲良く経営をしてきた。
 市民からは「堂前さん」と呼ばれて親しまれ、高額当選が出ると常連客はまるで自分のことのように祝福。当たりくじが出ない年もあったが、そんな時には多くの市民が「今度は出るから大丈夫」と声をかけて励ました。
 ここ3年は高額の当たりくじは出ていないものの、もちろん今も人気は健在。大安ともなると長い行列ができ、観光バスに乗って宝くじファンが訪れる。

感謝の気持ちで一杯
 そんな人気店がどうして急に閉店することになったのだろうか。
 実は閉店の計画は数年前からあったそうで、宝くじ販売の仕事を実務面で支えてきた嗣延さんの体調が優れず平成30年3月に亡くなったこともあり、家族で相談して店を閉じることにしたという。
 長女のみゆきさんは次のように話す。「両親が高齢になり、数年前からは兄夫婦と私の3人で仕事をしてきましたが、相当しんどいものでした。みずほ銀行から箱詰めで送られてくる宝くじを手作業でバラと連番に分ける作業は20日間かかり、年末ジャンボともなると準備期間も入れると1カ月以上、一日も休みが取れないほどです。
 私たち兄弟もだんだんと年齢があがり、後継者がいないこともあり、思い切って平成の終わりとともに店を閉じることに決めました。閉店を知ったお客様からお声をかけて頂いたり、中にはお手紙を下さる方もいます」。
 輝子さんは耳が少し遠くなったそうだが、心身ともに健康で、体調はとても良さそうだ。70年近い宝くじ人生を振り返り、「本当にいろいろな出会いがあり、お客様に感謝の気持ちしかありません」と笑顔で話す。
 エピソードは枚挙にいとまがない。4200円の当たりくじを換金に立ち寄った人がたまたま手にしていたハズレくじの中に5000万円の当選くじが入っていたり、倒産寸前で幸運にも1000万円を当て、輝子さんも一緒になって万歳をしたこと、高額くじを当てた老夫婦が店の前で抱き合って大喜びしたことなど、様々な人生模様が繰り広げられてきた。
 高額当選の場合、金額の大きさに呆然となってしまう人が多いため、落ち着いてもらうために自宅に招き入れ、みゆきさんが淹れた温かい緑茶でもてなしてきた。
 そのため、「堂前さんでは高額くじを当てるとお茶を入れてもらえるらしい」という〝噂〟が広まり、一時期は宝くじを購入する際に「当ててお茶を飲みに来ます!」と高らかに宣言する人が相次いだ。中には本当に高額くじを当てた関東に住む男性が、わざわざお茶を飲ませてもらうために訪れたという。
 「高額くじを当てた男性が当選証書を手に、『お茶を飲ませて貰いに来ました』と突然来店しました。地元の売場で宝くじを購入したそうですが、誰かに当選証書を見せたくて仕方なかったけれど、地元で噂が広まると困るので母に見せるために旭川に来たそうです。お茶を飲んでもらうと、当選金で家を新築したことなど母とひとしきり話をして、その足で帰っていきました」(みゆきさん)
 ちなみに、なぜ堂前さんがこんなに〝当たる〟
のか。その理由について輝子さんは以前から「私たち家族にも全くわからない」と口にしていたが、今回の取材でも「ゲンを担いだり、神棚に手を合わせることもしてきませんでした。どうして高額くじが出たのか今だにわかりません」と話す。
 1等前後賞合わせて10億円が当たる年末ジャンボ宝くじは12月21日までの販売とあって、多くの宝くじファンが同店を訪れている。中には一攫千金を狙って9500枚も購入した人もいたそうだ。
 名所の幸運にあやかりたいという願いだけではなく、堂前さんに有終の美を飾ってもらうためにも年末ジャンボで高額の当たりくじが出て欲しい、そう願いながら買い慣れた売場に並ぶ人も少なくないのではないだろうか。宝くじの名所の閉店は惜しまれるばかりだ。

表紙1901
この記事は月刊北海道経済2019年01月号に掲載されています。