東川の田んぼからコーヒーの香り

 道外や海外から東川を訪れる動機は人によってさまざま。雄大な風景、温泉、スキー、日本語学習…。最近増えているのが「おいしいコーヒー豆が買いたくて」遠くから東川まで足を運ぶ人たちだ。「ヨシノリコーヒー」の向こうに広がるスペシャルティコーヒーの奥深い世界を、少しだけのぞいてみた。

東川に新しい魅力
 雄大な大雪山の風景、天人峡・旭岳の温泉、コメ、湧水…。人口約8000人の町なのに、東川町には魅力がいくつもある。約4年前、このまちに加わった新しい魅力が「コーヒー」だ。冬は厳しい寒さに包まれる東川に、もちろんコーヒー畑はないが、腕を高く評価される焙煎職人がいて、焙煎機がある。芳香を放つ豆を求めて、全国はもとより、海外からも客が訪れる。
 それが「ヨシノリコーヒー」(東川町北町12丁目11─1)。轡田芳範さん(48歳)、紗世さん(36歳)夫婦が、道道からやや入ったところに開いたビーンズ・ショップ(自家焙煎店)だ。冬には一面の雪景色となる農地に囲まれ、店内では黒い鋳物の焙煎機が存在感を放つ。店の奥には自宅のスペースを改造して設置したドリンクスペースが設けられており、景色を眺めながら煎れたてのコーヒーを味わうこともできる。
 記者が訪れた年末の夕方、芳範さんは若手のスタッフに手本を見せながら焙煎している最中だった。温度計を注視し、炉の内部で加熱された豆が立てる小さな音に耳を傾ける。内部の豆を少量抜き取って香りをチェックしながら、注意深く焙煎する。ここぞというタイミングで炉から豆を出し、撹拌しながら冷却する。余熱で焙煎が必要以上に進まないようにするためだ。
 焙煎機はドイツの老舗、プロバット社の商品。芳範さんは複数のメーカーの商品を試用してからこの機械を選んだ。大型で鋳鉄製であるため、温度が安定しているのが強み。値段は「高級自動車が1台買えるくらい」だという。
 焙煎が終わった豆でコーヒーを作り試飲する。このとき必要な技術が「カッピング」。あえて音を立てるようにして吸い込むことで、鼻腔内部にコーヒーの霧を広げて香りをチェックする。
 芳範さんが焙煎について強く心がけているのは、豆が秘めているポテンシャル(可能性)を殺さず、最大限に引き出すということ。「焙煎の腕で豆をもっと美味しくすることなんてできません」。

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この続きは月刊北海道経済2019年2月号でお読み下さい。