上川小豆産地消滅の危機?

 本誌2月号記事「道産小豆不足 菓子業界を直撃」を読んだ小豆生産者から切実な声が寄せられた。上富良野町で40年以上にわたって小豆栽培を手掛けている60代の男性・Aさん。「富良野エリアでは、小豆から大豆に作付転換する農家が急激に増えており、このままでは〝上川小豆〟が消滅してしまう」と危機感を強めてのことだ。

台風が直撃
 本誌2月号では、道産小豆不足の現状と、旭川の菓子業界への影響について報じた。記事の内容をおさらいするとこうだ。
 国内で消費される小豆は、3分の2が国内産で、そのうち9割を北海道産が占める。2012年から15年まで豊作が続いたために在庫が膨らみ、需給調整のために作付け面積の削減が行われて、16年の作付面積は前年の約3割減となる1万6200㌶となった。
 しかし皮肉にもこの年、道内小豆の主要産地である十勝地方を台風が直撃。収穫量は前年比55%減の2万7100㌧にまで落ち込み、在庫過多の状況が一転、小豆不足が深刻となった。
 再び増産が進められ、翌年の17年には作付け面積は1万7900㌶にまで増えたものの収穫量はふるわず4万9800㌧。16年を除いて過去10年間で最も収穫量が少なかった09年の4万650㌧をかろうじて上回るにとどまった。さらに18年には初夏に低温と日照不足、長雨が続き、収穫量は前年を下回る見込みだ。
 ただでさえ在庫が不足しているところに、菓子業者や食品メーカーが在庫確保に奔走したことで品薄に拍車がかかり、道産小豆の価格は前年比2割近く高騰。全国の製餡や菓子メーカーでは十分な量を確保できず値上げに踏み切る店舗が相次ぎ、旭川市内でも老舗菓子店が一部商品を値上げし、人気商品の一時的な販売中止を検討するなど影響が広がっている。

生産者の高齢化
 上富良野の生産者・Aさんから電話を受けたのは3月号の発行から一週間後。「このままでは上川から小豆が無くなってしまう。産地を守るためにも周りの生産者に少しでも小豆を作ってもらう必要がある」という切実な声だった。
 Aさんの農園は上富良野から美瑛町白金に向かう道道353号沿いにある。小豆をはじめアスパラ、馬鈴薯、かぼちゃ、スイートコーンを栽培し、稲作も行っている。40年ほど前から小豆を栽培し、複数の品種を手がけていた時期もあったが、富良野エリアが三重県の老舗菓子店と小豆の契約栽培をしていたこともあり、現在は「しゅまり」に特化している。
 小豆は、他の農作物に比べて使用する肥料が少ない低コストの作物だが、作業には手間がかかる。上川地方では、5月から6月上旬にかけて播種し、発芽後は中耕除草機による作業を2度ほど行う。開花から収穫まで3度ほど防除が必要だ。
 完熟して葉が落ちるまで畑で育て、収穫時にはまずはビンカッターという機械で刈り取る作業が行われる。サヤが乾燥していると機械に当たってはじけてしまうため、朝露が残る早朝しか行うことができない。まさに時間との勝負だ。それからコンバインで刈りとった豆を集めて収穫するという流れで行われる。
 これに対し、大豆は刈り取りの作業をせずに汎用コンバインで収穫できる。また単価は小豆とほぼ同じで、国の保証もある。そのため、小豆から大豆に転換する生産者は後を絶たない。
 富良野エリアでも小豆の栽培をやめる生産者が相次ぎ、現在では最盛期の8割程度にまで減少したが、Aさんは、「小豆不足は農家の高齢化が根底にある」と語る。
 「農家の高齢化が進み、後継者がいない場合には離農せざるを得ない。離農者から畑を譲り受けた農家の耕地面積は必然的に大きくなるので、手間のかかる小豆ではなく、機械で効率よく作業が出来る大豆に転換する農家が増えている。これまでは小豆の価格が上がれば生産者も栽培したが、今は価格が4万円台と高騰しているが積極的に作ろうという人はいない」。
 さらに富良野エリアでは、3年ほど前に大手食品メーカーと契約栽培を始めたことで黒大豆の作付が一挙に広がり、小豆の作付面積の減少に拍車がかかった。

十勝の代替産地
 上川エリアは十勝に次ぐ小豆の産地だ。たびたび台風の被害に遭ってきた十勝に比べて、気候の変動が少なく、十勝が天候不順で不作にあえいだ年でも安定した量を収穫することができ、食品業界からは十勝のいわば〝代替産地〟として認識されてきた歴史がある。
 Aさんは上川エリアを小豆の主産地として存続させようと必死だ。そのためにも、昨年十勝で開催された生産者と和菓子業界の〝サミット〟のような場が効果的だと提案する。「小豆不足が続き、規模の小さな和菓子店が一度竈の火を消すと再起できないと思う。今のように組織に小豆を納めて終わりというのではなくて、生産者と菓子メーカーが交流する場を設け、生産者が自分たちが手がけた豆がどのような製品になり、消費者からどんな反響があるのか知ることで、小さな規模ならば作ってみようかということにもなる」。
 またAさんは、小豆栽培が産地の「地力」維持にもつながると訴える。「産地を維持するためには地力が大切になる。小麦や大豆ばかりでは地力が落ちるが、亜鉛を豊富に含む小豆は土中にミネラルなどを残して地力を高めてくれる。小豆を輪作に組み込み、畑の地力が落ちても復活するような形をとっていく必要がある」。
 富良野エリアでは幸い、今年度の小豆の作付けは少しだけ増える見通しだが、Aさんの地元上富良野では作付けが増加する見込みはない。Aさんは「十勝エリアで唯一作られていない品種が『しゅまり』。この品種を生産者に少しずつでも手がけてもらうことで、上川エリアで守っていきたい」と強く訴えた。

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この記事は月刊北海道経済2019年04月号に掲載されています。