一部のこども園が「2号」→「1号」で荒稼ぎ

 今年10月からの幼児教育・保育(3〜5歳)の無償化を前に、子育て支援に力を入れる旭川市が頭を痛めている問題がある。現在市内に35ヵ所ある認定こども園の一部に、2号認定より4倍も高い1号認定の給付金を当て込み、年度途中で2号認定の子どもを1号認定に〝誘導〟している事業所がいくつかあるというのだ。この決して適正とは言えない行為により、国や道、市などが事業所へ支払う給付金は年間約1億5000万円も余計に膨らんでいる。市は「定員を順守して」と是正を呼びかけているのだが強制力はない。事業の公平性を保つために、何よりもまず、一部事業所側の自粛が求められている。

幼稚園と保育園が一体化したこども園
 就学前の幼児教育・保育施設はかつて「幼稚園」「保育所」の2種類だけだったが、2006年に国が新しい保育形態を法制化したことで、近年は全国の自治体で幼稚園と保育所の両方の機能を併せ持つ「認定こども園」が増えてきている。

 認定こども園の入所規定は地域や施設によって違うが、基本的には3つの認定区分があり、1号認定は3歳以上で教育を希望する場合、2号認定は3歳以上で保育が必要な場合、3号認定は3歳未満で保育が必要な場合。

旭川の認定こども園の費用
〈保護者の負担〉
 1号認定保育料上限 21,900円
 2号認定保育料上限 42,100円
〈事業者の収入〉
 1号認定給付費1人21~23万円
 2号認定給付費1人6~7万円

 簡単に言うと1号は従来の幼稚園、2号・3号は保育所という位置づけになる。教育(幼稚園)と保育(保育園)を一体的に行う施設が認定こども園ということなのだ。
 3〜5歳の1号認定の子どもは、午前9時から午後2時くらいまでの4〜6時間を従来の幼稚園のように過ごし、それ以降は幼稚園型一時預かり事業を利用して保育所のように過ごす。2号認定、3号認定の子どもは共働きしている保護者の労働時間によって保育短時間認定と保育標準認定の違いはあるが、1日いっぱい保育所として過ごす。
 つまり、同じ園、同じ教室通っていながら、1号認定の子どもは従来の「幼稚園児」で、2号・3号は親が就労し保育が必要とされる「保育園児」なのである。もちろん子どもたちの間には〝号認定〟の意識などない。意識を持っているのは事業所である園と、子どもを預ける保護者である。

認定変更で給付金1億5千万円超過
 7月30日、市内の幼稚園・保育園・認定こども園などを管轄する市役所の子育て支援部が主催して、今年10月1日からスタートする「幼児教育・保育の無償化」についての説明会が勤労者福祉会館2階大会議室で開かれた。午前中は幼稚園、保育所を対象に午後は認定こども園を対象に制度の改定に伴う具体的な説明が行われ、午後は市内35ヵ所の認定こども園を対象に行った。
 午後の部では各事業所から2人ずつ出席し、会場には約70名が集まっていた。保育給付係やこども事業係からひと通りの説明があり閉会となった後、こども育成課の担当者から予定にはなかった発言があった。出席者によると、この中で担当者は次のような話をしたという。
 「今から1号認定の考え方をお話しします」と切り出した後、定員は4月1日時点ではおおむね守られているが、それ以降に増えている。1号の認定は園と保護者との直接契約なので市には実態が見えていなかった。
 1号認定の定員を大きく超えている園の保護者に電話による聞き取り調査をしたところ、就労状況に変化がないものの「保育料が安くなるから」とか「自分の子どもがなぜ1号なのかよく分からない」といった回答が多かった。
 そして「現在定員を超えて1号認定になっている子どもを、本来の2号認定に置き換えると給付金に1億5000万円の差額が出ている。市の財政面からも、2号認定で保育所を利用している人との公平性の面からも看過できない」と暗に、不適正な認定変更を行っている事業所に苦言を呈したという。

子ども1人につき給付費15万円増額
 子ども育成課が年度途中で2号から1号に変更するケースが多くみられる事業所に注意を促した背景には、保護者が支払う保育料の違い以上に、事業所に入ってくる給付金が2号と1号では実に4倍も違っていることがありそうだ。
 保護者の経済・生活状況や定員数によって違いはあるが現在の旭川市の場合、1号認定の保育料は上限で2万1900円、2号認定は高い人で4万2100円。一方、事業者に入る行政からの給付費は、定員にもよるが、2号認定(4〜5歳の場合)の子どもが1人6万円強、1号認定(4〜5歳の場合)の子どもが1人21万円強。約15万円近くもの差がつく。
 つまり、2号から1号へ変更すると、保護者にとっては保育料が2万円ほど安くなり、事業者にとっては15万円も多い給付金が得られるわけである。これは定員79人(1号9名、2号45名、3号25名)の一般的な認定こども園をシミュレーションした数字だが、2号から1号へ変更した場合には保護者、事業所の双方にざっとこれだけのメリットがあるのだ。
 市内の一部事業所で、4月時点ではほぼ定員数なのに5月になると2号から1号へ大量に移行している実態を、そのつど変更届を受理する市はつかんでいたようだが、制度的には「災害や虐待、保護者の就労状況の変化など、やむを得ない事情がある場合は認定変更できる」となっており、また1号認定は園と保護者の契約になるので行政として口出しはできない仕組み。問題は本来の2号ニーズの子どもを施設の中から意図的に1号を作り出すことにある。
 市が行った保護者への聞き取り調査でも、「保育料が安くなる」として園に誘導された実態が見えているが、確かに保護者にしてみれば1号認定となれば一日の預かり保育料数百円の延長保育料を加えても2号認定の時よりかなり安くなる。
 園が勧めてくれば断る理由もない。しかし、そのことにより事業者である園が2号認定の時より4倍近い給付費を受け取ることまでは聞かされていないようだ。

市だけで3750万円の余計な負担
 認定こども園の一部に、増額される給付費を目当てに2号認定の子どもを1号認定に誘導しているという話は、昨年あたりから事業者間でうわさになっていた。
 園同士は横のつながりもあり、同業者の足を引っ張ることに遠慮があるため大きな騒ぎにはならなかったが、そのうち、他都市でも制度の隙間をついて収益を上げている不適正な行為があることを情報として得た市は、財政難の折、歳出増を抑えるためにあえて一部事業者に対して苦言を呈することにした。それが7月30日に開かれた「幼児教育・保育の無償化」についての説明会の際に飛び出したこども育成課担当者の番外発言だった。
 同担当者の発言を聞いていた事業者たちからは一切質問が出なかったが、これはその場に参加していた全員が気づいていた問題だったためと思われる。しかし、この時担当者が話した「給付金に1億5000万円の差額が出ている」という実態には誰もが驚きを隠せなかったようだ。
 給付金の増額分1億5000万円を負担するのは国が半分、道と市が4分の1ずつで、市の財政負担は3750万円という計算になる。このことが表面化したのは年度途中だが、放っておくと来年3月までこの不適切な状況が続くことになる。 国や自治体が負担する財源は国民や市民の税金であり、この支出は公益ではなく一部の事業者と利用者の私益にすぎない。無駄な負担と言い切れるものでもないが、余計な負担であることは間違いない。
 幼児教育の無償化が始まると行政の財政負担はさらに増える。税金の使われ方の公平性、効率性の観点からも、認定こども園の一部に見られる不適正事業者の自粛が求められる。

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この記事は月刊北海道経済2019年09月号に掲載されています。