大雪アリーナ ヴォレアスに狭すぎる

 旭川市夢りんごリアルター体育館を本拠地とするバレーボールのチーム、ヴォレアス北海道で、念願の「V1」昇格が見えてきた。大きな課題が3000人規模の本拠地の確保。札幌、帯広、函館などには大規模な会場が存在するが、ヴォレアスを旭川に留めるためには、経済効果も見極めたうえで大雪アリーナの本拠地化も含めた対策を検討する必要がありそうだ。

昇格の権利もつ唯一のV2チーム
 全国に知られる旭川の名所・名物をいくつか挙げるとすれば、最初に頭に浮かぶのは「旭山動物園」だろう。「旭川ラーメン」も高い知名度を誇る。繰り返しドラマ化される小説「氷点」の舞台となった「見本林」や、その中にたたずむ「三浦綾子記念文学館」も有名だ。こうした名物・名所のリストに、もうすぐ「ヴォレアス北海道」が加わるかもしれない。
 バレーボール男子のVリーグの頂点であるV1のすぐ下に位置するのがV2。旭川に本拠を置くチーム「ヴォレアス北海道」は1月末までV2首位をひた走っていたが、2月1日、2日の週末は1試合のみで1勝0敗、2位だった富士通カワサキレッドスピリッツが2勝0敗だっため、勝ち数で並ばれ、ポイントで2位となった。3月8日まで続くリーグ戦で上位2チームに入り、さらにV1の最下位チームとの入れ替え戦で勝利すれば、ヴォレアスは念願のV1昇格を果たす。
 V2のチームがすべてV1昇格を目指しているかといえば、そうではない。さまざまな条件をクリアーした上で、審査を受けて「S1ライセンス」を取得することが昇格のもう一つの条件。現在、V2でS1ライセンスを持つのはヴォレアスだけだ。
 ヴォレアスは2017~18年シーズンにV・チャレンジリーグⅡに加盟したばかりの歴史の浅いチームだが、同リーグで優勝し、18~19年シーズンもまた優勝、19~20年はV2で快進撃を続ける。チームが目標に掲げるV1昇格はリーグ戦での最終成績だけでなく、短期決戦となる入れ替え戦の結果にも左右されるため、最短距離で昇格を決められるかはまだわからないが、発足以来の順調な歩みを考えれば、トップリーグ入りは時間の問題だろう。
 ところが、ヴォレアスには不安要素がある。本拠地となる体育館の収容人数が不足しているのだ。

基準は3000人 固定席は1500弱
 ヴォレアスの現在のホームアリーナ(本拠地)は旭川市夢りんごリアルター体育館(総合体育館)。常設の固定座席のみを使えば1500人弱を収容できるが、これではV1チームに求められる本拠地の収容人数である3000人の半分にしかならない。
 V2に籍を置く今季でさえ、ヴォレアスは総合体育館でゲームがある日の前日、札幌の業者を旭川まで呼び、スタッフや選手も作業に加わり、体育館の床に臨時の座席を設営し、試合やイベントがすべて終了した後に撤去している。臨時座席の数は予想される入場者数やチケットの売れ行きに応じて調整しているが、1回あたり100万円から200万円の費用がかかっている。運営会社の株式会社VOREASで社長を務める池田憲士郎氏によれば、「利益が臨時席設置のコストで吹っ飛んでいる状態」だ。
 問題は観客席数だけではない。旭川市はある程度、総合体育館のスケジュールを決定する際、ヴォレアスの予定を優先しているが、他のスポーツ団体による使用、一般開放の日も多いため、リーグの都合通りには総合体育館の使えないことがある。今季のリーグ戦ラスト2試合は、2月29日(対富士通)と3月1日(対埼玉アザレア)だが、いずれも会場は帯広市内のよつ葉アリーナ十勝。昇格に向けた正念場となるこれら2試合が旭川開催でないのは、先約の入っていた総合体育館のスケジュールを抑えることができなかったため。一方、PFI方式で建設されたよつ葉アリーナ十勝は2月29日に供用を開始するが、(2月3日現在)V2の1位チームと2位チームの対戦という格好のイベントで華々しく「こけら落とし」を飾ることになった。

逃す商機がさらに拡大
 よつ葉アリーナ十勝は最大で5000人以上の収容人数を誇る。札幌には8000人収容のきたえーる、1万人収容の真駒内アリーナがあり、函館アリーナも約5000人収容。これらの会場と比べれば、旭川市総合体育館はV2チームのホームアリーナとしては頼りない。さらに、ヴォレアスが現在、昇格を目指しているV1のための本拠地としては、明らかに容量不足だ。
 「現在、V1のゲームには5500~6000人が入ることもある。来季のリーグ戦は東京五輪の終了後に始まるので、さらに増えることも考えられる。日本代表クラスの有力選手が所属するチームが旭川に来れば、500~1000人規模のファンが選手たちとともに来旭するはず」(池田氏)
 しかも、来季は各チームの主催試合が今季よりも増える見通し。現状のままではホームアリーナの収容人数が少ないために、みすみす逃してしまうビジネスチャンスもそれだけ拡大する。
 「我々は民間企業なので、努力にも限度がある。例えば帯広ならもっと観客が入るということになれば、帯広開催の回数増加も検討しなければならない」。池田氏によれば、函館市など、ヴォレアスにゲーム開催を呼びかける自治体は他にもあるという。

大雪アリーナなら固定席が倍増
 旭川市内にもV1のホームアリーナに適した施設がある。道北アークス大雪アリーナがそれだ。座席数は固定席だけで2985人と、総合体育館の約2倍。移動式、仮設、立ち見を含めれば9133人が収容できる。クリスタル橋がかかって旭川駅、中心市街地、さらにはさんろく街まで歩いて行ける距離になったのも魅力だ。池田氏は「これほど好立地にある会場は全国的に見ても珍しい」と、大雪アリーナの条件を高く評価する。
 総合体育館は自家用車でなければ来場が難しく、ゲーム終了後にサポーターたちが盛り上がる飲食店も周辺には乏しい。このあたりの事情は東光スポーツ公園で新設される予定の新しい複合体育館も同じだ。
 大雪アリーナをヴォレアスのホームアリーナとして活用できるのではないか─その可能性にいま関心を寄せているのが旭川市議会の林祐作議員。
 「旭川市は指定管理者である旭川振興公社に年間1億5700万円を払って大雪アリーナの運営を委託している。仮にヴォレアスに大雪アリーナの運営を任せれば、ホームアリーナとして活用しながら、イベントも開催し、東京の企業との関係を生かしてお金を集めることができる。収入を増やせば、市民の負担を減らすことができるのではないか」。
 実際、ヴォレアスはスポーツを中心に音楽、踊り、飲食なども組み合わせたイベントを開催する「興行主」として実績を積み重ねてきた。大企業が支えるV2の他のチームと互角以上の戦いを繰り広げてきたのも、興行主として人気を高めてきたからだ。
 しかし、大雪アリーナは現在、旭川市内における唯一の屋内スケート施設として活用されている。平日の午前、午後は一般開放されており、週末はスケート大会、アイスホッケー大会が開催される。仮にスケートリンクとしての使用ができなくなれば、最も大きな影響を受けるのはアイスホッケー団体だ。長年競技に関わている選手は「我々が望んでいるのは通年で練習ができる環境。大雪アリーナは冬しか使えないが、それすら使えなくなるのは、いま練習している子どもたちのためにも受け入れられない」と語る。
 大雪アリーナのヴォレアスによる使用を、旭川市はどうとらえているのか。スポーツ課は「立ち話程度で聞いたことしかないが」と断ったうえで「現状、スケートリンクとして使っているので難しい」と転用に慎重だ。
 転用の障害になりそうな要素がある。老朽化した現在の設備に変わる製氷設備の取り付け工事が今年の8~10月に予定されているのだ。すでに設備の製造は工場で始まっている。工事が1年後なら、状況は違っていたかもしれない。
 しかし、ある市議は「全面的な転換が無理だとしても、スケートリンクの営業期間を多少短縮するなどして、ヴォレアスと共存する方法はあるはず」との見方を示す。

転用するにも大規模改修は必要
 大雪アリーナをヴォレアスの会場として使うには、さまざまな面で改修が必要だ。例えば照明。ゲーム中に点灯し続けるだけの照明なら現在のままで問題はないが、ヴォレアスはゲームをエンターテイメントとして演出しているため、点灯したり消灯したりできる照明機器が必要となる。一般的な照明はこうした操作を想定していないため、1月26日に総合体育館で開かれたゲームでは、照明が約20分にわたって点灯せず、ゲーム開始が遅れるトラブルもあった。また、演出にはスモークも使うため、場内にたまった煙を迅速に排出する装置も必要だという。暑い夏の日、寒い冬の日もイベント会場として客を集めるには強力な冷暖房設備も不可欠となる。
 また、今後大雪アリーナの使用方法を見直すとすれば、スケートの関係者を含めた現在の主要な利用者から意見を集める手続きも当然必要だ。
 スポーツを通じた地域おこしのお手本となったのが、「マツダ・ズーム・ズーム広島スタジアム」だ。広島駅に近い同スタジアムは2009年にオープンしたが、徹底したアミューズメント化で1試合当たり入場者数の前年比3割アップに成功。「カープ女子」の定着にも成功した。
 GLAY、小田和正、ミスチル…。いずれも函館アリーナで近年、ライブを開いた人気アーティストたちだ。GLAYは函館出身なので当然としても、本格的なライブを開ける5000人規模の会場の存在は大きい。2021年春には福山雅治のライブ開催も決まっている。一方、旭川でこうしたイベントを開催するとすれば、その会場は1500人規模の旭川市民文化会館。大雪アリーナを改修して柔軟に活用すれば、全国からファンが集まる5000人規模のライブを旭川で開催する可能性も見えてくる。2020年秋に始まるV1の来季に間に合わせることは不可能でも、大雪アリーナの今後について、行政、スポーツ関係者を交え、市中心部の賑わいづくりも視野に入れた検討は必要なのではないか。
 道外からも含め、多くのサポーターが大雪アリーナに集まり、ゲーム終了後に熱戦の余韻に浸りながら中心街に繰り出していく……。ヴォレアスのV1昇格を考える時、そんな情景を想像せずにはいられない。

表紙2003
この記事は月刊北海道経済2020年03月号に掲載されています。