新幹線の旭川延伸さらに困難に

 2017年末から18年初めにかけて道内経済界の関心事だった札幌駅新幹線ホームの設置場所の問題。現在の札幌駅の内部でホームをやりくりする「現駅案」と、東側に新幹線ホームだけをずらして新設する「大東案」が検討された。前者が選ばれれば2線以上のホームを確保することが事実上不可能となり、旭川延伸の可能性はなくなっていたが、幸い後者が採用された。ところがその新幹線ホームのすぐ横で高層ビルを建設する構想が浮上。札幌の経済界は大型プロジェクトに沸くが、旭川延伸を望む道北住民にとっては夢の終わりを告げる内容だ。

最悪の「現駅案」免れたのも束の間
 2016年3月に新函館北斗までの延伸が実現し、満を持して北海道に上陸した新幹線。道民の長年の夢が、青函トンネルの完成から28年後にようやく実現した。もちろん、新函館北斗は一時的な終着駅に過ぎない。2030年度末の札幌乗り入れに向けた工事が道南から道央にかけての地域で順調に進んでいる。新函館北斗から小樽を経由して札幌に至るまでには38本のトンネルが作られることになっているが、全体の掘削率は4月1日時点で25%だ。
 新小樽(仮称)を通過した新幹線はいったん地下トンネルに潜り、再び地上に現れて札幌駅に到着する。使用するのは札幌駅から、創成川通りをまたぐように東側にずらして新設される新幹線専用のホーム。当初は地下に設ける構想もあったが莫大な費用がかかるため断念。現在の駅の最も南側のホームを新幹線に割り当てる現駅案も浮上したが、在来線の列車に悪影響が及ぶことが問題となった。このため新たに浮上したのが「大東案」で、乗り換え客の歩く距離が延びるなどの欠点が指摘されながらも、結局はこれが採用された。
 まだ旭川を含む道北地域に一部、期待が残っている新幹線の旭川延伸は、もしも現駅案が採用されていれば、その瞬間に不可能になっていた。現駅案ではただでさえ2線のホームの幅が狭く、すぐそばに札幌ステラプレイスやJRタワーが迫っており、新幹線ホーム増加の余地がない。
 北海道新幹線が旭川まで延伸する状況を仮定すれば、その場合でもほとんどの列車は札幌発着となる。列車が到着し、乗客が大きな荷物を抱えて降り、車内清掃を行い、別の乗客が乗り込むまでにはある程度の時間的余裕が必要。函館方面から到着した列車の一部が札幌での一時停止の後で旭川方面(またその逆方向)に向かうためには、追い越し用のホームを確保しなければらなない。
 このため主要な新幹線駅には少なくとも4線のホームがある。もう延伸の可能性が残っていない鹿児島中央駅も、新幹線だけで4本のホームがある。北海道新幹線の列車が通る新青森、仙台は、それぞれが始発駅、終着駅となる列車が設定されているため、4線のホームがある。
 2線しか作れない現駅案が退けられたのは、新幹線の延伸を願う道北の住民にとっては幸いだった。ところが、ここにきて再び2線以上の確保が難しい状況となっている。新幹線ホームのすぐそばで高層ビルの建設が始まろうとしているのだ。

40階建て以上の高層ビル建設へ
 札幌駅に直結した商業施設「エスタ」の東側に「北5条西1丁目」の広大な敷地があり、現在は平面駐車場として活用されている。隣の「北5西2」(現在のエスタ)と合わせた合計2・2㌶を再開発する計画が、いま浮上している。北5西1には現在のJRタワー(38階建て)よりも高いビルが建つ。事業主体は街区地権者のJR北海道と札幌市を核とする準備組合で、昨年秋には準備組合が正式に発足した。完成予定は新幹線札幌延伸より少し前、2029年を見込む。
 JR北海道が用意した新幹線駅と駅前再開発のイメージ図がある。それによれば構想ビルと新幹線ホームの間には巨大なアトリウム空間が広がり、再開発ビル2階と、改札のある新幹線駅3階がエスカレーターで行き来できる。ホームの数は2線。これを3~4線に増やすためには、アトリウムを縮小するしかないように見える。なお、イメージ図には「新幹線駅の設計は今後行われるため図は設計を反映したものではない」との但し書きもついているが、アトリウムは設置に向けて動いている模様だ。
 そもそも、JR北海道が札幌駅での新幹線ホーム設置に苦労しているのは、そのために確保していたはずの広大な敷地をステラプレイスとして再開発してしまったから。そしていま、北5西1、北5西2の再開発で札幌の新幹線駅からホーム増設の余地が再び奪われようとしている。
 かつて、国が描いた新幹線網の青写真には、しっかりと「旭川延伸」のビジョンが描かれていた。全国新幹線鉄道整備法にもとづき1972年に行われた運輸省告示(いわゆる基本計画)によれば、北海道新幹線は青森を起点とし、函館や札幌を経由して旭川を終点にすると明記されている。
 旭川延伸ははるか昔のおとぎ話ではない。函館延伸が実現した2016年3月、当時の高橋はるみ北海道知事は「新幹線を旭川まで延伸したい」との考えを示した。旭川商工会議所も昨年、北大名誉教授を招いて旭川延伸に向けた「勉強会」を開いている。
 しかし、実際には札幌駅前で旭川延伸の障がいとなりそうな高層ビル建設が始まろうとしている。待ったをかける力を持った経済人も政治家もいない。これから語られる新幹線旭川延伸は、ファンタジーとして聞いたほうがよさそうだ。

表紙2006
この記事は月刊北海道経済2020年06月号に掲載されています。