エクス跡 再開発事業が正式スタート

 旧エクスの跡地再開発計画。本誌が今年5月号で伝えた通り、2020年度の政府予算で補助金が計上されたこともあり、実現の可能性が高まっていたが、6月30日付けで関係者間で契約がまとまり、旭川では初となる高層マンションの建設プロジェクトが正式にスタートした。駅前の情景を変えるだけでなく、これから3年間の工事期間に建設業界やその周辺に大きな商機をもたらすのは確実。完成後には市内だけでなく、本州や海外からも富裕層を旭川に呼び寄せる役割を果たしそうだ。

閉店6年後の決定
 このほど契約が締結されたプロジェクトの名称は「1・7地区優良建築物等整備事業」で、主体となる企業は住宅総合メーカーの大和ハウス工業㈱(本社=大阪)。旧エクスの敷地(2142・1平方メートル)は市内5社の地権者(トーエー企業、旭川小型運輸、第一マルサン商事、盛永組、柴滝建築設計事務所)から大和ハウスに総額数億円で転売され、大和ハウスが土地オーナー兼デベロッパーとしてプロジェクトを推進することになる。
 旧エクスの建物ではかつて長崎屋が営業していたが、1992年に春光に移転して「ラパーク長崎屋」(現在のメガ・ドン・キホーテ旭川店)に転換したことを受け、空き家となった建物はファッションビル「エクス」として再出発。しかしそのエクスも2014年に閉店し、その後は1階のみツルハが入居し(今年5月末で閉店)、建物の大半が空き家のまま約6年の歳月が流れた。
 この土地を再開発して高層マンション(タワーマンション)を建設する構想が浮上していると本誌が初めて伝えたのは昨年5月のこと。複雑だった権利は5社に整理集約され、プランも大方まとまり、今年3月末には2020年度からの政府と旭川市からの補助金が給付が本決まりになった。その後、世界を襲ったコロナ禍のために関係者間の交渉が一時的にストップしたものの、6月末に待望の正式契約を迎えたというわけだ。
 実は、このプロジェクトでは有力ホテルの誘致も構想に上がったことがあった。実際、ある全国的なホテルチェーンが旭川駅前エリアへの進出に興味を持ったこともあるが、仮にその方向で計画が進んでいれば、コロナの流行とインバウンド客の途絶で根本的な練り直しを強いられていた可能性もある。

地上28階の可能性も
 以下、計画されている建物の概要に改めて注目するが、現時点では基本設計も実施設計も完了しておらず、変更される可能性も十分に残っている。
 敷地は現在ツルハビルが建設されている旧旭川西武A館跡地と買物公園を挟んで向かい合う旧エクスの跡地2142・1平方㍍。ここに地上25階建てのビルを建設する(今後の検討結果次第で27階建て、または28階建てになる可能性も残っている)。低層階は敷地をいっぱいに使う商業施設とし、その上のやや細くなる建物は分譲マンションという計画のようだ。27階の場合、建物の高さは92・75メートル。もちろん、旭川で最も高いビルだ。総床面積は27階建ての場合、1万8341平方メートル。この面積には64台分の立体駐車場を含んでいる。
 タワーマンション、通称「タワマン」としても旭川初の物件となる。
 タワマンを建てるには現存する建物を取り壊さなければならない。旧エクス建物の解体工事は9月1日から約1年をかけて進め、並行して詳細な設計作業も行う。建設工事の開始は来年10月ごろ。工期は2年程度で、2023年末ごろの完成を見込んでいる。
 総工事費は約85億円。このうち合計数億円が、政府および旭川市からの補助金でまかなわれる。「約85億円」といえば、市内の民間プロジェクトとしては異例の規模。高層ビルだけに工事を請け負うのは本州大手が中心となるが、市内の業者も工事や関連事業で協力することから、大きな商機が地元経済界にもたらされることになる。
 低層階にどんな店舗や商業施設が入居するのかは未定だが、すでにコンビニや飲食店などから複数の引き合いが来ているという。
 かつて、買物公園の大半には、歩行者を雨や雪から守る庇が設置されていた。老朽化が進み、また景観上の問題もあったことから撤去されて久しいが、その結果、天候や季節によっては歩きにくい道になった。周辺の住民や商店主からは、1・7に新たにできる建物と、買物公園を挟んだ向かい側の敷地でビルを建設するツルハの間に、買物公園を覆う恒久的なアーケードを建設できないものかとの声が上がっている。実現すれば雨、雪、風や夏の日差しを気にせずに行き来できるようになるだけでなく、タワマンとツルハの新ビルの間の空間をイベント会場としても活用できそうだ。

魅力発信の契機に
 では、このマンションはどんな人が買うのか。旭川のプロジェクト関係者によれば、昨年5月の本誌による報道の後、市内の病院関係者や企業経営者などから相次いで問い合わせがあったという。旭川市内では北彩都地区でマンションの建設が相次ぎ、売れ行き好調とも伝えられているが、1・7タワマンは、立地、価格帯、眺望などさまざまな面で既存のマンションとは大きく異なる。
 このうち立地については、旭川駅やイオンモール旭川駅前から至近距離にあることが大きなアピールポイントとなりそう。師団通→平和通→買物公園と変遷してきたこのエリアは、時代は変わっても一貫して買い物の舞台であり、4条以北を除けばマンションが建ったことはなかった。年配者の心の中にはこのエリアの黄金時代だった高度経済成長期の強い印象が残っており、「平和通に住みたい」と考える人がいても不思議ではない。JR旭川駅に近く、札幌市まで約1時間半というアクセスは、札幌市内の富裕層にとっては重要なセールスポイントだ。
 もうひとつの魅力が眺望。旭川は周囲を山に囲まれていることから、大部分の部屋では、近くに市街地、やや遠くの川や田畑、その向こうに山並みという景色が楽しめると予想される。こうした景色は、とくに都会で暮らす人の目には魅力的に映るに違いない。
 完成したマンションの販売については、大和ハウスが中心的な役割を果たす。豊富な実績のある巨大企業だけに、全国に幅広い販路を持っており、価格帯も高いことから、購入者のかなりの部分を市外の富裕層が占めるのは確実だ。
 実は、旭川というまちは富裕層にアピールできる魅力をいくつも備えている。まず、自然豊かなエリアにありながら、人口約33万人のまちとして一定の都市機能を備えている。次に、大地震の発生確率が全国の主要な都市で最も低い。他にも、中心部から車で数十分の範囲内に複数のゴルフ場とスキー場があるなど、枚挙の暇がない。
 不動産の相対的な安さも見逃せない。東京から老後の住まいを探しに来た資産家が、旭川市近郊のまちで住宅を探し、2000万円という価格を提示されて「そんなに安いのか…」と絶句したとのエピソードもある。
 旭川初のタワマンはコロナの影響で重い空気に包まれていた旭川市にもたらされた明るい話題。買える人はもちろん、買えない人もその波及効果に関心を寄せている。

表紙2008
この記事は月刊北海道経済2020年08月号に掲載されています。
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