市農委農地台帳システム入札にこれだけの疑義

 昨年2月14日、旭川市農業委員会事務局の使用する「農地基本台帳システム」のリース業者を選定するための指名競争入札が行われた。落札したのは富士通リース㈱北海道支店(札幌)で、落札金額は427万5600円(5年間の総額)。2番札とは約170万円の差があった。市ではこのリースのために2011年度予算に2000万円(同)を計上していたから、1572万円も節約できたことになる。安値落札は歓迎すべきようにも思えるが、事態はそう単純なものではない。むしろ、この入札結果には、自治体のコンピュータ・システム入札にからむさまざまな問題が凝縮されている。

法改正で更新必要に
 リース業者を決める入札から約1ヵ月後の12年3月12日、旭川市は富士通㈱北海道支社と、データ移行業務に関する契約を結んだ。金額は、市の計上した予算額750万円を下回ったとはいえ、5年間のシステムリース額よりも高い714万2000円。しかも、データ移行業務については競争入札も見積もり合わせも経ず、随意契約が結ばれた。市内のソフトウェア業界関係者は、「この種の業務、これほどの規模での随契は聞いたことがない」と証言する。西川将人市長の就任後、旭川市では随意契約を極力減らし、市の発注する工事や調達に競争原理を導入してきた。一見、競争原理が発揮されたように見える農地基本台帳システムのリースと表裏一体のデータ移行業務の契約が、なぜ随契になってしまったのか……。
「農地基本台帳システム」とは旭川市内の農地に関する情報を管理するコンピュータ・システム。農地は農地法でさまざまな規制がかけられており、売買や開発の前には、指定の場所の土地が農地であるかどうか、所有者が誰かなどについて確認を受ける必要がある。農業委員会事務局(以下「未務局」)では97年に専用の農地基本台帳ソフトの開発を富士通に委託し、これをリースしたハードで使用していた。11年7月から12年2月の再リースを経て、今回新たなシステムを導入することにしたのは、農地法の改正で、現在の農地の使用状況など、新たなデータを管理する必要がでてきたためだ。
旧システムと新システムでは内部でのデータ管理方法が異なる。このため、5年間にわたるハードウェア・ソフトウェアのリースとは別に、データ移行作業を行う必要がある。事務局によれば、当初はデータ移行についても別途指名競争入札または見積もり合わせで業者を選ぶ方針だった。
そして昨年2月14日に行われたリースの指名競争入札。指名を受けた30社の業者のうち、25社の業者は辞退または不参加。5社が参加し、前述の通り富士通リースの北海道支店が予算額の4分の1以下の価格で落札した。なお、旭川市は今回、従来の専用システムではなく、出来合いの「パッケージソフト」を導入した。
次はデータ移行の業者選定だが、市の当初の予測に反して、こちらは随意契約が結ばれた。市がホームページで公開している「入札(見積もり合わせ)結果調書」にその理由が記載されている。
「本業務については、旧システムから、新たに導入する新システムへのデータ移行及び新システムと外部システムとのデータ照合ツールの作成が主な内容であるが、新システム起動の核となるパッケージソフトの著作権を㈱富士通四国インフォテックが保有しており、他の者へ業務を委託した場合、パッケージソフトのソースコード等、著作権者の機密情報を開示してしまうこととなる。著作権者である㈱富士通四国インフォテックに確認したところ、著作権者は四国地域以外でのデータ移行業務を受任していないが、系列会社である富士通㈱のみ機密情報の開示を認めているとのことから、著作権者の利益を侵害せず業務を履行可能な、富士通㈱(北海道での受任先である富士通㈱北海道支社)1者を指名する」
事務局は富士通の要求を丸呑みし、714万2000円でデータ移行業務を随契で富士通北海道支社に発注。予定通りデータ移行作業が行われ、現在、農業委員会ではこの新しい農地基本台帳システムが使用されている。

いくつもの疑問
2つの契約をめぐる動きをまとめれば…。
①リースについての指名競争入札では富士通リースが予算額よりも大幅に安く落札。
②事務局は当初、データ移行業務について競争入札または見積もり合わせを実施する予定だった。
③富士通側が新システムのソースコード(プログラム内容)の公開を拒否。
④事務局は方針を変更し、データ移行業務について富士通と随意契約した。
これらの動きから、複数の疑問が生じてくる。
まず、富士通はリースについて適正な水準よりも大幅に安い価格を提示することで競合他社の落札を防いだうえで、データ移行の契約を競争原理の働かない随契で結ぶことで、帳尻を合わせたのではないかという疑問だ。リースの価格がコストと比較して適正かどうかは外部からはわからないが、富士通には1990年ごろ、長期的な契約を狙って自治体向けのシステムを「1円」という異常な価格で落札していた〝前歴〟がある。

(続きは月刊北海道経済2013年6月号でお読みください)

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