惜しまれつつ2014年に閉校した東海大旭川キャンパス(旭川市神居町忠和)。その跡地利用については「何とも憐れ」「忘れ去られようとしている」などと囁かれ旭川市政にとっても懸念材料の一つになっていたが、ようやくメドが立った。施設利活用候補者として熊本県にある不動産投資会社「理想資産」を選定。市議会の議決を経て2026年度中にも、土地と建物を売却する方針だ。

都市計画上の制限等でハンディがあったが…
自然が豊かな丘の上にあり、市内を一望できるロケーションに恵まれた東海大旭川キャンパス。閉校後、旭川市は跡地の寄贈を受けた2016年(無償譲渡)から、民間事業者による活用をあれこれ模索してきたものの、なかなか実現には至らなかった。その理由として挙がるのが、この土地は旭川市の都市計画で店舗は1500平方メートルを超えてはならず、原則2階建て以下としていることだった。カラオケボックスやボウリング場といった遊戯施設、旅館やホテルなど宿泊施設もご法度。そうした用途制限が立ちはだかるだけではなく、用途変更する際には都市計画審議会の合意や道の理解を得る必要があり、おまけに敷地は土砂災害警戒区域で整備するには高い技術が求められる。
そのうえ維持管理費は年間で150万円ほど。こうした事情を察して、なかなか有効な跡地利活用策を見い出せず、何かとハンディのある代物としてとらえられるケースが多かった。市民からも「何とも憐れな…」「忘れ去られようとしている」などとため息交じりに行く末を見守るムードが漂った。行政サイドからも基本的には都市計画上の制限を打ち破る気概が持てず、いろんな方向性を考える必要を自覚しながらも、なすすべもないとの本音が洩れたこともあった。
それでも一方で「以前は下宿がいくつもあり、一つの城下町として栄えた時期もあったのに」と古き良き時代を懐かしむノスタルジー(郷愁)に思いをはせる周辺住民らの期待の声が聞かれた。実際的には北海道立北の森づくり専門学院が教育計画に基づく実習授業を重機等を使い施設全体を定期的に利用するだけではなく、グラウンドでは旭川西リトルシニア球団(硬式野球)が練習ほか試合等で活用している。
さらには敷地内通路を伊の沢クロスカントリー少年団が練習場所として利用。入口付近については道北バスが路線バスの駐車場および方向転換地として活用するといった「行政財産の目的外使用許可」を得ているケースが複数みられる。跡形もなく解体された校舎とはまったく対照的に、耐震基準を満たしている松前記念図書館や、芸術工学研究館が原形をとどめていることは明るい材料と言えなくもなかった。
公募で森林体験、リゾート施設提案事業者に
そこで担当部局の総合政策部政策調整課が踏み切ったのが公募だった。これまで庁内で利活用やテレワーク拠点の整備の検討、北の森づくり専門学院の誘致活動を行ったほか、2019(令和元)年に実施したサウンディング型市場調査では複数の民間事業者から提案を受け、民間需要の可能性があることを把握できた一方で、同課は「提案の実現には課題があることから、現時点で具体的な利活用に至っていない」。そのため現状を踏まえ、「旭川市中心部から近くアクセスの利便性が良いことや市内を一望できるロケーションなど、高いポテンシャルを最大限に生かし、地域振興に寄与する事業活動等の利活用を希望する事業者を広く募集し、その提案内容に対し総合的に審査した上で利活用候補者を決定」するという内容だった。
昨年8月から公募開始し同10月の現地見学会を経て、12月の締め切りまでに3社が応募。1月中旬に行われた審査会で熊本県の不動産投資会社「理想資産」に白羽の矢が立った。選定委員会によって書類審査、応募者からの説明とヒアリングを実施。審査基準としたのが、提案事業が地域の魅力を向上させ、賑わい創出や地域活動の活性化につながる提案か否か。周辺に集積する施設との相乗効果が期待できるかどうか。また投資や雇用の創出といった地域経済活性化につながる提案かどうか。地域のニーズを踏まえた取り組みとして災害の発生時に供出する避難スペースなどが確保されており、地域住民が利用しやすいように計画され、敷地全体を長期的に利用する内容になっているのかどうかといったこともポイントだった。
物件の概要は敷地面積が約37万2000平方メートル。山林をはじめ、雑種地、原野ほか公衆用道路があり、建物は芸術工学研究館(鉄筋コンクリート造4階建て、延べ床面積は約1746平方メートル)、松前記念図書館(鉄筋コンクリート造地下1階地上2階建て、延床面積約1720平方メートル)。このほか付属機械棟(鉄筋コンクリートブロック造平屋建て、約141平方メートル)、ポンプ室(コンクリートブロック造平屋建て、約7平方メートル)にバス待合室(鉄筋コンクリート造平屋建て、約17平方メートル)などがある。
これら旧東海大学旭川キャンパス跡地を「森林体験施設」(遊歩道を散策したり、森林と触れ合う)「リゾートホテル」「プライベートヴィラ」(ヴィラとはラテン語の「郊外の大邸宅」に由来。自然に囲まれリゾート地に点在する高級一戸建て別荘)として活用する計画だ。前述の選定委員会による審査結果、評価点が最も高く、かつ一定の水準を超えており利活用候補者として選定された。現在、総合政策部政策調整課と理想資産㈱が協議中で、旭川市議会の議決を得て土地と建物を売却する。売却価格は5426万円(土地が2610万円、建物は2816万円)を最低基準価格(これらの価格を下回らない提案)として見込んでいる。
不安材料も「ワクワクする」取り組みに変換
これまで旧東海大旭川キャンパス跡地利活用については民間事業者への売却や貸付提案、サウンディング型市場調査等を行ってきたが、いずれも有効策には至らず。実証事業として旭川市が試みたのが、「ASAHIKAWA 北極星キャンプ ウィズ エコ×森フェスタ」イベント(2023年7月下旬)。2日間限定で一般開放し開催された森林やエコに親しむイベントだった。前述の道立北の森づくり専門学院による丸太コースター作りや蒔き割り体験も実施。ゼロカーボンや食品ロスなどをテーマに環境ミニ講座を旭川グリーンアンバサダーの吉田小夏さんが講師を務めたものだ。
環境問題の啓発に関連したパネル展示のほか、木製のバターナイフ制作や押し花ワークショップ(旭川農業高校)ブースも設けた。スポーツイベントとしてASAHIDAMA旭川けん玉部活動代表の赤松ジョンさんとの「けん玉体験」、子どもたちの間で人気を集めるランニングバイクのストライダー、ベルトの上を綱渡りで楽しむスラックラインのほか、お手玉を的に投げ入れるゲームのバッゴーなどを実施し、様々な利活用の可能性を追求した内容となった。
キャンプの参加対象は市内に住む小学生以下の子どもがいるファミリー、ソロ(単身)キャンパー。旭川食のアンバサダーでフレンチシェフの下國伸さんが考案のキャンプめし料理教室では、「サケの炊き込みご飯」「ホルモンのクラムチャウダー」を作った。食事した後には天体望遠鏡で旭川市科学館の解説員を交えながらカシオペア座など星座の観察を満喫。キャンパス跡に生息するミズナラやオニグルミの木を観察しながら木の葉や幹から樹種を見分ける講座なども開催した。
ただイベントでは上下水道が整備されていないため参加者自ら飲み物を持参。今回の施設利活用候補者募集要項の中にも「施設に係る特記事項」として「電気は使用できますが、閉校後休止していたため、上・下水道等の使用可否は確認できていません」としている。石狩川に面した敷地内の一部(台地縁)には埋蔵文化財包蔵地(チャシ跡)が含まれていることから場合によって「工事の前に利活用者の負担による発掘調査」を行う必要性も無きにしもあらず。
いずれにしても、懸念材料とされてきた東海大旭川キャンパス跡地問題についても今津寛介市政のスローガン「ワクワクする」ような取り組みとなりうるのか。地方都市における観光資源の開発と分譲に注力する熊本の不動産投資会社の手腕に期待したいところだ。

