王子サーモンロード 持続可能な養殖

 環境へのローインパクトに努めることで持続可能なサーモン養殖に取り組む企業が上川管内に所在する。大雪山連峰の清涼な雪解け水を生かして養殖するサーモンは、雑味が少なく脂がほどよくのったサーモンと消費者から高く評価される。食品・食材の審査会でもグランプリを受賞するほか、国内大手の百貨店・食品スーパーや回転寿司でも採用されるなど市場からも安心・安全なサーモン製品として厚い信頼が寄せられている。大雪山連峰の清涼な水をベースに、将来的には、自らつくりだすクリーンエネルギーを使い、通年を通した水揚げ・出荷を見込む。

需要と供給のミスマッチ
 「王子サーモンロード㈱」(本社・上川管内上川町東雲)は、欧州食文化の一つとして親しまれるやわらかな食感のスモークサーモンを日本に定着させた「王子サーモン㈱」(安田敬秀社長)=本社・東京都中央区銀座=の子会社だ。
 当時、王子サーモンの営業マンで、後に王子サーモンロードの社長となる今井尚隆さんが、社内ベンチャーでサーモン養殖を発意したのが始まりだった。
 北海道大学水産学部を卒業した後、大学院でサケの研究してきた。今井さんは、王子サーモンで営業をしながら、「新しいことにチャレンジできないか」「何か面白そうなことはないか」と自問を重ねていた。
 会社は、ノルウェーやチリからサーモンを調達していたが、世界的なシーフード需要の高まりを受け、価格高騰と安定的な確保が難しい課題を抱えていた。チリでは政治的なセンシティブな事情を背景に「養殖サーモンの増産が当面見込めない状況にありました」。サーモンの世界的な需要の高まりを満たしきれない「需要」と「供給」のミスマッチ状態にある、と今井さんは見た。
 「会社(王子サーモン)は原料調達に困っている。それが養殖を考え始めたきっかけでした」

知見なし・設備なし 上川町との出会い
 しかし、今井さんの心中に明確な方法があったわけではない。「知見もありません。設備もない。案ずるより産むが易し、まずは飛び込んでいろいろと話しを聞いてみようと動きました」
 養殖について調べ始める。道内のいろいろな養殖場や水産試験場に足を運んだ。
 そこで出会ったのがニジマスなどの魚類養殖の実績がある上川町の「㈱大雪漁業」(旧大雪漁業生産組合)だった。1971(昭和46)年創業で、ニジマスなどの養殖・釣り堀を運営していた。内水面としては北海道最大級規模の養殖場であった。
 すでに設備がある。現地で重ねた知見も有していた。大雪山連峰の清冽な雪解け水が石狩川に流れる。その水を利用する。冷涼で水温が安定している。
 「年間を通して安定してサーモンを養殖・提供できる」。今井さんは、国内有数の養殖場にできるポテンシャルがある、と判断し、「㈱大雪漁業」から事業譲渡を受け、「王子サーモンロード㈱」は、2022年12月、養殖事業をスタートさせた。社長には、今井さんが就いた。

消費者が求めるサーモンを届ける
 今井さんは、さっそく養殖事業に着手した。輸入したサーモンの発眼卵をふ化水槽に入れ、大雪山連峰から流れ出る清冽冷涼な水をかけ流しで育成する。ふ化した稚魚を水槽へ移し、5~10グラムまで育てる。その後、養殖場に移す。定期的にサイズ選別しながら育成し、2.5キロほどになると出荷する。
 発眼卵から出荷まで自社の養殖場内で一貫管理する。抗生物質・ワクチンを一切使わない。出荷までに要する期間は2年ほどだ。
 大雪山連峰から流れ出る清冽冷涼な水が育むことからブランド名を「北海道大雪サーモン」とした。今井さんによると、北海道で生食用サーモンを養殖している業者は、ほとんどいない、という。
 魚は生息する水温環境に敏感で、ことに高水温にダメージ・ストレスを受けやすい。「サーモンは、比較的冷たい水に耐性があり、15度前後が1番活性が良いとされています。『北海道大雪サーモン』は年間2~15度ほどの水温環境で育ちます」
 養殖環境が良くても消費者が求めるサーモンでなければ意味はない。
 消費者が求めるのは何か。今井さんは、独自に調査した。その結果、サーモン人気の要因は▽脂がのっていておいしい▽他の魚と相対的にみて生臭さがしない▽いろいろな料理にアレンジしやすい─の3点だった。シンプルに言えば、消費者が抱くサーモンの好印象の要素は脂のりが良く、臭みがないの2点に集約される。
 消費者が求めるサーモンに仕上げるために今井さんは工夫を重ねる。

ストレスのない環境で全量活締めし鮮度追求
 今井さんは、サーモンの味を決める要因は▽エサ▽養殖環境▽処理─の3点と見た。
 まず、脂乗りを追求すするため、養殖魚のエサとして定番の魚粉の割合を抑えた高油脂のエサを使う。今井さんによると、脂質含有量は一般的な銀鮭が12.8%、アトランティックサーモン17%、チリ産トラウト10.8%に対し、王子サーモンロードが出荷する「北海道大雪サーモン」は21.6%と海外サーモンに負けない脂のりを実現した。
 食欲をそそるサーモンピンクの色合いにもこだわる。通常の養殖法は、1~1.5キロほどに成長したサーモンに色つきの良くなる成分を配合したエサを与えるが、王子サーモンロードは、40グラムの幼魚の段階から与える。1~1.5キロほどの成魚に近いサーモンは食欲が旺盛な個体だけでなく食の細い個体がいたりと、個性が出てくる。このため色つきの良い成分を配合したエサを成魚に近い段階から与えても美しいサーモンピンク色になる個体と、そうでもない個体のバラツキが大きい。それは品質の安定性に課題を残す。「まだ、(個体・個性差が少ない)幼魚のときから色つきの良くなる成分を配合したエサを与えることで、どのサーモンも美しい色つきとなります」
 さらに、大雪山連峰の清涼な雪解け水を生かした良好な水質環境も大切な要素だ。養殖密度は2、3%(陸上養殖の平均は8~10%)に抑え、ゆったりとストレスのない養殖環境が魚体の傷つきを減らし、健康なサーモンを生み出す。おいしさを長持ちさせるため全量活締め(血抜きをしっかりする)も徹底する。
 こうした取り組みで実現した脂のりが良く臭みのない「北海道大雪サーモン」は、2025年の「ジャパン・フード・セレクション」(日本初の食品・食材の審査・認定制度)でグランプリを受賞する。
 評価されたポイントは▽臭みがまったくなく脂のりも良い▽口の中でとろけるバランス▽色味・つや・ふっくら感が良い▽完全無投薬で育てた安心感─だった。消費者が求めるサーモンを届けようと手間暇を惜しまず取り組んだ成果だった。

地元・上川町への貢献
 「北海道大雪サーモン」は、旭川市内の回転寿司で使われるほか、道内の大手食品スーパーも扱う。老舗大手百貨店・高島屋のお歳暮カタログにも選定された。
 「海ですとサーモンの水揚げは、水温の関係で4月から7月までの4ヵ月間です。私たちは、周年水揚げ・出荷できます。これが『北海道大雪サーモン』の強みです」。冷凍サーモンより、生サーモンのほうが間違いなくおいしい、と今井さんは言い切る。
 王子サーモンロードのブランド・「北海道大雪サーモン」を通した地域貢献にも力こぶをいれる。返礼品を提供し、地元・上川町のふるさと納税の寄付向上に実績を残す。町によると、2025年12月末現在の寄付総件数7479件・1億3682万円のうち「『北海道大雪サーモン』さんは7割ほどを占めます。貢献していただいています。ありがたいです」。
 雇用創出にひと役買うほか、地元食材として上川町の学校給食に「大雪サーモンバーガー」を提供し、上川っ子に人気だ。養殖場の見学・視察を受け入れるほか、お祭りなどのイベントに人工いけすを設けてサーモンとふれあう機会を提供する。サーモン養殖に伴う副産物を肥料化して、地域の農業者に提供し喜ばれてもいる。

未来を考えたサーモン養殖を
 「現在、年間の水揚げは90~100トンほどですが、将来的には1000トンを目指して事業を拡大する予定です」。大雪山連峰の清涼な雪解け水を活用し、環境に配慮してエネルギーをできるだけ使わないサーモン養殖を目指す。
 「太陽光発電でクリーンなエネルギーを自らつくり、酸素供給装置・自動給餌機に供給したいです」。エサも環境に配慮した天然資源に依存しないものを使う。
 「環境に配慮した養殖に与えられる国際認証(ASC認証・水産養殖管理協議会認証)の取得を目指します。未来を考えた持続可能なサーモン養殖を実現したいです」

この記事は月刊北海道経済2026年4月号に掲載されています。
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