経営破綻のポリマー工業 下請け代金不正還流?

 屋根の防水工事、解体工事、建設工事などを幅広く手掛けていたポリマー工業㈱の経営が破たんし、3月31日に事業を停止した。弁護士に依頼して自己破産に向けた動きを進めている。負債額は約9億円の見通し。この倒産劇について、「よくある単純な事業悪化や経営ミスではない」と指摘する声が本誌に寄せられた。真相を追った記者に見えてきた実態とは…。

低価格入札の狙いは融資の確保?
 経営破綻の数日後、旭川市3条通16丁目にあるマンションを訪れた。この建物の一室が、ポリマー工業の本社。1階部分の駐車場には黄色の地に青字で「ポリマー工業」の記載があったが、4月2日には早速看板業者が、別法人の名前が記されたシールを貼り、ポリマー工業の社名を隠していた。
 ポリマー工業は、前田理工で営業マンを勤めていたI氏(現代表取締役会長)が1985(昭和60)年に設立した企業。当初は前職でノウハウを蓄積した防水工事を中心に手掛けていた。その後事業範囲を広げ、防水塗装工事のほか、官公庁の施設新築・改修工事、大規模解体事業などにも及んでいた。
 旭川の本社のほか、札幌本社、小樽の技術開発部、台場の資材センターなどがあり、従業員は26人。1級建築施工管理技士7名、一級建築士2名などの専門家を擁する(ウェブぺージによる)。
 代表権を持つのはI会長、C社長、K専務の3人。昨年3月に就任したK専務はI会長のおいにあたる。
 ポリマー工業の突然の経営破綻を意外に受け止めた金融機関や取引先が多いかもしれない。というのは、最近まで活発な経営が目立っていたからだ。官工事には積極的に入札、低価格で受注に成功することも多かった。
 しかし、それには理由があった。業界関係者の弁。「明らかに、採算を取るのが難しいような価格で入札していた。ただ、それはミスというよりも覚悟を決めての選択だったのだろう。金融機関からの融資が停まれば、その瞬間に経営は立ち行かなくなる。融資を継続させるにはどうすればいいのか。とりあえずは受注して仕事を維持するのが大切。金融機関がまず注目するのは、どれだけの仕事があるのか。入札金額が適正かどうか、工事には門外漢の融資担当者には判断が難しい」。
 もっとも、緻密な計算ができる担当者が退社してしまったことで、積算がずさんになったことが低価格入札につながり、収益の悪化を招いたとの別の指摘も本誌には寄せられている。

粉飾決算を白状 直前で融資中止
 いずれにせよ、適正な利益が出なければいつか経営が行き詰まることは明らか。このためか、ポリマー工業は旭川市内に本店支店を持つ複数の信用金庫から借りまくった。とくにK専務が就任した昨年の春以降、大規模な借り入れが目立つ。一方で、新規融資を絞り、融資残高を着実に下げて行った信金もあったのは、ポリマー工業に危うさを感じていたからなのか。
 工事の素人とは言え、金融機関の担当者は経営のプロ。財務諸表を見て、疑問を抱かなかったのはなぜか。本誌に寄せられた情報によれば理由は簡単。粉飾決算を行っていたからだ。それを象徴的に示すエピソードがある。
 ポリマー工業が運転資金数千万円の融資を、某信金支店に申し込んだ。審査は順調に進んだ。今年に入り、最終的な手続きのためにI会長がこの信金を訪れた。雑談のなかでI会長が「粉飾決算までしながら、苦労して経営している」といった意味の言葉を不用意に信金の担当者に漏らしてしまった。「粉飾決算という言葉を聞いた以上、融資はできない」と、この信金は実行直前で融資を取りやめ、これがきっかけとなり資金繰りが行き詰まり、経営破綻に至ったというのだ。
 この情報についてI会長に確かめると、「メインバンクから過去には赤字ではなかったはずと問われ、工事を完成したものとして将来の工事代金を売り上げに計上していたこともあって赤字決算は免れたと話をした。メインバンクも薄々気づいていたようで、融資中止の大きな理由ではなかった」との回答があった。なお、本誌には、粉飾決算は20年以上前から常態化していたとの情報が寄せられている。

架空の工事請書で「前払い金」得る
 経営陣の判断ミスは、多かれ少なかれどの企業にもある。一般論を言えば、会社をつぶしたとしても、それは「罪」ではない。ただ、ポリマー工業については、経営が悪化する過程でグレーな行為があった。
 建設業界には前払い金保証制度というしくみがある。この業界では工事代金が多額であることから、数ヵ月~数年に及ぶ工期が終わるまで発注者からの支払いが受けられなければ、請負業者は資金が枯渇してしまう。このため、保証事業会社への事前の申し込みや保証料の支払いを条件に、工事が一定程度進めば、発注者から指定の金融機関に前払い金が振り込まれる。しかし、建設業界では幾重にも及ぶ元請け・下請け構造が形成されている。前払い金が元請けで滞れば、下請けが干上がってしまうため、下請けが提出する注文請書に記載された工事内容や代金に沿って、下請け業者の口座に直接、前払い金が振り込まれる(前払い金保証制度の本来の役割は、前払い金を受けた業者が経営破たんした際に、発注者の損失を補てんすることにあるが、ここでは詳しくは触れない)。
 ポリマー工業が、この制度を利用して、不当に金を獲得していたとの情報がある。しくみはこうだ。①I会長が社長を務める別会社T・Iポリマーが代金数千万円の工事を請け負ったとの虚偽の内容を記した注文請書を提出する。②これをもとに保証事業会社に前払いを申請する。③書類上、工事を請けたことになっているT・Iポリマーの口座に代金が振り込まれる。④この資金がT・Iポリマーからポリマー工業またはI会長個人に還流する。
 なお、この工事そのものは、ポリマー工業から別の企業に発注され、竣工した。実際の下請け企業にも、同様のしくみを使って「まっとうに」工事代金が支払われている。偽造された注文請書は、工事の内容こそ一緒だが、実体はない。前払い金保証制度を利用した一連の行為は、保証事業会社や金融機関のチェック体制の甘さに乗じたものだ。
 言うまでもなく、こうした行為は許されるものではない。常識を具えた業界関係者なら「禁じ手」との明確な認識を持つはずだが、なぜ注文請書の偽造は実行されたのか。
 本誌の問い合わせに対してI会長は、「ポリマー工業の運転資金が不足している場合、TIポリマーに架空の工事の受注をしてもらい、同社が上記前払金を受領し、同資金をポリマー工業に還元して、同社が他の工事現場等の運転資金に充てることもあった」「前払金の使用方法としては適切なものではないが、同資金は、工事完了時には受注者であるポリマー工業に帰属する。最終的にポリマー工業に戻ることからすると問題はない」と説明する。しかし、この説明だと実際に行われた工事とよく類似した工事の請書を偽造する理由が見つからない。
 なお、取引業者が決済や資金面で決定権を持っていたと指摘するK専務は本誌からの問い合わせに対して「私自身が当該書類の作成または提出に関与した事実は確認していない。また、当該資金支出の付帯的な経緯、意思決定過程については、私の関与範囲外」などと、関与を否定している(K専務については従業員への高圧的な言動についての指摘もあったが、本人はこれも否定した)。

工事に欠かせぬ資産 転売過程に注目
 ポリマー工業については、経営破たんへと向かう過程でもう一つ注目点がある。それは重機や不動産などの資産の行方だ。
 工事会社には、さまざまな機械、トラックなどが欠かせず、なかには数千万円単位の高価なものもある。見方を変えれば、経営が破たんした場合、こうした資産の売却が重要な意味を持つ。
 経営破綻の直前、ポリマー工業に残る貴重な資産が、I会長が主導するT・Iポリマーに転売されていた。たとえば台場の山林に囲まれた資材置き場の土地。登記を確認すると、この土地は経営破綻と同じ3月31日にポリマー工業からT・Iポリマーに転売された。一連の設備がポリマー工業に残っていれば、今後の整理手続きのなかで売却し、売却収入を債務返済に当てることもできたはず。無論、適切な代金が支払われていれば、資産が「現金化」されたことに他ならず問題はないが、債権者としては気になるところではないか。
 この点についてI会長は「公正な価格で購入するため第3者の見積もりを取得し、見積金額以上の金額で契約し、現金を授受して取引をしている。仮に不当に安く購入し、現在の債権と相殺して決済する等であれば、今後、管財人に否認されて契約は無効となる。最終的には管財人の判断も仰ぐ予定で、不正な契約をしても結局元に戻され意味がない」と説明する。

なぜ社長名だけ?
 3月31日夕方、ポリマー工業から取引先に「破産超過等により破産を申し立てる」と告示するFAXが送られた。最後にはC社長の名前だけが書いてあるが、C社長は資金繰りが困難になってからも1円でも多くの支払いをするべく奔走していたことから、少なくともその誠意は取引先に伝わっている。対照的に怒りを買っているのは、創業者であり、取引先の多くが経営の実権を握っていると見ていたI会長、そして今年の1月ごろから連絡がつかないK専務だ。「代表権を持っているのは3人なのに、矢面にC社長だけ立たせるのはおかしい」と、ある取引業者は憤慨する。
 ポリマー工業はもともと、技術も人材も優秀だった。破綻という結末を迎えたのは、創業者のI会長が部下たちの冷静な意見に耳を傾けなかったことが最大の原因と考えられる。声の大きなベテラン創業者が健在の企業は要注意だ。

この記事は月刊北海道経済2026年05月号に掲載しています。
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