「水素発電」追及の市議に富良野市議会が問責決議

 富良野市の小中学校に水素を活用した発電設備とエアコンを導入する事業。「水素」の部分の実現性に疑問を抱き、くり返し市議会で取り上げてきた二宮利和市議に対し、3月19日、富良野市議会で問責決議が全会一致で採択された。決議内容や、提案した市議の説明からは、外部には分かりにくい富良野市議会独特の論理が浮かび上がる。

事業の問題点追及して問責
 3月19日の富良野市議会本会議に「二宮利和議員に対する問責決議」が諮られた。提案者の佐藤秀靖市議が、決議の内容を読み上げた。「二宮議員は『富良野市小中学校空調設備及び次世代エネルギー設備導入事業』に関する不正確な情報を記載した市政報告書を作成し、富良野市議会議員として市内、中富良野町、上富良野町の一部に投函し、本市事業に関する不正確な情報を拡散し、富良野市民のみならず他自治体町民を困惑させている(中略)。これら言動の数々は、富良野市や富良野市議会、富良野市長に対する市民の信頼を大きく失墜させる行動である。以上のような言動により、議長及び議会運営委員会からの複数回にわたる厳重注意を受けているにもかかわらず、行動の改善が見られない」。厳しい指摘はその後も続く。「今後も不誠実な対応が続き、状況改善が認められない場合は、さらなる措置を講ずることを前提とし、現段階においては、問責決議をもって謝罪の意を求めることともに、強く是正を要求するものである」
 決議案については二宮市議本人が退席した後で起立による採決が行われ、加わらなかった渋谷正文議長を除く全員が賛成し、可決された。本誌は前号、前々号でも富良野市水素発電問題を取り上げ、市議会の雰囲気も徐々に変わってきたと書いた。予想に反して、市議会の議員が矛先を向けた相手は水素発電事業に疑問の声を上げた二宮市議の方だったわけだ。
 議員への問責決議は、富良野市議会では前例がないとみられる。

「変わってもどうでもいい」
 問責決議の内容に改めて注目すれば、市議会の批判は6点に集約できる。
①「不正確な情報を記載した市政報告書の作成と、市内・中富良野町・上富良野町での投函」
 市議会が問題視したのは、二宮市議が配付した「市政報告書」と題された今年2月26日付のチラシ。本来は新聞販売店に委託して市内で配布する予定で、新聞に折り込む作業も済んでいたのだが、「内容が折り込みに合わない」との判断で市中心部では配布ができなくなり、富良野市の郊外、近隣の中富良野町、上富良野町で配布した経緯がある。しかし、この市政報告書の内容は「約2年の間に事業は技術的破綻から不透明な契約変更を繰り返し」など、本誌の認識と基本的には一致する。実際、いまも「水素発電」は青写真さえできていない。どこが問題なのか、本誌は佐藤市議に直接取材した。
 佐藤市議が最も大きな問題だと考えているのは、報告書の右下に書かれた「【メッセージ】子供たちのためにエアコンを止めるわけにはいかない。しかし、実体のない水素事業にお金を払うのは背任です」の部分。「行政の背任行為ということは、刑事責任を問われることを意味する。『背任の可能性がある』だとか『疑いがある』ならまだ分かるが、断言するということは、情報操作だと思っている」(佐藤市議)
 記者は批判のポイントがズレているのではないかと感じ、疑問をぶつけた。「『実体のない』は問題にしないのか。『実体はある。〝実体がない〟は虚偽の情報だ』と憤慨するならわかるが…」。
 佐藤市議が反論する。「実体は、もともとは岩手県(大船度市にフソウ・グループが導入した装置)と同じやつを入れる前提でやったわけだから。(富良野市への導入前に)北市長と教育長が見に行った」。しかし、大船度のプラントは早々と撤去されている。「その時点では見て大丈夫だって言ったわけ。それが変わっても、どうでもいい」
 記者の脳裏には「無謬性」という言葉が浮かんだ。
②公文書である一般質問通告書のSNS等での公開。議長からの厳重注意以降も一般質問通告書を公開している。
 一連の指摘の中で、記者にとってはこれが最も理解に苦しむ。市議が市民の代表であれば、どんな問題に関心を持ち、理事者にどんな質問をぶつけるのかは貴重な情報だ。SNSでの通告内容の禁止は時代遅れの校則と同じではないのか。富良野市議会は決して情報公開に消極的なわけではなく、本会議での審議の模様は、今回の問責決議を含め、ネットで公開されている。通告書の公開はどこが問題なのだろうか。
 「問題は公文書である一般質問通告書の公開の仕方。二宮市議はSNSなどで自分の思いをそこに載せて、尾ひれ背びれをつけて公表する。傍聴に来る人たちにその通告書をそのまま渡している。ここで問題にしている通告書とは、本会議から1週間前の午前中までに議長に提出する質問の内容。それを元にして執行部は答弁書を書く」(佐藤市議)。市民への公開になぜ問題があるのだろうか。「あまり懐疑的に思ったことはないが、それを元にして執行部が答弁書を書くっていうことを事前にこまごまと一般市民が知ってるっていうところに問題があるのかな。市民に知られて困ることがあるわけではないが…。議会として今までそういうこと(通告書のSNS発表)をやってきてないし、議運でもそれは控えるべきだということになり、議長から控えなさいと言われたにも関わらず、同じことを繰り返してきたということ」。結局、ダメなものはダメなのにやったからダメ、という論理でしかないように記者には思える。

電話一本で開発に遅れ?
③二宮市議がSNSで水素発電事業について事実に基づかない情報を発信し続けたことで、フソウエナジー側が不信感を募らせ、事業の遅れに至った。
 仮に、フソウ・エナジーの水素発電技術がすでに確立しており、二宮市議が騒ぐものだから不信感を募らせ、開発を遅らせたとすれば、富良野だけでなく地球規模でのエネルギー問題の解決を遅らせた二宮市議は万死に値する。二宮市議が黙っていれば北極海の氷が溶けるのが遅くなり、おかげで助かったホッキョクグマの命もあったはずだ。しかし、議員から疑問を呈されて開発のペースを変える企業や技術は信頼に足るものなのか。
 二宮市議は、フソウ・エナジー側に問い合わせの電話を1回入れたが、それには明確な理由がある。2024年7月10日、市に批判的なコメントが道新に掲載されたことを受け、北市長が二宮市議を市長室に呼び出した。物理的に考えて、エネルギー保存の法則の下、市が導入しようとしているシステムは不確定要素が大きいと説く二宮市議に、北市長は、学校の空調に必要な電力は十分に供給できるとのフソウ側の見解を伝えたうえで、こう明言している。「物理的に、というのならフソウさんに確認してもらうしかない」。言われた通り、二宮市議はフソウに電話をした。電話を取った社員に要件を伝えたが、伝わったかどうかは疑問で、その後、連絡は来なかった。フソウ・エナジーに不信感を与えたと二宮市議の責任を追及するなら、富良野市議会は、北市長にも「フソウさんに確認してとの発言は不用意でしたね」くらいの小言はいうべきではないか。
 なお、本誌はフソウ・エナジーの広報に、二宮市議からの問い合わせが開発の遅れにつながったのかどうかメールで問い合わせ、その後電話をかけて問い合わせたが、締め切りまでには返答がなかった。
④検査権の行使を促すなど議員の職責を果たさず個人で住民監査を請求し、監査請求棄却という結論が出たにもかかわらず、その後の一般質問で同様の質問を繰り返している。
 住民監査の請求権が議員にはないとの法律は存在しない。仮にそうしたルールがあれば、二宮市議からの請求は、「棄却」ではなく「却下」(請求に要件不備がある)されていた。問責決議が問題にしているのが法律論ではなく、議員としての職責だとすれば、物理の法則を無視する装置の導入に疑問の声を上げなかった議員たちは批判されないのかという疑問が浮かぶ。

「〝無責任〟は無礼」道議会では頻出
⑤令和8年第1回定例会一般質問で通告に基づかない発言を繰り返し、市長に対しては根拠のない「無責任」という無礼な発言を繰り返した。これは地方自治法第132条に基づく「無礼の言葉」に相当する。
 二宮議員自身は、通告にあった「無責任」という語句の修正を市役所から求められて削ったものの、誤って議場で修正前の原稿を読んでしまい、議会事務局に要請して議事録からは「無責任」を削除してもらったと説明する(その時点で他の議員から「無礼」との指摘はなかったという)。
 ちなみに、旭川市議会の議事録を検索すると「無責任」というワードはしばしば出てくる。多くは「ハトへの無責任な餌やり」などだが、時には首長や理事者を批判する文脈でも使われている。道議会ではデータが残る1971年から今年までに257件がヒットする。その中には知事や道政を批判する文脈での「無責任」も少なくない。これらのデータから、富良野市議会の外で「無責任」は地方自治法第132条の言う「無礼の言葉」ととらえられていないように思える。
⑥一連の二宮市議の言動の数々は、富良野市や富良野市議会、富良野市長に対する市民の信頼を大きく失墜させる
 二宮市議の行動が富良野市などの信頼に傷をつけたと考える人もいるだろう。が、そもそも水素を活用した「次世代エネルギー設備」を導入するはずが、いつのまにか当初のプロポーザル内容は棚上げされ、外部から購入したクリーン電力でエアコンを動かすという内容への変更を受け入れる富良野市長への市民の信頼への悪影響を、市議会はなぜ問題視しないのか。「科学的なリテラシーが中学生レベルにも及んでいない」と批判されたら、反論する術はあるのか。

やむを得ず賛成と言うが
 記者は議場で問責決議案を読み上げた佐藤議員に取材し、その言葉や問責決議に批判的な見解をこの記事のなかで示したが、取材に応じた佐藤議員だけ批判するのは不公平だろう。富良野市議会は全会一致で、二宮市議を問責した。中には本誌の取材に対して「賛成ではなかったが、辞職勧告決議が可決されるのを防ぐために、(それより軽い)問責決議に賛成するしかなかった。問責決議の詳しい文面を知らずに賛成すると言ってしまった」と悔やむ議員もいた。しかし、辞職勧告決議も問責決議も強制力がないことを考えれば、反対なら反対と表明するべきではなかったのか。
 富良野市とフソウ・エナジーがまだ公式にはあきらめていない水素を使った発電装置の導入時期について、北市長は「4年以内」との期待感を示したとされる。無投票の公算が大きい富良野市長選(令和8年4月19日投開票)を経て始まる北市長の3期目の任期が終わるころだ。
 その時点で水素発電が実現していたら、世界は物理の常識を根底からくつがえす富良野発の水素エネルギー革命に大騒ぎし、今回の問責決議の一件など忘れ去られるだろう。実現しなかったら、問責決議は富良野市の歴史の中で後世の市民にどう捉えられるだろうか。

この記事は月刊北海道経済2026年5月号に掲載されています。
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