「産地ツアー」で見た旭川家具の底力

 国内有数の木製家具の産地として知られる旭川エリアには、製材から設計、製造、納品まで、家具づくりの全行程を支えるメーカーや工房が市内に集積している。その産地の「現場」を一日でめぐる特別プログラム「産地ツアー」が5月22日に実施された。日頃は足を踏み入れられない製材所や工房、旭川家具が並ぶ温泉旅館まで、旭川と東川の5施設を一日かけて巡った。

総合インフラを活用
 産地ツアーは、旭川家具工業協同組合が主催する産地展「Meet up Furniture Asahikawa 2026」の一環として実施されたプログラム。5月20日から22日までの3日間、旭川デザインセンターを会場に開かれたイベントでは、出展企業の新作を含めた製品展示をはじめ、ものづくりの現場を見学するオープンファクトリーなどを通じて産地の魅力を紹介。産地ツアーは、毎年内容を変えながら開催されている人気企画の一つだ。
 今年の大きな特徴は、世界に誇る家具産地としての総合インフラをフル活用し、ツアーでなければ入ることができない工場や施設の見学を盛り込んだ少人数の特別プログラム。5つの施設をめぐることで、製造、メーカー、工房、納品事例を体験できるものだ。
 ツアーは8時45分に旭川駅に集合し、①北日本木材②旭川デザインセンター③ウッドワーク④旭岳温泉 湯元 湧駒荘⑤東10号工房をめぐり、旭川駅に午後4時に到着。ガイドを務めたのは、旭川を拠点に活動するデザイナーの成田悠さん(yn21代表)。参加者は建築やインテリア関係者などプロユーザーが中心で、大半が東京から駆けつけた顔触れだ。

①北日本木材(旭川市東8条8丁目)
 最初に訪れた北日本木材は、創業80年を超える広葉樹専門の製材メーカーだ。原木の仕入れから製材品の販売まで一貫して手がけている。
 工場に入る前、まず案内されたのはナラの苗木だった。樹齢6年の苗木はまだ細い。その隣に、直径数十センチの樹齢150〜200年の丸太が置かれている。「このサイズになって家具として並ぶのは、200年以上先のことです」と担当の菊池さん。一本の木が家具になるまでの気の遠くなるような時間が伝わってくる。
 続いて原木ヤードへ。約8000本の丸太が保管されており、国内材と輸入材がほぼ半々だ。道産材の比率が近年増えているのは、市内の家具メーカーが道産材をブランド化して商品開発を進めているためだという。輸入材は北米産のホワイトオークや欧州産のオークが多く占めており、北緯40~43度付近である亜寒帯と呼ばれる産地では、樹木の成長が遅く年輪幅が温帯産より詰まっており、美しい木目が特徴だ。
道産材と並べると太さの差は一目瞭然。道産の小径木では柾目を取ることは難しく、太い輸入材は高級家具や建具向けの柾目取りに欠かせないそうだ。
 丸太は雪解けから晩秋まで、24時間地下水で散水される。乾燥や直射日光による割れを防ぐためだ。以前、散水機が2週間故障した際には、ヤード内でパキパキと割れる音が鳴り続けたという。その話を聞きながらヤードを歩くと、散水の音がどこか違って聞こえた。
 製材後の板は屋外で2年間天然乾燥にかける。製材直後の含水率は約70%、それを20%前後まで落としてから、人工乾燥機でさらに10%前後まで仕上げる。強度が増し、歪みが減り、糊の乗りや塗装の染み込みも良くなる。仕上げ加工場では、荒い状態と出荷前の板を手で触り比べると、同じ木とは思えないほど滑らかさが違った。
 印象に残ったのは製材の工程だ。職人は丸太をどう木取りするかをすべて頭に入れ、向かいのスタッフに指で厚みを指示しながら進めていく。機械が動いているように見えて、判断はすべて人間が下している。「今引いた木材が実際に家具になるのは、3年以上先のことになります」という菊池さんの説明に、この工場で扱っているもののスケールを感じた。

②旭川デザインセンター
 続いて向かったのがイベントのメイン会場、旭川デザインセンター。約30社のメーカーが常設ブースを構えるショールームで、各社の担当者から直接説明を受けながら見て回った。
 旭川家具というと木製家具のイメージが強いが、アルフレックスのようにセラミックトップにアルミダイカストの脚を組み合わせたテーブルなど、木材以外のマテリアルを扱うメーカーも存在する。「旭川家具の産地の奥行きの深さ、多様性の1つとして捉えてほしい」と同社取締役の野原努氏。
 椅子・テーブルの脚物家具を得意とする匠工芸は、今回の産地ツアーの企画にも携わったメーカーだ。IFDAのデザインコンペでは試作への協力を全面的に引き受け、現物審査にも対応してきた。ブースに並ぶのは、そうしたコンペへの関与を通じて製品化したアイテムだ。「コンペをきっかけに製品になったものを集めた展示。これも旭川の特徴の一つ」と匠工芸の担当者。参加者は、素材や仕様を確かめるように足を止めていた。
 ソファと張り物を専門とする宮田産業が紹介していたのは、座面をフラットにすることで商業施設や空港での簡易ベッド転用を可能にしたモデル。両面使いができる設計は、ラウンジやオフィスといった業務用途にも対応している。高い技術を軸にしたものづくりのあり方を示していた。
 一方、滝澤ベニヤが展示していたのは、木と再生紙を交互に重ねたミルフィーユ状の合板だ。断面にストライプが現れ、紙を挟むことで高級家具にも使える厚みを生み出す。「この世で世界唯一のものになる」と担当者。手に取ると、木材とも紙とも違う、独特の質感があった。
 40分という見学時間は決して長くはない。それでも旭川エリアに、これほど多彩なつくり手が共存していることが十分に伝わってきた。

③㈱ウッドワーク(東川町北町7丁目)
 東川町に移動し、工房「ウッドワーク」を訪れた。特注家具をメインとするこの工房では、木取りから加工・研磨・塗装・仕上げまで、家具ができるまでの全工程を順に見学した。
 最初に案内されたのはワークショップスペースだ。箸作りの体験を予約制で提供しており、建築家・隈研吾氏と東川町が共同で行うデザインコンペの作品も展示されていた。工場に入ると、まず材料置き場を案内された。受注生産のため在庫は最小限に抑え、ウォールナット・ナラ・タモ材のみを常備する。
 加工場で説明を受けたのが、箱物家具に特化したNC加工機だ。テーブル天板の実物サンプルを前に説明された「蟻加工」は、台形の仕口が互いに刺さることで無垢材の反りを防ぐ構造だ。フラッシュ構造の建具はペーパーコアを芯材に使い軽量化を実現し、カウンタースツールの背もたれには0.6ミリの薄板を何枚も重ねてプレスした成型合板を使う。仕組みを説明しながら実物のサンプルを手渡してくれるので、構造が手の中でそのまま理解できた。
 組み上がった製品は研磨と検品を兼ねた工程で丁寧に仕上げられ、塗装は同じ工場内に入居する協力会社・平田塗装が担う。仕上げ場では金具の取り付けから梱包まで行い、最後はトラックで出荷される。
 オリジナル製品も充実している。「ZENのトレイセット」は、お箸、お箸置き、トレイ、コースターをセットにした製品で、2023年におもてなしセレクション金賞を受賞した。天板部分には突き板を使いながら、周囲を無垢材のフレームで囲む構造で、シンプルながら木の質感を丁寧に生かしたデザインだ。
 工房に隣接して昨年完成したショールームは、住宅に近い展示空間を目指して作られた。スタッフ自らが壁の漆喰を塗り、フローリングには北海道産のトドマツや道南杉を使っている。入った瞬間に木の香りが広がるこの空間では、デザインセンターとあえて材種を変え、同じ製品でもウォールナットとタモ材など異なる表情で見比べられるようにしているそうだ。ガイドの成田さんの話では、同社の岡村貴弘社長は、「5年後、10年後の変化が今から楽しみ」と話していたという。この言葉が、この場所に来て腑に落ちた。

④湧駒荘(東川町湧駒別)
 旭岳の麓まで40分ほど走り、創業95年を超える温泉旅館「湯元 湧駒荘」へ移動した。「客室は旭川家具で」という方針のもと、一つの客室を一つのメーカーが担当する。旅館全体がまるごとショールームになっている。
 設計を手がけた建築家・竹内隆介氏のガイドで、まずは旧館フロアを見学した。廊下の入口には各工房のアイコンが貼られ、どの部屋にどこの家具が使われているかが一目でわかる。客室を順に見ていくと、部屋ごとにメーカーの個性がはっきりと出ていることに気づく。同じ旅館の同じ廊下に並んでいながら、扉を開けるたびに雰囲気が変わる。作り手のこだわりが、空間ににじみ出ていた。
 特に印象に残ったのは、同じメーカーが隣り合う2室を手がけ、素材をナラと白樺で変えているという部屋だ。並べて見ることで、樹種の違いが空間の雰囲気をここまで変えるのかと驚かされた。
もう一つ忘れられない部屋がある。かつてバスガイドが使っていた部屋を改装した客室だ。他の部屋より少し狭いが、家具の明るい色彩のためか、広く見える。窓際の椅子に腰を下ろした参加者から「ここで仕事したらはかどりそう」という声が漏れた。最初は写真を撮ったり家具の手触りをそっと確かめていた参加者が、気づけば椅子に座り、寛ぐようになっていた。
 食堂は道産のニレ材で改装し、旧来の天板を再利用してクリエイトファニチャーが仕上げた。ロビーなどにはまだ未改装の部分が残り、少しずつ地域のつくり手と仕上げていく計画だという。東川町市街地にはコンドミニアムもあり、部屋の名前が工房名になっていて、新製品の撮影やショールームとしても活用されている。
 ショールームで見る家具と、実際に人が使う空間に置かれた家具は、印象がまるで違う。産地ならではの体験だった。

⑤東10号工房(東川町東10号南6番地)
 最後に訪れたのが東川町の「東10号工房」だ。家具ブランドmonokraft(モノクラフト)を主宰するデザイナー清水徹さんと、家具工房enao(エナオ)の家具職人・遠藤覚さんが工房をシェアしている。2棟ある建物の一方を作業場、もう一方をショールームとして使う、小規模の工房だ。
 2人の出会いはスウェーデンの工芸学校・カペラゴーデン。清水さんは建築とクラフトデザインを学び、設計事務所を経て、40歳を過ぎた頃、「職人になりたい」という思いから渡航した。遠藤さんは2年先に在籍しており、そこで出会った。帰国後は清水さんの東川移住を機に、共同で工房を構えた。
 ものづくりのスタイルは、デザインも製作も自分でやる一貫生産。受注から納品まで約3ヵ月かかるが、「どこかに必ず手加工を入れる」のがこだわりだ。「大きなメーカーにしかできないこともある。でも小さいからこそできる小回りの利いたものづくりもある。僕らはその片翼を担っている」と清水さん。
 隣接するアトリエは、事務所とショールームを兼ね、1部屋だけ民泊としても開放している。自作の家具を実際に使ってもらい、泊まった客のフィードバックを製品づくりに生かしているそうだ。「お客さんにこういう暮らしを提案するには、まず自分たちがそう生きていないといけない」と遠藤さん。美しい自然の中で、しっかりとしたものづくりを続ける2人の姿が印象に残った。
 他の家具産地では、大きなメーカーと小さな工房はそれぞれ別にまとまることが多いという。旭川はそれが混在していて、小さな工房も組合に加盟し、同じ展示会で作品を並べる。その懐の広さも、産地としての旭川の強さなのだと実感した。

産地を「面」で知る
 今回の産地ツアーは、プロが多く、見学の際には専門的な質問が飛び交っていた。専門知識を持たない記者とっては、目にするもの耳にするもの全てが新鮮で、気がつけば一日が終わっていた。
 製材所、ショールーム、工房、温泉旅館を一日でつなぐこのツアーは、旭川家具の産地としての全体像を点ではなく面として伝えていた。木が育ち、製材され、職人の手を経て家具になり、空間に置かれ、人に使われる。その一連の流れを追うことで、旭川家具の産地としての底力を実感する貴重な体験となった。

この記事は月刊北海道経済2026年7月号に掲載されています。
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