旭川医大西川新学長の〝不条理〟人事

 前学長が辞任届を提出し、旭川医大のトップが事実上不在となってから290日間。「すったもんだ」を経て西川祐司氏が4月1日、正式に旭川医大の新しい学長に就任した。空席が目立つ教授の選出、新型コロナへの対応、研究資金の確保など課題は山積しているが、その前に課題として突き付けられたのが、学長選挙で西川氏を支えた現副学長2人に関して調査委員会が認定した「不適切行為」への対応だ。ガバナンス回復を掲げる新学長の〝本気度〟が問われる。

打診後途絶えた連絡
 4月1日、旭川医科大学で開かれた記者会見。この日、学長に正式就任した西川祐司氏は力強く語った。「開学以来、多くの教職員、同窓生のたゆまぬ努力によって、本学は歩んできたが、来年の開学50周年を目前に本学のガバナンスが著しく退行してしまったのは誠に残念。私たちには原点に回帰して本学を復興させる義務がある」。
 注目は、大学の立て直しで中心的な役割を果たす執行部人事だった。病院長には、コロナ患者の受け入れを巡って当時の吉田晃敏学長と激しく対立して解任された古川博之氏が「復活」した(古川病院長は4月4日に記者会見を開催)。
 一方、執行部入りが予測されていたのにリストに名前がなかったのが皮膚科講座の山本明美教授。昨年11月15日に次期学長を選ぶために行われた意向調査(投票)では、西川氏に14票差まで迫った(西川氏165票、山本氏151票、もう一人の候補、長谷川直幸氏が45票)。学内の融和のためには広く支持を得た山本氏を執行部に迎えるのが常識的な方法であり、山本教授も執行部の一員として西川体制を支えることに前向きな姿勢を示していた。
 それなのになぜ、山本教授の名前がないのか。1日の記者会見で本誌記者が質問すると、西川学長はこう説明した。
「(山本教授に執行部入りを)打診したことはある。山本教授からは協力してやっていきましょうと言われたが、執行部に対する基本的な考え方が違っていた」。
 記者は「山本教授とディスカッションして違いがわかったのか」と尋ねたが、西川学長は「必ずしも、直接のディスカッションではない」とだけ述べ、詳細な方針変更の理由は語らなかった。
 関係者の証言を総合すれば、学長予定者となった西川氏が山本教授に執行部入りを打診したのは昨年末のこと。ところが、その後は何ら連絡がなかった。打診を行ったのが西川学長である以上、どんな理由があるにせよ、方針を撤回したことを事前に山本教授に説明するのが社会常識であるように思えるが、山本教授には昨年末の打診の後、人事について連絡がなく、3月31日に教職員に一斉送信された執行部の名簿を読んで、打診がなかったことにされたことを初めて知ったようだ。

調査委が不適切認定
 新執行部のリスト上で、学内関係者が山本教授の「不在」と並んで注目した名前がある。奥村利勝副学長(教育、評価担当、理事を兼任)と川辺淳一副学長(研究担当)だ。奥村氏は学長選考会議の議長、川辺氏は同委員でもある。学内で新執行部の顔ぶれが明らかになったのと同じ3月31日、2人が登場する「報告」に関する情報が医大関係者の間に波紋を広げた。
 本誌3月号で既報の通り、ある教員が、昨年11月に行われた学長選出のための意向調査(投票)に向けて、奥村氏と川辺氏がそれぞれ学長選考会議議長、委員として意向調査を管理する立場にあるにも関わらず、西川氏に投票するよう働きかけていたことを問題視、学内の公益通報制度に沿って届け出を提出した。学内の教職員、学外の弁護士からなる調査委員会が設置され、調査が行われてきたのだが、調査の結論である「報告」が3月31日にまとまったのだ。
 その内容は公表されていないが、本誌が集めた情報を総合すれば、結論は2点に集約できる。
①奥村氏・川辺氏は意向調査対象者、つまり投票権を持つ人に対して、特定の候補者への投票を促していた。法令や旭川医大の規定に違反するものではないが、調査委はこうした行為について「不適切」との見解を示したようだ。
②通報者は、2人が山本教授に対する虚偽の情報を吹聴したとして調査を求めていたが、これについては2人がパソコンの提出を拒否したことから、また防犯カメラの記録データが消去され復元が困難であることから、客観的な情報を集めることができず、調査委としては結論を出すに至らなかった。
 なお、①については本誌も奥村氏が西川氏への投票を周囲に働きかけているとの情報を得て、投票前に旭川医大に取材を申し込んでいる。11月9日、事務局から「奥村教授へのご質問については、ご質問の前提の事実は確認できませんでした」との回答があったが、調査委はこうした「事実」があったと認定したことになる。
 調査委がどこまで踏み込んだ調査を行うのかについては、あまり期待していない人も多かった。事なかれ主義で「なあなあ」の結論で済ませ、新執行部は何事もなかったかのように新体制をスタートさせるだろうとの無力感も一部では漂っていた。フタを開けてみれば、調査委は2人の行為について「不適切」だと結論づけた模様。
 しかし、調査委員会にできる仕事はここまで。不適切な行為や不正行為が判明したとしても、調査委員会に処分を決める権限はない。ましてや、証拠となるパソコンの提出を強制する権限もない。
 「国立大学法人旭川医科大学公益通報者保護規程」には以下の条文がある。
 「第11条 学長は、調査の結果、通報対象事実が明らかになったときは、直ちに是正及び再発防止のための必要な措置を講じなければならない。2 学長は、調査の結果、法令又は本学規則等に違反するなどの不正が明らかになったときは、当該不正に関与した本学の職員に対し、当該職員に適用される就業規則に基づく懲戒処分等を課すことができる」
 つまり、調査委の結論を受けて是正や処分を行うのは学長の仕事。一連の行為が、ただちに法令や学内の規程に違反するものではないとはいえ、このまま放置していては次回以降の学長選考で学長選考会議委員による集票活動が「野放し」になってしまう。何らかの対応が必要だが、不適切な行為を認定されたのは自らの選挙を支え、これからも執行部を支えていくはずだった2人。西川学長が難しい判断を迫られるのは想像に難くない。

会見ではコメント拒否
 本誌は4月1日の記者会見で、調査委の報告についても尋ねた。西川学長の答えは「公益通報の性格上、私は公益通報に関してはなにも答えられない。通報者を保護するということもある。私はコメントしない。どのような報告がされているかについても存じ上げない」というものだった。
 記者は4月4日に書面で、旭川医大の広報担当者を通じて、奥村副学長、川辺副学長、西川学長について以下の質問を送付した。(奥村・川辺副学長に対して)①報告の結論への見解②なぜ調査委からのパソコン提出要請を拒否したのか、(西川学長に対して)③改めて報告についてどう思うか、④調査結果を知っていて奥村氏、川辺氏を副学長に任命したのか⑤規程に基づく処分、再発防止策の考えはあるか⑥山本教授を起用しなかったことと公益通報は関連しているのか。
 4月7日、質問のうち①②③⑤については「通報者や通報の対象となった者の個人情報等を取り扱うことになるため、情報を共有する者の範囲を限定するなど、 通報対応に従事する者に通報に関する秘密保持や個人情報保護を徹底させることが必要であることが消費者庁から公開されている公益通報者保護法を踏まえた各ガイドライン等でも明記されている。したがって、本件についての内容をお知らせすることはふさわしくないと考えている」、④に対しては「お二人とも高い見識をお持ちであり、教育の質保証およびレベル向上を目指すために奥村利勝先生に理事兼教育評価担当副学長を、研究を戦略的に推進するために川辺淳一先生に研究担当副学長をお願いした」、⑥については「記者会見で答えた通り」との回答が送られてきた。

問われるガバナンス
 3月号の本誌記事でも触れたが、学長選考会議の議長や委員が特定の候補に投票するよう働きかけたとすれば、野球の審判が片方のチームを手助けするようなものであり、学長選出手続きの公平性が損なわれてしまう。投票前にまかれた怪文書の影響と合わせ、「完全に公正なかたちで投票が行われていれば、また違った結果が出ていたのではないか」という思いを抱く人がいるとしても、不思議ではない。
 西川学長は記者会見で「私は公益通報に関してはなにも答えられない」と答えたが、調査委が「不適切」と指摘した人物をおとがめなしで副学長に起用しつづけるとすれば、西川学長自らが、学長選考会議が特定候補を応援する行為に「お墨付き」を与えたに等しい。調査委での調査の過程が学長に知らされていなかったにせよ、この情報は本誌が繰り返し報じており、知らなかったで済まされるはずもない。
 奥村副学長は、新学長選考に手を挙げて学長選考会議議長を辞任した西川氏の後任として、議長に就任した。新学長から見れば側近中の側近だ。その人物が新学長を選ぶ意向調査の前、西川氏に投票するよう呼びかけていたことを、当の西川氏は知っていたのか、知らなかったのか。知っていたとすればどう行動したのか、行動しなかったのか。学長に就任した西川氏は自身の言葉で教職員や学生に対して明確に説明する必要がありそうだ。
 医大の関係者が注目するのは、西川氏の学長就任を文部科学省に申請した際、公益通報に基づく調査が行われていることを、文科省に報告していたのかどうか。学長選考の過程で不適切な行為があったことを文科省が知っていたら、違う結論が出たのではないか、または、西川氏の学長就任に条件がついたのではないかというのだ。
 なお、公益通報を行った人物は事態が長期化することは本意ではないとして、「山本氏を副学長に起用すれば公益通報は取り下げる」との提案を自らの弁護士を通じて西川学長に行ったのだが、西川学長は提案があった事実を公益通報の調査委に連絡。調査委は、こうした提案は公益通報の目的の健全性を損なうとの見解も示した模様。この提案に、西川学長ら新執行部が態度を硬化させ、山本氏の執行部入りを撤回した可能性もあるが、西川学長は詳細な経緯について説明を拒否しており、真相は謎のままだ。
 学長就任記者会見での様子をテレビのニュースで見た人は、西川氏の実直な語り口が印象に残ったはずだ。記者も昨年の投票前に行った取材から同様の感想を抱いた。通報者からの提案をはねつけたのも、西川学長なりの清廉さや道徳観の表れなのかもしれない。注目は、公益通報調査委員会が指摘した「不適切」な行為にも、同じ基準で対応するかどうかだ。
 就任記者会見の冒頭、(吉田学長時代に)「本学のガバナンスが著しく退行してしまったのは誠に残念。私たちには原点に回帰して本学を復興させる義務がある」と語った西川新学長。ガバナンスに対する自身の姿勢が、いま問われている。

表紙2205
この記事は月刊北海道経済2022年05月号に掲載されています。

次期最終処分場は春志内

 旭川市の次期一般廃棄物最終処分場(通称ごみ処分場)の建設候補地が市内神居町春志内地区に決まった。3月8日に市が正式発表したもので、そう聞かされれば「なるほど、そんな場所があったのか」とうなずく市民も多いのではないか。迷惑施設の代表格でもあるごみ処分場は、その新設をめぐり江丹別地域に大混乱を巻き起こした歴史的経緯もある。市がそんな過去の反省の上に立って選んだ場所が春志内だった。

基本構想見直すアクシデントも
 現在稼働中の江丹別芳野のごみ処分場の使用期限が2030(令和12)年3月で切れるため、市は11年6月に市長の私的諮問機関「次期廃棄物最終処分場検討委員会」を立ち上げた。江丹別の後のごみ処分場をどこにするか、手順を踏んだ場所探しが市民に見える形で動き出したのはこの時からだった。
 その後市は、市内にある12ヵ所の造成可能地エリアを示しながら建設候補地の比較評価、パブリックコメントの実施、整備基本構想を基にした市民説明会の開催、さらには附属機関の「最終処分場整備検討委員会」を立ち上げるなど、市民とていねいな協議を重ねてきた。しかし昨年、順調に進んできたはずの場所探しが思わぬ展開を迎えることになった。
 2017年に策定した基本構想では、今後の埋め立て量の減少を見越し、処分場施設は覆蓋型(屋根付き)のコンパクトなものとし、必要な用地の広さも現在の芳野処分場の4分の1程度と見込んでいた。しかし資材の高騰で覆蓋型では建設コストが高くなり、しかも近文清掃工場の焼却機能充実が見送られ、埋め立て量の減少も見込めなくなったため、容量の大きい従来のオープン型へ舵を切らざるを得なくなった。昨年7月には新たな基本方針を策定し、出直しをはかることにした。
 この時、市環境部では「早い時期に場所を決め、地域協議を開始したい」としていた。7月に基本方針を立てたばかりなのに、早い時期に場所を決めたいと言い切ったことは、場所探しがまったく新しい取り組みというわけではなく、ある程度、いやすでにかなりの見込みがあったからにほかならない。

実らなかった公募だが、手際よかった市の対応
 次期ごみ処分場の候補地探しを進める旭川市環境部清掃施設整備課は、昨年10月11日から12月29日まで一般廃棄物最終処分場の建設候補地の公募に踏み切った。一見、自分たちでは決めかねるので地域の声を反映した候補地を公募という手段で求めようという算段のようにも見えたが、締め切りまでに名乗りを上げる地域は1件もなかった。
 しかし市は、応募ゼロも想定内だったのか、特段の焦りを見せることもなく「年明けの2月上旬までには市独自の選考で候補地を絞りこむ」と言い切った。
 その自信ありげな言葉からは、すでにメドがついていると言わんばかりの様子も読み取れた。案の定、実際にそうだったのである。あえて迷惑施設の公募という手段に出たのも、「手を尽くした」というアリバイづくりのようなものだったのかもしれない。
 「市が独自に2月上旬までには絞り込む」と言った通り、清掃施設整備課では今年に入ってから市内5ヵ所にまで候補地を絞り込み、2月中旬には庁内会議にかけた。会議には当時の赤岡昌弘副市長や関係部長が出席したが、清掃施設整備課が示した5ヵ所について順位付けを行い、結果、1番となった「神居町春志内」に決まった。同課ではすでに春志内の予定地となる地権者2人から、候補地とすることに同意が得られる感触を持っていたことが決め手となったようだ。
 清掃施設整備課では「立地環境の評価や数値では表せない定性評価も行ったうえで春志内地区が1番という結果になった」と万全の選考だったことを強調し、ひと安心した表情だが、一方では「本当に気を抜けないのはこれから」と気持ちを引き締める。

住民説明会は3市民委が対象
 かつての江丹別芳野の例を出すまでもなく、迷惑施設の建設場所を見つけたとしても、肝心なのは地権者だけでなく地域住民との交渉。合意を得るためには十分な説明、話し合いが欠かせない。
 市が描いている場所は、市街地から国道12号で台場を抜け、観魚橋を過ぎたあたりの左側一帯。山とも丘とも言えない規模の丘陵地帯で、今は雪があって現場の確認はできないがグーグルアースで上から見ると原野のような状態。かつてはこの辺に住宅を建て生活していた人もいたようだが、今はまったくの無人地帯。
 清掃施設整備課によると石狩川をはさんで対岸に1軒住宅があるだけで、少なくとも建設予定地周辺に民家はない。しかし迷惑施設ができることによる環境等への影響はさらに広範囲に及ぶことになり、市では今後、市民委員会を通じて各地で住民説明会を行うことにしている。
 対象となる地域を市民委員会単位で言うと石狩川対岸の嵐山(江丹別町嵐山・春日・共和)、台場(神居町台場・台場東)、西神居(神居町神居古潭・西岡・豊里)の3市民委員会。市は、2030年からの供用開始を目指して近々に地域住民との話し合いに入っていく。

利権絡む要素は見当たらない
 建設を予定する17・4㌶の地域の大半は民間人2人の所有で、一部市有地もある。市は今後、現地で正確な測量を行い、2026(令和8)年までには買収用地を確定し、正式に売買契約を交わすことにしている。
 ごみ処分場は今でも「迷惑施設」としてとらえられているが、実際に迷惑極まりなかったのは江丹別の共和地区や中園地区にあった20年以上も前の話。当時、水質汚染やカラス被害が著しく住民生活が脅かされていたことは間違いないが、芳野に移ってからは見違えるほどに施設整備がなされ、ごみ分別が進むようになってからは被害が激減した。
 また、考え方によってはこの迷惑施設も、地域おこしに活用できる有形の財産というとらえ方ができなくもない。かつて江丹別ではこの有形財産を、地域振興のためという不文律を破り、個人や企業の利得に活用しようとする不届きな事例も見受けられたが、春志内ではそのような利権が絡んでくる要素は今のところ見受けられない。
 今後予定される市の説明会でも住民の声を2分するような大きな波乱は予測できない。順調に進めば、住民合意を得た後に測量を行い、処分場用地を確定し、2026年には地権者と正式契約して実施設計に入り、翌年から建設工事に取りかかる段取り。供用開始は今から8年後の2030年4月が見込まれる。

次期産廃処理施設どうする振興公社
 次期一般廃棄物最終処分場の建設候補地が春志内地区で一定のめどがついた一方、産業廃棄物(産廃)を処理する旭川廃棄物処理センター(江丹別共和)の次期建設予定地はなかなか適地が見つからず、管理する㈱旭川振興公社(赤岡昌弘社長)が苦労している。
 同センターの埋め立て終了期間は当初予定では2028年度末だったが、それより早くに容量オーバーすることがわかり、ここ4~5年のうちに次の処分場を建設しなければならない切羽詰まった状況に立たされている。
 建設に必要な用地は、春志内に決まった面積よりさらに大きなものが想定されており、昨年来、振興公社の役員、職員らが懸命に適地を探している。しかし今現在、これといった見通しは立っていない。
 第三セクターである振興公社の仕事には市も無関心ではないが、いかんせん市は一般廃棄物の処分場探しに集中していたため、「振興公社のことは振興公社で」といった感じだった。市民的には「産廃も一般廃棄物も同じエリアに造ればいい」と思ってしまうのだが、何か問題でもあるのか、その発想は両者とも薄いようだ。
 市が次期一般廃棄物最終処分場のために長い時間をかけて作った環境調査のデータもあるわけだから、振興公社もその気になれば適地探しにさほど腐心しなくともよいと思うのだが。なにか妨げとなるものでもあるのだろうか。今後の旭川振興公社の動向が関心事となっていく。

表紙2205
この記事は月刊北海道経済2022年05月号に掲載されています。

受験生必読「英単語 記憶のためにまず忘れる」

 「うちの子は何も苦労せずにスラスラと英単語を覚えている」─そんな家庭はまずない。ほぼすべての児童や生徒が英単語の暗記に苦労し、挫折し、ラクな方法を探している。加齢とともに思い出す力が弱まっている記者は、北海道教育大学旭川校に英単語の記憶法をテーマにしている研究者を訪ねた。

小→高で5000語
 英語で日常会話をするには単語を2000~3000語覚える必要があると言われている。学校での英語の授業でも単語を大量に暗記しなければならない。新学習指導要領によれば小学校では600~700語、中学校では1600~1800語、高校では履修する科目により異なるが1800~2500語を覚えることが求められる。小中高を合計すれば最大5000語に達する。単純比較はできないが、小学校、中学校までに学ぶことになっている常用漢字は合計2136字。英単語学習の負担の重さがわかる。
 それだけに、大量の英単語を効率よく暗記する方法を探し求める人は多い。インターネットで「英単語 暗記」を検索すると、怪しげな記憶術や書籍の情報がいくつも表示される。結論から言えば、魔法のような方法は存在しない。多かれ少なかれ、苦労をしなければ英単語は頭の中に残らない。ただ、英単語の学習方法の中には、効率が比較的良いものもある。意外なことに、ある事情から効率が悪い手法を選ぶ教育者や学習者が多いという。

忘れてから覚える
 効率的に英単語を覚える方法を研究している研究者が旭川市内にいる。北海道教育大学旭川校の教員養成課程英語教育専攻で講師を務める金山幸平さんだ。金山さんは英単語を覚えるのに役立つ4つの工夫を提案する。

1 想起練習
 「apple=りんご」と書かれた紙を漫然と眺めているだけでは、記憶はなかなか定着しない。思い出すための努力が必要な状況を作ると脳に「学習負荷」がかかり、記憶が残りやすくなる。具体的には暗記シート(覚えたい部分を赤のペンで塗り、緑のシートをかぶせるとその部分が黒く隠れる文具)や単語帳などを活用して「apple」の意味を思いだそうとすれば(想起練習)、または逆に「りんご」を意味する英単語を思いだそうとすれば、学習負荷が発生する。英単語、日本語訳のどちらかを指先で隠すだけでも、効果がある。
 こうした方法で英単語を覚えたら、その効果を計るために単語テストを行うが、テストを解くために考えることもまた想起練習になる。「テストは成績を付けるためだけでなく、それ自体が学習ツールとして機能します」(金山さん)

2 テスト直後の学習
 テストは重要だが、もっと大切なのはその直後。答え合わせをして、どの単語が正解で、どの単語が不正解だったのかを区別した上で、不正解の単語を中心に再び想起練習を行うのが効果的だ。「多くの研究から、学習が最も効果的になるのはテストを受けた直後であることが判明しています」。逆に、学習→テストの順番だと、テストの点数は高くなるものの、間違った単語を意識して想起する機会がないと長期記憶には貢献しない。テスト→学習という順番が重要だ。

3 分散学習
 英単語の記憶に限らず、学習には集中学習と分散学習の2タイプがある。集中学習の典型は試験前の一夜漬け。短期的にはある程度の効果を発揮するものの、時間が経てば見事に忘れてしまうことは、多くの人が実際に体験しているはずだ。分散学習はある程度の間隔を空けてくり返し学ぶスタイル。数多くの研究から、長期記憶には集中学習よりも分散学習のほうが圧倒的に効果的との結論が出ている。注目すべきはその理由だ。「分散学習では間隔を空けることで、学習した英単語をある程度忘れる時間を作ることができます。忘れるという経験を得た上で復習を行うと学習がより効率的になります。一方、集中学習だと短期間で英単語を詰め込んだとしても、学習者が『もう完璧に覚えた』との錯覚を起こして、負荷を伴う学習をしなくなり、結果的に非効率になるわけです」。覚えるためにいったん忘れる時間が必要というのは逆説的な話だが、多くの研究結果から実証されている。

4 累積テスト
 50語の英単語を5日間で記憶し、毎日テストを行うとする(図)。学習方法Aでは1日目に単語1~10、2日目に単語11~20、最終の5日目に41~50という順番で範囲の重複なしに出題する。学習方法Bでは1日目に単語1~10、2日目に単語1~20、最終の5日目に1~50と、出題範囲を累積しながら出題する。効率が良いのはB。Aではその日に学んだ範囲だけがテストで問われるのに対して、Bでは前日までの内容も復習する分散学習が必要となり、長期記憶に貢献するためだ。
 こうした累積テストの効果を知っていれば、単語帳を使って学習する際、「今日は新出の10語を完璧に、集中的に覚えよう」よりも、「昨日と一昨日の単語も一緒に復習しよう」といったアプローチのほうが望ましいことがわかる。

即効性か長期的効果か
 こうした学習方法の効果の違いを調べる学問が認知心理学。長期記憶に貢献する学習方法については、世界中の認知心理学者が検証を行い、前述した4つの方法が望ましいことを裏付けている。ところが、教育現場では逆の手法が取り入れられる傾向がある。たとえば「学習→テスト」という順番が一般的で、テスト後の復習はなおざり、累積テストではなく、出題範囲が限定された非累積テストが行われるといった具合だ。学習者の側にも、分散学習ではなく集中学習を好む傾向がある。
 それには理由があると、金山さんは指摘する。「学習→テストという順番、集中学習、非累積テスト。いずれも早く英単語を覚えることができた、勉強したという達成感を得ることができます。教育現場で、学習効果の実感は重要です」。しかし、こうした学習では、テストが終わればあとは忘れていくだけ。効果は長続きしない。対照的にテスト→学習、分散学習、累積テストといった方法は、すぐには勉強の成果を実感できないものの、長い目で見れば効果的だ。英語学習の最終的な目標が「学んだぞ」という満足感に浸ることではなく、将来外国人とコミュニケーションを図ることだとすれば、英単語を長期的に覚えておいて、必要時に思い出し、活用することができなければ意味は乏しい。英単語を覚えるため、すぐ得られる達成感と長期的な効果のうちどちらに注目すべきなのかはいうまでもない。
 次に、前述した知見を踏まえて、金山さんが提案する英単語学習法を紹介する(例として100語の記憶を想定している)。
①100語の英単語についてテストをして(想起練習)、その都度答え合わせをしながら、間違った問題に印をつける。知らない英単語ばかりなので最初は間違えるのが当たり前。多くの人はあきらめて学習をやめてしまったり、10語に限定して完璧に覚えるなど方法を変えてしまう。あきらめず、方法を変えずに継続することが大切だ。
②間違った問題を中心に、再度想起練習(復習)を行う。
③確保できる学習時間を考えながら②を継続する。
④ある程度忘れる時間を作るため、あえて間隔を空ける。
⑤その後、もう一度①の100語のテストを行う。成績が悪いと「非効率な学習法なのではないか」と不安になることがあるが、長期的にはこの方法のほうが効率的だと信じることが重要。
⑥以上のステップを納得するまで繰り返す。
 こうした方法は英単語に限らず、他の分野の記憶にも活用できる。学校で英語を学んでいる子のいる家庭や、独学で外国語の習得や資格取得のため勉強している人の参考にもなるだろう。
 なお、④について補足すれば、どれくらいの間隔を空ければ最も効率的に記憶できるのかについてはいろいろな学説がある。その一つ「エビングハウスの忘却曲線」と呼ばれる理論に基づくスマホの暗記補助アプリ「Anki」が世界的に普及しているが、その後の研究で、こうした忘却曲線理論は根拠が薄いことがわかっている。
 最後にこの記事の内容を復習してみる。大切なのは想起練習で脳に学習負荷をかけること、分散学習で忘れる時間をあえて作ること、テスト→学習という順番を守ること、(1日100語など)大量の英単語を覚えようとするほうが(1日10語など)限られた英単語を完璧に覚えようとするより効率的だということだ。
 1週間後、この記事の内容をすっかり忘れていたとしても、気にする必要はないが、再読はしてほしい。

表紙2205
この記事は月刊北海道経済2022年05月号に掲載されています。