ヨーカドー後継にトライアル

「盛者必衰」─かつては小売業界の「主役」のひとつだった総合スーパーだが、近年は苦戦を強いられている。その一つ、イトーヨーカドー旭川店がついに閉店した。道内各地で閉店が相次ぎ、過去十数年、何度もうわさされてきた店舗の閉鎖がついに現実のものになった。その一方で、24時間型のスーパー「トライアル」が後継テナントに決定。来年3月末に耐震補強工事が完了した後でオープンする見通しとなった。

強みだったはずの駐車場が欠点に
 1980年にオープンしたイトーヨーカドー旭川店が、40年余りにおよぶ営業を終え、最終営業日となった5月9日にシャッターを下した。店員らは外から姿が見えなくなるその瞬間まで、深々と頭を下げていた。
 オープン時、イトーヨーカドーは旭川小売業界の「ガリバー」だった。当時は個人営業の八百屋、肉屋、魚屋などがまだ数多く残っていた時代。市内各地にあった市民生協やフードセンター、農協系の小売店でも十分に大型だった。それをはるかに上回る規模のヨーカドーの上陸に不安を抱く小売り・卸売業界の関係者が多かった一方で、新しい雰囲気の売り場に目を見張った消費者もいた。当時の興奮を知る70代の男性は語る。
 「開店間もないヨーカドーに行ってみた。印象的だったのは、レジ係の人が、お客一人ひとりに順番が回ってくるたびにきちんと会釈していたということ。地場のスーパーとはスタッフの教育が違うと思った」。
 建物内部に大型の駐車場を備えていることも、マイカーでの外出が当たり前になりつつあった地域社会に支持された。近所の店に徒歩や自転車で行くよりも、少し離れたヨーカドーに車で行く人が増えた。
 しかしその後、旭川市内のあちこちに同様の形態の総合スーパー(GMS)が次々と登場した。ニチイ(1981年開店、現イオン春光)、ダイエー(1984年開店)、同じくニチイ系の永山サティ(1990年開店、現イオン永山)などが次々とオープン。生協なども既存の小型店を統合して大型店に転換し、大手に対抗した。
 これによりヨーカドーが抱えた悩みが、開店当初は強みだったはずの駐車場の問題。豊岡、東光、永山、春光、旭神など市の中心部からやや離れた場所に進出した競合店は広大な敷地を生かして、店舗建物の屋上だけでなく、店舗の周囲の野外に駐車場を確保した。車庫入れがあまり得意でない人、とくにGMSの主要な顧客である主婦層の中には、ヨーカドー2階、3階の駐車場に上がっていく狭くて急なスロープを嫌う人が多かった。ある男性は語る。「妻にヨーカドーで買い物しようと提案しても、あなたが運転していくならいい、自分で運転して行くのは絶対にいやと言われた」

建物オーナーは否定していたが…
 完成当時は真新しかった建物も、次第に当時の魅力を失っていく。イオン旭川西や同旭川駅前をはじめ、この十数年の間に登場した大型店に比べれば、ヨーカドーの陳腐化は否定しがたく、次第に客足が遠のいていった。そしてついに、開店から41年後の閉店の日を迎えた。
 この建物では今後、従来からの予定に沿って耐震補強工事が行われる。完了は来年3月末。隣接する大成市民センターの体育館、住民会館も当面は休館となる。
 これまでヨーカドーで買い物していた人にとり気になるのは、耐震強化工事完了後に後継テナントが入居するかどうかだ。
 本誌はまず、建物を現在所有している北洋銀行系の交洋不動産(本社=札幌)に電話取材した。「今年3月、旭川市と大成ファミリープラザに関して連携協定を締結したが、その際に旭川市に伝えた通り、後継テナントについては商業施設を中心に交渉を進めている。まだ相手が確定しておらず、交渉対象が1社なのか複数なのかを含めて、話せることは現時点で何もない」。
 前号でも紹介した通り、本誌は旭川に展開する有力な小売業者に取材をしたが、いずれも出店には慎重。既存店とのバッティングや、大きすぎる建物などが懸念材料になっている様子だった。
 ところがその後、本誌に「トライアルが後継テナントに決まった」との未確認情報がもたらされた。トライアルは24時間営業のスーパーで、2009年11月、旭友ストアーが撤退した店舗に進出するかたちで国道237号に面した「スーパーセンタートライアル神楽店」をオープン。翌年10月にはドン・キホーテの店舗跡を改装して国道39号に面した同永山店を開いている。消費者の安売り志向の強まりで、2つの店舗は好調とみられ、また小売店だった建物に「居抜き」で進出することが基本的な手法であるトライアルがヨーカドー旭川店の後継に選ばれたとしても、決して意外な話ではない。

入居は地下だけ? 1階2階どうなる
 そこで本誌は、全国にトライアルを展開する㈱トライアルカンパニー(本社=福岡市)に電話取材をしたが、「今回に限らず、今後の出店予定については一切取材に応じていない」とのことだった。
 しかし、それからしばらくして、当初の情報とは違うソースから本誌に確実な情報がもたらされた。トライアルの進出が決まったというのだ。すでに市内の関係者へのあいさつも済ませているという。ただ、建物オーナーの交洋不動産では、大規模な耐震強化工事を行う方針を明らかにしており、工事には少なくとも数ヵ月が必要。開店はその先のことになりそうだ。なお、前出の通り、この建物では駐車場へのアクセスの難しさが消費者にとってのネックとなっているが、交洋不動産では、駐車場の配置など大規模な構造の変更は考えていないと説明している。
 開店時期は不明だが、耐震補強工事が完了するのは来年3月末。早くてもそのころのオープンとなるはずだ。
 ただし、トライアルの商品は食品や飲料が中心。日用品や衣類もあるが、種類は限定的。ヨーカドーの後継店として入居するとしても、これまで食品売り場とレストランコーナー、ダイソー、専門店などがあった地下以外を活用するとは考えにくい。売り場全体を埋めるためには、他にも後継テナント探す必要がある。
 とはいえ、トライアル進出で旭川市中心部での買物難民発生は回避された。安堵している住民も多いのではないか。

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この記事は月刊北海道経済2021年06月号に掲載されています。

コロナでも富良野の高級不動産堅調

本誌でも過去に何度か伝えている通り、外国の富裕層が富良野地区の不動産に注目している。ニセコで多くの物件を販売した実績をもつ「H2グループ」は2017年に富良野支店を開設し、高級コンドミニアムを販売してきた。コロナ禍のために海外バイヤーの来日は途絶えたが、ネットのライブ中継で物件の特徴を伝え、富裕層との商談を成立させているという。

北の峰通沿い
 富良野スキー場(北の峰ゾーン)のゴンドラ駅と道路を挟んで向かい合う現代的な外観の建物がある。「フェニックス・フラノ」と名付けられたコンドミニアムだ(2016年築)。プロジェクト管理を手掛けたのは虻田郡倶知安町に本社を置く北海道トラックスだ。
 このプロジェクトをきっかけに北海道トラックスは富良野支店を開設した。今年度に入って、同じくニセコを拠点に外国人向けの超ハイエンド向けホスピタリティを展開していた。ハクライフ社と合併してH2グループとなり、その富良野支店になった。
 現在、同社は北の峰通(道道800号)沿いで2棟のコンドミニアム「カク・プレイス」「フェニックス・ウェスト」を販売している。価格は未公表だが、安価な部屋でも数千万円に達する見通し。主に海外に住む富裕層にの販売する。その後は「フェニックス・イースト」の計画が控える。
 新築物件の場合、同社はプロジェクト管理を行いながら、デベロッパーと地元建設会社の仲介役を務め、完成後は販売、販売後は物件管理を担う。
 このほか、戸建ての既存住宅、ペンション、レストラン向けの物件なども仲介している。
 北海道トラックスの会社設立は2003年。以来、ニセコを中心に外国人向けの高級不動産を扱ってきた同社が富良野に進出した背景には、富良野の世界的な知名度上昇がある。

ダブルシーズン
 「富良野ではもともと外国からのツーリストが多かった。ラベンダー畑の風景、大雪山の眺望、チーズ工場やワイン工場などの魅力が知られていた。不動産についてもこの数年の間に、魅力が知られるようになった」と、セールス担当のスコット・トービー氏は指摘する。
 外国人が魅力を感じる道内の不動産の特徴は、まず近くにスキー場があること。それはニセコエリアに集中的な投資が行われた最大の理由でもある。もう一つ、富良野にはニセコにはない魅力が備わっているという。
 「富良野はダブルシーズン。冬でも夏でも遊べるので、賃貸物件は収益を上げやすい。それだけ付加価値がある。ニセコを楽しめるのは基本的に冬だけだ」(トービー氏)
 なお、一部にはニセコのブームが下火になったとの見方もあるが、富良野支店長の西本圭志氏は「ニセコでは依然として多くの不動産が取引されている」と語り、こうした見方を否定する。
 現在、H2グループの顧客は世界各国にいるが、中でも多いのは香港やシンガポール、フィリピンなど東南アジア各国、そして欧米諸国だ。なお、香港については政治的な混乱とは関係なく、以前から販売は好調だという。
 2019年まではこれらの国々からバイヤーが訪日、物件をその目で見て品定めした上で購入していたが、コロナ禍で国際的な人の流れがほぼ途絶え、販売のスタイルが変わった。海外からインターネットで寄せられる問い合わせに応じて、トービー氏がスマホを持って物件を訪れて、特定のバイヤー向けに「ライブビデオツアー」を開き、質問にもその場で答える。このほか、コンドミニアムなど新規プロジェクトの発表時には、複数のバイヤー向けに同時に中継することもある。
 バイヤーが物件を気に入れば、来日することなく商談が成立する。とはいっても、コロナ前までよく話題になっていた外国人富裕層の「爆買い」とは性格が異なると、西本氏は語る。「これまで築いてきた信頼関係の上で、登記などのしくみを十分に説明して、不動産取引リスクが低いことを納得してもらった上で購入してもらっている。気に入ったから即買い、というわけではない」
 昨年の春から夏にかけて、コロナの影響で世界中でビジネスが低調になった時期には道内不動産への購入意欲も低下したが、その後徐々に回復。すでにコロナ前の水準に戻っているという。
 新しい動きも生じている。それは、外国人だけでなく、日本人の富裕層への販売実績の増加。資産家が新たな投資先を求めていることと関係があるのかもしれない。

中古戸建も高価格
 H2グループのウェブページには、仲介している富良野市内の物件が価格付きで掲示されているのだが、数千万円以上の高級物件がずらりと並ぶなかで、目を引くのが1983年築の戸建て住宅だ。敷地面積229平米、床面積94平米の昭和の雰囲気漂うこの建物の価格は2980万円。トービー氏によれば、スキー場から歩いてすぐという立地条件に、外国人バイヤーなら2980万円の価値があると感じるとのこと。本能的に「高い」と感じた記者には、世界的な視野が欠けているのか。
 同社が取り扱う富良野地区の物件はスキー場の近くに限られていたが、徐々に富良野市街や中富良野へも広がってきており、物件の状況次第で美瑛や旭川にも拡大する可能性もあるという。
 日本人がニューヨークの一等地で高級不動産を買い漁ったのはバブル期の話。いまでは旭川からも近い富良野の不動産市場に外国から資金が流れ込んでいる。そのお金は土地を売った地主や建設会社を通じて地域社会へと流れ込む。富裕層の日本滞在中の消費活動にも期待が集まる。不況が長引くこの時代、「外貨」の流入は地域経済にとって数少ない明るい材料だ。

表紙2106
この記事は月刊北海道経済2021年06月号に掲載されています。

クリスタルホール 問われるプロポーザル の意義

 ステージ上で踊り、歌い、語る人が主役だとすれば、それを袖で見守るのが舞台のプロたち。旭川市は旭川市民文化会館・大雪クリスタルホールという主要なホールの舞台業務を民間業者に委託している。今年の1月から3月にかけて行われたクリスタルホールの舞台業務受託業者を選ぶ公募型プロポーザルで、長年この業務を受託していた業者を破って別の業者が選定を受けたが、その手法が議論を呼んでいる。他の業務分野を含め、公募型プロポーザルに参加する業者の姿勢に影響しそうだ。

評価点14点差で受託業者が交代
 旭川市大雪クリスタルホール。収容人数は旭川市民文化会館より少ないものの、音響効果に優れ、音楽関連の催しが数多く開催されている。こうしたホールは音響、照明、舞台などに特殊な機器を使用するため、プロでなければ設備操作は難しい。そこで旭川市が公募型プロポーザル方式で選定した民間業者に委託料を支払って、「舞台設備操作等業務」を委託している。
 今年1月から3月にかけて、4月からの受託業者を選ぶための公募型プロポーザルが行われた。応募したのは㈲イマージュ(上田司社長)と㈱ソングスエンターテイメント(佐々木聡社長)。このうちイマージュは、他の会場やイベントで舞台業務を数多く請け負い、大雪クリスタルホールでも長年、舞台業務を受託しつづけてきた企業だ。しかし、箱を開けてみれば選ばれたのはソングス。評価点はソングスが366・25点、イマージュが352点だった。この結果を受けて、ソングスは4月1日からクリスタルホールに入り、舞台業務を受託している。従来は2年契約だったが、今回からは3年契約に延長された。
 イマージュはこの選定結果に異議を唱えている。ソングスが「虚偽の申請を行った」というのが理由のひとつだ。ソングスは一連の指摘を否定、ルールに則って選ばれただけと主張している。

受注した業者に 「委託管理指導」
 争点のひとつは、ソングスの「実績」。プロポーザルで市に提出する書類には、過去の業務実績を記入しなければならないのだが、ソングスは「旭川市民文化会館および公会堂と大雪クリスタルホールとの委託管理指導業務」を実績として報告していた。しかし、過去の入札や公募型プロポーザルで選定された市民文化会館と大雪クリスタルホールで舞台業務を受託業者のリストを観れば、㈲サウンド企画、㈱旭川シティネットワークとイマージュしかない。「ソングス」の名前はどちらにも登場しないのだ。
 このあたりの事情には、舞台業務の小さな業界で起きた内紛が影響している。佐々木氏らは業界の「老舗」とも言えるサウンド企画から飛び出し、時間外手当の未払いなどでサウンド企画を訴え、旭川シティネットワークの柳澤紀夫社長(当時)に助けを求めた。柳澤氏は承諾し、旭川シティネットワーク名義で市民文化会館の舞台業者を決める入札に参加して落札に成功。実際の舞台業務は佐々木氏らソングス勢が担った。佐々木氏は当時を振り返り「柳澤氏からアドバイス、統括的な立場で指導業務としてやってくれないかと言われた」と説明する。「企画提案書には、旭川シティネットワークから受託した『委託管理指導業務』の実績を書いただけの話。問題はない。ヒアリングでも、審査委員からこの点については質問などはなかった」(佐々木氏)
 旭川市の社会教育部にもこの点について尋ねたが、問題視はしていない様子。「法人としての過去の実績を尋ねたが、それが元請けなのか下請けなのかは問うていない」。
 申請の際、業務実績を問われるのは、舞台業務には経験が必要だからだ。仮に「委託管理指導業務」が虚偽の申請だとしても、ソングスの関係者が過去に市民文化会館や他の会場で舞台業務を経験し、十分なノウハウを備え、円滑に業務をこなせるのなら、少なくともホールの利用者から不満は出ないはずだ。しかし、イマージュの関係者ではない人物から、ソングスのプロとしての能力を疑う声があがっている。
 本誌に寄せられた証言によれば、4月に開かれた音楽関係の催しで、同時に2台のピアノをステージ上に並べて演奏する曲目があった。リハーサルでピアノを動かしたところ、ソングスの舞台担当者の動きに問題があり、ピアノ同士が接触してしまった。幸い、ピアノの外観に傷が残ることはなかったが、プロが管理している舞台上で、ピアノ同士の衝突といった事態は到底考えられない。にもかかわらず本番でも、暗転した舞台でピアノを移動している時に、再びピアノが危うくぶつかりそうになる場面があった。
 こうした証言について本誌が尋ねたところ、佐々木氏は「当社の舞台担当者に対してピアノの動かし方について注意してほしいとの指摘があったことは聞いている。しかし、私は音響室から舞台を見ていたが、ピアノ同士がぶつかったようには見えなかった」と反論した。
 ソングスのこの舞台担当者については、イマージュとの業務引き継ぎの打ち合わせの際、「俺、舞台のことは知らないんだよな」と言っていたとの証言も本誌に寄せられている(佐々木氏は否定)。

価格以外では大差で負け
 ここで改めて今回の公開プロポーザルの審査項目と審査基準に注目してみる。評価は参加業者からのヒアリングを受け、書類も精査したうえで、▽業務に対する考え方(配点は65点)▽実施体制・資質向上(65点)▽経費見積額(44点)▽業務実績(10点)▽ホール運営に対する考え方(16点)について5人の審査員が各200点満点で採点。項目ごとに最高点、最低点を付けた審査員を除外して3人の採点を合計して決定した。このうち経費見積額については、採点の数式が定められており、非公表の最低経費見積額との差額が小さいほど得点が大きくなるしくみだった。
 合計の評価点はソングスが366・25点、イマージュが352点と公表されている。その内訳や、審査の席上、どんなやりとりがあったのかは明らかにされていないが、本誌が取材で得た情報によれば、経費見積額以外ではイマージュへの評価が圧倒的に高かった。ソングスではプレゼンの時間配分を間違ったのか、十分な説明を審査員に対して行うことさえできなかった。ところが、経費見積額についてはソングスがイマージュよりも大幅に安く、かつ基準価格以上だったために、合計点ではソングスが上回った。
 ある団体の関係者は「今後も当然、イマージュがやってくれるのだと思っていたので、審査結果には驚いた」と語る。
 公募型プロポーザルを担当した旭川市社会教育部は本誌の取材に「すべて、事前に公開されている規則に従って行った。現時点で、(3年後の選考のために)ルール変更の必要性があるとは考えていない」と説明。経費についての配点が多いのではないかとのイマージュからの問い合わせに対しては「財政状況などから経済性は非常に重視するべき点。今回のプロポーザル審査においても、経費は重要な項目であることから配点の割合を定めている」と回答した。
 佐々木氏は本誌の取材に「なんとしても取りたかった仕事。これまでは選定で敗れていたが、ルールに沿って申請し、今回は我々が選ばれた。それだけの話だ」と語る。

価格競争の意味合い濃くなる
 ソングスの手法は、たとえ佐々木氏の言う通りルールに沿ったものだったとしても、広い分野の業者選定に影響を及ぼしそうだ。公募型プロポーザルの導入前に行われていた競争入札では、シンプルな価格の勝負で勝者が選ばれていた。これに対して公募型プロポーザルでは、市があらかじめ予算額を提示(今回は3年間の総額で7249万2000円、税込み)し、その範囲内で実現可能な提案の中身を競うのが基本。過度の価格競争を防止し、質的な競争を促すのが狙いだ。基準価格以上なら安ければ安いほど有利なのは事実だが、予算額寄りの値段を提示するのが「常識」だった(イマージュは、予算額に近い金額を提示した模様)。ソングスの勝利は、大胆な価格提示で提案面での劣勢をひっくり返すことができることを証明したが、だとすれば通常の競争入札を行い、価格競争で業者を選定するのと大差なく、提案の質で勝負する業者は淘汰されてしまう。
 市がコスト削減に躍起になっているのはわかるが、公募型プロポーザルはなぜ導入されたのか。当初の目的を振り返るべきではないか。

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この記事は月刊北海道経済2021年06月号に掲載されています。

旭川の社福に「解雇無効」の重い判決

旭川市内のある社会福祉法人が「懲戒解雇は無効だ」として元常務理事だった職員から訴えられていた地位確認等請求事件に4月16日、旭川地裁から判決が言い渡された。判決は「解雇は合理的理由を欠き、相当性も認められず無効」というもので、原告の元職員の言い分が通った。景気低迷が続く近年、解雇をめぐる労働審判や裁判が件数を増しているが、この裁判、いったいどんな内容の争いだったのか。敗訴した社会福祉法人は、この先争っても負担が大きくなるとして控訴を断念している。

理事解任を解雇と誤解した理事長
 この社会福祉法人は住宅型有料老人ホームやグループホーム、小規模多機能など介護事業4施設、共同生活援助や生活介護など障害者支援事業3施設を運営している。理事長はじめ理事や監事、評議員には市内の著名人が名を連ね、福祉・介護業界では知られた存在でもある。
 元介護施設長で法人の常務理事でもあったAさんが理事長から懲戒解雇を言い渡されたのは2019年4月。これを不満とするAさんは間もなく旭川の弁護士を代理人に立て、解雇無効を訴える訴訟を起こした。
 それから2年。コロナ禍で裁判の進捗は遅かったが、やっと下された判決では原告の主張がほぼ認められ解雇は無効、つまり職員としての地位は守られるべきという結果になり、法人はAさんに対して、この2年間勤務を続けていれば得られていたはずの給料などをまとめて支払わなければならなくなった。
 そもそも法人理事長がAさんの解雇に踏み切った理由は、法人の職員で理事でもある社会福祉士の勤務状況が、実態と合っていないのではないかと疑問を抱いたAさんが、理事長に無断で、市から介護事業所に支払われる特別加算報酬の手続きを変更したため、法人に月額100万円の損害(減収)を与えたとすることからだった。
 理事長は、この時の変更手続きにおいて常務理事であるAさんが理事長印を独断で使用したことも善管注意義務に違反するとして評議員会で理事解任を決めた。理事長はこれでAさんを常務理事から外し、職員としても解雇したつもりになっていたのだが、理事の解任と職員の解雇は別の規定に基づくもの。
 ましてやAさんが行ったことは不正をただそうとする内部告発の類でもあり、公益通報者保護法の観点からも懲戒解雇は見当違いである。裁判所も判決ではこのことを指摘するかのように厳しく言及している。
 「理事長は当初、理事解任によって原告が当然解雇されたと誤解したこともあって、改めて懲戒解雇の要件を満たすか否かを十分に検討することなく、独断で場当たり的に解雇を行ったものと言わざるを得ず、原告を懲戒解雇することについて、およそ十分な手続補償がされていたとは認められない」

特別加算報酬 返還の可能性も
 解雇無効を訴えていたAさんは、09年3月に長年勤めていた旭川市役所を部長職で定年退職し、その後公民館の嘱託などをしていたが、18年5月にこの社会福祉法人の理事長に請われて法人本部の事務局次長として入職し、介護保険事業部で3つの介護施設の施設長を兼務していた。同年7月からは法人の常務理事にも就任、法人運営の中枢を担う存在になった。
 理事長はAさんが市職員時代に税財政を担当していた実績を評価し、法人に招いたのだったが、何事にも厳格で堅物のAさんとはそりが合わず、次第に距離を置くようになっていったようだ。
 社会福祉事業を担う公益法人とはいえ、経営のやり方は民間企業と大差はない。大きな物件の売買取引においても相手方とのあうんの呼吸というものがあり、また、職員の勤務状況についても多少の手加減はよくあることだ。しかしAさんはそれを見逃さなかった。
 今回の解雇無効を求める裁判では、理事長が職員であるAさんを解雇したことの有効性について争われ、弁論では勤務実態に合わない社会福祉士の特別加算報酬について証人尋問も行われたが、裁判所はAさんが理事長に無断で行った介護報酬変更届の作成、提出の手続きも「場合よっては受給した特別加算報酬の返還等を求められる可能性も否定できないから、その目的に一応の正当性があったと評価し得る」(判決文)としている。

敗訴した法人は控訴を断念
 2年に及ぶ裁判闘争で解雇無効の判決を勝ち取ったAさんは「職場復帰する」と話している。労働審判や裁判が終わった後、同じ職場に復帰するのはよほどの信念があってのことだろう。
 敗訴した法人側は判決から2週間たっても控訴しなかった。法人側弁護士に話を聞くと「この先控訴しても判決まで時間がかかる。すでに少なくない金額の支払い命令が出ており、今後さらに法人負担が増える可能性があることを考えると、控訴は断念することにした」という。
 Aさんは今後、法人を刑事告訴することも考えているようだ。

表紙2106
この記事は月刊北海道経済2021年06月号に掲載されています。