第3の副市長に桝井正将市政補佐官

 旭川市副市長がこの春から1人増えて3人になる。市政補佐官の桝井正将氏が起用され、補助金・交付金の獲得や重要政策の推進に活躍する見通しだ。異例の人事だが「桝井氏の格を考えれば、最初から副市長待遇とするべきだった。条件がそろい、ようやくあるべき姿に落ち着いた」との見方もある。

副市長3人は異例
 民間企業と同様、旭川市役所も春は人事の季節だが、今年は取材の過程で、「過去にない大きな動きがある」と耳打ちされた。
 「副市長が3人になる公算が強まっている。現任の中村寧、菅野直行両副市長に加えて、桝井正将・市政補佐官も副市長に昇格するようだ」(事情通)
 市長を補佐して市政の推進をサポートする「ナンバー2」の副市長は「定数2人」との規程が市の条例にある。道内の他の自治体を見渡しても副市長を3人置いているのは、人口約200万人に迫る札幌市しかない。函館、苫小牧、帯広、釧路はいずれも2人。道外でも副市長が3人いるのは大半が政令指定都市や県庁所在地だ。
 ただ、異例の動きとはいえ、桝井氏の副市長昇格については、「これでようやくあるべき姿に落ち着いた」との声もある。

今津父子の人脈
 桝井氏はどんな人物なのか。昨年4月1日付で旭川市の市政補佐官に就任するまで、国土交通省・北海道開発局建設部流域治水推進室長を務めていた。初任地は旭川開発建設部でこの地域の事情に明るく、内閣府の地域自主戦略交付金業務室参事官補佐も経験しており、中央官庁とのパイプも太い。しかし、将来の幹部候補と目されるほどの人材が、なぜ国交省から旭川にやって来たのか。
 今津市長は選挙公約に、市政補佐官の起用を掲げた。総合体育館に代わるアリーナ、文化会館の建設、清掃工場や最終処分場など大規模事業が山積している現状を考えれば、数ある省庁の中からもさまざまな交付金をもつ国交省、中でも地域特性を理解している北海道開発局からの招へいがベストな選択だった。
 今津市長は国交省に市政補佐官となる人物の派遣を要請したが、ここで市長の父・今津寛元代議士と、市長就任前に西銘恒三郎代議士(前沖縄北方担当大臣)の秘書を務めていた市長自身の人脈が役立ち、国交省からこれ以上ないほどの人材が推薦されたとみられる。
 桝井氏の「格」を考えれば、本来は当初から副市長として迎えるべきだったのだが、着任は23年統一地方選挙で自公与党会派が市議会における過半数を獲得する直前。市長や市幹部らは、桝井氏をまず市政補佐官(部長職)として迎え、統一地方選で過半数を獲得、補助金獲得などで桝井氏の手腕を他会派にも見せた上で、副市長に据える道を選んだ。

10億円を節約
 実際、桝井氏は市政補佐官として補助金・交付金の獲得に尽力してきた。昨年6月の第2定例会。市の予算獲得についての考え方を尋ねたえびな安信市議に、桝井氏はこう答えている。
「地域の課題解決や成長につながる点で、旭川市の提案が優れていると理解してもらえるような説明が重要。このためにも、骨太の方針などの国の方針に沿っていくとともに、我が国にとっても先導的な取組になるといったようなところに留意していく。単にお願いしますと要望するだけでなくて、広く関係者と早い段階から調整していくことが重要。私自身も率先して、これまでの国での知人等も含めて、広く関係者と早い段階から調整したい」(大意)
 桝井氏の手腕を鮮やかに「実証」したできごとがある。
 2030年の供用開始が予定されている神居町春志内の廃棄物最終処分場の建設。処分場からの浸出水を常にモニタリングし、石狩川に排水する前に「生物化学的酸素要求量(BOD)20ミリグラム/リットル以下、浮遊物質量(SS)10ミリグラム/リットル以下」などの基準を満たさなければならない。
 北海道は旭川市に対して、春志内の最終処分場で、浸出水の浄化設備を整備し、基準をクリアすることを求めていた。しかし、下水道や関連法令に詳しい桝井氏は、最終処分場から、既存の下水管も活用して、石狩川左岸、忠和地区に近い旭川市下水処理センターまで浸出水を運んで処理することを提案した。この方法なら、最終処分場側から排出する水はBODもSSも600ミリグラム/リットル以下であればよく、春志内の設備を簡素化できる上に、下水処理センターで処理するため環境面の悪影響もない。
 市は関連法令の条文も根拠にこの方法を主張。最終的には道も受け入れた。設備の簡素化によるコストダウン効果は約10億円に達する。桝井氏がいなければできなかった「節約」だ。
絶好のチャンス
 今津市長は昨年12月13日に自身の連合後援会が開催した「市政報告会」で、特に春志内の一件に触れて、桝井氏の市政への貢献を高く評価した。
 統一地方選での勝利、桝井氏の実績という条件が揃い、副市長昇格に向けた障壁はなくなった。つまりは市長・市幹部らの目論見通りにことが進んだことになる。
 2月上旬の時点ですべてが確定したわけではないが、これまでの水面下での各会派への打診で、反対論は出ていない模様。、副市長の増加のためには「定員2人」と明記されている「旭川市副市長の定数を定める条例」を改正する必要がある。いずれにせよ、副市長を含む市役所人事案が市議会に提出されるのは、2月20日開会の市議会第1回定例会の最終盤となる。
 政権与党の自公から市長、国会議員、そして旭川市選出道議6人のうち4人を出しているいまは、補助金・交付金獲得の絶好のチャンス。約10年、霞ヶ関で勤務した経験のある桝井氏を副市長に起用した後、今津市長は重要政策の推進に一段と注力するとみられる。
 なお、新年度に合わせて一部、組織改編も行われる見通しだが、1年前に大規模な改革を行ったこともあり、今回は小幅にとどまりそうだ。

この記事は月刊北海道経済2024年03月号に掲載されています。
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