労組弱体化 上川学校用品協会が破たん

 1月31日、市内を1枚の企業倒産情報が駆け巡った。記されていたのは有限会社上川学校用品協会(旭川市3条通11丁目)と、上川地区学校生活協同組合の経営が行き詰まり、破産手続きを弁護士に依頼したとの情報。よくある話にも見えるが、特異なのは政治ニュースでよく見かける名前が書かれている点だ。この経営破綻が浮き彫りにした労組の弱体化が、今後の選挙に及ぼす影響が注目される。

通販頼りが裏目
 上川学校用品協会は、学校を相手に教材を販売していた会社。創業は1958(昭和33)年で、もともとは「有限会社上川地区厚生部」という名前で、1984年に現社名に変更している。事業内容は学校への教材、理科器具、運動器具、楽器などの販売。保険の販売や募集も行っていた。
 業界関係者の証言を総合すれば、近年の経営状況は芳しくなかった。こうした商品を販売するには、営業マンが学校を訪れて熱心に売り込むことが不可欠だが、近年は営業マンを置かず、もっぱら通販に頼ることで手間を省いていた。確かに通販なら人件費は節約できるが、通販業者の手数料、送料がかかり、利益が薄くなった。そこである時期からカタログ掲載の料金とは別に手数料を徴収するようになったが、これが客離れを招いた。
 同業他社は、上川学校用品協会に商売へのテコ入れを図る形跡がなく、いつかは事業を停止して解散するのではないかと以前から予想していたが、負債2100万円(東京商工リサーチ調べ)を抱えての破産手続き移行には驚いている。
 同様の教材販売会社は市内に他にもあり、新学年からの教材供給への影響はないとみられる。

圧倒的力失い
 長い間、同社が安定した教材販売ビジネスを続けてこられたのは、北海道教職員組合(北教組)との太いパイプがあったからこそ。社長のM氏は、昨年の12月まで連合北海道上川地域協議会・旭川地区連合会で会長を務め、立憲民主党の集会ではマイクを握って檄を飛ばしていた。経営者というよりも、労組活動の人という印象を多くの人が抱いている。労組活動や選挙の応援に忙しいM氏にとり、ピンチに直面した会社の経営を立て直すのは難しかったようだ。
 道内の教育機関で北教組が圧倒的な力を持っていたのは昔の話。2009年の時点で組織率は34%まで低下している。コンプライアンスの締め付けが厳しくなった今日、教師の一存で教材を決め、上川学校用品協会から仕入れるというわけにもいかない。民間の教材会社が熱心な(とはいえ民間では当たり前の)営業活動を繰り広げるのと対照的に、同協会は営業を置かないという消極策を取った。
 いまも北教組と上川学校用品協会の関係は続いており、北教組上川支部の事務所は協会の所有する3の11の建物を間借りしている。
 急速な少子化が教材販売のビジネスに悪影響を及ぼした可能性は否定できない。1世代前と比較してクラスが半減している学校もある。その一方で、学校に向けた教材販売には、数年後の需要がほぼ正確に予測できるという魅力もある。「経営はラクでなくても、集中して取り組んでいれば破産するほどの苦境には追い込まれなかったはずだ」と業界関係者は指摘する。
出資金は望み薄
 もう一つ、同日に破産手続きに移行した上川地区学校生活協同組合は、組合員(教職員)のために物資を共同購入する活動を展開していた。全道の類似団体と共に、提携先の不動産会社から土地や建物を販売したり、ガソリン・灯油を共同購入するなどの事業を展開していたようだ。こちらの負債額は4200万円(同)。
 組合を構成する組合員は地域の教職員。就職した時点で加盟を選べば1人5000円を出資している。経営破たんの報せを聞いた教職員らの間では「出資金は戻ってこないだろう」とのあきらめが広がっている。
 なお、本誌は破産手続きを受託した弁護士事務所を通じてM氏への取材を申し込んだが、締め切りまでに連絡はなかった。M氏が昨年12月まで会長を務めていた連合北海道地域協議会も「すでに会長を退いており、コメントしようがない」と困惑しながら説明するだけだった。

労組頼み難しく
 上川学校用品協会と上川地区学校生活協同組合の経営破たんは、近年の選挙で浮き彫りになった労組の弱体化が、ビジネスに反映された結果ともいえるかもしれない。
 昨年3月の道議会議員選挙。旭川選挙区で立候補した自民党の候補は2人の現職、1人の新人がそろって当選し、それぞれ支持者たちから「よく頑張った」と褒めたたえられたが、むしろ政界関係者を驚かせたのは立憲民主党の票の落ち込みだった。市民票・女性票にも支えられた宮崎アカネ氏は手堅く当選したものの、労組系候補の色彩が濃い松本将門氏は当選ラインに遠く及ばなかった。
 どの選挙でも、立憲民主の候補の選対では連合など労組組織が中心的な存在だが、その動員率が落ちているとの指摘はかねてからあった。選挙集会に行けば空席は一つもないが、会場の後方では、若い組合員とみられる参加者が演説などそっちのけでスマホでゲームを楽しんでいる─記者はそんな現場を何度か見たことがある。
 二つの組織の経営破たんから、労組の力に頼ったビジネスが時代の流れのなかで成り立たなくなったのは明らか。年内解散総選挙を予測するむきもあるが、労組の力に頼った選挙には、どんな運命が待っているのだろうか。

この記事は月刊北海道経済2024年03月号に掲載されています。
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