ツルハ 絶対王者イオンに〝陥落〟

 95年にイオン(当時はジャスコ)と業務提携した後、積極的な企業買収で業績を拡大してきたツルハだったが、両者の蜜月は続かなかった。ツルハの株式保有率25%超えにメドがついたイオンが主導し、業界2位のツルハHDが一位のウエルシアHDを小会社化しイオンの傘下に入る。北海道の覇者が絶対王者イオンの前に陥落した。

旭川50店舗態勢
 2013年から17年にかけて、道内ドラッグ業界2位の「サツドラHD(ホールディングス)」が道内ナンバー1の「ツルハHD(ホールディングス)」の牙城・旭川で攻勢をかけ、新店を次々とオープンさせた。迎え撃ったツルハがとった戦略が「ドミナント」。地域を支配するために自社競合もいとわず複数店舗を出店し優位性をキープする作戦。ドミナント作戦でツルハの店舗が増え、市内どこに行っても赤いツルの看板が目に入る、そんな景観が生まれた。
 5年余りにわたって旭川を舞台にして繰り広げられた業界1位と2位の戦いは、ツルハ優位となり、サツドラは複数の店舗の閉鎖・撤退を余儀なくされた。サツドラとの雌雄がほぼ決した20年12月にオープンした「旭川4条西店」は、ツルハの記念すべき市内50番目の店舗となった。新設で50を上回る時があっても、今後はS&B(スクラップアンドビルド)で50店舗体制をキープする方針とみられる。
 ツルハは道内主要な市で多店舗展開に出ているが、旭川は突出している。旭川市の人口32万人を店舗数で割ると6200人。市民6200人当たりに1つのツルハの店舗がある計算になる。札幌は100店舗を超えるが、人口当たりでは1万8000人に1店舗。函館市は1万人当たりに1店舗、釧路市は9000人当たり1店舗だ。ツルハが旭川をいかに重要拠点と考えているかがうかがえ、同時に旭川の市場はツルハの牙城となっていることが分かる。

95年イオンと提携
 改めていうまでもなく、ツルハ発祥の地は旭川で、4条18丁目の売り場面積9坪の「鶴羽薬師堂」がスタートだ。開業は1929(昭和4)年で、創業者の鶴羽勝氏は道行く人がだれでも目にとめるように、地域で一番背が高く大きな看板を設置するなどユニークな経営を実行し、戦中・戦後を生き延びた。
 戦後、鶴羽肇氏が2代目社長に就任しチェーン展開を開始。75年、旭川4店舗、札幌1店舗、計5店舗となったときに「道内100店舗」という壮大な目標を掲げた。
 そして100店舗構想発表の14年後には実際に100号店を開店している。
 91年に札幌に本社を移転し95年にジャスコ(現在のイオン)と資本業務提携を行い東北へ進出。肇氏の実弟鶴羽樹氏3代目社長就任、98年株式の店頭公開、2002年東証一部上場。イオンと商品開発や人材育成で連携したツルハは驚異的な成長を続けていく。
 道内のドラッグストア店舗数は昨年12月時点で730店だが、そのうちツルハは425店で6割を占めている。道外では、東北に593店、関東甲信越に529店、中部・関西256店、四国573店、中国593店、九州沖縄205店。合計2589店を全国で展開する。
 北海道の企業では売上高トップ。道民にとって、旭川市民にとって、どこまでも成長を続ける誇らしい企業だ。
 しかし今年に入って、「ツルハがイオン傘下となる」とのニュースが流れ出し、2月29日にはイオンとツルハ、「ウエルシアHD」の代表がそろって記者会見に臨み「27年に3社は経営統合する」と発表した。
 ツルハの店舗ではイオンブランドの商品が並び、支払いにはイオンのワオンも使える。「片や北海道の王者、片や日本の小売業の覇者だが、商品開発や仕入れなどで連携し良い関係にあるもの」と大方の旭川市民は受け止めていた。それだけに「イオンの傘下入り」は市民にとっては驚くべきニュースとなった。「ツルハの店名は消えるのか」「ウエルシアとは、どんな会社だ」「貯まったツルハポイントはどうなるのか」─市民の間に様々な疑問がわいている。

MBOで非上場
 蜜月関係だったツルハとイオンの間に何があったのか。ツルハは巨人・イオンの軍門に下ったということなのか。ドラッグ業界の情勢にも詳しい市内の企業経営者S氏に解説してもらった。
 「イオンと業務提携した後、ツルハは第二成長期に入った。手法は、同業他社のM&A(合併・買収)。イオンの拡大戦略と同じだ。イオンはツルハ株の13・5%を保有し筆頭株主となった。
 ツルハ株保有2位は12・84%を持つ香港のファンド『オアシス・マネジメントカンパニー』だが、モノ言う株主オアシスが昨年8月の株主総会に登場してからイオンとツルハの関係が微妙になった。ツルハは、いずれイオンがオアシス所有の株式取得に動くと見て経営陣による買収(MBO)で非上場化を検討したと言われている」(S氏)
 ドラッグ業界再編はイオンの重要な経営課題。イオンがオアシスの持つ株を取得すれば保有率25%を超えて持ち分法適用会社にすることができる。
 ツルハ首脳陣はMBOによるイオングループ離れを考えたようだが決断できなかったのだという。一言でいえば〝株争奪戦〟にツルハ経営陣は敗れたということのようである。「イオンは3月中にオアシスから株を取得して、その後も保有率を引き上げ、27年末までに過半を取得する考え」(S氏)

2兆円超企業誕生
 29日の記者会見では「イオンは27年末までにツルハを子会社する、それに先立ち、ツルハはウエルシアを完全子会社化する。経営統合は株式交換手法で行い、詳しい条件は今後詰める」とした。
 気になる店名だが、現在のまま残すという。「国内市場では北海道や東北に強いツルハと、関東・関西圏に強いウエルシアの店舗名を生かして商品調達や物流におけるスケールメリット、またイオンが持つ金融機能を活用する」ことも強調した。
 ドラッグ業界1位2位の統合で売上高は単純計算で2兆円を上回り、8兆円規模の国内市場の4分の1を占めることになる。海外市場については、アジアで1300拠点を展開するイオンの店舗や物流網を活用して出店を加速していく方針だという。目指すは「アジアナンバーワン」だと述べた。

ツルハポイントは?
 旭川市民にとってなじみのないウエルシアだが、東京・埼玉の薬局チェーンが合併して誕生したドラッグストア。2000年にイオングループの傘下に入り、02年にブランド名をウエルシアに統一。イオン系列のプライベートブランド「トップバリュ」製品や弁当の販売、24時間営業の店舗を増やすことで、スーパーやコンビニの顧客を取り込んでいる。
 2兆円超企業誕生の合併劇に比して小さな事のようだが、旭川市民にとってはツルハのポイントはどうなるのかというのも気になるところ。
 現在ツルハでは「楽天ポイント」と「ツルハポイント」が両方使える。
共通ポイントで客を呼び込み、自社のポイントをつかってもらい自社のマーケティングに使うのが基本。
 ツルハポイントは将来的にどうなるなのか。ワオンポイントを共通ポイントとしツルハポイントと併用させる。あるいは 独自ポイントにワオンポイントを残しTポイントか楽天ポイントのどちらかの選択または併用が考えられるようだ。

この記事は月刊北海道経済2024年04月号に掲載されています。
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