「Fラン」脱却 旭川市立大学の不安要素

 2023年春に念願の公立化が実現した「旭川市立大学」。私立時代から旭大は地域社会にとって重要な教育・研究機関であり、地域の企業から見れば不可欠な人材の供給元でもあった。現在、地域社会で活躍するOB・OGも少なくない。公立化で偏差値は大きく上昇したが、折からの人材難の影響もあり、今後も卒業生が地域社会で就職してくれるのかどうか不安視するむきもある。

公立化の効果てき面
 大手出版社や通信教育会社が運営するウェブサイトによれば、現時点での旭川市立大学経済学部の偏差値は45~47程度、保健福祉学部は51程度となっている。偏差値は定義上、「50」が中心点。旭川医大医学部は約63、北海道教育大学旭川校は約51だ(算出する業者によりばらつきあり)。
 道内のほかの公立大学と比較してみると、釧路公立大学経済学部が47、名寄市立大学保健福祉学部が51。公立化でレベルが上がると言われた旭川市立大学だが、まだ公立大学の中では最も低いランクにあり、今後の変化が注目されるところだ。
 ただし、私立時代と比べれば、すでに大幅に上昇している。過去の資料を紐解けば、当時の旭川大学の偏差値は「BF」。ボーダーフリー、つまり受験さえすれば成績にかかわらず合格するとの記述がある。全国にあるこうした大学は、「Fラン大学」と揶揄されたが、もうその面影はない。
 この春、旭川市立大学からは、3年間を私立大学で、1年間を公立大学で学んだ若者が巣立っていく。2027年春には入学時から公立大学で学んだ人が卒業する。教職員の努力次第で、その時点では旭川市立大学の地位はさらに高まっているはずだ。

地域経済の中核に
 もちろん「Fラン大学」というのは、外野の無責任な声。実際には私立の時代から、教員は懸命に学生たちを指導し、学生は真剣に勉強してきた。地域経済の苦境を反映して、学費と生活費をすべて親に頼ることができず、寸暇を惜しんでアルバイトに励む学生も多く、決して旭川大学でのキャンパスライフが気楽だったわけではない。
 そして大学で勉学に励んだ若者は、地域の企業にとり不可欠な人材となる。地域の企業の経営者や幹部、政界関係者にも、かなりの数の「旭大OB」がいる。
 旭川市立大学が発表している経済学部の就職先(2023年3月卒、私立旭川大学最後の卒業生)には、この地域の流通・製造・金融・建設・公共事業・観光など、それぞれの分野を代表する有名企業や官公庁が並ぶ。大半の就職先は道内だ。一方、保健福祉学科の就職先は、大学で学んだ専門知識の生きる社会福祉法人、病院、地方自治体などが中心で、こちらも大半は道内だ。
 問題は、公立化と偏差値の上昇を受けてこうした状況が変化する可能性があるということ。1988年開学の釧路公立大学では2022年度卒業生273人のうち、166人が道内、107人が道外で就職した。釧路は水産業の低迷、製紙工場の規模縮小、人口の減少傾向などが重なり大卒者にとって就職が難しくなっている影響がある。また、釧路市立大学は一説には学生の約7割が道外から来ており、卒業後に本州以南に「回帰」する傾向が強いという事情もある。
 では旭川市立大の入学者の内訳はどうなっているのか。2023年春、経済学部(定員100人)に入学した106人のうち道外からの学生は13人(前年比6人増)、保健福祉学部は2学科合計で、定員100人に99人が入学、このうち7人(5人増)が道外からだった。まだそれほど多くはないが、今後も道外比率が上昇しつづければ、卒業後の「Uターン傾向」が強まり、ここ数年の人手不足の影響も相まって、道内の企業や役所に就職する人材が減少する可能性がある。

入試で市外流出
 見逃せないもう一つの要素が、偏差値の上昇で、以前なら旭川大学に入学したランクの受験生が、市外で他の地域の私立大学や専門学校に流れる影響だ。いったん札幌や首都圏の学校に入った若者は、個人的、家族的な事情がなければ、卒業後にそのまま札幌や首都圏で仕事を見つけ、定住する可能性が高い。
 今年4月に入学する学生について、旭川市立大学は学校推薦(2学部3学科で合計85人)枠を設けているが、このうち1市8町の高校を卒業する人が対象の公募地域型は同47人。卒業生の動向次第で、今後、この枠を拡大する必要が出てくる可能性もある。
 もっとも、ある旭大OBはこう指摘する。「大学には、学生に地元企業に就職するよう指導することなどできない。これまでもそうだったが、企業が優秀な若者を迎えるためには、彼らが気に入ってくれるような待遇、福利、経営のビジョン、将来性を提示するしかないのではないか」
 大学の公立化は行政の決断で実現した。今後、地域の企業などの就職先は、魅力をアップして若い人材に選んでもらうことができるだろうか。

この記事は月刊北海道経済2024年02月号に掲載されています。
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