吉田病院「2億5000万」診療報酬返還の情報

 本誌が医療法人社団慶友会(吉田良子理事長、旭川市4条西4丁目)を舞台にした、職員勤務データの改ざんを生々しい内部文書とともに伝えたのは今年3月号。記者が慶友会のコンプライアンス意識に疑問があると指摘してから半年後、今度は慶友会の中核ともいえる吉田病院本体で、看護師の配置をめぐり虚偽のデータを当局に提出していた疑惑が浮上している。本誌の調べによればその背景にある要素のひとつが、現在の看護部長による看護スタッフへのパワハラ行為。「このままでは私たちの愛した吉田病院が破壊されてしまう」といった悲痛な叫びも聞こえてくる。(記事は11月7日現在)

いないはずの看護師 勤務表に名前が…
 本誌が入手した、1通のメールがある。日付は昨年11月5日、差出人は慶友会吉田病院人事課のスタッフ。宛先は看護部長と数人の看護師長。内容は以下の通りだ。

所属長各位
 2019・8厚生局用シフトが完成いたしましたので、ダミーのシフト表作成をお願いいたします。
 作成手順としては前回と変更ありませんが、エクセルシートの表記についてまとめましたのでご確認ください。
 不明点・変更した方が良い点などありましたらご連絡ください。よろしくお願いいたします。
人事課 N

 補足すれば、本文にある「厚生局」とは北海道厚生局のこと。厚生労働省の北海道における出先機関であり、道内における医療行政の総元締めだ。「厚生局用シフト」がどのような意味なのかは、本誌が別に入手した表から明らかになる。
 次頁に示した表は吉田病院1・2階ナースステーションにおける昨年8月の勤務状況をまとめたもの。左端の列には所属する看護師・准看護師の名前が並ぶ。ところが、このうち看護師の最後の3人は、1・2階のナースステーションには所属していなかった。この表はすでに改ざんされており、実態のない看護師の勤務がでっち上げられていたのだ。本誌は、この部門で他の月に、また他の病棟で行われた同様の改ざんを示すデータも確認した。

看護職員の夜間配置加算
 勤務表の改ざんと聞いて連想されるのは、長時間残業の隠ぺいや時間外手当の減額だ。しかし、医療現場で働く看護師の勤務表の改ざんには、「看護職員夜間配置加算」の獲得というまったく別の意味があった。
 医療現場の重労働が問題視されて久しい。とくに深刻なのは夜間、入院患者に対応する仕事。夜勤看護師の数は限られているのに、患者から頻繁にコールがかかり、また容体が急変する患者もいるために、看護師は疲れ切ってしまい、それが看護師不足の一因ともなっている。
 こうした医療現場の状況を打開するために導入されたのが「看護職員夜間配置加算」。夜間に一定以上の人数の看護職員を病棟に配置した場合、医療報酬を上乗せするしくみだ。
 吉田病院では、この加算を獲得するために勤務表を偽造して厚生局に提出した可能性がある。
 しかし、狙い通りにはいかなかった。厚生局がデータの内容に疑問を抱き、昨年12月に監査に入り、看護師の出勤・退勤時間、病棟での個々の患者にどの看護師が対応したのかを示すより詳細なデータを提出するよう求めた。しかし、こうしたデータまでは用意しておらず、結果的に嘘が露呈してしまった。
 厚生局は今年1月、吉田病院に対して加算分の返還を命じた模様。本誌には複数の人物から返還額について「2500万円」「3600万円」「5000万円」「6000万円」「2億5000万円」「4億円」といった情報が寄せられたが、複数のニュースソースに確認したところ、このうち「2億5000万円」である可能性が大きいようだ(厚生局は監査の有無を含め、個別事案に関する情報の公開を拒否している)。
 メールの文面からも明らかな通り、実際にダミーのシフト表作成、つまりデータの偽造を行ったのは看護部長と、その指示を受けた部下たちだった。本来なら病気やケガの患者を世話する立場の看護師たちは、本来の職務からかけ離れた「ダミーのシフト表」作成を指示された時に何を感じただろうか。
 「看護職員夜間加算」は、看護職員の待遇や労働条件を改善することを目的で支給される報酬。病院が人を実際に確保することなく申告だけ提出し、病院の収入を増やそうとしたと知ったら、第一線で働く看護師たちの思いは複雑だろう。
 監査の結果、夜間の看護師不足が明らかになった吉田病院では、急きょ夜間の看護師増員を迫られた。しかし、そう簡単に新しい人材は見つからない。人員配置を満たすため、管理職である看護師長までもが夜勤をしている現状がある。
 夜勤看護師を内部で増やすため、待遇面の見直しも行われ、夜勤できる看護師が優遇され、できない人は相対的に不利となった。しかし、吉田病院は子育て世代を手厚く支援していることをアピールしながら看護師を募集してきた。子育て世代は夜勤が困難で、こうした夜勤者優遇の改革には戸惑いが広がっている。
 なお、厚生局の監査を受けた経緯やその結末について、吉田病院では社会に対する公表はもちろんのこと、院内での公式な説明も行っていない。それが、医師や看護師をはじめとするスタッフの間の憶測を呼んでいる。もちろん、データ偽造の片棒をかつがせたことへの説明や謝罪もない。
 看護師からは、看護部門のトップである看護部長への不満も噴出している。データ偽造を当局に指摘され、加算の返還を求められ、昼間の勤務が相対的に不利になるかたちで待遇が見直された以上、看護部長からの説明や謝罪があってしかるべきだというのだ。
 こうした行為を、医療現場に近い看護部長のトップが発案したとは考えにくい。にもかかわらず、看護部長に対する不満の声が出ているのは、看護部長によるパワハラ行為がかねてから行われ、不満が病院内に充満していたのが原因だという。

パワハラ対策部署 対応に乗り出さず
 情報源の秘匿のため詳細な内容は明らかにできないが、看護部長に関して本誌には次のような情報が寄せられた。
・怒りだすと手がつけられなくなる
・気に入った人間だけを重用し、気に入らない人間を、人格を否定する言葉を使ってまで追い詰める
・部下に対する好き嫌いが激しく、それが病棟の扱いにも影響する
・気に入らない医師の悪口を長時間、部下に聞かせる
・パワハラの標的となった部下が心身の不調を来たし、病院での受診が必要な状態になった
・パワハラが原因で退職を余儀なくされた人もいる
 吉田病院では院内にパワハラ相談窓口を設けている。被害者からの相談を受けて、看護部長に対しては口頭で注意が行われ、再発を防止するために看護副部長ポストが復活して2人が就いた。しかし、その後も他の看護師の前で特定の人物を厳しく叱責しつづけるなどの行為は続いている模様だ。
 現在、吉田病院の経営陣に重用されているのが、金融機関出身の理事長補佐。相談を受けた理事長補佐は、聞き取り調査などは行ったものの、この問題が正式にハラスメント委員会に提出されることはなかった。「職員満足度調査」なるしくみもあるのだが、寄せられた声がパワハラ防止に活用された形跡はない。
 現看護部長の前任者は、病院創設者で前理事長の吉田威氏(故人)の信頼が厚く、副院長も務めた人物。看護師たちからも尊敬を集めており、それだけに看護師たちが「落差」に感じる絶望感は大きい。
 現看護部長は教職の経験は長いものの、医療現場での経験がそれほど豊富ではない。医師と衝突することもあり、看護師からは次のような声も上がっている。
 「私たちは吉田病院で誠心誠意、医療に取り組み、患者さんに尽くしている。しかし、このまま看護部長によるパワハラや偏った采配が続くと、組織が崩壊してしまう」
 こうした院内の空気は、経営にも悪影響を及ぼす。看護師は、資格と一定の経験があれば転職が比較的容易な職種。元同僚の間などで情報交換の機会も多く、勤務先に関する情報は素早く拡散する。
 個々の看護師の立場から言えば、一人でも多くの看護師が来てくれた方が仕事の負担は減るはず。吉田病院は看護師を紹介してくれたスタッフに1人あたり10万円を支給しているのだが、ある看護師は本誌に直言した。
「知人や家族の看護師をいまの吉田病院に誘うことなどとてもできない」
 なお、本誌では厚生局による監査、パワハラの有無などについて書面で吉田病院に取材を申し込んだが、期限までに返答はなかった。

返還しても困らない?
 本誌が同じ吉田病院の健康診断部門「予防医療センター」を舞台に行われた労働時間データの改ざんと、2月3日の労働基準監督署による立ち入り調査を報じたのは今年3月号だった(調査に基づき、元職員への未払い残業代の支払いも行われた模様)。そして今回の看護師勤務表の改ざん。両者には、金銭の支払いの根拠となる重要データの改ざんという共通点がある。
 しかし、ここで疑問を抱く人もいるはずだ。吉田病院の経営が危機的状況にあるならともかく、病院、予防医療センター、そして多くの老人福祉施設を抱える吉田病院は、他の民間病院と比較して経営的に有利な条件を備えているはずであり、危ない橋を渡る理由が思い浮かばない。
 医療業界に詳しい人物が、一般論と断った上でこう指摘する。
 「財務面の不安がなければ、診療報酬の返還を命じられたとしても余裕で支払える。リスクを負える体力があるなら、危ない橋を渡る気にもなるのではないか」。
 吉田病院のウェブページに掲載された医師のリストを見ると、旭川医大関係者が目立つ。中には理事長補佐という重要ポストを占めている名誉教授もいる。この記事で紹介したデータの偽造に医師が関わった形跡はないものの、以前に本誌が伝えた状況も考えあわせれば、吉田病院のコンプライアンス体制に不備があるのは確か。勤務先の病院でのこうした行為を座視しているようでは、旭川医大の名誉にも傷がつく。
 11月6日には吉田病院で新型コロナウイルスのクラスターが発生した。いま、看護師を含むスタッフは拡大防止策や治療に奔走している。彼らが医療の最前線で能力を最大限に発揮するためにも、気持ち良く働ける職場環境が必要だ。

表紙2012
この記事は月刊北海道経済2020年12月号に掲載されています。

官製談合証言は〝昔話〟か?

官製談合──いまから15年ほど前に社会を騒がせた問題だ。公共事業について他ならぬ発注者からの働きかけで、入札に参加する民間業者同士で入札価格をすり合わせ、特定の業者が落札するように仕向ける行為はもちろん違法なのだが、以前は当たり前のように水面下で行われていた。公取や警察による相次ぐ摘発でそれが社会問題となり、政府や地方自治体が競争原理を導入するための制度改革に乗り出した。しかし具体的にどのような手法で官製談合が行われていたのか、外部からうかがい知ることは難しい。ある人物が本誌の取材に対して、かつての官製談合の「最前線」を生々しく証言した。

「辞退の謝礼」封筒に
 A氏が上川管内の建設会社に勤めていたのは今から二十数年前のこと。ある日、その会社の所在地の町役場から呼び出され、社長に同行して町役場を訪れた。町の担当者から「町営団地の工事に入札してください」と言われ、入札要綱や図面などを含む書類一式を手渡された。数千万円規模の、町が発注するものとしては小さくない規模の工事だった。
 他にも数社が町役場を訪れて書類を入手した。異常なのはここから。同業の3~4社の社員がA氏の勤務先に足を運び、町役場から受け取ったばかりの入札関連書類を置いて帰った。引き換えにA氏の社長から手渡されたのは封筒。A氏があとで社長に封筒の中身について尋ねると、社長は事もなげに言った。
 「1社あたり30~50万円の『寸志』が入っている」。書類は受け取ったが「入札辞退」する見返りとしての金銭だった。
 町役場から書類を受け取りながら、それを持ってこない業者が他に1~2社あった。A氏は社長がこれらの企業に電話するのを聞いた。「あの工事はうちが〇〇〇〇万円で取る。おたくはもう少し高い金額で入札してください」。
 そして入札当日、A氏は社長とともに開札会場に行った。工事契約は予定通り、A氏の勤務している企業が勝ち取った。結果を聞いた社長が立ち上がり、「ありがとうございました」と言って深々と頭を下げるのを見た。感謝の相手が発注者である町役場なのか、工事を譲ってくれた同業他社なのかはわからなかった。
 この建設会社に勤めている時、A氏はもう1件、数千万円規模の町発注の工事で、同様の体験をしたという。

綿密な積算せず
 まっとうな商売をしている企業なら、価格を提示する前にはコストを綿密に計算するもの。建設業はコストの規模が大きく、また選択する資材や工事方法によって大きく金額が変わってくるため、一定の積算基準(町や村は北海道の積算基準をそのまま採用)に沿ってコスト、さらには入札価格を弾き出さなければならない。ところが、A氏は公共工事でも、厳密な積算を行っているのを社内で見たことがなかったという。理由は町役場から「〇〇〇〇万円で落札してください」との指示があったため。町役場は発注者としてコストを把握しており、それに一定額の利益を上乗せして、官製談合を主導していたことになる。
 それから間もなくA氏は離職。いまは民間企業を相手にする仕事についている。もちろん談合はなく、同業他社との間で厳しい価格競争を強いられている。いまから振り返れば、価格競争の余地がまったくない官製談合のしくみは異常だったと感じている。もっとも、「当時はそれが当然だと思っていたし、隣接する町でも同じことが行われていたはずだ」(A氏)
 A氏が目撃した官製談合は20年余り前の話であり、決して「最近」のものではない。では、官製談合や、民間業者同士の談合は根絶されたのだろうか。
 2013年旭川市、2016年札幌市、16年美瑛町…。ここ数年を振返ってみても、これらの自治体で官製談合が摘発され、逮捕者が出ている。内部通報など何らかのきっかけがない限り捜査当局は動けず、実際には他にも官製談合が行われている可能性がある。A氏は、いまも類似した行為が行われているのではないかと感じている。
 しかし、工事や入札には小さな町とはいえ多くの人が関わっている。なぜ官製談合に関する情報が出てこないのか。それは町や村における密接な人間関係と関係がありそうだ。旭川市民には想像がしにくいが、人口規模の小さな自治体では、「あそこの家の子はこういう子で、いまはどこでどんな仕事についている」といった情報が広く共有される傾向にある。談合に疑問を感じて情報を漏らせば、漏らした本人はもちろん、その家族親戚にも累が及ぶ。この記事でA氏のかつての勤務先やその所在地を伏せているのは、A氏や家族を保護するのが目的だ。
 一方、本州に目を転じれば、道内とは比較にならない大きな金額で、大手建設会社4社がJR東海のリニア工事で談合を行った疑惑が関心を呼んでいる。

特別扱いは不当
 「地元企業が生きていくためにも、談合は必要なんだ」──いまは存在しない建設会社の会長が本誌記者に語った言葉だ。地元の建設会社に落ちた金は結局、地域社会を巡る。激しい価格競争が繰り広げれれば、地域経済に落ちる金も減る、というのが主張の根拠だった。しかし、どこの自治体も懐事情は厳しい。昔なら市役所や町村役場が正職員に任せていた仕事を、人件費の安い臨時職員を雇ってこなすことも広く行われている。建設会社だけ特別扱いされていいいわけがない。
 A氏が本誌に語った一連の行為が、「むかしむかしある町で」で始まる昔話であることを願わずにはいられない。

表紙2010
この記事は月刊北海道経済2020年10月号に掲載されています。

「コロナ疑い」に苦悩する救急病院

 旭川市内では新型コロナウイルスの感染者が散発的に報告はされているものの、医療関係者の必死の努力や、一般市民の感染防止策への協力の結果、急増には至っていない。しかし足元では医療関係者の負担が蓄積。感染リスクをゼロにするのは不可能で、「私たちの病院で起きたらどうなるのか」と心配を募らせている医師も少なくない。医療システムを守るには、コロナのリスクを意識しつつ救急医療にあたる医師や看護師への支援や、情報公開のあり方の再考が必要だ。

厳重な防護で感染を防止
 市内のある二次救急病院に、患者が運び込まれた。患者は高齢者で発熱しており、意識は朦朧、栄養状態・衛生状態ともに悪く、自力では動けない状態で、明らかに入院が必要だ。高齢者の発熱は救急搬送の多くを占め、とくに珍しくはないが、現在、病院の対応はものものしい。防護服を着たスタッフが鼻に綿棒を入れて粘膜から検体を採取。院外の検査業者によるPCR検査が行われる。結果が出るのは陰性の場合翌日、陽性は翌々日。それまでは感染リスクのある患者として、厳重な防護下での対応となる。
 この病院ではコロナウイルスの道内上陸以来、救急患者への検査で結果が陽性となったことは一度もないが、対応を緩くすることは出来ない。「感染者と気が付かないまま受け入れてしまえば、院内クラスターが発生するから」と、この病院に勤務するA医師は説明する。一方で、こうした患者の受け入れを拒否することも考えにくいという。「高齢者が肺炎などで発熱するのはよくあること。断ってしまえば患者さんの行き場所がなくなる。さらには感染病棟を担う医師やスタッフ達に不公平な負荷がのしかかり、現場の疲弊を招く」
 旭川市内でコロナ対策の中心となっているのは市立旭川病院。公的な基幹病院も協力している。より小規模な病院もコロナウイルスと無関係ではいられないのだが、とくに救急医療の現場では、患者への対応に苦慮する場面がある。

遺体受け入れ断念
 それを端的に示したのが、発熱して死亡した人の事例だ。ある日、A医師に救急隊から連絡が来た。「発熱直後に心臓が停止した患者がいる。救急隊が2時間心臓マッサージを続け、市内中の病院に電話をかけているがどこにも受け入れてくれない。先生のところで受けてもらえないか」
 A医師は迷った。救急隊員のことを考えれば受け入れたい。コロナ感染であった場合、救急隊員は長時間「密」に患者に接触するほど感染リスクが高まることから、一刻も早くその状況から解放してあげたい。しかし、病人が死亡しているのは明らかで、新型コロナに感染している可能性があり、院内には受け入れられない。最悪、戸外での死亡確認は可能だが、かといって、そのあと遺体を外に置いておくわけにもいかない。病院内には感染リスクのある遺体を引き入れられない。保健所は夜間は閉まっており相談先もない。対応してくれる葬儀業者があるかどうかもわからなかった。
 感染が確定すれば、密閉型の納体袋に遺体を納めることで、病院スタッフへの感染拡大は防げる。しかし、札幌市内にある納体袋のメーカーにはコロナの流行が始まって以来、問い合わせが殺到しており、旭川市ではその時点で保健所に1枚が割り当てられただけで、A医師の病院は手に入れることが出来なかった。保健所からは、納体袋は貴重であり、遺体のコロナ感染が確定しなければ、各病院に割り当てることは出来ないという見解が示された。医師はやむを得ず救急隊員からの要請を断ったという。なお、納体袋に関する保健所の見解は今も変わっていない。

対応に苦労しても支給額は最低限
 多くの病院ではコロナの流行が始まって以来、軽い病気なら受診を控える動きが患者に広がっており、収入が減少している。その一方で、防護服、マスクなど院内感染を防ぐための資材は入手困難な上に値上がりし、A医師が勤務する病院では月100万円単位で出費が増している。公的な病院には手厚い財政措置が行われ、倒産の心配もないが、民間病院はより難しい経営を強いられている。
 政府は「新型コロナ慰労金」として、医療従事者個人に、状況によって1人あたり5~20万円を支給している。しかし、受給には都道府県からの役割を認定されている指定医療機関に勤務していること、コロナ患者を受け入れていること、実際に患者と接していることなどの条件から金額が設定されている。指定医療機関ではない場合、慰労金の支給対象にはなるが、二次救急で発熱者などの救急患者の受け入れを行い、さらには旭川市の夜間医療体制を支える輪番制の一次医療機関としてもコロナ感染疑いの患者を診ていたとしても、支給額は最低水準となってしまう。
 A医師が焦燥感を募らせるのは、こうした問題を伝える先がないためでもある。旭川市は市の関係部署や市立病院などの関係者を集めた対策会議を開いており、旭川市保健所、市内の5基幹病院、旭川市医師会、陸上自衛隊を集めた「新型コロナ対策連絡会」も2週間に1回のペースで開催されている。しかし、A医師の勤務する民間病院は会議に参加できない。現場で実際の臨床に関わる中、個々の事例にまつわる問題点を持ち寄り、様々な予測を立て対策を先んじて講じる必要がある。会議に参加したいとの要望は各方面に伝えているが、実現のめどは立っていない。
 こうした声があることについて旭川市医師会は「参加者が増えすぎるので、希望に沿うのは難しいかもしれない」と慎重な見方を示している。

公表回避も責められない
 A医師も同僚も、感染を防ぐために万全の措置を講じている。しかし、感染のリスクをゼロにはできない。「もしもこの病院でも誰かが感染したら、どうすればいいのか」と、A医師は心配が頭から離れない様子だ。企業経営者が自身の感染に際して企業名を公表して世間から称賛を浴びる事例もある。一方で、全国各地で医療関係者の感染が自治体により発表され、抗議の電話が殺到、診療業務に支障をきたす事態も繰り返されてきた。A医師は自問している。「もしも自分の病院のスタッフから感染者が出たら、報告するべきなのか」。
 疑問には理由がある。一般企業に勤務する一個人の感染が判明した時、それを自治体が発表するかどうかは、本人の意見を尊重した範囲で公表されている。一方、医療関係者の感染については自治体により判断が分かれる。発表された場合はその病院に全国から抗議が殺到し、来院患者が減ることもある。しかし、自治体により判断が分かれるということは、コロナ感染の疑いがある場合でも、市外で検査を受け陽性反応が出た場合に、市外での対応として旭川市からは発表されず、医師会からの通知もないという「抜け道」を作ってしまうことになる。この場合、感染の事実は自治体に把握されず、その病院に抗議が来るようなこともない。
 仮に市内での検査を回避した医療従事者がいたとしても、こうした行為を一方的に批判するのは難しい。普通に生活している人でも感染のリスクからは逃れられず、感染が知られれば病院が理不尽な批判にさらされる現実があるためだ。また、医療従事者が外部で感染したとしても、マスクや手洗いなど感染防止措置を徹底することで、同僚や患者への感染拡大を防げることは、これまでの事例が証明している。接触者全員に検査を徹底することは必須だ。しかし、「院内の集団感染ならともかく、医療従事者個人の感染を公表することにどれだけの意味があるのか。医療者でなければ会社勤めの人は会社まで発表されることはない。日々恐怖や不安と闘いながら病院に勤務する医療従事者やその家族を追い詰めて医療体制を守れるというのか」というA医師の問いかけは重い。

コロナ感染対策 まだまだ不十分
 国や地方自治体の対策によって、指定医療機関の検査体制、医療体制の強化はなされ、感染予防対策、感染者に対する対応や治療体制などは、緊急事態宣言の時期よりは安定しているように見える。しかし、軽症者が検査を受けるさいのハードルの高さや、前述した「感染したその先」といった不安要素は残っている。
 コロナ感染疑い患者やコロナ感染患者が亡くなってしまった場合には、厚生労働省から出されている処置、搬送、葬儀、火葬等に関するガイドラインに沿った対応が推奨されている。コロナ禍以前には、遺族が葬儀会社を手配し、医療機関は遺体を密封する必要もなく引渡しをしてきた。コロナ禍以降、感染リスクがある場合は葬儀会社に敬遠されてしまうことも多く、遺族からも葬儀会社の手配に苦慮して医療機関へ多くの相談が寄せられている。葬儀会社が見つかったとしても「非透過性納体袋に収納、密封」が必要となり、医療機関にはそのための「非透過性納体袋」が必要になるが、製造販売を行っている会社には全国からの注文が殺到して手に入りにくい状態となっている。
 道外には、納体袋を自治体が用意し、葬儀会社とも連絡を密にして情報公開するなどして、市民のライフイベントにしっかりと寄り添っている自治体もあるという。こうしたバックアップを保健所をはじめとする行政機関がしっかりと行うことは、コロナの最前線で頑張り続ける医療機関、医療従事者の負担減にもつながるはずだ。
 ウイルス感染症の一種であるコロナは、秋から冬にかけて新たな波が発生する可能性が指摘されている。感染や重症化を防がなければならないのはもちろんだが、医療システムの崩壊を防ぐことも同様に重要な課題だ。

表紙2010
この記事は月刊北海道経済2020年10月号に掲載されています。

コロナ軽症者「隔離施設」を準備

 道が主体となり、新型コロナウイルス感染者の中で軽症者を隔離する施設(ホテルなど宿泊施設を賃借)の設置の準備が道内全域で進んでいる。上川管内でも、旭川市内のホテル数軒が道の要請を受け入れ準備を進めている。今のところ上川管内では急を要する事態になってはいないが、札幌市のようにすでに隔離施設の利用者が出ているところもあり、クラスター(集団感染)などで一気に感染者が増加する事態に備えている。

上川管内の感染者、幸い少ないが…
 道は本庁に新型コロナウイルス感染者対策本部指揮室を設け、感染者の中でも軽症者を隔離する施設の開設を目的とした宿泊療養斑を組み、道内全域でホテルなどの宿泊施設へ協力を求めている。
 旭川市を含む上川管内では、9月2日現在、新型コロナウイルスに感染した人は46人(実人数で回復後に再び感染した人は1人としてカウント)で、死亡した人はいない。最も多い旭川市では21人となっているが、道内最大の都市、札幌市は1289人と旭川市の60倍余りが感染している。両市の人口を比較すると5・5倍ほどの開きがあり、札幌市のコロナ感染者の数が桁違いに多いことがわかる。
 本誌9月号で市保健所の川辺仁部長インタビューでも指摘されていたように、旭川市の場合、市外の人との交流が少なく、市民が用心して慎重に行動していたことが大きな感染が発生しなかった要因と見られている。
 それとは対象的に、ビジネスなどで本州との人の交流が多い札幌市では、ある程度の感染は致し方ないという意見もあるが、一方で「住民意識が低く、夜の街や医療機関、高齢者施設でのクラスターが多すぎるのではないか」という指摘もある。

第2、第3波で感染拡大の恐れも
 旭川市内の総合病院でコロナ感染者を受け入れるのは、市立病院をはじめ日赤や厚生病院、医大病院、旭川医療センターの5ヵ所。その中で重症者のみを扱うのは、日赤と医大病院の2ヵ所。市立病院と旭川医療センターは元々、感染症病棟や隔離病棟を備えている。
 保健所によると、「9月3日現在、市内の5ヵ所の総合病院でコロナに感染した患者を入院させているのはわずか数人。クラスターなどで急激に感染者が増加した場合、すべてを受け入れることができるのかと言われれば難しいかもしれないが、専門の隔離病棟を増やすことは可能で今のところ余裕はある」という。
 それでも、国が割安な旅行ができる「GoToトラベル」を進めていることや、国民が窮屈な思いをしている中で我慢できずに外出して「夜の街」に繰り出す動きも一方であり、第2、第3波の感染拡大が懸念されている。
 そうなれば、非常時に備えて対策を取ることは不可欠であり、いざというときに備えて道も道内全域に感染者の隔離施設を準備する必要に迫られている。
 実際の動きとしては、すでに札幌市でススキノにあるホテル「東横イン」と契約して開設した隔離施設がある(現在は契約が終了)。その後、同市南区にあるアパホテル(670室)と契約をして当分の間、利用する体制を整えている。

数軒のホテルが協力姿勢
 そのような動きの中で、上川管内では旭川市内のホテルに道が依頼した業者を通じて要請した結果、数軒(噂では3軒)のホテルが道の要請に協力することとなり、感染者を受け入れる準備を進めている。当初、市内で閉校した小中学校を軽症者の隔離施設として活用してはどうかという意見も一部であったが、「室内の改装や医療機関関係者の確保、隔離に耐え切れず〝脱走〟する患者を監視する警備など24時間体制で管理する必要があり、あまりにも経費がかかりすぎる」という理由で、具体化には至らなかったようだ。
 道と契約するホテルは、1棟丸ごと賃貸し、「前もって隔離施設の意義をしっかりと理解していただいた上で、ホテル側に負担をかけないように損をしない程度の金額で契約する。契約終了後は、専門の業者に依頼して館内をしっかりと洗浄することで、ホテルのイメージダウンを極力防ぐよう対策をとる」(道の担当者)。
 ホテル側が実際受け入れる場合は、予約状況などを見ながら、タイミングを図って行われることになる。感染者の数にもよるが、1棟すべてを借り上げるため対象となるホテルはひとまず1軒にとどまる模様だ。宿泊費(食事代含む)は、すべて国からの補助金を充てるため患者負担はない。
 患者への対応は、当然のことながらホテルの従業員ではなく道と市保健所が受け持つ。症状に応じて医師や看護師を派遣することもあり、一定期間(2週間程度)様子を見て、完治していれば施設から解放されることになる。
 これ以上感染者が増えることがないことを祈るばかりだが、「備えあれば憂いなし」と言われるように拡大を未然に防ぐ対策が必要だ。

表紙2010
この記事は月刊北海道経済2020年10月号に掲載されています。

名寄市街地近代化 補助金審査に甘さ?

 名寄市の「中心市街地近代化事業」は、商業地域内で行う店舗や事務所の新築・増改築の工事費を市が補助するというものだが、事業者が市役所に申請する書類等の審査体制が不十分なため、補助金の不正受給が横行する可能性が出てきている。市は「審査は適正に行っている」と強調するが、市民の間からは「このままでは公序良俗に反する、ただの税金のばらまきに終わってしまう」と危惧する声も上がっている。

工事費8割補助 上限600万円
 名寄市では従来から市内の中小企業者を対象に様々な支援事業を行っている。今年に入ってからはコロナ対策の一環として一部、補助基準の特例措置を設け、期限付き(今年4月~来年3月)で支援の中身を充実させたものもいくつかあり、その中の一つに「中心市街地近代化事業」がある。
 これは、市が都市計画用途地域としている商業地において、店舗や事務所を近代化(新築・改築・増築)する場合に工事費の一部を市が補助するというもので、これまでは工事費が300万円以上のものについて2割まで補助するという基準を、150万円以上の工事について8割まで補助すると基準を変えた。
 補助限度額の600万円、施工業者は地元企業であるという条件は変わらなかったが、さほど大がかりな工事でなくとも制度を利用できるようになり、しかも8割も補助を受けられる仕組みに変わったことは、深刻なコロナ問題への対策とはいえ、行政にとっては結構な大盤振る舞いである。
 工事を計画する事業者が行う補助金申請は4月から始まっており、窓口となる市経済部産業振興室によると、7月末現在で申請が上がってきたのは3件ということだが、「中心市街地近代化事業」と同様の制度で、中心市街地以外のエリアを対象とする「店舗支援事業」(補助限度額100万円)の方は7件にのぼっており、この際、積極的に行政の支援を受けようとする中小事業者の意欲が伝わってくる。

工事金額水増した見積書を市に提出?
 7月下旬、名寄の市民から本誌に情報提供があった。簡単に言えば「補助金申請における市の審査が不十分で、このままでは市民の血税が悪質業者の食い物にされる」という内容だった。この情報提供者Aさんは、市に対して審査のずさんさを指摘し改善を求めたが、その時の対応の甘さに納得がいかず、このまま放っておけば被害が増え続けると、詐欺罪の適用を求めて警察にも情報を持ち込んでいる。
 Aさんが「中心市街地近代化事業」制度に盲点があることを意識し始めたのは、市内のある工事業者が話していた内容を耳に挟んだからだ。
 この事業では、補助の対象となるのは建物の新築や増改築に係る経費だけで設備の更新や屋根・外壁の塗り替え・補修などは対象外となるのだが、飲食店事業者から改築工事を相談された施工業者が「役所の担当者は、1本5000円の材料を5万円だ10万円だと言っても分からないから、補助に該当するような見積書を作ってあげる」と言っていたというのだ。
 これは言い換えれば、見積書の工事金額を増やすことによって、補助金として受け取る金額も増えるから、その分で補助対象外の工事も行えるということである。さらにうがった見方をすれば、実際以上に補助金を多額に受け取ることができれば、事業者と施工業者で山分けできるということにもなる。ここまでくれば、補助金制度を利用した悪質な詐欺ということにもなる。
 Aさんも、こうした手口の詐欺行為が行われているという証拠を握っているわけではない。しかしAさんは、水増しの見積書を作ってあげると言っている施工業者(個人事業主)の人柄を知っていることもあり、疑いの思いは募るばかりだ。

表紙2009
この続きは月刊北海道経済2020年09月号でお読み下さい。

近文清掃工場建替  電力転売難航で練り直し

 旭川市から排出される「燃やせるごみ」の焼却を一手に引き受けている近文清掃工場(近文町13丁目)。1996(平成8)年に完成・稼働したこの施設の煙突は高さ801メートル。それほど高い建築物がない市内では一種のランドマークともなっている。順調に進めば2022年にも着工する予定だったこの工場の建て替え計画について、大幅な見直しが必要となっている。主要な問題は3つ。現在の工場が老朽化で使えなくなるまでに、新工場を完成させるのは可能なのか─。

廃プラ焼却のはずが
 近文清掃工場は稼働から20年が経過するのに対応して2012年に「長寿命化計画」を策定し、13~16年に基幹的設備改良工事を実施して施設を10年間延命。2026年度までの使用が可能になった。
 しかし、どんな設備もいつかは使用期限を迎える。2027年度以降のごみの焼却処理の方針決定を迫られた旭川市は昨年4月までに「旭川市清掃工場工場整備基本構想」をまとめた。その3年前の「新・旭川市ごみ処理・生活排水処理基本計画【改訂版】」、2017年6月の「旭川市最終処分場整備基本構想」でうたわれる将来のごみ処理システムの基本方針が、清掃工場整備の基本構想にも反映されている。
 同構想によれば、旭川市の現行のごみ処理のしくみが抱える課題のうち、近文清掃工場が受け持つ焼却処分に関する主なものは以下の通り。
①廃プラスチック類を燃やせないごみとして直接埋め立てしている。
②焼却施設の年間稼働率が約9割と高水準にあり、不測の事態に対応する余力が少ない。
③ごみ焼却で発生する熱エネルギーで発電を行ったり、プールの水を温めるなどして再利用しているものの、回収率が低い(2016年度実績=7・8%)。
 このうち①について補足すれば、プラスチック製容器包装については毎週決まった日に回収が行われており、リサイクルのしくみが確立している。廃プラスチックとは容器包装以外のプラスチックを指し、CDや歯ブラシ、園芸用のプランターなどがこれに当たる。旭川市ではこれらのプラスチック製品を、燃やせないごみとして出すよう市民に求めている。
 ちなみに、2015年度に旭川市内で発生した燃やせないごみの量は1万270トン、このうち4112トン、比率にして約4割が廃プラスチックだったと推定されている。
 しかし、廃プラスチックの扱いは地域によって異なる。たとえば札幌市では廃プラスチックを燃やせるごみのカテゴリーに入れている。旭川市では「燃やせないごみ」、札幌市では「燃やせるごみ」と扱いが違うのは、ごみそのものというよりも受け入れ施設側の事情。もともとは石油から作られているプラスチックは含まれるエネルギーの量が多く、「燃えすぎる」ために、紙や布を燃やしたときよりも炉内の温度が高くなる。あらかじめプラスチック焼却を想定して建設された焼却炉でなければ破損する可能性がある。近文の清掃工場はプラスチック焼却を想定しておらず、2013~16年の延命でもプラスチック焼却のための改修は行わなかった。このため「基本構想」には、対応する焼却炉を導入して廃プラスチック類を処理対象とする方針が明記された。

新設のほうが安い
 ③のエネルギー回収効率に関しては、リサイクル率向上に役立つ「メタン発酵」という技術があるものの、コスト上昇や維持管理の複雑化といった不安要素があるため導入を見送り、現行の3倍、6300キロワットの発電能力を持つ設備を導入して高効率化を目指すことになった。
 清掃工場は市民生活に必須の施設だが、整備には巨額の費用が必要となる。旭川市は工場を建て替えた場合、再度の大規模改修を行い2度目の延命を行った場合の20年間の収益を試算して比較した。その結果、はじき出された建設費用は、建て替えが213億円、再度の延命が302億円。「市の実質負担額が優位であることから、焼却施設の整備方法については新設を基本とします」(基本構想)との姿勢を明確にした。
 単純に建設費だけを比較すれば、延命のほうが安いのだが、建て替えれば国からの交付金(66億円)、起債にかかる交付税措置(78億円)、完工後の売電収入など(42億円)といった収入が見込めることから、合算すれば新設のほうが安上がりになると、旭川市はソロバンを弾いていた。

政府が戦略を変更
 この基本方針を見直す必要が出てきた。理由は2つある。まずは廃プラスチックの扱いの変更。これまで政府はプラスチック容器の回収を推進する一方で、容器以外のプラスチックについては焼却することも認めてきた。埋め立て処理は環境に一定の影響が及ぶ上に、廃プラスチックに含まれるエネルギーが無駄になる。それなら燃料として活用して「熱回収」したほうが地球に優しいというわけだ。
 ところが、政府のこの方針が変更されてしまった。昨年5月31日に環境省、消費者庁、経産省などがまとめた「プラスチック資源循環戦略」には、「プラスチック製品の使用後は効果的・効率的なリサイクルシステムを通じて、持続可能なかたちで徹底的に分別回収し、循環利用(リサイクルによる再生利用、それが技術的経済的な観点から難しい場合には熱回収によるエネルギー利用を含め)を図る」との方針が盛り込まれた。方針変更の背景には、地球温暖化やプラスチックごみによる海洋汚染への世界的な規模での関心の高まりがある。
 プラ資源循環戦略は熱回収を完全に否定したわけではなく、旭川市環境部廃棄物政策課も熱回収の余地が残されたことに注目している。しかし、政府が新しい方針を明確にした以上、廃プラスチックを燃やす清掃工場をいまから建設すれば、論議を呼ぶのは必至だ。
 今年7月21日には、政府の有識者会議がプラ容器だけでなく、リサイクルされていない廃プラスチックも一緒にリサイクルするのを促進するため、新しい分別区分「プラスチック資源」を設けるとの基本方針を公表した。年内にも法改正を含む改革案をまとめる方針。旭川市の新しい清掃工場で廃プラスチックを焼却するのはますます難しくなっているように見える。

独自送電線も検討
 さらに大きな問題が、北海道電力の送電網との接続。旭川市では「北電と2017年から事前相談を始めたが、見通しが立たない状況。現在、接続検討を申し込み、正式な回答を待っているところ」と説明する。つまり、北電からは電力を買い取るとの確約は得られていない。
 北電では一般的に「電力を買えない」とは言えず、「買うためには新たな設備を追加しなければならない」と説明する。こうした場合、設備追加のコストは発電事業者が負担することになる。このため旭川市は昨年度、「自営線供給」つまり自前の送電設備を使った北電への電力整備についても調査を行い、「制度上」は可能であることを確認した。しかし、コスト面で見合うかどうかはまた別の話だ。
 理解に苦しむのは、電力の買取に関して北電からの確約が得られない状況で、なぜ基本構想をまとめたのか。東日本大震災の後、当時の民主党政権が再生可能エネルギーの活用を促進したことを受け、全国各地で大規模な太陽光発電所の建設構想が持ち上がった。旭川の近郊でも数百キロワットクラスの太陽光発電所が続々と登場したが、愛別飛行場跡地を活用する数十メガワットクラスの構想は実現しなかった。北電から数十億円規模の送電設備の整備が必要と伝えられたためだ。こうした経緯を知っていれば、従来の3倍近い発電能力を持つ新清掃工場の建設が基本構想に盛り込まれることはなかったのではないか。
 電力が売れなければ、収支計画は根本から崩れてしまう。前述した通り、旭川市は清掃工場の建て替えでエネルギー回収効率を高めて発電、これを北電に売却することで、10年間で42億円の収入(基本料金や購入料金を差し引いたネット額)を上げることを見込んでいた。再延命の場合はわずか3億円。42億円がまるまる消えたとしてもまだ新設のほうが安上がりだが、再延命と比較した場合の魅力は薄れてしまう。このため市は現在、「今年度中に方向性を整理して、次の見通しを立てる」(環境部廃棄物政策課)ことを目指している。
 なお、2026年度までとなっている現在の清掃工場をそれ以降も使用することは、整備コストはかさむものの可能だという。

新設の敷地も「?」
 基本構想によれば、新しい清掃工場は、現工場の隣に建設されることになっていた。現在は資源ごみ中間処理施設「近文リサイクルプラザ」がある一角だ。リサイクルプラザをまず東旭川に移転、空いた土地に新しい清掃工場を作るはずだったのだが、別稿記事で報じた通り、近文リサイクルプラザの今後も状況は見通せない。清掃工場新設の用地についても疑問符がついたことから、市は年内にはスケジュールを再調整するとしている。
 ごみの処理は基本的な政サービスの一つ。万が一にもほころびが生じないよう、旭川市はごみ処理の将来像を市民に示す必要がある。

表紙2009
この記事は月刊北海道経済2020年09月号に掲載されています。

日本最北のCG制作会社 スタジオBACU

 時代の最先端を進むIT産業で、旭川市内の企業が東京の企業と競争するのは難しいと思われがち。実際には、誰でも知っている人気アニメ映画の一部が、市内のスタジオに並ぶパソコンから生み出されている。Studio BACUを訪ねて、CG映像制作の最新事情を探った。

人気アニメ映画 6作連続で参加
 「旭川ではどんなものが作られているの?」─社会科の宿題に取り組む子や孫から質問されれば、数十年前に小学校で受けた授業を思い出しながら、コメや野菜などの農作物、酒、肉、紙パルプ、家具といった品目を教えるはずだが、いまの子どもたちが飛びつく情報がある。「劇場版『名探偵コナン』最新作の映像のかなりの部分が、この旭川で作られている」
シリーズ第24弾となる『名探偵コナン 緋色の弾丸』の劇場公開は、新型コロナ対策のため予定されていた今年春から来年4月に延期されてしまったが、その予告編を動画サイト「Youtube」で観ることができる。例えば劇中に登場するリニアモーターカー。実車を撮影したわけではなく、仮想の車両データをコンピュータ上で「走らせて」、その映像データを合成している。昔のロボットアニメは見る角度によってロボットの体が歪んでいたり、さらにはペンを握るアニメーターによって微妙に形が異なったりしたものだが、コンピューターが莫大な量の計算を行って作り出す「CG」の映像は常に正確だ。
 戦前から昭和に至るまで、問屋街が形成されていた2条通。その13丁目にStudio BACU(スタジオ・バク)がある。2階の部屋には大量のパソコンが並び(その多くには2台のディスプレイが接続されている)、20代を中心とするスタッフたちが制作に取り組んでいた。アニメ映像の制作が仕事だが、ペンを持つ人は一人もいない。
劇場版コナンの制作に、BACUは第19作の「業火の向日葵」(2015年春公開)から参加している。「担当する部分は少しずつ長くなり、最新作では全編約90分のうち半分以上に関わりました。劇場版コナンのCGはすべてうちでやっています」と、BACUのチーフマネージャー・松倉大樹さんは説明する。
 ちなみに、1997年から毎年春に公開されている劇場版名探偵コナンは日本のアニメ産業、映画産業にとっての「大黒柱」的なシリーズ。2018年の「ゼロの執行人」は同年の興行収入邦画部門1位(91億8000万円)、19年の「紺青の拳」は同2位(93億7000万円)だった。毎年決まったシーズンに上映されるアニメ映画としては他にも「ドラえもん」「ポケモン」などがあるが、近年はコナンが稼ぎ頭だ。

表紙2009
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