旭川医大西川新学長の〝不条理〟人事

 前学長が辞任届を提出し、旭川医大のトップが事実上不在となってから290日間。「すったもんだ」を経て西川祐司氏が4月1日、正式に旭川医大の新しい学長に就任した。空席が目立つ教授の選出、新型コロナへの対応、研究資金の確保など課題は山積しているが、その前に課題として突き付けられたのが、学長選挙で西川氏を支えた現副学長2人に関して調査委員会が認定した「不適切行為」への対応だ。ガバナンス回復を掲げる新学長の〝本気度〟が問われる。

打診後途絶えた連絡
 4月1日、旭川医科大学で開かれた記者会見。この日、学長に正式就任した西川祐司氏は力強く語った。「開学以来、多くの教職員、同窓生のたゆまぬ努力によって、本学は歩んできたが、来年の開学50周年を目前に本学のガバナンスが著しく退行してしまったのは誠に残念。私たちには原点に回帰して本学を復興させる義務がある」。
 注目は、大学の立て直しで中心的な役割を果たす執行部人事だった。病院長には、コロナ患者の受け入れを巡って当時の吉田晃敏学長と激しく対立して解任された古川博之氏が「復活」した(古川病院長は4月4日に記者会見を開催)。
 一方、執行部入りが予測されていたのにリストに名前がなかったのが皮膚科講座の山本明美教授。昨年11月15日に次期学長を選ぶために行われた意向調査(投票)では、西川氏に14票差まで迫った(西川氏165票、山本氏151票、もう一人の候補、長谷川直幸氏が45票)。学内の融和のためには広く支持を得た山本氏を執行部に迎えるのが常識的な方法であり、山本教授も執行部の一員として西川体制を支えることに前向きな姿勢を示していた。
 それなのになぜ、山本教授の名前がないのか。1日の記者会見で本誌記者が質問すると、西川学長はこう説明した。
「(山本教授に執行部入りを)打診したことはある。山本教授からは協力してやっていきましょうと言われたが、執行部に対する基本的な考え方が違っていた」。
 記者は「山本教授とディスカッションして違いがわかったのか」と尋ねたが、西川学長は「必ずしも、直接のディスカッションではない」とだけ述べ、詳細な方針変更の理由は語らなかった。
 関係者の証言を総合すれば、学長予定者となった西川氏が山本教授に執行部入りを打診したのは昨年末のこと。ところが、その後は何ら連絡がなかった。打診を行ったのが西川学長である以上、どんな理由があるにせよ、方針を撤回したことを事前に山本教授に説明するのが社会常識であるように思えるが、山本教授には昨年末の打診の後、人事について連絡がなく、3月31日に教職員に一斉送信された執行部の名簿を読んで、打診がなかったことにされたことを初めて知ったようだ。

調査委が不適切認定
 新執行部のリスト上で、学内関係者が山本教授の「不在」と並んで注目した名前がある。奥村利勝副学長(教育、評価担当、理事を兼任)と川辺淳一副学長(研究担当)だ。奥村氏は学長選考会議の議長、川辺氏は同委員でもある。学内で新執行部の顔ぶれが明らかになったのと同じ3月31日、2人が登場する「報告」に関する情報が医大関係者の間に波紋を広げた。
 本誌3月号で既報の通り、ある教員が、昨年11月に行われた学長選出のための意向調査(投票)に向けて、奥村氏と川辺氏がそれぞれ学長選考会議議長、委員として意向調査を管理する立場にあるにも関わらず、西川氏に投票するよう働きかけていたことを問題視、学内の公益通報制度に沿って届け出を提出した。学内の教職員、学外の弁護士からなる調査委員会が設置され、調査が行われてきたのだが、調査の結論である「報告」が3月31日にまとまったのだ。
 その内容は公表されていないが、本誌が集めた情報を総合すれば、結論は2点に集約できる。
①奥村氏・川辺氏は意向調査対象者、つまり投票権を持つ人に対して、特定の候補者への投票を促していた。法令や旭川医大の規定に違反するものではないが、調査委はこうした行為について「不適切」との見解を示したようだ。
②通報者は、2人が山本教授に対する虚偽の情報を吹聴したとして調査を求めていたが、これについては2人がパソコンの提出を拒否したことから、また防犯カメラの記録データが消去され復元が困難であることから、客観的な情報を集めることができず、調査委としては結論を出すに至らなかった。
 なお、①については本誌も奥村氏が西川氏への投票を周囲に働きかけているとの情報を得て、投票前に旭川医大に取材を申し込んでいる。11月9日、事務局から「奥村教授へのご質問については、ご質問の前提の事実は確認できませんでした」との回答があったが、調査委はこうした「事実」があったと認定したことになる。
 調査委がどこまで踏み込んだ調査を行うのかについては、あまり期待していない人も多かった。事なかれ主義で「なあなあ」の結論で済ませ、新執行部は何事もなかったかのように新体制をスタートさせるだろうとの無力感も一部では漂っていた。フタを開けてみれば、調査委は2人の行為について「不適切」だと結論づけた模様。
 しかし、調査委員会にできる仕事はここまで。不適切な行為や不正行為が判明したとしても、調査委員会に処分を決める権限はない。ましてや、証拠となるパソコンの提出を強制する権限もない。
 「国立大学法人旭川医科大学公益通報者保護規程」には以下の条文がある。
 「第11条 学長は、調査の結果、通報対象事実が明らかになったときは、直ちに是正及び再発防止のための必要な措置を講じなければならない。2 学長は、調査の結果、法令又は本学規則等に違反するなどの不正が明らかになったときは、当該不正に関与した本学の職員に対し、当該職員に適用される就業規則に基づく懲戒処分等を課すことができる」
 つまり、調査委の結論を受けて是正や処分を行うのは学長の仕事。一連の行為が、ただちに法令や学内の規程に違反するものではないとはいえ、このまま放置していては次回以降の学長選考で学長選考会議委員による集票活動が「野放し」になってしまう。何らかの対応が必要だが、不適切な行為を認定されたのは自らの選挙を支え、これからも執行部を支えていくはずだった2人。西川学長が難しい判断を迫られるのは想像に難くない。

会見ではコメント拒否
 本誌は4月1日の記者会見で、調査委の報告についても尋ねた。西川学長の答えは「公益通報の性格上、私は公益通報に関してはなにも答えられない。通報者を保護するということもある。私はコメントしない。どのような報告がされているかについても存じ上げない」というものだった。
 記者は4月4日に書面で、旭川医大の広報担当者を通じて、奥村副学長、川辺副学長、西川学長について以下の質問を送付した。(奥村・川辺副学長に対して)①報告の結論への見解②なぜ調査委からのパソコン提出要請を拒否したのか、(西川学長に対して)③改めて報告についてどう思うか、④調査結果を知っていて奥村氏、川辺氏を副学長に任命したのか⑤規程に基づく処分、再発防止策の考えはあるか⑥山本教授を起用しなかったことと公益通報は関連しているのか。
 4月7日、質問のうち①②③⑤については「通報者や通報の対象となった者の個人情報等を取り扱うことになるため、情報を共有する者の範囲を限定するなど、 通報対応に従事する者に通報に関する秘密保持や個人情報保護を徹底させることが必要であることが消費者庁から公開されている公益通報者保護法を踏まえた各ガイドライン等でも明記されている。したがって、本件についての内容をお知らせすることはふさわしくないと考えている」、④に対しては「お二人とも高い見識をお持ちであり、教育の質保証およびレベル向上を目指すために奥村利勝先生に理事兼教育評価担当副学長を、研究を戦略的に推進するために川辺淳一先生に研究担当副学長をお願いした」、⑥については「記者会見で答えた通り」との回答が送られてきた。

問われるガバナンス
 3月号の本誌記事でも触れたが、学長選考会議の議長や委員が特定の候補に投票するよう働きかけたとすれば、野球の審判が片方のチームを手助けするようなものであり、学長選出手続きの公平性が損なわれてしまう。投票前にまかれた怪文書の影響と合わせ、「完全に公正なかたちで投票が行われていれば、また違った結果が出ていたのではないか」という思いを抱く人がいるとしても、不思議ではない。
 西川学長は記者会見で「私は公益通報に関してはなにも答えられない」と答えたが、調査委が「不適切」と指摘した人物をおとがめなしで副学長に起用しつづけるとすれば、西川学長自らが、学長選考会議が特定候補を応援する行為に「お墨付き」を与えたに等しい。調査委での調査の過程が学長に知らされていなかったにせよ、この情報は本誌が繰り返し報じており、知らなかったで済まされるはずもない。
 奥村副学長は、新学長選考に手を挙げて学長選考会議議長を辞任した西川氏の後任として、議長に就任した。新学長から見れば側近中の側近だ。その人物が新学長を選ぶ意向調査の前、西川氏に投票するよう呼びかけていたことを、当の西川氏は知っていたのか、知らなかったのか。知っていたとすればどう行動したのか、行動しなかったのか。学長に就任した西川氏は自身の言葉で教職員や学生に対して明確に説明する必要がありそうだ。
 医大の関係者が注目するのは、西川氏の学長就任を文部科学省に申請した際、公益通報に基づく調査が行われていることを、文科省に報告していたのかどうか。学長選考の過程で不適切な行為があったことを文科省が知っていたら、違う結論が出たのではないか、または、西川氏の学長就任に条件がついたのではないかというのだ。
 なお、公益通報を行った人物は事態が長期化することは本意ではないとして、「山本氏を副学長に起用すれば公益通報は取り下げる」との提案を自らの弁護士を通じて西川学長に行ったのだが、西川学長は提案があった事実を公益通報の調査委に連絡。調査委は、こうした提案は公益通報の目的の健全性を損なうとの見解も示した模様。この提案に、西川学長ら新執行部が態度を硬化させ、山本氏の執行部入りを撤回した可能性もあるが、西川学長は詳細な経緯について説明を拒否しており、真相は謎のままだ。
 学長就任記者会見での様子をテレビのニュースで見た人は、西川氏の実直な語り口が印象に残ったはずだ。記者も昨年の投票前に行った取材から同様の感想を抱いた。通報者からの提案をはねつけたのも、西川学長なりの清廉さや道徳観の表れなのかもしれない。注目は、公益通報調査委員会が指摘した「不適切」な行為にも、同じ基準で対応するかどうかだ。
 就任記者会見の冒頭、(吉田学長時代に)「本学のガバナンスが著しく退行してしまったのは誠に残念。私たちには原点に回帰して本学を復興させる義務がある」と語った西川新学長。ガバナンスに対する自身の姿勢が、いま問われている。

表紙2205
この記事は月刊北海道経済2022年05月号に掲載されています。

次期最終処分場は春志内

 旭川市の次期一般廃棄物最終処分場(通称ごみ処分場)の建設候補地が市内神居町春志内地区に決まった。3月8日に市が正式発表したもので、そう聞かされれば「なるほど、そんな場所があったのか」とうなずく市民も多いのではないか。迷惑施設の代表格でもあるごみ処分場は、その新設をめぐり江丹別地域に大混乱を巻き起こした歴史的経緯もある。市がそんな過去の反省の上に立って選んだ場所が春志内だった。

基本構想見直すアクシデントも
 現在稼働中の江丹別芳野のごみ処分場の使用期限が2030(令和12)年3月で切れるため、市は11年6月に市長の私的諮問機関「次期廃棄物最終処分場検討委員会」を立ち上げた。江丹別の後のごみ処分場をどこにするか、手順を踏んだ場所探しが市民に見える形で動き出したのはこの時からだった。
 その後市は、市内にある12ヵ所の造成可能地エリアを示しながら建設候補地の比較評価、パブリックコメントの実施、整備基本構想を基にした市民説明会の開催、さらには附属機関の「最終処分場整備検討委員会」を立ち上げるなど、市民とていねいな協議を重ねてきた。しかし昨年、順調に進んできたはずの場所探しが思わぬ展開を迎えることになった。
 2017年に策定した基本構想では、今後の埋め立て量の減少を見越し、処分場施設は覆蓋型(屋根付き)のコンパクトなものとし、必要な用地の広さも現在の芳野処分場の4分の1程度と見込んでいた。しかし資材の高騰で覆蓋型では建設コストが高くなり、しかも近文清掃工場の焼却機能充実が見送られ、埋め立て量の減少も見込めなくなったため、容量の大きい従来のオープン型へ舵を切らざるを得なくなった。昨年7月には新たな基本方針を策定し、出直しをはかることにした。
 この時、市環境部では「早い時期に場所を決め、地域協議を開始したい」としていた。7月に基本方針を立てたばかりなのに、早い時期に場所を決めたいと言い切ったことは、場所探しがまったく新しい取り組みというわけではなく、ある程度、いやすでにかなりの見込みがあったからにほかならない。

実らなかった公募だが、手際よかった市の対応
 次期ごみ処分場の候補地探しを進める旭川市環境部清掃施設整備課は、昨年10月11日から12月29日まで一般廃棄物最終処分場の建設候補地の公募に踏み切った。一見、自分たちでは決めかねるので地域の声を反映した候補地を公募という手段で求めようという算段のようにも見えたが、締め切りまでに名乗りを上げる地域は1件もなかった。
 しかし市は、応募ゼロも想定内だったのか、特段の焦りを見せることもなく「年明けの2月上旬までには市独自の選考で候補地を絞りこむ」と言い切った。
 その自信ありげな言葉からは、すでにメドがついていると言わんばかりの様子も読み取れた。案の定、実際にそうだったのである。あえて迷惑施設の公募という手段に出たのも、「手を尽くした」というアリバイづくりのようなものだったのかもしれない。
 「市が独自に2月上旬までには絞り込む」と言った通り、清掃施設整備課では今年に入ってから市内5ヵ所にまで候補地を絞り込み、2月中旬には庁内会議にかけた。会議には当時の赤岡昌弘副市長や関係部長が出席したが、清掃施設整備課が示した5ヵ所について順位付けを行い、結果、1番となった「神居町春志内」に決まった。同課ではすでに春志内の予定地となる地権者2人から、候補地とすることに同意が得られる感触を持っていたことが決め手となったようだ。
 清掃施設整備課では「立地環境の評価や数値では表せない定性評価も行ったうえで春志内地区が1番という結果になった」と万全の選考だったことを強調し、ひと安心した表情だが、一方では「本当に気を抜けないのはこれから」と気持ちを引き締める。

住民説明会は3市民委が対象
 かつての江丹別芳野の例を出すまでもなく、迷惑施設の建設場所を見つけたとしても、肝心なのは地権者だけでなく地域住民との交渉。合意を得るためには十分な説明、話し合いが欠かせない。
 市が描いている場所は、市街地から国道12号で台場を抜け、観魚橋を過ぎたあたりの左側一帯。山とも丘とも言えない規模の丘陵地帯で、今は雪があって現場の確認はできないがグーグルアースで上から見ると原野のような状態。かつてはこの辺に住宅を建て生活していた人もいたようだが、今はまったくの無人地帯。
 清掃施設整備課によると石狩川をはさんで対岸に1軒住宅があるだけで、少なくとも建設予定地周辺に民家はない。しかし迷惑施設ができることによる環境等への影響はさらに広範囲に及ぶことになり、市では今後、市民委員会を通じて各地で住民説明会を行うことにしている。
 対象となる地域を市民委員会単位で言うと石狩川対岸の嵐山(江丹別町嵐山・春日・共和)、台場(神居町台場・台場東)、西神居(神居町神居古潭・西岡・豊里)の3市民委員会。市は、2030年からの供用開始を目指して近々に地域住民との話し合いに入っていく。

利権絡む要素は見当たらない
 建設を予定する17・4㌶の地域の大半は民間人2人の所有で、一部市有地もある。市は今後、現地で正確な測量を行い、2026(令和8)年までには買収用地を確定し、正式に売買契約を交わすことにしている。
 ごみ処分場は今でも「迷惑施設」としてとらえられているが、実際に迷惑極まりなかったのは江丹別の共和地区や中園地区にあった20年以上も前の話。当時、水質汚染やカラス被害が著しく住民生活が脅かされていたことは間違いないが、芳野に移ってからは見違えるほどに施設整備がなされ、ごみ分別が進むようになってからは被害が激減した。
 また、考え方によってはこの迷惑施設も、地域おこしに活用できる有形の財産というとらえ方ができなくもない。かつて江丹別ではこの有形財産を、地域振興のためという不文律を破り、個人や企業の利得に活用しようとする不届きな事例も見受けられたが、春志内ではそのような利権が絡んでくる要素は今のところ見受けられない。
 今後予定される市の説明会でも住民の声を2分するような大きな波乱は予測できない。順調に進めば、住民合意を得た後に測量を行い、処分場用地を確定し、2026年には地権者と正式契約して実施設計に入り、翌年から建設工事に取りかかる段取り。供用開始は今から8年後の2030年4月が見込まれる。

次期産廃処理施設どうする振興公社
 次期一般廃棄物最終処分場の建設候補地が春志内地区で一定のめどがついた一方、産業廃棄物(産廃)を処理する旭川廃棄物処理センター(江丹別共和)の次期建設予定地はなかなか適地が見つからず、管理する㈱旭川振興公社(赤岡昌弘社長)が苦労している。
 同センターの埋め立て終了期間は当初予定では2028年度末だったが、それより早くに容量オーバーすることがわかり、ここ4~5年のうちに次の処分場を建設しなければならない切羽詰まった状況に立たされている。
 建設に必要な用地は、春志内に決まった面積よりさらに大きなものが想定されており、昨年来、振興公社の役員、職員らが懸命に適地を探している。しかし今現在、これといった見通しは立っていない。
 第三セクターである振興公社の仕事には市も無関心ではないが、いかんせん市は一般廃棄物の処分場探しに集中していたため、「振興公社のことは振興公社で」といった感じだった。市民的には「産廃も一般廃棄物も同じエリアに造ればいい」と思ってしまうのだが、何か問題でもあるのか、その発想は両者とも薄いようだ。
 市が次期一般廃棄物最終処分場のために長い時間をかけて作った環境調査のデータもあるわけだから、振興公社もその気になれば適地探しにさほど腐心しなくともよいと思うのだが。なにか妨げとなるものでもあるのだろうか。今後の旭川振興公社の動向が関心事となっていく。

表紙2205
この記事は月刊北海道経済2022年05月号に掲載されています。

受験生必読「英単語 記憶のためにまず忘れる」

 「うちの子は何も苦労せずにスラスラと英単語を覚えている」─そんな家庭はまずない。ほぼすべての児童や生徒が英単語の暗記に苦労し、挫折し、ラクな方法を探している。加齢とともに思い出す力が弱まっている記者は、北海道教育大学旭川校に英単語の記憶法をテーマにしている研究者を訪ねた。

小→高で5000語
 英語で日常会話をするには単語を2000~3000語覚える必要があると言われている。学校での英語の授業でも単語を大量に暗記しなければならない。新学習指導要領によれば小学校では600~700語、中学校では1600~1800語、高校では履修する科目により異なるが1800~2500語を覚えることが求められる。小中高を合計すれば最大5000語に達する。単純比較はできないが、小学校、中学校までに学ぶことになっている常用漢字は合計2136字。英単語学習の負担の重さがわかる。
 それだけに、大量の英単語を効率よく暗記する方法を探し求める人は多い。インターネットで「英単語 暗記」を検索すると、怪しげな記憶術や書籍の情報がいくつも表示される。結論から言えば、魔法のような方法は存在しない。多かれ少なかれ、苦労をしなければ英単語は頭の中に残らない。ただ、英単語の学習方法の中には、効率が比較的良いものもある。意外なことに、ある事情から効率が悪い手法を選ぶ教育者や学習者が多いという。

忘れてから覚える
 効率的に英単語を覚える方法を研究している研究者が旭川市内にいる。北海道教育大学旭川校の教員養成課程英語教育専攻で講師を務める金山幸平さんだ。金山さんは英単語を覚えるのに役立つ4つの工夫を提案する。

1 想起練習
 「apple=りんご」と書かれた紙を漫然と眺めているだけでは、記憶はなかなか定着しない。思い出すための努力が必要な状況を作ると脳に「学習負荷」がかかり、記憶が残りやすくなる。具体的には暗記シート(覚えたい部分を赤のペンで塗り、緑のシートをかぶせるとその部分が黒く隠れる文具)や単語帳などを活用して「apple」の意味を思いだそうとすれば(想起練習)、または逆に「りんご」を意味する英単語を思いだそうとすれば、学習負荷が発生する。英単語、日本語訳のどちらかを指先で隠すだけでも、効果がある。
 こうした方法で英単語を覚えたら、その効果を計るために単語テストを行うが、テストを解くために考えることもまた想起練習になる。「テストは成績を付けるためだけでなく、それ自体が学習ツールとして機能します」(金山さん)

2 テスト直後の学習
 テストは重要だが、もっと大切なのはその直後。答え合わせをして、どの単語が正解で、どの単語が不正解だったのかを区別した上で、不正解の単語を中心に再び想起練習を行うのが効果的だ。「多くの研究から、学習が最も効果的になるのはテストを受けた直後であることが判明しています」。逆に、学習→テストの順番だと、テストの点数は高くなるものの、間違った単語を意識して想起する機会がないと長期記憶には貢献しない。テスト→学習という順番が重要だ。

3 分散学習
 英単語の記憶に限らず、学習には集中学習と分散学習の2タイプがある。集中学習の典型は試験前の一夜漬け。短期的にはある程度の効果を発揮するものの、時間が経てば見事に忘れてしまうことは、多くの人が実際に体験しているはずだ。分散学習はある程度の間隔を空けてくり返し学ぶスタイル。数多くの研究から、長期記憶には集中学習よりも分散学習のほうが圧倒的に効果的との結論が出ている。注目すべきはその理由だ。「分散学習では間隔を空けることで、学習した英単語をある程度忘れる時間を作ることができます。忘れるという経験を得た上で復習を行うと学習がより効率的になります。一方、集中学習だと短期間で英単語を詰め込んだとしても、学習者が『もう完璧に覚えた』との錯覚を起こして、負荷を伴う学習をしなくなり、結果的に非効率になるわけです」。覚えるためにいったん忘れる時間が必要というのは逆説的な話だが、多くの研究結果から実証されている。

4 累積テスト
 50語の英単語を5日間で記憶し、毎日テストを行うとする(図)。学習方法Aでは1日目に単語1~10、2日目に単語11~20、最終の5日目に41~50という順番で範囲の重複なしに出題する。学習方法Bでは1日目に単語1~10、2日目に単語1~20、最終の5日目に1~50と、出題範囲を累積しながら出題する。効率が良いのはB。Aではその日に学んだ範囲だけがテストで問われるのに対して、Bでは前日までの内容も復習する分散学習が必要となり、長期記憶に貢献するためだ。
 こうした累積テストの効果を知っていれば、単語帳を使って学習する際、「今日は新出の10語を完璧に、集中的に覚えよう」よりも、「昨日と一昨日の単語も一緒に復習しよう」といったアプローチのほうが望ましいことがわかる。

即効性か長期的効果か
 こうした学習方法の効果の違いを調べる学問が認知心理学。長期記憶に貢献する学習方法については、世界中の認知心理学者が検証を行い、前述した4つの方法が望ましいことを裏付けている。ところが、教育現場では逆の手法が取り入れられる傾向がある。たとえば「学習→テスト」という順番が一般的で、テスト後の復習はなおざり、累積テストではなく、出題範囲が限定された非累積テストが行われるといった具合だ。学習者の側にも、分散学習ではなく集中学習を好む傾向がある。
 それには理由があると、金山さんは指摘する。「学習→テストという順番、集中学習、非累積テスト。いずれも早く英単語を覚えることができた、勉強したという達成感を得ることができます。教育現場で、学習効果の実感は重要です」。しかし、こうした学習では、テストが終わればあとは忘れていくだけ。効果は長続きしない。対照的にテスト→学習、分散学習、累積テストといった方法は、すぐには勉強の成果を実感できないものの、長い目で見れば効果的だ。英語学習の最終的な目標が「学んだぞ」という満足感に浸ることではなく、将来外国人とコミュニケーションを図ることだとすれば、英単語を長期的に覚えておいて、必要時に思い出し、活用することができなければ意味は乏しい。英単語を覚えるため、すぐ得られる達成感と長期的な効果のうちどちらに注目すべきなのかはいうまでもない。
 次に、前述した知見を踏まえて、金山さんが提案する英単語学習法を紹介する(例として100語の記憶を想定している)。
①100語の英単語についてテストをして(想起練習)、その都度答え合わせをしながら、間違った問題に印をつける。知らない英単語ばかりなので最初は間違えるのが当たり前。多くの人はあきらめて学習をやめてしまったり、10語に限定して完璧に覚えるなど方法を変えてしまう。あきらめず、方法を変えずに継続することが大切だ。
②間違った問題を中心に、再度想起練習(復習)を行う。
③確保できる学習時間を考えながら②を継続する。
④ある程度忘れる時間を作るため、あえて間隔を空ける。
⑤その後、もう一度①の100語のテストを行う。成績が悪いと「非効率な学習法なのではないか」と不安になることがあるが、長期的にはこの方法のほうが効率的だと信じることが重要。
⑥以上のステップを納得するまで繰り返す。
 こうした方法は英単語に限らず、他の分野の記憶にも活用できる。学校で英語を学んでいる子のいる家庭や、独学で外国語の習得や資格取得のため勉強している人の参考にもなるだろう。
 なお、④について補足すれば、どれくらいの間隔を空ければ最も効率的に記憶できるのかについてはいろいろな学説がある。その一つ「エビングハウスの忘却曲線」と呼ばれる理論に基づくスマホの暗記補助アプリ「Anki」が世界的に普及しているが、その後の研究で、こうした忘却曲線理論は根拠が薄いことがわかっている。
 最後にこの記事の内容を復習してみる。大切なのは想起練習で脳に学習負荷をかけること、分散学習で忘れる時間をあえて作ること、テスト→学習という順番を守ること、(1日100語など)大量の英単語を覚えようとするほうが(1日10語など)限られた英単語を完璧に覚えようとするより効率的だということだ。
 1週間後、この記事の内容をすっかり忘れていたとしても、気にする必要はないが、再読はしてほしい。

表紙2205
この記事は月刊北海道経済2022年05月号に掲載されています。

ウクライナ侵攻 旭川経済に影響じわり

 ロシア軍がウクライナに攻め入った。世界的な批判の声や厳しい経済制裁にもかかわらず、プーチン政権は攻勢を緩めておらず、死傷者の数は増える一方。和平への道筋はまったく見えない。北海道にとりロシアは「最も近い外国」だが、旭川市内の企業や経済活動にも影響が及び始めている。(記事は3月3日現在)

隠れた輸出品
 あまり知られていない旭川市の「輸出品」が自動車部品。整備のレベルが高い日本の中古車や中古部品は海外で人気があり、海のない旭川でも複数の企業が仕入れた中古車を分解、コンテナに積み込んで船で輸出してきた。かつてはマレーシア、ドバイ、極東ロシア(ウラジオストクとサハリン)が三大輸出先だったが、マレーシアとは価格交渉が折り合わず取引の規模が縮小し、ドバイと極東ロシアが主要輸出先となっていた。
 ウクライナへの軍事侵攻が始まったのは2月24日。それからしばらくは輸出継続の見通しが立っていて、コンテナへの積み込み作業を続けていた。ところが3月に入ると状況が一転して悪化。先行きがまったく見えないことから、すでにコンテナに積み込んでいた商品を外に出し、コンテナを返却することになった。
 輸出を妨げている要因は、苫小牧─横浜─ウラジオストクの航路の維持が難しくなっているということだ。いまのところ日本政府から部品輸出が経済制裁の対象に指定されているわけではないのだが、商品を顧客のいる国まで運ぶ手段がなければ、取引は成立しない。
 ある業界関係者は、取引のため日常的にウラジオストクやサハリンの取引相手と連絡しており、極東ロシアの経済の混乱ぶりを聞いている。ルーブルの急落の影響で部品は少なくとも30%値上がりする見通し。経済制裁で収入が減少すれば買い手がつかない恐れもあり、現地の商社の中には仕入れの中止を検討しているところもある。
 売り手側から見れば、商品代金が回収できるかどうか、不透明感が強まっている。代金前請けでリスクを回避したいところだが、輸出入の手続き上、それは難しいという。
 「先行きが読めない。良くなるにせよ、悪くなるにせよ、一日も早く状況がはっきりすることを望んでいる」とは業界関係者の弁。

当面ガスに影響なし
 北海道がまとめた道とロシアの貿易状況(2020年)によれば、道からロシアの輸出のうちかなりの部分を占めるのが中古車や自動車の部品。一方、輸入は海産物と鉱物資源がほとんど。より具体的な品目に注目すれば、鉱物資源は天然ガス、石炭、海産物はウニ、イクラ、冷凍エビ、冷凍カニ、冷凍イカなどが多い。
 ㈱キョクイチに電話取材したところ「扱っている海産物の大半は国産であり、影響は限定的」とのこと。しかし、日本全体でみれば2019年の日本のカニ輸入額649億円のうちロシア産は59・8%を占めていた。飲食店や一般家庭向けのカニの販売への影響が懸念される。
 ロシア産天然ガスの北海道への輸入額(2020年)は197億円で、石狩港にある北海道ガスのLNG陸揚げ施設ではサハリンで産出された天然ガスが陸揚げされている。サハリンのガス事業「サハリン2」には、日本から三井物産や三菱商事が参加しているが、英ロイヤルダッチシェルはすでに撤退を発表しており、三井・三菱も撤退を検討中と伝えられている。サハリンからのLNG輸入がストップしたり、値上がりしたりすれば、道央地区を中心に影響が広がるのは確実だ。なお、旭川ガスでは「ガス供給元との契約で仕入れ先などについては明らかにできない部分があるが、短期的な影響はない」と説明している。
 情勢の変化のおかげで大きな影響を受けずに済んだのが木材だ。厳寒の地で育つ極東ロシアの木は木目の狂いが少なく、高く評価されており、ロシアにとり日本はソ連時代から有力な原木の輸出先だった。しかし、中国企業の参入で乱伐と森林荒廃が進んだころから、ロシアで森林伐採が厳しく規制されるようになり、輸入量は大幅に減少。2020年の木材(木材製品・木炭含む)の輸入額は14億円あまりと、天然ガスや海産物に比べればごくわずかで、今後輸入が滞るとしても影響はほとんどないと予想される。

現地の情報錯綜
 サハリン最大の都市、ユジノサハリンスクは旭川市の友好都市。1967年に提携が実現し、2017年には提携50周年を迎え、さまざまな記念事業が行われた。それ以降も代表団の受け入れ、青少年交流が続けられ、2020年1月には青少年交流訪問団13人が派遣されている。一時期、旭川市にはロシア人職員も勤務し、交流に関する仕事を担当していた。コロナの影響で人的な交流はこの2年間、ほぼ休止状態となっているが、ウクライナ軍事侵攻が都市間交流にも影響を及ぼすのは避けられそうもない。また、稚内市はサハリン事務所を持っているが、ロシアの大手銀行が国際金融システムから排除されたことを受け、事務所維持の費用が送金できなくなり、事務所維持が困難になっている。
 極東ロシアとの関わりが深い人物によれば、現地のロシア人の中には電話で軍事侵攻を痛烈に批判する人もいれば、厳しく統制された現地での報道を信じられず、ただただ困惑している人も。経済制裁の打撃を最初に受けるのは一般庶民だ。
 日ロ交流に関わるすべての人が、犠牲がこれ以上増えず、事態が平和的解決に向かうことを切望している。

表紙2204
この記事は月刊北海道経済2022年04月号に掲載されています。

巨額工事めぐり南富良野町長逮捕

 2016年の台風被害に見舞われた南富良野町にとって復興のシンボルでもある「道の駅」。その大型工事をめぐり現職の池部彰町長(72)が官製談合防止法違反の疑いで逮捕された。池部容疑者のカネにまつわる風評は以前からくすぶっていたが、道警の執念の捜査がようやく実を結んだ。(記事は3月10日現在)

カネにまつわるウワサ
2015年10月頃から

 池部容疑者に関しカネにまつわる風評が現実味をおびて語られるようになったのは、2015年10月ごろから。具体的なカネの受け渡し等の証人や決め手には欠けたものの、その内容は道警関係者の知るところともなり、確度の高い情報提供者も複数存在した。当初贈賄の疑いが持たれたのは、道北管内ではその名を知られたX建設会社だ。
 道警関係者によると、「池部容疑者は国庫など補助金を持ってくるのが非常にうまい。小中学校や特別養護老人ホームなど、推定50億円程度補助金を得て、そのうち30億円程度の仕事をX社に受注させワイロを得ていたようだ」と振り返る。
 金山地区の特老ホームなどは募集しても職員が集まらず、入居者が減り、その赤字を埋めるのに町の財政で数千万円以上も補てんしていた。町内では「町関係の仕事に依存する体質の中、池部容疑者は町内の建設関連業者を使わず、町外の業者にカネが回り、企業や雇用が衰退するばかりでなく、将来にわたり莫大な負債が町民に残ると揶揄されていた」と道警関係者。
 2015年当時の池部容疑者について、道警では「官主導の入札、周りはイエスマンで固めている」との風評に加えて、以下のような情報も町民から収集していた。「町内の大型建築物は5億円程度でX社に受注させている。なぜ町民を雇用している町内の建設関連会社を使わないのかという議会質問にも、町内に支店や事業所を置く町外企業も町内企業とするとの答弁で交わしている」
 真相は定かではないが、池部容疑者に対する疑惑はこのほか、農林水産省の木質バイオマスボイラー事業、民間業者のアパート建築に関して便宜をはかった件が挙げられる。しかも、これらの疑惑は今でも払拭されず、くすぶったまま。そして再び池部容疑者のカネにまつわるキナ臭い疑惑が噴出したのが今回の南富良野町官製談合事件だ。
 事件の舞台は南富良野町発注「道の駅を核とした町の賑わい拠点施設」工事。総事業費約11億円。人口2300人の町にとっては大きな規模の公共工事だ。南富良野町では長きにわたり、業者間の互選で工事業者を選ぶのが慣例で、疑惑の矛先となった機械設備工事でも、3つのJV(共同企業体)が組まれた。ところが、こうした慣例を破るように業界の意向を無視して南富良野町に対し「談合があるのではないか?」と申し立て、入札に加わったのが上富良野町に本社を置く設備会社のA工業所が代表を務める給排水のJV(ほかに旭川のI設備会社が参加)だった。

表紙2204
この続きは月刊北海道経済2022年04月号でお読み下さい。

「無罪請負人」登場で医大学長の解任撤回

 旭川医科大学が文部科学省に昨年6月に行った、吉田晃敏氏を学長から解任すべきとの申し出を、2月25日に取り下げた。文科省による審査の終わりが見えず、このままでは学長不在の状態で新年度を迎えることが確実であるため、学長選考会議が「断腸の思い」で取り下げを決めた。これを受けて吉田氏が提出していた辞表が文科省に受理され、3月3日付けで吉田氏は正式に学長を辞任した。旭川医大は西川祐司氏の4月1日の学長就任に向け文科省に申請を提出したが、これで「旭川医大VS吉田晃敏」の対決が終わるとは限らない。(記事は3月8日現在)

捜査レベルの厳密性
 旭川医大にとっては誤算がいくつかあった。3月3日夜の記者会見で経緯を説明した学長選考会議の奥村利勝議長(教授)によれば、大学が申し出の中で挙げた解任相当理由34項目について、吉田氏とその弁護士が逐一反論し、文科省からすべてについて再反論を求められるとは想定していなかった。大学側は、34項目は教育者に不適であることを示すには十分な内容であり、教育行政を統括し、教育現場におけるパワハラにも対応してきた文科省なら、大学側の言い分を理解してくれるはずと思っていた。
 象徴的なのが、飲酒問題の取り扱いだ。大学側は複数の大学関係者の目撃談を根拠に、吉田氏が飲酒問題で執務が困難な状態にあると主張したが、吉田氏側は個人的な問題で深酒をしたことはあったもののそれほど深刻なものではなく、目撃者以外の証拠もないと反論。こうした主張に対抗するには呼気のアルコール検査の結果が必要だが、そういった材料があるわけもなかった。
 2番目の誤算は、吉田氏に強力な助っ人がついたということだ。昨年春ごろ、旭川市内の法曹界でこんな情報が流れた。「吉田学長が市内で弁護士を探しているが、引き受ける人がいない」。結局、市内の弁護士が名乗りを上げ、辞任届の提出時には本人に代わってマスコミに登場したが、選考会議は文科省に解任を申し出た。この時点で大学関係者の多くは解任濃厚と感じていた。

面倒避けた文科省
 絶体絶命となった吉田氏が手紙で助けを求めた相手が弘中惇一郎弁護士だった。ロス疑惑事件の三浦和義氏から始まって、薬害エイズ事件の安部英一氏(一審)、障害者郵便事件制度悪用事件で村木厚子氏などの代理人となり、数々の裁判で無罪判決を勝ち取った著名な弁護士であり、「無罪請負人」の異名で知られる。日産経営陣の不正をめぐる裁判では弁護を担当していたカルロス・ゴーン被告が保釈中に海外に逃亡したことでも話題になった。弘中氏は吉田氏に協力を快諾し、弁明書の作成に協力するようになった。文科省の担当者が、裁判並みに厳密な審査を行わなければ、次は文科省が訴えられると心配したのは想像に難くない。
 第3に、吉田氏の精神的な状態だ。辞任届を提出した時期、吉田氏はマスコミ対応を当時の弁護士に任せており、周囲の問い合わせにも応じていなかった。選考会議としては、解任の申し出に吉田氏がここまで強力に旭川医大に対抗できるほどに気力が回復するとは予想していなかったのではないか。なお、吉田氏は本誌の取材に対して「辞任届を出した日からストレスから解放されて眠れるようになった」と語っている。
 想定外の要素があったとはいえ、選考会議が甘かったのは確かだ。選考会議による大学トップ解任の申し出には一つだけ前例がある。北海道大学ではパワハラを理由に総長選考会議が総長解任を文科省に申し出て、文科省が解任の決定を下したが、その間に1年近くの時間がかかっており、吉田氏についても審査の長期化は十分に予想できた。記者会見で奥村議長は文科省の対応が想定外だったと繰り返したが、ある医大教授は本誌に対して次のように語る。
 「昨年のうちに、文科省が解任ではなく辞任に傾いているとの情報は私の耳にも入っていた。解任を本気で求めるつもりなら、書類を出すだけでなく、政治家を通じて情報収集するなど、他に方法があったはず。それを今になって『文科省の対応が想定外で』などと言うのを聞くと、旭川医大の執行部や選考会議は生徒会レベルではないかという気がしてくる」
 昨年6月の時点で選考会議には、吉田氏の辞任を認めれば早期に医大の立て直しに着手できることはわかっていた。そもそも、選考会議が「解任」に向けて動き出したのは、「正常化する会」の発足後、教授会で吉田氏に自ら辞任するよう求める意見が出たにも関わらず、吉田氏が明確に拒否したことが大きな理由だった。辞職届の提出で目標は達成されたが、選考会議は解任にこだわった。今になって選考会議は、早期に西川体制を発足させ医大を正常化させるために、辞任を認めるという方針に転換したが、結果的に8ヵ月以上も回り道をしたことになる。

法廷で戦い続く?
 急変した事態について、吉田氏はどう考えているのか。3月3日、本誌が取材したところ、吉田氏に今後の行動について「弘中弁護士とも相談した上で、名誉毀損で大学を訴えることも検討する」と述べていた。しかし、3月8日に開かれ、ウェブ中継された吉田氏の記者会見で、同席した弘中弁護士は、医大を提訴することは考えていないと明言した。
 ただし、旭川医大が解任の申し出を取り下げたのは、あくまでも西川体制への早期移行が目的であり、解任相当との見解を撤回したわけではなく、文科省による審査の結論も出ていない。従来は文科省による審査が行われていることを理由に、34項目の解任事由の詳細を外部に明らかにしてこなかったが、3日に開かれた全学説明会で、出席者から今後の訴訟の可能性について問われた選考会議委員の川辺淳一氏(教授)は、「34項目は、解任申し出の取り下げで無になったわけではない。我々は吉田氏を解任できなかったが、金銭問題などについて、新執行部は悪いものは悪いと主張していくこともできるのではないか」と語った模様。仮に新執行部の下で法廷での「第2ラウンド」が始まれば、手間とカネはかかるものの、時間切れを気にせずに決着をつけることができ、旭川医大にとってはリベンジの機会になるかもしれない。
 もう一つの焦点が吉田氏に対する退職金の取り扱い。退職金は支払われるが、今後大学内外の委員から構成される経営協議会が減額すべきかどうかを検討することになっている。記者会見で弘中氏は「普通にいただきたい。こちらに非があったシンボルとして減額されるのは了承できない」と語っており、これも火種になる可能性がある。

「公益通報」調査 着々と進む
 本誌が前号で伝えたように、旭川医大では昨年11月の次期学長選考に向けた動きの中で、選考会議の奥村議長が、自らが率いる医局の医師・研究者らに西川祐司副学長への投票を依頼していたことをある教授が問題視、公益通報制度に基づく通報を行った。
 この記事について読者から本誌に情報提供があった。「通報が行われたのは最近ではなく、次期学長を選ぶ投票から間もない昨年11月のこと。また、奥村氏だけでなく、川辺氏も同様の集票活動を行っていたと通報者は主張している」。
 調査委員を務める学外の弁護士はすでに投票依頼を受けたとする人物を含む関係者からの聞き取りを行ったが、いつ結果が出るのかは未定。公益通報にどう対応するかも、西川体制のスタートに影響しそうだ。(西田)

表紙2204
この記事は月刊北海道経済2022年04月号に掲載されています。

転作交付金見直し 上川農業大打撃!

 昨年12月に農水省が方針を示したコメの転作助成金の見直し、厳格化で、北海道の農家が大慌てしている。とりわけ米どころ上川、空知では影響が大きく、農業関係者は将来への不安を隠しきれない。これまで年間2~300万円はあったとされる交付金がゼロになる可能性もあり、農業経営を極端に圧迫するばかりか、「究極的には農協の死活問題にも発展してく」と指摘する人もいる。いったい何がどうなっていくというのか─。

交付金の〝厳格化〟 つまるところ削減
 50年ほど前から始まったコメの生産調整は、初めはもっぱら稲作を休む「休耕」だったが、その後、コメ以外のものをつくる「転作」に重点が置かれるようになり、かつて田んぼだったところは畑となり、主に麦や大豆、飼料用作物、野菜などがつくられるようになっている。
 「転作」に伴う国からの助成は手厚く、さまざまな制度が設けられているが、その中でも代表的なのが「水田活用の直接支払交付金」(通称・水活)である。農業関係者以外は耳にする機会も少ない制度だが、高齢化する稲作農家にとっては農地を維持するための命綱のようなものでもあった。
 ところがこの「水活」の内容が来年度から大きく見直される方針が農林水産省から示されている。転作でつくる作物によって見直し幅は違ってくるが、一番深刻な打撃を受けるのが牧草をつくっている農家だという。農水省は、交付金の支払い条件を厳格化すると言っているが、厳格化とは交付金の削減を意味する。
 酪農業が多い北海道では飼料用作物である牧草の需要が多い。このため、コメからの転作を迫られた農家では、野菜類より比較的手軽に作れて販売先も安定している牧草づくりを始めた。稲作が主流の上川、空知管内では特にこうしたケースが多いのだという。

3万5000円がたったの1万円に
 では、転作農家の収入のよりどころとなっていた「水活」がどう厳格化されるというのか。農水省の案や各種報道によると、これまでは「水張りができない農地(あぜや用水路がない農地)は交付金の対象外」とされていた取り決めに、「今後5年間に一度も水張りが行われない農地は交付対象水田としない」という明確な条件が加えられる。
 「水張り」とは水稲の作付けを行うこと、つまりコメをつくるということなのだが、これから5年の間に〝水田〟で一度もコメをつくらなければ交付金は一切出さないということである。これまでも同様の趣旨ではあったが厳格なものではなく、あぜや用水路がなくなっていても牧草をつくってさえいれば交付金を受け取ることができた。ある種の温情的な〝見逃し〟だったのだろうが、明文化されてしまうとこれからはそういうわけにいかなくなる。
 実際、牧草をつくるようになってから必要のないあぜを取り壊したり用水路を使わなくなった農家は結構な数に及んでいるようだ。こうした農家にとっては、いまさらコメをつくれと言われても簡単に対応できるものではない。あぜや用水路が残っていたとしても、これまで牧草だけつくっていた農家にしてみれば、機械や設備も不十分で、コメづくりは容易なことではない。
 さらに、厳格化される「水活」では、牧草そのものがターゲットにされている。これまでは、毎年種をまかずとも5年~10年は収穫できていた再生能力の強い多年生牧草の場合、収穫さえしていれば交付金が出ていたが、これが「種をまかない年は単価を見直す」と変わってしまう。
 牧草の単価、つまり農家に入るお金は種をまいてもまかなくとも10アール(1反・300坪)あたり3万5000円だったが、これが、種をまかずに収穫だけする年は1万円と極端に下がってしまう。
 これまで3万5000円だったものがたったの1万円に。農地の規模によって違うが、多年生牧草をつくってきた農家にとって、この影響は限りなく大きい。

いまさら言われても手の打ちようがない

 農家の事情に詳しい人たちに話を聞くとこぞって、上川農業界の先行きを危ぶむ声が聞こえてくる。「5年に1度はコメをつくる、牧草は種をまかなければダメといっても、できる農家とできない農家が出てくる。できない農家は農業をやめなければならない」というのである。拾い集めた声を紹介すると……。
 「広い水田を持っていて水稲と転作作物をつくっているところは、ブロックを変えていくことで5年に1度はコメをつくるという条件をクリアできるだろうが、水稲を一切やめ、もっぱら転作作物をつくっているところは大変だ。しかもあぜも壊し、用水路もなくなっているところは手の打ちようもない」
 「牧草で3万5000円もらっていたのが1万円になると、とてもやっていけるものではない。3万5000円と言っても、種や肥料の仕入れ、刈り取り、土地改良区の賦課金(水利権)、農協の賦課金などの経費を払っていたら1万5000円くらいしか残らない。どうしても反(10アール)あたり2万円の経費はかかるのにそれが1万円となると、農家をやめるしかない」
 「稲作も転作もやらないとなると水田は荒れ、使い物にならなくなる。いざ売ろうとしても買ってくれるところもなく、たとえ売れたとしても安い値段しかつかない。農地の格が下がるわけで資産価値の問題も出てくる。農地を担保に取っている農協だって苦しくなるだろう。上川地域の中でも塩狩峠を越えた宗谷沿線は特に大変だと思う」誰に話を向けても、聞こえてくるのは嘆き節ばかりだ。

「見直し」を見直すことはできないのか
 そもそもこの転作交付金の見直しが政府案として出てきたのは昨年12月。農水大臣が国会で答弁したり、記者会見で「見直し」を言明している。ある農家の人は「政府内では昨年夏ごろから考えられていたことのようだが、われわれが知ったのは12月に入ってから。しかも今年から見直しが始まるという。一方的なうえに話が急すぎる」と戸惑いと怒りをあらわにする。
 今は、各地の農協で組合員との営農懇談会が開かれているところだが、農家が質問しても農協は何も答えられない状況のようだ。それもそのはず農協だって寝耳に水のような話なのである。
 国がすでに決めたこととはいえ、見直しをさらに見直すことはできないのか。問題の大きさに比べ、なぜか農業関係者の動きは鈍いような気がする。

表紙2203
この記事は月刊北海道経済2022年03月号に掲載されています。