四条通歩道フェンスで通行止めのワケ

 幅が広くて歩きやすい歩道は、東京や大阪に行ったときに気がつくこのまちの魅力の一つ。ところがいま旭川市内、しかも最も主要な道路である4条通(国道12号)に、歩行者が歩道から締め出された場所がある。フェンスが張られた理由を探るうち、このまちの中心街が直面するビルの廃墟化というリスクが浮かび上がってきた。

ネットバブル崩壊
 ガラス張りの新駅が誕生し、イオンが進出した一方で西武が撤退。うちA館が取り壊されたものの、この敷地にツルハが進出することが決まるなど、旭川駅前がめまぐるしく動いている。対照的なのが約1キロ離れた旭川市4条通4丁目。1970年に建てられた青い6階建ての「オリエントホテル」の建物が半世紀近くが経過したいまもそびえている。ホテルは10年以上も前に営業をやめ、固く扉を閉ざしたままだ。
 昨年秋、ビルの前に変化が生じた。目の前の歩道を遮るかたちでビルの正面のスペースがフェンスで囲まれ、歩行者が締め出されたのだ。フェンスには「通行止」「まわり道」などと書いてあるだけだ。
 「時々、旧オリエントホテルの前を歩いていたが、ある日フェンスで歩けなくなった。雪が積もる前は恐る恐る(国道12号の)車道にはみ出して歩いていたが、雪がフェンスの周囲にも積もると大きく迂回しなければならず、怖くて歩けない。仕方なく、いったん国道の向こう側に渡っている。早く何とかしてくれないと不便でしょうがない」との声が、読者から本誌に寄せられた。
 旧オリエントホテルの建物は、長年のオーナーだった人物から2007年9月に横浜に本拠をブリーズベイホテル㈱に2000万円で売却された。同社は全国各地でホテルを買収し、リニューアルして経営する事業を営んでおり、当時すでに帯広と釧路で全国チェーンのホテルを買収するなど、道内でも積極的な動きを見せていた。旧オリエントホテルもブリーズベイの手でリニューアルされて復活するはずだったのだが、しばらくして建物が1000万円で売りに出された。実地調査の結果、改修に予想以上の費用がかかることが判明したためだ。

IT拠点の夢破れ
 そしてこの建物を購入したのが、東京都港区に本社を置くIT企業の㈱アポロン(その後、㈱ミラホールディングスを経て、現在は澪ホールディングス㈱)。本誌は2011年9月号で同社の荒木久義社長に電話取材を行ったが、その際に荒木氏は「ビジネス上の友人を通して旧オリエントホテルが売りに出ていることを知り、安値で購入した」「購入価格は明かせないが、固定資産税や取得税、手数料だけで1000万円以上」などと説明した上で、この建物を建て替えてIT系の開発拠点や事務所を設立し、北海道出身で東京で働くエンジニアのうち北海道に戻りたいと考えている人を採用したいとの考えを示していた。
 しかし、建物を見る限り荒木氏の語るビジョンが実現する兆しはなかった。旧オリエントホテルのビルを取得した直後に景気が悪化してプロジェクトが凍結されてしまったためだ。荒木氏は取材に対し、「現在は経営改善に注力しているが、地方のエンジニアを採用して遠隔地で開発を行うとの目標は変わっていない」と力説していた。
 それから6年余り。アポロンの流れを受け継ぐ企業は澪ホールディングスとして存続してはいるものの、これまで社名変更に加えて、一部事業の他社への売却、本社移転などを繰り返してきた。これらの動きを見れば、安定経営とはお世辞にも言えない状態だ。旧オリエントビルも塩漬け状態が続いている。
 そして昨年、ビルの壁面に取り付けられていた金具が歩道に落下しているのが発見された。通行人に当たれば大けがのおそれもあることから、急遽、4条通の歩道のうちビルの前にある部分がフェンスで囲われた。2018年になったいまも状況は変わっていない。
 この建物は税金の滞納を理由に、2012年に北海道から、昨年には財務省から差し押さえを受けている。滞納分を払えない現在のオーナーに、建物を補修して安全を確保したり、いっそのこと建物を取壊してしまう余裕などあるわけもない。

戸建てだけじゃない
 困惑するのは行政と、ビルの敷地を所有する地主だ。「所有者に粘り強くお願いをしていくしかない」と説明するのは旭川市の建築指導課。ビルが立つ敷地を所有している近所の宗教施設は「ご迷惑をおかけしているが、私たちとしてはどうすることもできない」と説明する。この地主によれば、過去に行った試算によれば取り壊しに1億円以上が必要だという。
 市内の不動産業者は、旭川市内、とくに4階建て以上のコンクリート製建造物が集中する中心部で、今後同様の事態が頻発する可能性があると指摘する。「古くても定期的に補修されているマンションや雑居ビルがある一方で、放置状態で老朽化が急速に進んでいるのが明らかな建物もある。景気の低迷で空き室が増えたことも賃貸料収入の減少につながる。現在の所有者が運用収入を得ているとは思えず、いつか大規模な補修や取り壊しが必要になった時、お手上げになるのではないか」
 近年、注目を集めるようになった「危険空き家」は、旭川市内だけで予備軍を含め約500戸とも言われている。昨年12月には西地区で初めて行政による強制的な撤去が実行された。かかった費用は約380万円。市では所有者に請求したが、所有者に経済力がない場合には血税から支出されることになる。ビルの取り壊しにかかる費用はケタ違いに多く、市の財政状況を考えれば、軽々しく取り壊すわけにはいかない。
 障害物が少なくて歩きやすく、十分な幅を確保している歩道は、このまちの目立たない魅力の一つ。頭上からの落下物が心配で安心して歩けない時代が来ないことを祈るしかない。

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この記事は月刊北海道経済2018年2月号に掲載されています。