スピードマイニング(本社旭川)の将来性早くも〝枯渇〟?

 ビットコイン、仮想通貨、コインチェック…。ITを活用したお金の流れにまつわるニュースが騒がしいが、「私とは関係ない」と思っている人も多いはず。実はこの旭川に昨年、仮想通貨の流通に欠かせない施設が構築されたとの発表があった。しかし、ビットコイン相場の急落から明らかなように、仮想通貨はまだ大きな不安要素をはらんでいる。旭川の施設の将来性にも大きな疑問符がつく。

IT時代の「鉱山」
 かつて北海道は鉱業の一大生産拠点だった。道北だけでも、紋別近郊の鴻之舞鉱山では、金・銀・銅が採掘されていた。下川にあった下川鉱山からは黄銅鉱、磁硫鉄鉱を産出。富良野近郊の野沢鉱山ではクリソタイル(白石綿)を生産していた。留萌、羽幌、昭和炭鉱(沼田町)といった地域では石炭が生産され、日本のエネルギー需要を支えた。しかし、鉱物資源の枯渇や採算割れなどのために、こうした鉱山のほとんどは閉山し、いまでは廃墟となってまれに物好きなマニアが訪れる場か、鉱物生産に伴い大量に残された有害物質を堆積するだけの場となっている。
 2017年、旭川市内で久しぶりに「鉱山」が誕生した。場所は1条通10丁目のオフィスビル内。とはいえトロッコもボタ山もなく、必要なのは専用のコンピュータとネットの回線だ。すべてが計画通り、宣伝通りなら、この場所で「ビットコイン」という名の財産が生み出されるはずだった。
 ここで「採掘施設」を稼働させているのは、同ビル内に登記上の本社を置く㈱スピードマイニング(小嶋真由社長)。この企業のウェブページを開けば、現在、旭川で展開している事業の大枠がわかる。その説明の前に、仮想通貨とは何なのかを説明しなければならない。

膨大な計算への報酬
 仮想通貨とは、ネット上で我々が毎日使う現金のように取引される通貨のこと。専門取引所で現金と交換して購入・売却できる。当局による価値の保証がない反面、規制も受けない。紙・金属の実体としてではなく電子データとしてコンピュータに保存されている。現金はどこかの金庫に預け入れられるのに対し、仮想通貨は複数コンピュータで記録を共有・相互監視するブロックチェーンで管理されている。
 仮想通貨の中で最も有名なのはビットコイン。その後、リップル、イーサリアム、ライトコインといった後発組も登場している。仮想通貨が今後定着するか、商取引の決済で一般的に用いられるようになるかは不明だが、世界中で仮想通貨が新たな投資先として注目を集めたのは事実。とくにビットコイン(BTC)の円に対するレートは昨年4月には1BTC=13万円程度だったものが、しばしば下落しながらも年末に向けてじりじりと上昇し、12月17日には最高値の223万円まで達した。しかしその後急落し、2月7日現在では約80万円となっている。
 ビットコインなど仮想通貨はネットを通じた取引が中心であることから、一攫千金を狙ってなけなしの手持ち資金をつぎ込んだ若者も多い。昨年12月からの急落で、虎の子をすっかり失ってしまった人もいると伝えられている。その反面、ピーク時よりも安くなったいまこそが買い時だと判断して、ビットコイン取引に参入した人もいる。ビットコイン関連業者はなおもテレビやネットで積極的に宣伝を流しており、しばらくはフィーバーが続く可能性もある。
 仮想通貨には、円に対する日本銀行のような管理者が存在しない。代わりに導入されたのが、世界中に分散したコンピュータで仮想通貨の流れを追跡・記録する「ブロックチェーン」という概念だった。ブロックチェーンに乗せて仮想通貨を世界中で流通させるには、膨大な計算を行う必要があるのだが、その計算は有志が提供するコンピュータが担う。無報酬のボランティアではなく、計算量に応じてビットコインで報酬が支払われる。計算しただけで報酬が支払われるというのはあまりにもウマイ話に聞こえるが、実際にそういった話が転がっているのがIT業界だ。

3億円で500台
 このしくみに注目して設立されるのが「マイニングセンター」だ。高速で作動するコンピュータを導入、ネットに接続して作動させることで、報酬を獲得することを目指す。かかるコストは初期の設備投資と電気代、そしてシステムの運用スタッフに支払う人件費だ。
 このうち電気代は、コンピュータを動かすのにかかると同時に、熱くなったコンピュータを冷やすのにもかかる。つまり、気温が涼しい地域でマイニングを行えば、熱い地域よりもコストを抑えることができる。スピードマイニングが旭川進出を決めた理由は、まさにそれだった。
 ス社はホワイトペーパー(投資家向けの事業説明書)の中で以下のように説明している。
 「マイニングセンターは日本の北海道内を予定しています。(中略)日本の北海道は東京から遠く離れた地方で寒冷であり、拠点として適しております」
 ほかにもス社は▽まず自己資金3億円で500台のマイニングマシーンを発注済み▽その後ICO(後述)で30億円を調達、うち20億円でマイニングマシーンをアジア最大規模となる3000台購入、といった大風呂敷をホワイトペーパーで広げている。
 ス社がマイニング以上にウェブページで力を入れて宣伝しているのがICOだ。ICOとは「トークン」という独自の仮想通貨を発行し、投資家に販売して資金を集める行為のこと。仮想通貨の将来がバラ色なら投資家は利益を得られるが、その見通しが立たない現状では、投資家にとりリスクの高い投資先となる。ただ、ス社はWebページ上で、昨年11月付けでトークンの販売が終了したと説明している。販売予定額を売り切ったためなのか、ほかの理由なのかは明らかにされていない。事業への投資を名目に広く出資を募った企業の経営が破綻して大きな被害が出る事件は過去に何度も繰り返されてきただけに、ICOに応募した投資家としてはス社の今後の事業がうまく進むことを祈るしかない。
 この冬も旭川市民を苦しめている厳しい寒さがIT事業で強みになるなら、まさに「奇貨」。IT産業を発展させる絶好のチャンスだ。だが、さまざまな情報を総合すると、ス社の将来性には疑問符がつく。この「鉱山」がそもそも「虚構」だった可能性さえある。

「全日」の再興目指す
 2012年8月、「㈱全日本プロレスリングシステム」という会社が東京都文京区湯島で設立された。設立目的の冒頭には「プロレスの興行」と記されており、取締役には、渕正信という昭和のファンには懐かしいレスラーも名を連ねていた。
 この企業はその後、㈱アールワン→㈱きらめきアセットマネジメント→㈱小嶋不動産と転々と社名を替えていくことになる。会社の設立目的はそれ以上のペースでコロコロと変更され、不動産売買→各種債権の買い取り・保証→新車・中古車販売業→不動産の販売・運用と変遷した。社名が「スピードマイニング」、に変更されたのは昨年10月のこと。ほぼ同時に登記上の本社を旭川市内に移転している。
 こうした社名や目的の頻繁な変更自体に、法的な問題はない。注目すべきは、設立から2013年11月まで「白石伸生」なる人物が社長を務めていたという事実だ。
 実業家の白石氏はプロレス好きが高じて、ジャイアント馬場の死去以降、低迷が続いていた全日本プロレスの支援に名乗りを挙げたが、結局低迷を脱するには至らず、現在はプロレスと距離を置いている模様。SNSで奔放な発言を繰り返したこともあり、一時はプロレスファンに名を知られる存在だった白石氏も、最近ではほぼ忘れられた状態になっている。
 その白石氏の名前が再び登場するのが、㈱みんなのクレジットをめぐる騒動だ。同社はウェブサイトを通じて広く集めた資金を融資する「ソーシャルレンディング」事業を手がけていたが、関東財務局による調査で、集めた資金の大部分が親会社に集中していたことが判明し、昨年3月に1ヵ月間の業務停止命令と業務改善命令を受けた。8月にも東京都から業務停止処分(1ヵ月)と業務改善命令を受けた。みんなのクレジットは数千人から総額34億円を集めたと言われ、投資家は巨額のお金の行方に注目している。なお、白石氏は4月29日付けでみんなのクレジットの社長を辞任している。

「みんクレ」との関係
 話をそろそろスピードマイニングに戻そう。ス社は昨年11月、東京銀座に本社を置く㈱NEWARTの子会社である㈱ニューアート・コインとの戦略的業務提携を発表した。ス社はニュースリリースで「ニューアート・コイン社から弊社にマイニングマシーンが発注され、弊社が運用管理まで一貫してサポートして参ります。また、その結果、幣社が現在実行中のマイニングICOにおける投資家への仮想通貨リターン率はマイニング管理受託からのレベニューシェアによる追加マイニング収入が加算され、これまで以上に高くなります」と強調している。
 ここで白石氏が再度登場する。N社で会長兼社長を務める白石幸生氏は、前述した白石伸生氏の父親だ。
 スピードマイニングと、みんなのクレジット、NEWARTの関係をもう一度整理すれば…
①スピードマイニングの出発点となった企業で初代社長を務めたのが白石伸生氏
②その後、白石伸生氏が社長を務めたみんなのクレジットでは、ネットを通じて集めた資金の大半を関係会社に融資していたことが明らかになり、業務停止処分を受けた。出資金が出資者に戻ってくるかはいまのところ不明
③スピードマイニングはネットを通じて広くマイニング事業への投資を呼びかけている
④ス社の経営からは離れているように見えた白石伸生氏だが、父・白石が経営するN社のグループ会社がス社と提携を結んだ。
 現在、みんなのクレジットは投資家から訴訟を起こされている状況。ウェブの掲示板には、ピンチを打開するためス社とN社がICOを企てたのだろうといった観測も書き込まれている。
 本誌ではス社の旭川事務所に電話をかけて取材を申し込んだが「代表は東京にいて忙しい」「取材は受けていない」との回答。ウェブサイトを通じて再度取材を申し込んだものの、英文の自動返信だけが返ってきた。ス社の本社があるはずのオフィスビルを訪ねたが、入り口の雪の積もり方から判断して、人の出入りはほとんど行われていないようだ。

消えた580億円
 この記事の取材をしている最中に「コインチェック」事件が発生した。仮想通貨を取り扱っていた業者、コインチェック社のサーバーが不正に侵入されて26万人から預かっていた総額580億円もの資金が不正に引き出されたこの事件は、仮想通貨が多くのリスクをはらんでいることを浮き彫りにした。旭川の街角で計算するだけで富が生み出されるというのは投資家だけでなく市民にとっても夢のある話だが、冷静に見守る必要がありそうだ。

表紙1803
この記事は月刊北海道経済2018年3月号に掲載されています。