クリスタルホール 問われるプロポーザル の意義

 ステージ上で踊り、歌い、語る人が主役だとすれば、それを袖で見守るのが舞台のプロたち。旭川市は旭川市民文化会館・大雪クリスタルホールという主要なホールの舞台業務を民間業者に委託している。今年の1月から3月にかけて行われたクリスタルホールの舞台業務受託業者を選ぶ公募型プロポーザルで、長年この業務を受託していた業者を破って別の業者が選定を受けたが、その手法が議論を呼んでいる。他の業務分野を含め、公募型プロポーザルに参加する業者の姿勢に影響しそうだ。

評価点14点差で受託業者が交代
 旭川市大雪クリスタルホール。収容人数は旭川市民文化会館より少ないものの、音響効果に優れ、音楽関連の催しが数多く開催されている。こうしたホールは音響、照明、舞台などに特殊な機器を使用するため、プロでなければ設備操作は難しい。そこで旭川市が公募型プロポーザル方式で選定した民間業者に委託料を支払って、「舞台設備操作等業務」を委託している。
 今年1月から3月にかけて、4月からの受託業者を選ぶための公募型プロポーザルが行われた。応募したのは㈲イマージュ(上田司社長)と㈱ソングスエンターテイメント(佐々木聡社長)。このうちイマージュは、他の会場やイベントで舞台業務を数多く請け負い、大雪クリスタルホールでも長年、舞台業務を受託しつづけてきた企業だ。しかし、箱を開けてみれば選ばれたのはソングス。評価点はソングスが366・25点、イマージュが352点だった。この結果を受けて、ソングスは4月1日からクリスタルホールに入り、舞台業務を受託している。従来は2年契約だったが、今回からは3年契約に延長された。
 イマージュはこの選定結果に異議を唱えている。ソングスが「虚偽の申請を行った」というのが理由のひとつだ。ソングスは一連の指摘を否定、ルールに則って選ばれただけと主張している。

受注した業者に 「委託管理指導」
 争点のひとつは、ソングスの「実績」。プロポーザルで市に提出する書類には、過去の業務実績を記入しなければならないのだが、ソングスは「旭川市民文化会館および公会堂と大雪クリスタルホールとの委託管理指導業務」を実績として報告していた。しかし、過去の入札や公募型プロポーザルで選定された市民文化会館と大雪クリスタルホールで舞台業務を受託業者のリストを観れば、㈲サウンド企画、㈱旭川シティネットワークとイマージュしかない。「ソングス」の名前はどちらにも登場しないのだ。
 このあたりの事情には、舞台業務の小さな業界で起きた内紛が影響している。佐々木氏らは業界の「老舗」とも言えるサウンド企画から飛び出し、時間外手当の未払いなどでサウンド企画を訴え、旭川シティネットワークの柳澤紀夫社長(当時)に助けを求めた。柳澤氏は承諾し、旭川シティネットワーク名義で市民文化会館の舞台業者を決める入札に参加して落札に成功。実際の舞台業務は佐々木氏らソングス勢が担った。佐々木氏は当時を振り返り「柳澤氏からアドバイス、統括的な立場で指導業務としてやってくれないかと言われた」と説明する。「企画提案書には、旭川シティネットワークから受託した『委託管理指導業務』の実績を書いただけの話。問題はない。ヒアリングでも、審査委員からこの点については質問などはなかった」(佐々木氏)
 旭川市の社会教育部にもこの点について尋ねたが、問題視はしていない様子。「法人としての過去の実績を尋ねたが、それが元請けなのか下請けなのかは問うていない」。
 申請の際、業務実績を問われるのは、舞台業務には経験が必要だからだ。仮に「委託管理指導業務」が虚偽の申請だとしても、ソングスの関係者が過去に市民文化会館や他の会場で舞台業務を経験し、十分なノウハウを備え、円滑に業務をこなせるのなら、少なくともホールの利用者から不満は出ないはずだ。しかし、イマージュの関係者ではない人物から、ソングスのプロとしての能力を疑う声があがっている。
 本誌に寄せられた証言によれば、4月に開かれた音楽関係の催しで、同時に2台のピアノをステージ上に並べて演奏する曲目があった。リハーサルでピアノを動かしたところ、ソングスの舞台担当者の動きに問題があり、ピアノ同士が接触してしまった。幸い、ピアノの外観に傷が残ることはなかったが、プロが管理している舞台上で、ピアノ同士の衝突といった事態は到底考えられない。にもかかわらず本番でも、暗転した舞台でピアノを移動している時に、再びピアノが危うくぶつかりそうになる場面があった。
 こうした証言について本誌が尋ねたところ、佐々木氏は「当社の舞台担当者に対してピアノの動かし方について注意してほしいとの指摘があったことは聞いている。しかし、私は音響室から舞台を見ていたが、ピアノ同士がぶつかったようには見えなかった」と反論した。
 ソングスのこの舞台担当者については、イマージュとの業務引き継ぎの打ち合わせの際、「俺、舞台のことは知らないんだよな」と言っていたとの証言も本誌に寄せられている(佐々木氏は否定)。

価格以外では大差で負け
 ここで改めて今回の公開プロポーザルの審査項目と審査基準に注目してみる。評価は参加業者からのヒアリングを受け、書類も精査したうえで、▽業務に対する考え方(配点は65点)▽実施体制・資質向上(65点)▽経費見積額(44点)▽業務実績(10点)▽ホール運営に対する考え方(16点)について5人の審査員が各200点満点で採点。項目ごとに最高点、最低点を付けた審査員を除外して3人の採点を合計して決定した。このうち経費見積額については、採点の数式が定められており、非公表の最低経費見積額との差額が小さいほど得点が大きくなるしくみだった。
 合計の評価点はソングスが366・25点、イマージュが352点と公表されている。その内訳や、審査の席上、どんなやりとりがあったのかは明らかにされていないが、本誌が取材で得た情報によれば、経費見積額以外ではイマージュへの評価が圧倒的に高かった。ソングスではプレゼンの時間配分を間違ったのか、十分な説明を審査員に対して行うことさえできなかった。ところが、経費見積額についてはソングスがイマージュよりも大幅に安く、かつ基準価格以上だったために、合計点ではソングスが上回った。
 ある団体の関係者は「今後も当然、イマージュがやってくれるのだと思っていたので、審査結果には驚いた」と語る。
 公募型プロポーザルを担当した旭川市社会教育部は本誌の取材に「すべて、事前に公開されている規則に従って行った。現時点で、(3年後の選考のために)ルール変更の必要性があるとは考えていない」と説明。経費についての配点が多いのではないかとのイマージュからの問い合わせに対しては「財政状況などから経済性は非常に重視するべき点。今回のプロポーザル審査においても、経費は重要な項目であることから配点の割合を定めている」と回答した。
 佐々木氏は本誌の取材に「なんとしても取りたかった仕事。これまでは選定で敗れていたが、ルールに沿って申請し、今回は我々が選ばれた。それだけの話だ」と語る。

価格競争の意味合い濃くなる
 ソングスの手法は、たとえ佐々木氏の言う通りルールに沿ったものだったとしても、広い分野の業者選定に影響を及ぼしそうだ。公募型プロポーザルの導入前に行われていた競争入札では、シンプルな価格の勝負で勝者が選ばれていた。これに対して公募型プロポーザルでは、市があらかじめ予算額を提示(今回は3年間の総額で7249万2000円、税込み)し、その範囲内で実現可能な提案の中身を競うのが基本。過度の価格競争を防止し、質的な競争を促すのが狙いだ。基準価格以上なら安ければ安いほど有利なのは事実だが、予算額寄りの値段を提示するのが「常識」だった(イマージュは、予算額に近い金額を提示した模様)。ソングスの勝利は、大胆な価格提示で提案面での劣勢をひっくり返すことができることを証明したが、だとすれば通常の競争入札を行い、価格競争で業者を選定するのと大差なく、提案の質で勝負する業者は淘汰されてしまう。
 市がコスト削減に躍起になっているのはわかるが、公募型プロポーザルはなぜ導入されたのか。当初の目的を振り返るべきではないか。

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この記事は月刊北海道経済2021年06月号に掲載されています。