旭川の社福に「解雇無効」の重い判決

旭川市内のある社会福祉法人が「懲戒解雇は無効だ」として元常務理事だった職員から訴えられていた地位確認等請求事件に4月16日、旭川地裁から判決が言い渡された。判決は「解雇は合理的理由を欠き、相当性も認められず無効」というもので、原告の元職員の言い分が通った。景気低迷が続く近年、解雇をめぐる労働審判や裁判が件数を増しているが、この裁判、いったいどんな内容の争いだったのか。敗訴した社会福祉法人は、この先争っても負担が大きくなるとして控訴を断念している。

理事解任を解雇と誤解した理事長
 この社会福祉法人は住宅型有料老人ホームやグループホーム、小規模多機能など介護事業4施設、共同生活援助や生活介護など障害者支援事業3施設を運営している。理事長はじめ理事や監事、評議員には市内の著名人が名を連ね、福祉・介護業界では知られた存在でもある。
 元介護施設長で法人の常務理事でもあったAさんが理事長から懲戒解雇を言い渡されたのは2019年4月。これを不満とするAさんは間もなく旭川の弁護士を代理人に立て、解雇無効を訴える訴訟を起こした。
 それから2年。コロナ禍で裁判の進捗は遅かったが、やっと下された判決では原告の主張がほぼ認められ解雇は無効、つまり職員としての地位は守られるべきという結果になり、法人はAさんに対して、この2年間勤務を続けていれば得られていたはずの給料などをまとめて支払わなければならなくなった。
 そもそも法人理事長がAさんの解雇に踏み切った理由は、法人の職員で理事でもある社会福祉士の勤務状況が、実態と合っていないのではないかと疑問を抱いたAさんが、理事長に無断で、市から介護事業所に支払われる特別加算報酬の手続きを変更したため、法人に月額100万円の損害(減収)を与えたとすることからだった。
 理事長は、この時の変更手続きにおいて常務理事であるAさんが理事長印を独断で使用したことも善管注意義務に違反するとして評議員会で理事解任を決めた。理事長はこれでAさんを常務理事から外し、職員としても解雇したつもりになっていたのだが、理事の解任と職員の解雇は別の規定に基づくもの。
 ましてやAさんが行ったことは不正をただそうとする内部告発の類でもあり、公益通報者保護法の観点からも懲戒解雇は見当違いである。裁判所も判決ではこのことを指摘するかのように厳しく言及している。
 「理事長は当初、理事解任によって原告が当然解雇されたと誤解したこともあって、改めて懲戒解雇の要件を満たすか否かを十分に検討することなく、独断で場当たり的に解雇を行ったものと言わざるを得ず、原告を懲戒解雇することについて、およそ十分な手続補償がされていたとは認められない」

特別加算報酬 返還の可能性も
 解雇無効を訴えていたAさんは、09年3月に長年勤めていた旭川市役所を部長職で定年退職し、その後公民館の嘱託などをしていたが、18年5月にこの社会福祉法人の理事長に請われて法人本部の事務局次長として入職し、介護保険事業部で3つの介護施設の施設長を兼務していた。同年7月からは法人の常務理事にも就任、法人運営の中枢を担う存在になった。
 理事長はAさんが市職員時代に税財政を担当していた実績を評価し、法人に招いたのだったが、何事にも厳格で堅物のAさんとはそりが合わず、次第に距離を置くようになっていったようだ。
 社会福祉事業を担う公益法人とはいえ、経営のやり方は民間企業と大差はない。大きな物件の売買取引においても相手方とのあうんの呼吸というものがあり、また、職員の勤務状況についても多少の手加減はよくあることだ。しかしAさんはそれを見逃さなかった。
 今回の解雇無効を求める裁判では、理事長が職員であるAさんを解雇したことの有効性について争われ、弁論では勤務実態に合わない社会福祉士の特別加算報酬について証人尋問も行われたが、裁判所はAさんが理事長に無断で行った介護報酬変更届の作成、提出の手続きも「場合よっては受給した特別加算報酬の返還等を求められる可能性も否定できないから、その目的に一応の正当性があったと評価し得る」(判決文)としている。

敗訴した法人は控訴を断念
 2年に及ぶ裁判闘争で解雇無効の判決を勝ち取ったAさんは「職場復帰する」と話している。労働審判や裁判が終わった後、同じ職場に復帰するのはよほどの信念があってのことだろう。
 敗訴した法人側は判決から2週間たっても控訴しなかった。法人側弁護士に話を聞くと「この先控訴しても判決まで時間がかかる。すでに少なくない金額の支払い命令が出ており、今後さらに法人負担が増える可能性があることを考えると、控訴は断念することにした」という。
 Aさんは今後、法人を刑事告訴することも考えているようだ。

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この記事は月刊北海道経済2021年06月号に掲載されています。