公証人セクハラ裁判 被害者が一部勝訴

旭川市公証人役場の公証人が、セクシャルハラスメント(セクハラ)を職員だった女性に加えたなどとして、損害賠償と地位確認を求められていた民事訴訟の判決が3月30日に旭川地裁で下された。裁判官は、スマホに記録が残っている公証人のメッセージが一部セクハラに当たるとの判断を下して22万円の支払いを命じたものの、原告が主張していた身体的な動作について認めず、また地位確認の請求も退けた。被害者の証言以外には証拠の乏しいセクハラを裁判で立証することの難しさが改めて浮き彫りとなった。

提訴から約2年
 全国に約500人いる公証人。公正証書の作成という重要な役割を担い、遺言や任意後見など庶民の暮らしに関わりの深い活動も多い。高度な法律の知識、実務経験が求められることから、判事、検事、法務局長などを務めた人物から選ばれ、公証人倫理要綱には「公証人は、その使命に鑑み、品位を保持するとともに、社会的信用の向上に努めなければならない」(第3条)との文言がある。
 旭川公証人合同役場(旭川市6条通8丁目)の代表を務めているA氏が、高橋康子氏に損害賠償、地位確認を求める裁判を旭川地裁で起こされたのは2019年5月のこと。2019年8月号の本誌でも紹介した事態の概要は以下の通りだ。
 高橋氏は2010年に旭川公証人合同役場に書記として就職。A氏の前任者である2代の公証人の下で勤務してきた。18年7月にA氏が着任。高橋氏によれば、それから間もなく、高橋氏はさまざまなセクハラ行為に悩まされるようになった。
 高橋氏が裁判で主張したセクハラ被害は2つに大別できる。まず、スマートフォンのアプリによる、ハートマークや動物を模したキャラクターが抱き合う画像などを含む大量のメッセージ。次に、会食の際や役場での勤務中に、A氏が手相を見るとして高橋氏の手を触ったり、勤務時間中に体を密着させてくるなどの身体的接触だ。セクハラを受けて将来に絶望した高橋氏は、A氏の「やめるんだったら早く言ってもらわないと」との言葉に、退職届を提出してしまった。
 高橋氏は、セクハラと「違法な退職勧奨行為」でPTSDを発症した、退職の意思表示は無効、などと主張し①約668万円の損害賠償②労働契約上の地位確認と賃金と賞与の未払い分の支払いを求めた。
 これに対しA氏は、「スマホのメッセージは性的なものではなく、常軌も逸していない」「不必要な身体接触行為は一切していない」「原告の退職の意思表示は効力を有する」などと反論し、法廷での争いが続いていた。

「多いに不満」
 提訴から2年近くにわたる裁判を経て、この3月30日、旭川地裁で剱持亮裁判長ら3人の裁判官の名で言い渡された判決は、裁判における立証の難しさを改めて印象付ける内容となった。
 原告の主張のうち、スマホでのメッセージ送信については、約2ヵ月間にわたりA氏が高橋氏に大量のメッセージを送信、平日にはその大部分が業務時間外に送信され、休日には午前4時台に送信されたこともあった点に注目し、「業務上の必要性のみから行われたとは到底認めがたく、職場内の親睦を図るという趣旨があるとしても、社会通念上、相当な範囲を逸脱していると評価せざるを得ない」とした。また「被告の言動が原告にとって迷惑であり、性的な嫌悪感を含む精神的苦痛を生じさせるものもあることを認識しえたといえ、これを認識し、業務上の必要性に乏しいメッセージの送信を控えるべき注意義務を負っていた」とも指摘した。
 しかし、高橋氏の主張が認められたのはここまで。手相を見るとして手に触れたことについては、「当事者間で従前から手相の話があったことなどに照らし、このことが、社会通念上、許容される限度を超える行為であったとまでは評価され」ない、身体的接触については「認めるに足りる証拠がない」と結論付けた。退職の意思表示についても有効であり、退職合意は成立していると指摘した。
 その結果、裁判所はA氏にスマホでのメッセージ受信で被った精神的苦痛の慰謝料20万円に弁護士費用を加えた22万円の支払いを命じた。
 この判決について原告代理人の畑地雅之弁護士(あかつき法律事務所)は、「一部勝訴ではあるものの、全体として、セクハラ被害に対する無理解、不見識が目立ち、セクハラ加害者である被告公証人に過度に寄り添う姿勢も見え隠れする内容であるため、原告としては不満が大いに残る」とコメントしている。
 高橋氏も「ここまで被告に忖度するのかと驚いた。例えば手相について、私は『手を触っていいか』と被告に訊かれていないし、触ってもいいと私から言ったわけでもない。飲酒を伴う席で上司に体を触られていやな思いをする女性はとても多い。そういうセクハラ被害者の気持ちがまったく理解されていない」などと語る。一方で、メッセージ送信がセクハラ行為だと認められたことについては、「上司からの不愉快なメッセージを拒否できないまま返信している人が多いと思うので、その点は良かった」との評価を示す。

業界団体は説明拒否
 本誌は被告のA氏にも、今回の判決内容についての見解などを尋ねたが「弁護士に対応を一任している」とだけ連絡があった。弁護士からは「話すことはとくにない」。
 本誌は日本公証人連合会にも、今回の判決への見解や対応を尋ねた。同連合会のウェブページには「公証人は、公証人倫理要綱が定める指針に沿って日々の業務に励み、品位の保持に努めており、万一これにもとると認められる行為があった場合には、日本公証人連合会公証倫理委員会において、厳正、適切な対応を図ることとなっております」との記載があるのだが、担当者は「個別の事案については説明できない」と述べるだけだった。
 こうした事案では異例のことだが、高橋氏は今回、実名で取材に応じた。その理由について高橋氏はこう説明する。
 「私が名前を出すことで、社会が少しでもセクハラ問題に関心を持ってくれればと考えた。セクハラという言葉が登場してから30年が経つのに、まだ被害がなくならず、多くの被害者が『私さえ我慢すれば』と耐え忍んでいる。そんな状態は私たちの世代で終わりにしたい。子どもたちには、セクハラのない社会で働いてほしいと願っている」
 高橋氏は4月9日に開いた記者会見で、札幌高裁に控訴することを明らかにした。

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この記事は月刊北海道経済2021年05月号に掲載されています。