仰天情報 「北大が旭川医大を吸収」

 テレビや週刊誌でも盛んに報道された旭川医大の騒動。しかし全国的にみれば、すべての大学が直面するより深刻な問題は資金の不足。少子化のために学生の確保もままならず、私学に続いて国公立でも統合の動きが加速している。そんな中、「文部科学省には旭川医科大学の立て直しを図るつもりなどなく、北海道大学との統合を画策している」との驚きの情報が本誌にもたらされた。俄かには信じがたい内容だが、ある旭川医大関係者も「かなり前のことだが、確かに耳にしたことがある」と証言する。

「予算増やしてやる」
 本誌前号に掲載した記事「吉田学長支えた陰の実力者 太田貢学長政策推進室長の果たした役割」に関し、国立大学の事情に詳しいとみられる人物からの投書が本誌に寄せられた。その要点を紹介しよう。

  • 当該記事の結論に「旭川医大の立て直しは難しい仕事になりそう」と書かれているが、ピントがずれている。文科省は立て直しなどまったく考えていない。旭川医大は取り潰しあるのみ。
  • いまや国の金庫は空っぽ。国立大学のうち「雑魚」は統合・縮小・廃止。道内の国立大学のうち小樽商大、帯広畜産大、北見工大が集まって北海道国立大学機構となったのも文科省が「統合すれば予算を増やしてやる」との甘言を弄した結果。
  • 文科省が国際競争力を強化しようとしているのは旧帝大など指定国立大だけ。前総長をめぐるイザコザのため北大は蚊帳の外。文科省は指定をエサに旭川医大の吸収・合併を働きかけていくはず。
  • 旭川医大病院は「北大第2病院」となり、教育・研究機能は縮小・廃止されるだろう─。

 旭川医大が北大に吸収されるという、にわかには信じがたい話だが、本誌が取材した医大関係者は、淡々と次のように語った。
 「そういった話を私も聞いたことがある。八竹学長の時代だった。北大に吸収されるのを阻止しようと立ち上がり、八竹学長の再選を阻止したのが吉田学長。経営を立て直し、資金集めでも実績を上げた吉田学長の在任中は文科省としても統合を強いる理由がなかったが、今後、再び同様の要求を突き付けられる可能性がある」

残りわずか3校
 国立大学はいくつかの種類に分類できる。旭川医科大学は1970年代に全国各地で発足した「新設医科大学」のひとつだ。国立の新設医科大学は旭川医大を含めて17大学(既存大学の医学部として設置されたものを含む)。このうち単科の医科大学として現在も存続しているのは旭川のほか、浜松と滋賀の各医科大学だけだ。島根医科大学は島根医大医学部、山梨医大は山梨大学医学部になるなど、すでに多くが他の大学に吸収されてしまった。
 注目すべきはこのうち、浜松医大の動きだ。浜松医大は2019年に同じ県内にある国立静岡大学と統合に向けた合意書を交わした。浜松市と静岡市は約70㌔離れているが、静岡大学は静岡市内だけでなく、浜松市内にもキャンパス(2学部)を置いており、もともと統合が容易な状況にあった。構想によれば、静岡市内のキャンパスをひとつの大学に、浜松医大と静岡大学浜松キャンパスを別の大学にまとめ、2大学がひとつの国立大学法人に所するかたちに再編し、2021年の新法人発足、22年からの学生募集を予定していた。ところが静岡大学静岡キャンパスを中心に反対論が強まり、再編の延期が今年4月に発表されている。
 この再編が実現すれば、残る国立新設医科大学は旭川医大と滋賀医大の2校だけということになる。その滋賀医大についても、過去に滋賀大学、京都教育大学、京都工芸繊維大学との統合が検討されたことがあり、今後の状況次第では再編論が活発になりかねない。つまり、単科・国立の新設医科大学というジャンルの存在意義が問われているのだ。

国内では多くの前例
 道内の状況はどうか。医科大学について再編の動きはないが、冒頭に紹介した投書にもあったように、小樽商大・帯広畜大・北見工大が経営を統合し、国立大学法人北海道国立大学機構が2022年4月1日に発足することになった。機構本部は帯広に置かれる。これらの大学は少子高齢化などの社会変化に対応した統合の検討を2018年から続けており、それがようやく形になった。なお、この機構の初代理事長は公募で選ばれ、3大学の学長が理事として経営に参加する。今年の10月ごろには理事長が発表される見通しだ。
 こうした改革の狙いは、経営統合による効率化で、財源を研究・教育に重点配分することにある。しかし北海道は広大なだけに、3つのキャンパスの間で教員・学生が移動するのが難しい。同機構ではネットを使った遠隔教育にも力を入れる予定だ。
 3つの国立大学による経営統合はこれが全国で初めてのケースとなる。道内の国立大学では他に統合の前例はないが、実は全国的にみれば、そう珍しいことではない。2002年から翌年にかけて単科の医科大学が多数、同じ都道府県にある国立大学に統合されたのに続き、2003年には九州芸術工科大学が九州大学に統合され、東京商船大と東京水産大が統合して東京海洋大が誕生、07年には大阪外国語大学が大阪大学に統合されている。2020年4月には国立大学法人東海国立大学機構が発足して、名古屋大学と岐阜大学の統合が実現した。

市民には影響なし
 少子高齢化に対応して、私大についてはさらに多くの再編のケースがあり、今年は大阪医科大学と大阪薬科大学が統合して大阪医科薬科大学になった。来年は兵庫医療大学が兵庫医科大学に吸収されることになっている。少子化と国の教育予算の減少という大きな流れのなかで、大学の統合が時代のトレンドになっているというわけだ。旭川医大だけがこうした時代環境の外で安穏としているわけにはいかない。
 仮に旭川医大が北大に統合されれば、状況はどう変化するのだろうか。一般市民の立場から言えば、「第2病院」などのかたちで大学病院がここに残る限り、大きな違いはないはず。旭川医大から医師の派遣を受けている道北・道東一円の医療機関やその患者にとっても事情は同じだが、地元の受験生にとっては医学部進学のハードルが上がるかもしれない。一方、旭川医大に勤務する医師や研究者にとっては一大事となる。
 旭川医大と北大医学部の研究分野はほぼ重複しており、よほど独創性のあるものではければ統合後に並存するとは考えにくい。ポストは減らされ、研究職を得るのがいま以上に難しくなる。管理部門も札幌に統合される。文科省の最大の狙いは、まさにこうした大学間の統合を通じたコスト削減にある。
 もちろん、新しい旭川医大の学長が強力なリーダーシップで大学を立て直し、十分な研究資金を獲得できれば、これまでと同様、独力で存続することも可能なはずだ。
 なお、北大でパワハラを理由に解任された前学長の後任として昨年10月に就任した寳金清博総長は医学部出身。他学部出身の総長より医学部や大学病院の状況に詳しい。文科省から見ればいまが北大と旭川医大の統合を推進する好機ということになる。

次の学長は誰に?
 8月3日、旭川医大で学長選考会議の西川祐司議長が、集まった記者たちに対して学長選考規程を変更し、学長の任期を最長6年(1期4年プラス再選2年)、つまり以前の内容に戻すことを明らかにした。同時に西川氏は今後のスケジュールについて、8月12日に新学長の募集を公示、10人以上の推薦者を集めた人について9月13、14日に申し込みを受け付け、大学関係者に対する意向調査を経て、11月中には新しい学長が決まるとの見通しを示した。
 新学長にふさわしい人物として、西川氏(教授)や、今年3月末に病院長の任期が切れたあとも旭川市内に残っている古川博之名誉教授(前病院長)、長谷部直幸特任教授など複数の人物の名が取りざたされているが、具体的な動きは見えてこない。
 コンプライアンスの観点から言って、吉田学長が大学トップのイスにこれ以上座り続けることは不可能だった。しかし、吉田学長が文部省からの統合要求を押しとどめる役割を担っていたとすれば、新しい学長には、ガバナンスの立て直し、研究や教育のレベルアップ、研究資金の獲得に加えて、統合の構想を再浮上させないだけの実績を示す手腕が求められることになる。

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この記事は月刊北海道経済2021年09月号に掲載されています。