医科大学あるのに旭川の〝精神科〟なぜ不足?

 ストレスフルな現代社会では、誰でも統合失調症、気分障害など精神的な病気のリスクを抱えている。ところが旭川市内では精神病の治療機関が他の道内都市と比べて不足しており、受診するまでに時間がかかることもある。その一因が精神科医の供給源となるはずの旭川医大の研究体制。本号が書店に並ぶころ、旭川医大では新しい学長が決まるが、新しい精神医学講座教授の人選も大切な仕事になる。

帯広苫小牧下回る
 旭川市内の精神障がい者の数は7854人。病類で分ければ統合失調症がこのうち2279人、気分障害(うつ病、そう病、双極性障害)が2527人に達する(2019年度)。コロナがまだ上陸していなかったこの年の旭川市内におけるインフルエンザの感染者数5470人と比較すれば、精神的な病気が市民にとり「身近な」問題であることがわかる。ちなみに、同年のうちに新たに報告のあった精神障がい者の数は、合計1034人。このうち統合失調症が132人、気分障害は296人だった。
 ところが、旭川ではこうした精神的な不調に対応する医療機関や医師の数が不足している。タウンページ2021年版(掲載データは同年2月現在)で旭川市内の病院・医院から「精神科」のジャンルに掲載されているものを探すと、その数は9ヵ所(近隣市町村の医療機関除く)。道内のほぼ同じ規模の都市と比較すれば、函館は8ヵ所、帯広市内は7ヵ所、苫小牧市は7ヵ所。これら4都市のなかで人口10万人あたりの精神科の数は旭川が2・7で最低、帯広の4・2に遠く及ばない。本誌は過去に何度か、個人や企業の平均所得で旭川がこれらの都市に追い抜かれたと報じてきたが、精神医療でも旭川は立ち遅れているようだ。
 ある市民が、旭川市内における精神医療機関の不足を物語るエピソードを紹介してくれた。「2年ほど前のことになるが、知人が精神的な不調に見舞われ、死にたいという衝動に駆られるようになった。すぐ精神科の受診を薦めたが、結局受診できたのは2週間経ってからだった。電話では、それまでは予約が入っているので来ても診ることができないと言われた。幸い、その知人はピンチを乗り切りいまも元気で暮らしているが、希死観念があっても順番待ちしなければならないのかと驚いた」
 基幹病院も精神科は手薄だ。旭川医大附属病院、市立旭川病院には精神科があるが、旭川赤十字病院と旭川厚生病院の精神科は休診中となっている。(独法)国立病院機構旭川医療センターには精神科がない。このうち厚生病院のウェブページには「医師不在のため休診中」と記されている。
 旭川は「医師のまち」と呼ばれる。旭川医大が附属病院で医療サービスを提供するだけでなく、旭川市内や道北・道東一円に対する医師の供給源となっている。他の地域よりも有利な位置にいるはずの旭川で、なぜ精神医療機関が不足しているのか。「その一因」と市内の医師が指摘するのが、旭川医科大学精神医学講座の研究体制だ。

前任は睡眠の専門家
 この講座では精神医学のエキスパートを多数養成しているのだが、一口に精神医学といってもその守備範囲は広い。現在、この講座は教授が不在なのだが、2020年度末まで講座を率いた元教授は睡眠障害の専門家だった。附属病院には道内唯一の「睡眠クリニック」も設けられている。講座の業績一覧を見ても、睡眠関連のものが目立つ。眠らない人は一人もいないから、この研究には学術的な意義があったのだろうが、問題はストレスフルな現代社会では、統合失調症、気分障害、そして高齢化社会で深刻化する認知症に対する医療サービスのニーズのほうがはるかに大きいということだった。
 では、いま精神医学講座はどうなっているのか。教授不在となり、昨年11月には後任教授の公募が行われた。ところが、当時は吉田晃敏学長が学内人事について絶対的な権限を握っており、(学長が興味を持たない分野を除き)学長のお気に入りになることが教授就任の第一条件だった。コロナとパワハラ問題で教授選考どころではなくなり、公募に応じた人がいたにもかかわらず新教授は選ばれなかった。医大関係者は「学長には何度も人選手続きを進めるよう進言したが聞き入れられなかった」と語る。
 その後、学長にからむ問題が進展したことから、仕切り直しで教授の公募が行われ、10月29日に公募が締め切られた。今後選考手続きが行われ、来年2月1日に新教授が着任する予定。今回の再公募を告知する文書の冒頭には、前回はなかった「超高齢社会における認知症対策やがん緩和医療等の社会ニーズに応えるための精神科領域の診療及び研究を指導し…」との文言が加えられている。社会ニーズに向き合う必要性を旭川医大としても認識しているということだろう。

中心街で増加の兆し
 なお、旭川医大では基礎研究部門の重要な一環であり、感染症の流行で注目が集まる微生物学講座でも教授不在の状態が続いている。精神医学講座と同様、微生物学講座でも昨年公募が行われたが、その後の選考手続きは進んでいなかった。こちらの講座についても仕切り直しで新しい教授の再公募が行われることになっている。
 旭川市内の中心部では今年、複数の精神科クリニックが誕生した。実は前述した人口あたりの比率は現時点ではやや高まっている。いまや統合失調症、気分障害といった心の病気は特別なものではなく、自身や家族が患う可能性は誰でもある。内科や耳鼻科と同様、気軽に受診できる環境を整えるためにも、精神医療機関の増加が待たれる。

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この記事は月刊北海道経済2021年12月号に掲載されています。