学長選考会議議長が選挙活動か

 旭川医大のある教授が、公益通報制度に沿って、昨年11月に行われた学長選考についての問題行為について通報を行った模様。学長予定者に選ばれた西川祐司氏の正式就任のメドは立っていないが、西川氏を含む現在の大学執行部が対応を誤れば大学は「再スタート」でつまづきかねず、調査が行われるのかどうか、どんな結論に達するのかが注目される。(記事は2月5日現在)

最大勢力率いる
 複数の医大関係者から集めた情報を総合すれば、公益通報の対象になった行為は、学長選考会議で議長を務めている奥村利勝教授の、意向調査(投票)期間中のいわば「選挙活動」だとみられる。
 学長選考会議は大学関係者と行政や企業など学外の関係者からなる組織で、最も重要な役割は新しい学長の選出。現役の学長が不正行為や学長として不適切な行為を行った場合には、文科省に解任を申し出るというもう一つの重要な役割もある。
 選出に向けた手続きの正当性を担保するため、学長選考会議に中立公正であることが求められるのは言うまでもない。野球の審判がどちらかのチームをひいきすればゲームは成立せず、議員や首長の選挙で選挙管理員会が特定の人物に投票するよう呼びかければ、公正な選挙など不可能だ。こうした中立を破っても許されるのは、圧政国家におけるうわべだけの民主選挙か、昭和の女子プロレスの「悪徳レフェリー」くらいのものだろう。
 旭川医大では、副学長の西川祐司氏が学長選考会議の議長を務めており、吉田晃敏学長の職務を停止し、辞任届を出した吉田氏の解任申し出に向けた動きの中で中心的な役割を果たした。その後、西川氏が自ら後任の学長に名乗りを上げ、議長を辞任したのは当たり前の話。選考する側と選考される側を兼ねることはできないからだ。後任として学長選考会議の議長に選ばれたのが、奥村氏だった。
 奥村氏は内科学講座(病態代謝・消化器・血液腫瘍制御内科学分野)の教授。昔なら第三内科と呼ばれた領域のトップだ。吉田時代に進められた講座の再編の結果、「病態代謝・消化器・血液腫瘍制御内科学分野」は旭川医大の最大勢力となっている。
 学長選考に向けた投票が行われたのは昨年11月15日のことで、8~12日には不在者投票の期間も設けられた。その前から本誌には医大関係者から、奥村教授が「西川氏への投票を呼び掛けている」との情報が寄せられていた。このため本誌は旭川医大事務局を通じて以下の質問を送付した。
 「本誌には、奥村教授が学長選考会議委員を務めながら、内科系教職員からの集票を目指して活動を行っているとの情報が寄せられているが、学長選考会議の中立性の観点からみて問題があるのではないか」
 11月9日、事務局から回答があった。
「奥村教授へのご質問については、ご質問の前提の事実は確認できませんでした」
 11月15日の記者会見で奥村氏が議長として発表した投票結果は、165票を西川氏が獲得。151票の山本明美教授、45票の長谷部直幸名誉教授を上回って1位となった。投票結果判明後の学長選考会議では一部の出席者から、西川氏と山本氏の差が小さいことから決選投票を行うべきではないかとの意見も出たが、これは採用されず、投票の結果に沿って西川氏が学長予定者に決定した、と奥村氏は淡々と説明した。
 いまも学内の一部には、決選投票が行われなかったのはおかしいという声がある。しかし、決選投票しなければならないとの明確なルールはなく、学長選考会議の決定を誤りだと断定することはできない。また、「誰と誰が旭川医大の同期だから」といった癒着を指摘する声もあるが、旭川医大は規模が小さく、現在の大学幹部は多かれ少なかれ個人的なつながりで結ばれており、こうした関係を問題視することにも無理がある。
 が、学長選考会議のトップが中立を守っていなかったとすれば、まったく別次元の話だ。

有力証拠出るのか
 旭川医大の公益通報制度とは、どんなしくみなのだろうか。「国立大学法人旭川医科大学公益通報者保護規程」によれば、「公益通報者保護法に則り、本学に対する本学職員からの組織的又は個人的な法令違反行為等の事実が生じ、又は生じようとしている旨の通報若しくは相談に関する適正な処理の仕組みを定めることにより、不正行為の早期発見と是正を図るとともに、通報者又は相談者を保護することを目的とする」とある。通報者は問題の行為が組織的又は個人的な法令違反行為に該当すると考えているということだろう。
 この規程は、学長が予備調査を行って調査を実施するかどうか決定し、調査する場合には副学長のうち1人、教授から3人、事務局から1人などからなる調査委員会を設置すること、公益通報等がされた事項に関して協力を求められた者は、当該調査に協力しなければならないことなどが盛り込まれている。
 規程が定める調査委のメンバーを見れば、公益通報を受けて、松野丈夫学長職務職務代理や事務局が徹底的な調査に乗り出すとは考えにくい。が、公益通報に具体的な内容や証拠が含まれていれば、あるいは証言者が現れれば、調査委もなにもしないわけにはいかないのではないか。

西川学長就任はいつ?
 1月中旬、医大関係者から「公益通報が行われたらしい」との情報をつかんだ本誌は、通報者である可能性が高い教授に取材を申し込んだが、取材には応えられられないとだけ連絡があった。なお、誤解を避けるため記しておくが、本誌が通報者だと考えている人物は、学長選に立候補した長谷部名誉教授、山本教授ではない。
 1月下旬に本誌が取材した医大関係者は「奥村教授が学長選考会議議長でありながら西川氏への投票を呼び掛けているという話は、私も聞いていた。前回、投票で学長が選ばれたのは2007年(この時は吉田氏が初めて学長に選ばれた)。当時の学長選考会議は完全な中立を守ったと記憶している」と語る。
 組織である以上、新しい学長を選ぶ際に医局が投票権を持つ個々の教員の自主的な判断に完全に任せるとは考えにくい。医局トップが特定の人物を応援したとしても、批判はされないはずだ。しかし、学長選考という重要な手続きを進める立場にあった人物が、仮に、自らの指揮下にある人物に誰に投票すべきかを指示したり、集票活動に関わったりしたとすれば、学長選考の結果に一部の医大関係者が強い疑念を抱くのもやむを得ないのではないか。また、こうした疑念は本誌が1月号で紹介した投票直前に学内でまかれた怪文書や、教授会での「火のないところに煙は立たず」とのヤジに象徴される姿勢によって一段と深まっている。
 また本誌には、今回公益通報を行った可能性が高い教授が最近の教授会で一連の問題を指摘したところ、逆に激しい批判にさらされてしまい、大学の正常化のためには最後の手段を選ぶしかないと覚悟を決めて通報に至ったようだとの情報も寄せられている。
 「学長予定者」に選ばれてから3ヵ月近くが経っても、西川氏の肩書からは「予定者」が取れない。吉田氏の扱いを文部科学省が決めかねている現状では、そのメドも立たない(「日大理事長をめぐる騒動に忙殺されている文科省には、田舎の小さな医大にかまっているヒマなどないだろう」との見方もある)。
 が、調査の争点は吉田氏の自発的辞任を認めるか、解任するかであり、西川氏の学長就任は時間の問題だ。コロナへの対応以外にも、研究レベルの引き上げ、空席だらけとなっている教授の選考、予算の獲得など課題が山積している西川体制だが、公益通報への対応を間違えれば、もう一つ大きな課題を抱え込むことになる。

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この記事は月刊北海道経済2022年03月号に掲載されています。