厚労省から〝お墨付き〟中央精工「臓器灌流保存装置」

 精密機械加工の〝匠〟旭川市の「中央精工㈱」(永山2条11丁目)が、これまで培ってきた産業用の自動装置技術を駆使して開発した「臓器灌流保存装置」が厚生労働省から国内で初めて認証された。日本の移植医療の発展につながる快挙で、医療機器として製造販売することが可能になった。

臨床試験15例全て成功

 この装置の正式名称は「腎臓用臓器保存庫CMP─XO8」。一般的に移植用の臓器は、ドナー(臓器提供者)の体から取り出した臓器を患者に移植するまで劣化しないようクーラーボックスに保存するが、血流が途絶えるため、臓器の機能は低下してしまう。そこで中央精工が開発したのが、保冷庫に保存した臓器にポンプで栄養素や酸素を注入した保存液を、循環させて保存できる装置だ。

 保存液の圧力や流量が数値で表示されるため、医師が移植可能かどうか、判断する材料にもなる。この装置を開発して2020年以降、国内で実施した腎臓移植臨床試験の全ての移植を成功させている。東北大学で導入したのをはじめ(2020年7月)、東京医大八王子医療センター(21年1月)、藤田医科大学(同4~11月)などの15例に及び、いずれも支障なく移植に成功。中にはクーラーボックスでの保存と比較して移植後の腎臓の回復が早く、人工透析をスピーディーに済ませることもできたケースや、以前は移植できなかった腎臓を臓器灌流保存装置で回復させて移植につなげたケースもある。
 この装置は、栄養液の温度や流量、圧力のほか、移植用臓器の保存液を循環させる(灌流)システム。臓器移植には生体移植、脳死下移植、また心停止移植があるが、ドナーには負担がかかる。一般的な腎臓の保存可能時間が24時間程度であるのに対して、中央精工が開発した装置の導入によって72時間と大幅に延びた。さらには手術に携わる医療従事者全体の負担軽減にもつながる。今春、中央精工は肝臓用の装置も認証を目指して厚労省に申請する意向だ。

旭川医大から要請受け開発
 そもそも中央精工では2015年11月、北海道経済産業振興局から今回の「臓器灌流保存装置」を開発する共同研究プロジェクトに加わるように打診されて参加を決断。このプロジェクトは旭川医大、都立大、北見工大との連携・協力によって進められてきた。以来、16年4月ごろから設計に入り、6月ごろ製作に着手。10月に旭川医大で肝臓の保存実験を視察しながら装置の開発に努め、同年11・12月に人体にうまく適合するかどうか注目しながら、豚の肝臓を使って灌流保存性能の精度を向上させた。この際に、予想以上の成果が得られ、旭川医大の担当教授から「今まで移植を断念せざるを得なかった臓器をよみがえらせる事ができる可能性が広がる画期的なもの」との評価を受けることができた。
 2月には北海道経済部産業振興局健康長寿産業グループを介して、開発した新装置を大阪で開かれた「医療機器開発製造展」に出展し、医療関係者らの関心を集めた。
 その後、同年9月には旭川市内で日本移植学会、東京ビックサイトでは11月「ホスペックスジャパン2017」と銘打つ医療福祉機器開発テクノロジー展示会に出展して好評を博した。旭川医大から臨床機器開発の要請を受け、肝臓だけでなく腎臓用の機器も開発することになり、同年11月に肝臓用と腎臓用ともに小型化に成功。よりコンパクトな形で機能を備えている。

7年がかりで「認証」将来的には海外市場
 中央精工の本社社屋の壁に額装された指定管理医療機器製造販売認証書。ドイツに本社を置く認証機関から届いたものだ。7年がかりで認証にこぎ着けた佐々木工社長は、「これまで産業用の自動装置を作ってきた経験を活かすことができました。作れるという自信もありましたが、何よりもモノづくり企業としてレベルアップを図れました」と職人魂の片鱗を覗かせる。
 心肺が停止した動物の臓器を使い、さまざまな条件のもとで試行錯誤を重ねた実証実験。同社のパーツ工場の一室に設けられた医療機器製作研究開発室ではハードウェアの組み立て作業に携わる専門スタッフが常駐した。その甲斐あって医療機器製造業許可を2018年、第二種医療機器製造販売業許可を20年に取得して同年から腎臓移植臨床試験をスタートさせた。
 しかし、開発した臓器灌流保存装置の製造販売認証を受けるに際しては、「薬機申請(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律「薬機法」に基づく)のための体制づくりに心血を注いだ」と佐々木社長。複数回にわたって出展した展示会では、「欧米では当たり前のように使用されている灌流保存装置がようやく日本でも開発することができた」と実感する機会にもなった。そして日本企業として初めてとなる製造販売の認証を受ける快挙を果たしたわけだ。
 臓器移植をめぐっては課題もある。日本の移植医療そのものが他の先進国に比べ立ち遅れているからだ。それでも「この装置を用いることで臓器を劣化させることなく、健康状態を保ったままで移植することができる。アメリカや中国でポピュラーに行われている移植医療を発展させたい」と佐々木社長。将来的には、同社としては東南アジアをはじめとする海外市場への展開も視野に入れる。

日本臓器保存生物医学会でも披露
 中央精工は1970年に現社長の佐々木工氏が㈲中央鉄工所として創業。金属部品製造に携わってきたが、試行錯誤を経て、大根やニンジンの洗浄機、玉ネギの皮むき機など農業用機械の設計・製作、修理・メンテナンスほか、電磁クラッチの部品製作といった産業用機械加工業に取り組んできた。
 事業の安定化を目的に、木工場や農機具以外にも幅広い分野からの受注を心がけ、自動車・電子部品、飼料、精密機械の各メーカー、飲料水・食品業界などの顧客を獲得。フォークリフトのキャビン(運転席)や爪の製作、顧客の工場に設置された設備のメンテナンスにも着手するようになった。
 これらの設備の製作を通じて製罐工事や機械加工の技術に磨きをかけて、発展させたのが精密機械加工業だ。この精密機械加工技術は、電子機器に使われるプレス部品にも活かされるようになり、92年からはプレス事業を始めるとともに社名を現在の中央精工に改めた。薄板を扱うプレス加工も可能で、「深絞り」と呼ばれる特殊技術はとりわけ高い評価を得ている。
 高付加価値、高生産性、自動化など様々な利点を備えた最先端の複合加工機を導入。設計から製造まで一貫した社内ラインで迅速に作業できるのが強みでもある。「ミクロン単位の超精密加工の技術と品質は各顧客から高い評価を得ることができるようになりました」(同社営業担当)という。
 プラスチック製品では、最もポピュラーな加工法「射出成型」を駆使してオートメーションによる24時間製造体制を実現。完成した製品を検査する米国製高性能「カールツァイス高速CNC三次元座標測定器」を所有しているのもモノづくり企業としての強みと言える。
 やがて医療機器部品の試作を手がけ好評を集め、2016年からスタートした臓器灌流保存装置の開発に努め、ついに製造販売の認証を受けることになった。これも同社が長年培ってきた金型設計と精密加工技術、さらには最先端テクノロジーをバランスよく融合させた伝統と革新のモノづくりの技術の結晶ともいえる。
 「移植医療の究極は、脳の移植」。臓器移植法が改正されて10年の歳月が流れ、日本の移植医療事情にも少しずつ変化が見られる。今年10月には旭川で日本臓器保存生物医学会が開催され、厚労省から〝お墨付き〟をもらった精密機械加工の匠の作品が披露される。「これからも時代とともに変化するニーズに、柔軟かつスピーディーに対応し、品質至上主義に徹する」とは佐々木社長の信条。人の生命にも関わるモノづくり企業の未来を見据える眼差しが見つめる先に期待したい。

この記事は2023年03月号に掲載されています。

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