江丹別の里山をキャンプ場に

 過疎で人口が250人ほどに減り、域内の高齢者(65歳以上)が6割に迫る限界集落・旭川市江丹別町地区。若者たちが乗った2台のピックアップトラックが幌加内線を北上し、伊勢ファームを越えたあたりで右手に入り、北の里山に吸い込まれた。自らの手で木を間引き、草を刈り、道をつくり、整地する。若者たちは、キャンプ場を手造りしていた。

江丹別に魅せられ
 森に入ると、雪解け水のせせらぎを伴奏に野鳥が美しい〝ソプラノ〟を聴かせてくれた。漂って来る森の匂い。この素晴らしい空間を「仕事場」とする野良着姿の女性2人と男性2人の顔に自然と笑みが浮かぶ。
 野中瑠馬さん(27)、野中えりさん(28)、鈴木愛(まな)さん(25)、小館佑太さん(27)。4人は、札幌の医療関係の専門学校で学んだ仲間だった。卒業後、理学療法士として仕事に就き、それぞれの道を歩んできたが、江丹別の森が4人をリボンのように結び付けてくれた。
 瑠馬さんは、4年ほど前にキコリに転身し、江丹別の山を3年ほど前に購入した。この山の森を散策し、豊かな自然を感じてもらう瑠馬さんのイベントに参加したのが愛さんだった。
 そのころ、愛さんは心身共に疲れていた。森の匂い、広葉樹の葉のざわめき、鳥の声に癒された。「森の中で何も考えずにボーッとしているだけで良かった。ただただ、森に居たいと思った」
 江丹別の森に魅せられた愛さんの熱い思いに応えるかのように、佑太さんは、愛さんとともに江丹別町に移住した。

森の姿を生かしたキャンプ場造り
 愛さんを魅了した里山は、キコリの瑠馬さんが所有する。「森の素晴らしさをたくさんの人に知ってほしい」。愛さんのそんな思いを叶えてあげようと、専門学校の同窓生らで構成し、瑠馬さんが代表を務める森を生かした地域おこし団体「モリノワ」がキャンプ場を造ることを計画。瑠馬さんの指導の下、モリノワのメンバーの協力も得ながら、4人は昨春からキャンプ場造りに汗を流してきた。
 自らの手でササを刈り、瑠馬さんの手ほどきを受けながら木を間引く。間引いた木を利用し、階段を造る。整地し、道路を造る。4人は力を合わせコツコツ、一つひとつの作業にいまも丁寧に取り組んでいる。
 「野中さんの弟子です」。愛さんは、弾けるような笑顔を記者に向けた。森の中で仕事をすること自体を4人は楽しんでいるようだ。
 山仕事に従事する瑠馬さんは、キャンプ場造りで愛さんが次第に変わっていく様子を見ていた。「最初はまったく重たい物は持てなかったけど今は握力もつき、自在にチェンソーを操る。以前は自分のことばかりに目が向いていたけど、人に与えたい、何かを伝えたいと考えて行動しているうちに別人になった」
 愛さんだけではない。愛さんのパートナーの佑太さんは、「お金の価値が自分のなかで低くなり、モノのありがたみが腹に入った」と照れたように笑う。
 手造りキャンプ場のコンセプトは、「五感で森を感じられる空間」だ。森の姿を極力生かし、自然に配慮した癒しの空間を目指す。
 アスファルトに白線を引いた駐車場、水洗トイレ、シャワー、炊事場……。そんな昨今のキャンプ場と趣を異にするスタイルは、環境へのローインパクトを指標に掲げ、近年世界的な潮流となっているSDGsの理念に合致した試みでもある。「火をおこすことが『大変だな』って実感するでしょう。ここに来たら不便を楽しめるようになるはず」(瑠馬さん)

森のまんまの姿でキャンプ場
 森がキャンプ場なのか? キャンプ場が森なのか、という記者の問いに、愛さんと野中さんは答えた。「森そのまんまの姿でキャンプ場がある。そんな感じにしたい」
 名前は「coco moriキャンプ場」。愛さんが代表だ。場内およそ1㌶の敷地を4区画に分け、木を素材に自由にモノづくりが楽しめるクラフトゾーンやテント泊ゾーンなどに分けた。
 中でもハンの木を利用したツリーテラスはこのキャンプ場のシンボルだ。大人が8人ほど乗っても大丈夫な設計で、上に立てば森の住人になったかのような気分を味わえる。
 年輪をイメージした直径2㍍ほどの六角形のウッドデッキもある。周囲の広葉樹を枝払いしたことで、仰向けに寝転んで星空を眺めることができる空間が広がった。立木を利用したブランコや、専用のひも状のものを2点間に張り渡し綱渡りが楽しめるスラックラインで遊ぶことも可能だ。空中ハンモックに身を委ね、ゆったりとした時間を過ごすこともできる。生物に配慮し、テント内の照明を除き、場内は原則灯り禁止となっている。
 これまで公的助成も受けず造成費用は4人の持ち出して頑張ってきたが、受付小屋の資材調達のため昨秋ネットで資金を募るクラウドファンディングを実施し、67万6500円を獲得した。4人のキャンプ場造りの共感の輪が広がりつつある。

江丹別と都会 結ぶ架け橋に
 見知らぬ4人が江丹別市街地の北に広がる森で、もぞもぞやっているのを、江丹別の古老らが見にやって来る。瑠馬さんのパートナーのえりさんは、「気持ちのいい人ばかり。遊びに来てくれて、私たちの車のタイヤの空気が抜けたり、車がはまったりしたら助けてくれた」。古老らは、やって来ては「(オープンしたら)遊びに行くね」「長いこと頑張っとる」などと声を掛けてくれるようになった。4人の若者が汗する姿を江丹別住民は見ていたのだ。
 「恩返しをしたい」。4人は、今年4月に理学療法士の資格・ノウハウを生かし、江丹別のおじいちゃん・おばあちゃんに恩返しをしようと地元の公民館で健康増進のささやかな教室を開いた。8人ほどのお年寄りが集まった。「腰イターイ!」「膝イターイ!」「肩こるー」というお年寄りの声に耳を傾け、どうしてその症状が起きるのかという座学をしたほか、痛みの解消や悪化しないための体操・ストレッチを教えた。要所の筋などを伸ばすと、お年寄りからは、「これいいね」といった喜びの声が上がった。
 「江丹別のおじいちゃん、おばあちゃんとお話しをしてふれあう機会になる。仲良くなれる。これからも理学療法士の資格を生かして江丹別のお年寄りの体を診てあげたい」。4人は、そう考えている。温かなムーブメントが、この限界集落の地に芽吹き始めた。
 4人は、「coco mori キャンプ場」が、過疎にあえぐ江丹別町と都会を結ぶ架け橋になればと夢を抱く。

地域の姿が変わる?
 かつて3000人以上が暮らしていた江丹別村が旭川市と合併したのは1955年のこと。以来、地域住民の願いと裏腹に、人口の流出が続く。旭川市営牧場や若者の郷といった施設は作られたが、大きな雇用機会の創造にはつながらず、自慢のそば畑も若者を引き寄せる効果は乏しかった。この地域の景観を守るための土地利用規制も、本格的な開発の足かせとなっている。豊かな自然という江丹別の特徴を活かした活動に取り組む4人の若者が、江丹別の運命を大きく変えるかもしれない。
 江丹別で暮らす愛さんとパートナーの佑太さんに続き、これまでは旭川市内から通っていた瑠馬さん・えりさん夫妻も近く江丹別に居を構える。「すでに自分たちで伐った木の皮をむき、乾燥を待つだけ。自分たちの手で家を造る」(瑠馬さん)
 オープンを控え、愛さんの心は期待とともに揺れる。「お客さん、ちゃんと来てくれるかな? ちょっと不安。リピータを増やさないと、イベントもやって……」。愛さんを中心に4人の夢を乗せた「coco moriキャンプ場」は、6月下旬オープン予定だ。

表紙2207
この記事は月刊北海道経済2022年07月号に掲載されています。