老木目立つ街路樹再生の取り組み

 旭川市が目指す、季節ごとに〝都市と自然が調和する緑豊かな街づくり〟で重要な役割を担う街路樹。だが、植栽し約40年経過するものが増え、一部は大木化、老木化している。道路交通や市民生活の安全に支障をきたすことから街路樹「再生」に向けた新たな取り組みが必要になっている。

「緑化大作戦」も今は昔 新規道路整備も減少で…
 国内の街路樹は明治初年に神戸外国人居留地にヤナギが植栽された後、明治2、3年ごろに横浜の海岸通り等の商店街にヤナギが植栽されたのが始まりとされる。旭川市では1924(大正13)年から28(昭和3)年にかけて1条通にアカシア、2条通にカエデ、3条通にアカシアを個人が植栽したのが最初。64年から65年にはシンボル並木をつくる市民運動が盛り上がり、旭川青年会議所が緑橋通にナナカマドを植栽し、それが旭川市の代表的なシンボル並木になっている。その後ナナカマドは「旭川市民の木」に制定された(76年)。
 旭川市の緑地公園課が発足し、市民参加で緑化大作戦を展開した上で、「旭川市緑化基本計画」を策定し緑の量的拡大が図られると、2273本(69年度末)の街路樹が93(平成5)年度末には約4万本に増えた。7条公園通や歩行者専用道路といった緑道が拡大され、96年には都市緑地法に基づき「旭川市緑の基本計画」を策定。緑地の保全や緑化推進に関する目標や将来像が示されると、2015(平成27)年度末には旭川市内の街路樹本数は国道、道道、市道合わせて高木約4万5000本、低木も約7万本と飛躍的に多くなった。
 旭川市内では昭和50年代から60年代、多くの道路が整備されるのに合わせて街路樹が植えられた。できるだけ早く緑を増やすため成長の速いプラタナスやナナカマド、現在は新規に植栽していないがニセアカシアなどを大きく育てる方向で道路緑化に努めてきた。ただ道路整備の充実に伴い、新規に整備される路線は減少傾向にあり、これに伴い植栽できる街路樹も減少しているのが現状。一方で大木化や老木化が進み、植え替えが必要な街路樹が増えてきている。植栽してから30~40年前後経過している街路樹の一部についてこうした問題が生じている。

「空き桝」7000ヵ所 街路樹の撤去求める声も
 大木化や老木化は道路交通の安全に影響を及ぼし、大量の落ち葉や綿毛、花粉の問題ほか、電波障害などによって、沿線住民の生活に悪影響を及ぼすケースも。舗装面への「根上がり」などの生育不良や過度な剪定によって、本来の樹形の見た目が損なわれ、道路景観に悪影響を与える街路樹もある。樹木の問題に付きものとされるカラスの巣に関連したケースのほか、枯れ枝が落ちたり、腐朽に伴う倒木による事故のリスクも増大している。
 こうした現場に携わる旭川市土木事業所の担当職員は、「街路樹は庭木と比べて過酷な環境に置かれている」とした上で、実態について次のように語る。「日々車の排気ガスに見舞われ、風もまともに受け、冬になると除雪した雪に押しつけられ損傷することも。ナナカマドなどの街路樹は損傷に弱く、植栽して30年ぐらい経つと、幹の中が腐り始めてきたりする」
 街路樹の成長や労務費などの上昇に伴い、維持管理費が増加している。限られた予算のため年間あたりの剪定本数が減少している事情等もあって、街路樹の安全性の確保が課題となってきている。枯損や危険木などにより撤去されたままの植樹桝が多く、何も植栽されていない「空き桝」と呼ばれるケースも増えている。2015年時点では3万262本あった旭川市の街路樹(市道)が、22年3月末になると、約2万8000本にまで減少し、空き桝は約7000ヵ所にも及んでいる。
 街路樹が持つ豊かさに一定の評価がある一方で、社会情勢の変化によって街路樹そのものに対する愛着が薄れ、維持管理に向けた協力が得られなくなってきているのも最近の傾向だ。街路樹の撤去や強く剪定を求める要望が寄せられる頻度も増し、沿線住民の理解が得られなくなりつつあるという。
 その一方で、〝緑のトンネル〟が形成され、神楽岡地区のプラタナス並木のようにインスタ映えする景観を生み出しているエリアもある。住民からの協力も手厚く、この並木はシンボリックな佇まいで日本造園学会北海道支部の「北の造園遺産」に常磐公園、神楽岡公園・上川神社境内域と並んで認定されている。こうした客観的評価を得るには至っていないが、2条通を彩るルブルムカエデ、宮前通のナナカマド、東旭川駅前通のイチョウ、大雪通に並ぶノルウェーカエデなどの目に鮮やかな街路樹の存在も光る。

空き桝問題、幅員確保できない場合には廃止
 今年度の街路樹管理費については、剪定などの日常的な管理費と危険木対策費を合わせて約1億5000万円計上。前述の空き桝問題は計画的に植栽を進めていく一方で、幅員が確保されていない生活道路の植栽は廃止するなどの対応をはかる。
 旭川市として今後、植栽を予定している樹種はイチョウをはじめ、イタヤカエデ、オオバボダイジュ、ツリバナなど19種類がある。「どの木も一長一短あり、ポプラは風で倒れやすく綿毛の問題がある。ツリバナには実が落ちる際の風情があるが、維持管理には神経を使う」と公園みどり課。
 選定にあたっては旭川らしい道路景観をつくるため、地域や交通の特性、住民のニーズに配慮して決めることを基本とする。自生種を主体に旭川圏で生育可能なものが前提で、街路樹にふさわしい樹形となる具体例としてアオダモ、カツラ、ハクウンボクなど。木陰をつくるシナノキなども選択肢の一つとして位置づける。病害虫に強く剪定や整枝が可能で、土質、排気ガス、乾燥など道路環境にも適応性がある樹種、実がなり、花が咲くものや、紅葉などで葉色が美しく、冬の緑を演出できる樹種などを求めている。
 公園みどり課は「どの木も一長一短。マツなどは冬の緑が美しいが,雪が塊となって落ちる。サクラは虫害が発生して排ガスや風当たり、損傷に弱い。単一の樹種だけでは病気の蔓延などが生じる可能性もある」。
 街路樹の再生や保全に対する旭川市の基本的な考え方は、道路や建物とバランスのとれた設定であること。樹高の目安は景観形成機能などを十分に発揮させるため、上限を7メートルから9メートルとしている。街路樹の美しさがマチの魅力となるように緑量感のあるシンボル並木をつくり、神楽岡通りのプラタナス並木など既存のシンボル並木保全のため、段階的な更新や剪定を実施する。道路の付属施設でもある街路樹の価値や効用などを関係事業者で共有する必要性も重要視している。
形成と保全を目指す

「緑のネットワーク」
 中心市街地は、まちの印象を決定づける大切な場所でもあるため、樹形の整った街路樹の保全に努める。建物が密集して交通量が多いことから、交通安全、防災にも機能を発揮できるように配慮。緑陰をつくり風の通り道を確保しながら、ヒートアイランド現象(郊外に比べて都市部ほど気温が高くなる現象)の緩和にも心がける。都心ならではの「緑のネットワーク」の形成と保全を目指す。
 空き桝以外にも、立ち枯れしている樹木は植え替えに努める。幹線道路は路線ごとに特徴のある緑化をはかる。旭川空港や高速道路などから都心に至る主要道路ほか観光施設までの道路の緑化をバージョンアップ。旭川医大前の「メルヘン街道」では、旭川らしさを感じさせる道づくりを進める。
 いずれにしても「多様な意見があり、妥協点を見いだしにくい。美しい景観をつくり環境を改善するなどの機能を発揮させ、まちづくりとして長期的な視点で、住民の理解も得られるよう対応していきたい」と同課。
 ちなみに旭川市が機能の充実を目指そうとする緑のネットワークとは、まちの中心部の緑豊かな公共空間、周囲に広がる河川空間や大小さまざまな公園が点在する市街地、これらが幹線道路や河川を通じ有機的に結びつくことで形づくられるもの。市街地の外には田園風景が広がり、大雪山などの山地や丘陵地帯に繋がっていることから、ネットワークを磨き上げて地域全体の活力を生み出そうとする壮大な取り組みだ。
 だが、循環機能とは、動き出すと一定の流れが生まれ、回転するものだ。景観の向上や環境保全をはじめ様々な役割を担う街路樹。この存在を必ずしも良しとしない意見もあるようだが、メリットを実感できれば、見方も変わるに違いない。今後の街路樹プロジェクトの成長を見守っていきたい。

この記事は月刊北海道経済2023年06月号に掲載されています。
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