オリジナルなジン追求 鷹栖蒸溜所

 ウォッカ、ラム、テキーラと並ぶ世界四大スピリッツ(蒸留酒)の一つとされる「ジン」。各地で小規模生産やプレミアムなジンが登場して話題だ。この8月には、鷹栖町に日本最北となる蒸留所がオープンし製造と販売を手がける。「鷹栖蒸溜所」(18線11号)と名づけ、運営するのはサン&エア㈱で、鷹栖オリジナルのジンづくりを追求する。

サン&エアが運営 当面はイギリス産原酒
 香水と同様に、最初に感じられる爽やかで軽いトップノート、その後に感じられるミドルノート、さらに、これらの香りが蒸発した後に感じる濃厚なラストノートなど香りの変化を楽しめる〝飲む香水〟ジン。ボタニカル(植物成分)で香りづけした独特の風味が特徴の蒸留酒で、ジントニックやマティーニといったカクテルベースとしてもよく使われる。
 その語源はジンに欠かすことのできない「ジュニパーベリー」(針葉樹の球果)と呼ばれるボタニカルに由来する。最近では新たなムーブメントとして小規模生産するクラフトジン、希少性の高いボタニカルを贅沢に使用したプレミアムジンなどが人気を集めている。

南さん(右) 特注のコンクリートタンクと

 ジンの製法は世界各国で様々。本場のイギリスで培われてきた伝統的な製法ではクリアなニュートラル(中性アルコール)スピリッツをベースとし、ドライな飲み口にフレッシュな香りと味が定番とされる。これに対し国産のクラフトジンは、元々風味やコクのある焼酎や日本酒といった日本の酒類をベースにしたり、その土地ならではのボタニカルの香りをのせたりと独自のスタイルをそれぞれ追求している。日本人の好みや酒造りを活かした〝ジャパニーズジン〟を多く生み出しているのも特徴で、ジンの輸出量が2021年には焼酎の輸出量を上回った。
 これらの傾向を背景に同年7月、鷹栖町出身の南亜太良さん(33)が酒造事業を営むサン&エア㈱を設立。南さんの名刺に描かれているのは、あえて視覚的に見えない木の根をデッサンしたもので、ジンを通して人や物のつながりを木の根のように広がっていくことを願ってデザインされている。
 鷹栖蒸溜所で製造予定のジンは一般的なアルコール度数43%ほどのものだが原酒にこだわり、穏やかな口当たりを目指している。ジン発祥の地、オランダから輸入したアイスティル社製の蒸留器(道内初)を駆使しながら当面はイギリス産の小麦からできた原酒を用いてジンを手がける。そして生産体制が軌道に乗った時点で、鷹栖町産の小麦やブルーベリー、ワイン用のブドウの皮も原料に取り入れ、多角的に事業を進める見通し。完成した鷹栖蒸溜所ではバーカウンターも設置し試飲や販売を行い、見学のコーナーも設ける。

スモールビジネス実践 道産秋小麦で日本初を
 南さんがジンの製造を始めたきっかけの一つが、北大の大学院時代に米国オレゴン州ポートランドを視察したこと。ポートランドに訪れた2013年当時、小規模のビール工場が70軒以上もあり、世界中から移住してきた人たちや地元民が築いた。そこで「なぜ、こうしたスモールビジネスが特定の街に集まるのか」疑問を抱き、これを研究対象にしたという。「ビールに限らず、地元の人たちが外から来た人たちを受け入れ、町としての魅力を高め、スモールビジネスを集め地域を回していく手法を学び、地元の人が地元のものを大切に地産地消に努める姿勢も共感できた」と南さんは話す。
 この研究を踏まえ、就職した広告代理店では、道内各自治体の観光プロモーションでアイデアを発揮し、成果につなげた。白糠町で地場産の素材を使いフランス料理のフルコースによる町おこしに尽くしたことも実践例の一つ。フルーツの産地でもある仁木町ではワイナリーと関連した地方創生事業にも参画して、道内各地域の名産をプロモーションする業務にも携わった。
 ハワイでウィスキーの蒸留所を海兵隊出身者が小規模で営む様子を知った際には、「好きで酒造りを始める人が世界の流れ」であることを実感。酒造メーカーでの勤務経験がなくても酒造りに関わることができると一念発起して、元々ジンが好きだったこともあり、南さんが志したのが故郷で独自のジンを作ることだった。
 「ジンの魅力は自由度の高さ。製法をはじめ飲み方も自由に楽しんでほしい。販売方法も植物やアルコール、香り等を扱う点で共通点を持つ他業種の方々とも連携し、地域を盛り上げられたら」と南さん。現在は北海道産秋小麦を使った日本初のジンの発表に向けて準備を重ねている。この原酒をベースに鷹栖町のボタニカルを使いながら、ジントニックとして飲みやすいジンを作る。香りづけには必須となるジュニパーベリーや地元産のブルーベリー等を用い、まろやかで優しい風合いの鷹栖オリジナルを誕生させたい考えだ。

この記事は月刊北海道経済2023年9月号に掲載されています。
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