「担い手不足」の声にハンターが抱く違和感

 死傷・目撃件数がここ数年急増するなどクマとのあつれきが高まるとともにハンター不足が声高に叫ばれる。こうした社会状況に違和感を口にする狩猟関係者は少なくない。「ハンター不足が、駆除の担い手不足と解釈されている」。市街地・人里に生息するアーバン・ベア(都市型クマ)が増える中、「ハンターは住民を守る公的存在」とはき違える社会の過度な依存と狩猟関係者のギャップは大きい。

狩猟免許年々減少 わな猟が主力に
 「我々は、狩猟を趣味にしている一個人の集まりに過ぎないんです。狩猟がメインで、駆除はあくまで二義的なものでしかない」。北海道猟友会旭川支部長の髙梨秀二さん(73)は、ハンターへ注がれる社会のまなざしに対して違和感を口にする。ここで、ハンターの多くが加入する猟友会について触れたい。
 全国にある猟友会は、狩猟者を会員とする団体だ。おおむね市町村単位で支部があり、加入すると猟友会の会員となる。4種類の狩猟免許があり、狩りガールと称される女性会員も増えてきた。猟友会は、射撃大会・新人育成などに取り組む一方で、市町村からの要請を受け、有害鳥獣の駆除にもあたる。
 大日本猟友会の公式ホームページによると、狩猟免許が試験制度になった1979(昭和54)年度で当時の免許交付数は45万件ほど。そのほとんどは銃猟免許で、綱猟・わな猟の免許交付数は1万件ほどだった。2017年時点の狩猟免許交付数は21万件(重複免許交付含む)で、実際に狩猟する実数は15万人ほどとみられる。免許交付数が年々減少している一方で、わな猟免許交付数は近年大きく増加し、現在では銃猟免許数を上回っている。
 ハンターの高齢化も進み、60歳以上が6割を占める。加えて、免許を持ちながらも狩猟活動実数は減り続ける。現在では、狩猟活動しているのは10万人を割り込んでいるという有識者の指摘もある。うち銃猟活動者はもっと少ないとみられる。
 こうしたハンター不足の課題が指摘されて久しいが、ここ数年、ことさら声高に叫ばれるようになったのはアーバン・ベアの増加が引き金だ。山里や住宅街に出没し、今年の人身被害は10月末現在、東北を中心に全国で177件を数える。北海道でも札幌を中心に市街地のヒグマの出没が相次ぐ。
 こうした状況下で、社会の目は必然的にハンターへ注がれる。アーバン・ベアの増加は、ハンターが減ったためヒグマの生息数が増えたから─。そんな文脈から発せられる社会的課題と称したハンター不足の言葉に道猟友会旭川支部長の髙梨さんは憤る。「世間で言うハンター不足って、何を指してのこと? 担い手って何の?」

何の担い手? はき違えている
 「我々にとっては、まず狩猟がある。駆除はあくまで道義的責任においてやっているに過ぎないんです。このへんのところを一般の人に理解してもらいたい」。社会が声高に叫ぶハンター不足の〝通奏低音〟には、駆除の担い手不足が一貫して鳴り響いていることに髙梨さんは違和感とともに強い憤りを感じている。
 「好んで駆除をやるわけではないんです。我々は畏敬の念を持って動物の命をいただくんです」。猟友会関係者が言うハンター不足の真意は、狩猟文化の担い手不足であって、駆除の担い手不足ではないということ。憤りは社会がはき違えていることに対してだ。
 駆除は原則、市町村が要請し、警察が発砲を許可して実施される。銃猟免許があるからといって、好き勝手にはできない。「ヒグマは、この30年ほどで増えています。増えたのはハンターのせいではない。行政の責任が大きいと思います」

増えたから駆除 減ったから保護
 「北海道ヒグマ管理計画」(第2期、2027年まで)によると、狩猟者のアンケートからヒグマの生息数は2000年度で1800~3600頭だったのに対し、2020年度は1万1700頭と急増している。「今後も増加傾向は続く」(道)との認識だ。
 一方、年間捕獲頭数は、1946年度から1961年度までは460頭ほど、1962年度から1974年度までは570頭ほど、1975年度から1986年度までは390頭ほど、1987年度から1997年度までは240頭ほど、1998年度以降は390頭ほどで推移している。2018年度には年間900頭、2021年度は、初めて1000頭を超え、過去最高を記録した。捕獲が増えた原因について、「個体数そのものが増加し、さらに問題行動の個体も増えているため」(道)としている。
 「ヒグマが増えているのは春グマ駆除を禁止したからですよ。行政とクマ研究者の失敗だと感じています」。髙梨さんは、道がヒグマが急減したことを受け、1966年に始めた残雪期(3~5月)の春グマ駆除を1990年に禁止したことが一因と指摘する。
 道は、ヒグマの個体数が増えるとともにアーバン・ベアの課題に対応するため、今春から冬眠中の個体や親子グマを駆除できる「春期管理捕獲」を始めた。
 「道は違うと言いますが、これは『春グマ駆除』の再解禁ですよ」。髙梨さんは、ヒグマの生息頭数を適正に管理できなかったことの免罪符として、政策の名称を変えたに過ぎないとの認識を示す。「管理計画をしっかり総括しないと駄目です。間違えを認めてそこから出直さないと」。髙梨さんの厳しい言葉は続く。「単純に増えたから駆除しろ! 減ったから保護しろ! なんて実に乱暴です」

身勝手な社会
 2023年7月末、釧路町の牧草地で1頭のヒグマが駆除された。2019年から4年間で計66頭の牛を襲ったオスのヒグマで、周辺の酪農家を震撼させた通称「OSO18」だった。OSO18の駆除を契機に、クマの駆除に対して、「かわいそうだ」「どうして殺した!」─といったSNS上や電話などでハンターへの批判・抗議が巻き起こる。
 「今、ハンターへの風当りが強い。まったく場当たり的だ」。髙梨さんが支部長を務める北海道猟友会旭川支部は、ヒグマ駆除の従事者として20人ほどを旭川市に届け出ている。一回の出動で8千円ほどが支給されるが、「自分の車を出してガソリン代も自分持ちです。実際にヒグマを目の前にしたときの恐怖感は経験のない人には分からない。銃を持っていてもです。そういったことを考えれば、出動・駆除は事実上、ボランティアなんですよ。そのへんのところを一般の人たちにしっかり認識してもらいたいです。私たちに出動する義務はないんです」(髙梨さん)。
 5年ほど前、砂川市の要請を受けてヒグマを駆除した北海道猟友会砂川支部長が住宅の方向に発砲したとして公安委員会から猟銃許可を取り消された事案があった。「一人ひとりのハンターに責任を負わせるなんて無理。砂川の事件の二の舞はごめんです。我々は犯罪者になる覚悟で発砲することはできない」
 アーバン・ベア問題をめぐり飛び交う「駆除しろ!」「かわいそう(憐憫)」─の声は、「駆除」か「保護」かの古典的葛藤のように見えながら、内実は共に社会の身勝手さの写し鏡のような主張と髙梨さんは考える。
 増えたから駆除しろ、減ったから保護しろ─。そうした乱暴な思考回路からは、ヒグマとの共生の概念がうかがえない。髙梨さんら狩猟関係者の憤りは、そうした共生概念の欠如した延長線上で語られるハンター不足=駆除の担い手不足─ととらえる社会そのものに対して向けられている。
 「ちゃんと分けて考えてくれないと」

この記事は月刊北海道経済2023年12月号に掲載されています。
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