旭川女性の子宮が危ない! 低すぎるワクチン接種率

「がん」と聞くと中高年の病気というイメージがあるが、若い女性の間で急激に増えているがんがある。子宮入口にがんが発生する「子宮頸がん」で、この原因となる「HPVウイルス」に旭川の20代女性の実に3割が感染しているというショッキングな実態が明らかとなった。しかし、依然としてがん検診の受診率は低く、医療関係者の間で懸念が広がっている。

性交渉で感染
 子宮がんには、「子宮体がん」と「子宮頸がん」がある。子宮体がんは、胎児が宿る体部内側の子宮内膜にがんが発生し、一方の子宮頸がんは、子宮頚部と呼ばれる子宮の入り口の部分に発生する。
 子宮頸がんの主な原因となっているのが、HPV(ヒトパピローマウイルス)への感染で、主に性交渉が経路となる。ウイルス自体は、性交渉の経験がある約8割の女性が50歳までに一度は感染すると言われているほどごくありふれたもので、多くの場合、感染しても症状のないうちに自然に排除される。しかし中には排除されずに体内に残るものもあり、長く感染が続くと前がん状態となり、さらに持続するとがんに進行してしまう。

HPV検査を導入
 子宮頸がんは若年層の間で急激に増えている。左頁のグラフは、国立がん研究センターが公表している子宮がん(子宮体がん・子宮頸がん)の年代ごとの発生率をまとめたもの。これを見ると、子宮頸がんの罹患は20代、30代が突出していることは一目瞭然で、子宮体がんの発生状況と比べ、若年層の罹患が極めて多いことが分かる。
 こうした状況の中、旭川市では昨年1月に子宮がん検診の内容を大幅に変更した。これまでは問診と子宮頸部の細胞診、また希望者には体部細胞診による検査を行っていたが、新しい検診では従来の検査に加えて、20歳から40歳代の希望者に対してHPV検査も行っている。検査では細胞診、HPV検査ともに子宮頸部の細胞をブラシや綿棒などでこすり取って採取するが、痛みを伴うことはなく短時間で終了する。
 旭川がん検診センターを含む旭川市内の各診療所と病院における子宮がん検診の受診者やHPV検査の受診者数などについて旭川市保健所がまとめたデータを見ると、18年1月から同年12月までの1年間に子宮がん検診を受診した人数は5588人。そのうち8割を超える4698人がHPV検査も併せて受けた。
 さらに、同期間におけるHPV陽性率をまとめたデータには、実にショッキングな実態が浮き彫りとなっている。HPVの陽性率を見ると20代と30代前半が極めて高く、特に「20~24歳」の陽性率は31.7%で、「25~29歳」は25.7%と突出している。平均すると、旭川の20代の実に3割がHPVに感染している計算だ。
 一体なぜ、旭川の若い女性の間でHPV感染が広がっているのだろうか。
 旭川産婦人科医会の前会長で、旭川市におけるHPV検査導入に尽力したみずうち産科婦人科(旭川市豊岡4条3丁目)の水内英充院長は次のように話す。
「ひと昔前よりも性体験の年齢が低くなっていることが理由として挙げられます。以前は子宮頸がんのピークは40歳以上でしたが、最近では30代にシフトしています。ある自治体の調査では、若年層のHPV感染率は20~25%程度でしたが、旭川がここまで高いとは予想していませんでした」。

低い健診率
 このように若い世代の感染率が高いものの、40代以降と比較すると、旭川の若い世代で子宮がん検診を積極的に受ける人はさほど多くはない。
 旭川市における17年度の子宮がん検診受診者数を見ると、20─24歳は429人、25─29歳が497人と少なく、30代になると緩やかに増えて30─34歳が1325人、35─39歳が1470人。ところが40代になると一気に増加し、40─44歳が2108人、45─49歳1897人という結果となっている。
 子宮頸がんは初期症状がなく、不正出血などの症状が現れた時にはすでに進行し、手術で子宮を全摘出しなくてはならないケースも少なくない怖い病気だ。水内院長は「妊娠年齢にある若い世代こそ子宮がん検診が必要」と警鐘を鳴らす。
 「最近の例では、不妊治療を希望されて受診した患者さんの子宮がん検診をしたところがんがかなり進行していて、全摘しなくてはならない段階にまできていました。そうなるともちろん妊娠は望めません。この患者さんは、当院を受診する1年ほど前に他の自治体でがん検診を受けて異常が見られなかったそうです。
 子宮がんの細胞診検査の精度は8、9割で、これにHPV検査を併用することでほぼ100%の診断を行うことが可能となります。初期の段階では、『円錐切除』という子宮の入口だけを円錐状に切除する手術を行いますが、この場合は妊娠が可能です。
 テレビ報道などの影響で、若い女性の間では乳がんへの関心が高まっていますが、実際には若い世代では乳がんよりも子宮がんにかかる例が多いのが実情です。子宮頸がんが若い人がかかる病気だということをもっと広く知ってもらい、若い世代、特に20歳代、30歳代の女性に検診を受けて欲しいと思います」
 前述のように感染した人が必ずがんに移行するわけではないが、将来的にがんに進行するリスクを抱えていることは否めない。しかし、HPV検査の結果が陽性だった場合、どうすれば良いのだろうか。市保健所では「多くの場合、身体の免疫機能によってウイルスは自然に排除されますが、検査を受けた医療機関の医師の指示に従って、定期的に検査を受けて欲しい」と呼びかける。
 旭川市の子宮がん検診は20歳以上の偶数年齢が対象で、頸部細胞診の費用は700円(国保の場合は300円)で、医師が必要と判断した場合の体部細胞診は500円(国保の場合は無料)。HPV検査は20歳から40歳代の偶数年齢の希望者が対象で費用は500円(国保の場合は300円)で受けられる。対象者はもちろん、特に20歳代と30歳代に積極的に受けてもらいたい。

※記事中の旭川市の数字は「現状値」として示したもの。

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この記事は月刊北海道経済2019年06月号に掲載されています。
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