高島屋で純金茶わん盗んだ男

 胸元へまわしたザックを抱くようにして純金の茶わんへ手を伸ばす動作をしたとき、彼はどのような意識の支配下にあったのだろう? 日本橋高島屋(東京都中央区)で開かれていた展示即売会「大黄金展」の会場に並べられていた純金製茶わん(1000万円相当)を盗んだとして、窃盗の罪で逮捕・起訴された旭川市出身の無職・堀江大被告(32)=東京都江東区=について、「ネガティブな面が読みとれないタイプ」と元上司は語る。被告を直接知る人物に取材し、その人となりや歩みを探った。

堀江被告(フェイスブックから)

中学で不登校に 経済的厳しい環境
 まず事件の概要を振り返りたい。報道によると、堀江被告は4月11日、純金製茶わんを盗み、その足でネット検索で見つけた江東区の古物買い取り店を訪れ、180万円で売却した。13日、都内で窃盗の疑いで逮捕された。警察は防犯カメラを解析することで容易に足取りをつかんだようだ。
 逮捕直後に作成される弁解録取書(通称・弁録)に、堀江被告は窃盗の事実を認めたうえで、「盗めそうだったから」といった趣旨の供述をしたとされる。展示されていたケースは無施錠だったとの報道もある。
 だが、一般に人は、盗めそうだからといって他者の所有物に手を出したりはしない。そのためか各種報道は、彼の健康に恵まれず経済的に厳しい生い立ちにフォーカスする。彼は中学に進学して間もなく学校に通わない、いわゆる不登校の状態が卒業まで続いた。なぜ学校に行かないのか明確な理由を家族は見つけられないままだった。定時制の高校に通いだすとそれまでとは打って変わって、いきいきと生活していたとされる。
 進学を希望したが、父も母も病を抱え、家庭は経済的にも厳しく、彼は断念し、上京する。

遅刻・無断欠勤なし 元上司「真面目」
 東京に出たものの原因不明の体調不良に悩まされた。突然脂汗が出たり、非常に疲れやすかったという。定職には就けず、警備員などのアルバイトも長く続かなかった。
 その後、父親が上京し2人暮らしが始まる。父親の年金と公的扶助で親子はつつましい生活を続けていた。幼少期からおとなしく活発な子ではなかった。小学生のときは野球少年だったが、レギュラーになれず目立たない影の薄いイメージを周囲に残している。
 「遅刻や無断欠勤はなかった。とにかく真面目でしたね。ただ、どこまでちゃんとしたらいいのか、その加減が分からない感じがしました」。彼は、2011年から数年間、上川管内の書店で働いていた。そのときの上司だった男性は、当時の印象をそう語る。
 「彼にはバックヤードの作業を中心に頑張ってもらっていました」。人と接することが少ない業務で、返品書籍をジャンルに分け箱詰めしたり、返品に伴う伝票を作成したり……。彼は黙々と作業をしていた、という。「臨機応変の対応が難しいと感じる部分があった。しゃべりも得意ではなかった印象があります」。表情も乏しく、「何を考えているのかはかりかねるところがあったような気がします。どちらかといえば理系のタイプだと感じました」。サイズがばらばらの本をきっちりと整理する彼からは、そんな感じを受けた。
 男性は、特に彼と親しく話しをした記憶はない。さらに言えば、同僚と親しく交わっていた様子も記憶にないという。「同僚の一人は、『あいつ変なやつだよな』と言っていました」
 これまでの人生の中で一番長く勤めていたことを踏まえれば、彼にとって書店勤務の数年間は、定時制高校時代とともに一番安定していた時期だったかもしれない。
 ただ彼は、元上司に不思議な印象を残している。裸形の自らを見せない、それでいて無機質とも違う、他者を拒むような感じを。
 「笑顔は、ちゃんとあったのですが、ネガティブな面が読みとれない」

この続きは月刊北海道経済2024年06月号に掲載されています。
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