旭川トヨタ自動車(西川弘二社長)のナンバー取り付け・封印をめぐる不正。国交大臣が「断じて許されない」と指摘したのは違法な封印冠の再利用だったが、同社の釈明を掲載した本誌前号を読んだ人物から「実態が反映されていない。地方店で販売される新車についても、ナンバーが選任されていない地方店で取り付け封印されている」との情報が寄せられていた。どこまで不正が広がるのか見通せない状態だ。

「旭川トヨタだけナンバーなしで陸送」
「月刊北海道経済(5月号)の記事を読んだ。旭川トヨタの実態が反映されていない」─電話の相手は記者にそう告げた。はびこる不正、そしてこれまでの誤りを認めて企業活動を適正化しようとしない経営陣への憤懣を努めて抑えているかのような口調だった。
本誌は前号で、国交大臣を怒らせたこの問題の概要として、わかっているだけでも、修理のためナンバーを取り外した85台について、封印冠を再利用するなどの不正があったことを伝えた。これら85台について、対面取材に応じた旭川トヨタの専務や常務は問題を認めて謝罪したものの、不正の原因や全体像、今後の再発防止策については「いまも調査を行っている」などと強調し、明確な説明を避けた。
本誌に電話をかけてきた人物は、旭川トヨタの役員たちよりも、不正の実態を詳しく知っている様子だ。その言葉から、生々しい不正の実態が浮かび上がる。
「道北・道東に店を展開するトヨタ系ディーラー各社は、トヨタ自動車の輸送子会社であるトヨタ輸送に車両の輸送を委託している。他のディーラーがカーキャリア(車両輸送量トラック)に載せる新車は、すべてナンバーが付いている。それぞれ認定を受けた工場でナンバーが取り付けられ、封印された状態だ。旭川トヨタの商品だけはナンバーがついていない。ナンバープレートは取得済みだが、車両の中に積んである。地方の店に到着後に(認定されていないにも関わらず)封印が行われていた」
まれに人為的なミスのために、ナンバーが積まれていなかったり、他の店舗向けの違う車に積まれることがある。あるはずのナンバープレートが見つからないことに慌てた送り先の店から、旭川に電話がかかってくる。地方店が問題視するのは、なぜナンバープレートが積まれていないのか。なぜナンバーを旭川の所定の工場で取り付けてから送らないのか、ではない。つまり、こうした行為は社内で誰も疑問に思わないまま、当たり前のように続けられてきた。
本誌に情報を寄せた人物は、こうした行為がいったいいつから行われてきたのかわからないと語る。旭川トヨタがこれまでに確認した不正は、85台の修理車両が対象だったが、新車についての不正は、過去の分も含めればケタ違いに多いと考えられる。
旭川トヨタが国土交通省北海道運輸局の旭川運輸支局から監査の指示を受けたのは昨年12月8日のこと。前号記事のために本誌が旭川トヨタに取材したのはそれから5ヵ月後だが、その間、調査の対象が修理車両にしか及ばず、新車についての不正行為が見逃されていたとしたら、調査能力がまったく欠如しているか、そもそも本気で調査していないかのどちらかだ。なお、5月1日現在、旭川トヨタのホームページには3月23日付の西川弘二社長名義による「お詫び」の文書データが掲載されており、「不正の件数」は本誌も紹介した85件のままで、変化がない。少なくとも表向き、不正の認識は修理車両だけにとどまっている。
こうした不正を、旭川トヨタは大したことではないと長年とらえていたようだが、これは自動車業界全体の認識とはズレている。非トヨタ系のある販売会社は、各地の営業店でナンバーを取り付ける必要があることから、すべての拠点で認証を取得済み。また、ナンバーの取り付けと封印は、選任された技術者が、車台番号の確認などを経て、真剣な雰囲気の中で行うもので、認証されていない施設で「適当」に行うようなものではない。本誌に寄せられた情報によれば、以前は旭川トヨタでも本社の担当者によるダブルチェックが行われていたというから、次第におざなりになっていった可能性がある。
整備拠点の幹部管理能力に疑問符
「お詫び」の中で旭川トヨタは、「今回の原因は、法令遵守の意識と知識、研修不足、社内業務監査体制の不備など、経営側の責任と認識しております」と率直に経営責任を認める。しかし、旭川トヨタ内部で行われる調査では、「なぜ現場が不正を指摘しなかったのか」といった、現場整備士に責任を負わせるような言葉も飛び交っている模様。もっとも、旭川トヨタグループ内の整備子会社では、ナンバーの取り付けには非常に重い責任が伴うことから、安易に手を出してはいけない作業との認識が浸透していた。率先して不正行為を推進していたのは、本社の人間や本社から拠点に送り込まれた人間だった。
本来ならコンプライアンス遵守を徹底すべき立場にある、本社から送り込まれる管理職に、その能力があったかどうかは疑わしい。というのも、能力に問題があり、本社や支店が持て余した人物が、整備拠点に送り込まれる傾向があったためだ。あるエピソードがそうした実態を如実に物語る。
旭川トヨタ本社から整備拠点に管理職が送り込まれた。この人物はかつて技術的な仕事も担当したことがあったが、長年営業畑にいたことから、現代の自動車技術についていけなかった。そのために現場の整備士たちとの間にギャップができ、コミュニケーションがうまくいかず、関係が緊張。強く反発した整備士たちが「この人の下では働けない」といったんは退社を申し入れた。
人手不足が深刻なのはどの業界も同じ。経験豊かな整備士たちが大量に辞めてしまったら、後任がいつ見つかるのか誰にもわからず、販売活動への影響は図り知れない。慌てた本社の役員が説得して管理職を異動させることで、なんとか丸く収めたという。こうした騒動を引き起こす管理職に、コンプライアンスを徹底する役割を期待したとしても、到底無理な話だろう。
大きな不祥事でも経営責任問う声なし
自動車業界関係者が首をひねるのは、長年続いていたとみられる旭川トヨタの不正が、なぜこの時期に表に出たのかだ。しかも、旭川運輸支局から処分を受けるのではなく、東京で国交大臣が記者会見の中で旭川トヨタの名前を挙げて「断じて許されない行為」とまで言い切った。「大々的な内部告発があったのではないか」と、業界関係者がささやきあうのも無理はない。
誰が内部告発したのか。記者は取材の過程で具体的な人名も聞いたが、その真偽は確かめようがない。ただ、旭川トヨタの内部では西川社長の長期政権への不満が蓄積していた。
西川社長は1955年生まれ。2016年に専務から社長に昇格し、これまで4期8年トップに君臨してきた。現在は役員を従順な人物でそろえており、近く開かれる株主総会・取締役会でも再任される公算が大きいが、「雇われ社長」による通算5期10年の長期政権は、創業家が代々経営しているわけではない旭川トヨタでは極めて異例。こうした状況に不満を抱く内部関係者が内部告発したとしても、不自然ではない。
オプション部品登録前取り付け?
これまで本誌、そして自動車業界関係者が注目してきたのは、ナンバープレートの封印作業をめぐる不正。もう一つ、オプション部品の取り付けについても不適切な行為が行われているとの指摘が本誌には寄せられている。
旭川トヨタで販売している某車種の「アクセサリー&カスタマイズカタログ」を開くと、ガーニッシュ、スポイラー、イルミネーションといったオプション部品が数多く掲載されている。そしてカタログの最後に、こんな文言が赤字で記されている。
「本カタログに掲載されている商品につきましては、車両登録後の取り付けを前提としております」
カタログに掲載されている部品はもちろん合法的なものだが、車両登録の後でなければ取り付けられないという基本的なルールがある。これは、国土交通省が行う保安基準検査は、オプションをつけない基本的な仕様について行われているため。オプションを付けると保安基準検査に合格した車両と仕様が異なってしまう。このため、オプション部品取り付け作業はあくまでも「登録後」に行うことになっているのだが、 「旭川トヨタでは、車両登録前にオプション部品を取り付けている。他のメーカーのディーラーが聴いたら眉をひそめるような行為だ」との情報が本誌には寄せられている。
他メーカー系の販売店は、ルールを守り、車両登録の後でこうしたオプション部品を取り付けている。より長く顧客を待たせることにはなるが、ルールを破ってまで顧客をつなぎ留めておくつもりはないという。
旭川トヨタの社内でも、車両登録前の取り付けに問題があったとの認識はあるが、現在はナンバープレートの封印作業をめぐる不正への対応に必死で、オプションの問題まで手が回らない状態のようだ。
トヨタ自動車本社の「本気」が問われる
本誌は旭川トヨタに①地方店で販売する新車のナンバー封印不正②西川社長続投の可能性③オプション部品車両登録前取り付け、の3点について5月1日に書面で質問を送り、同社が連休中であることを考え役員の携帯にメッセージで回答を求め、同社の連休が明ける5月8日朝にも電話で回答を求めたが、まったく反応はなかった。
旭川陸運支局からの連絡で調査が始まってから半年以上。この地域で「トヨタ」の看板を背負う有力企業の一つで実態の把握が遅々として進まないことを、トヨタ自動車本社はどうとらえているのか。本誌は、新車販売についてもナンバー取り付けをめぐる不正が常態化していたとの情報を添え、トヨタ本社としての見解を尋ねた。4月26日、トヨタ自動車広報部から次のような連絡があった。
「お客様ならびに関係の方々の信頼を損なう結果となり、ご心配とご迷惑をおかけすることとなりましたことを、お詫び申し上げます。
トヨタ自動車としても、国から委託を受けた業務で不適切な対応があったことを非常に重く受け止め、販売店ガバナンスの強化を図るとともに、販売店の働く環境や風土改革を促してまいります」
一般論を述べているに過ぎないが、トヨタ自動車も対岸の火事として見物を決め込むわけにはいかない。本誌が入手した旭川トヨタの人事資料(2022年7月1日付)を見ると、社長室長としてM氏の名前がある。M氏はトヨタ本社から派遣された人物で、西川社長に重用されていた。M氏はすでに旭川トヨタを離れているが、M氏が在職当時、ナンバー封印に関する不正を知っていたのか、不正を防ぐことはできなかったのか、一連の不祥事と旭川トヨタ社長室長退任との間に関連があるのかどうかに注目が集まる。
トヨタグループについては、相次いで不祥事が伝えられている。人気車種の出荷停止が、地方の販売店の業績にも悪影響を及ぼしている。広報の言う「販売店ガバナンスの強化」が旭川トヨタにおいて実現するかどうかが、コンプライアンスの本気度を示すバロメーターになる。
核心知る人物は車検作業に関与
無関係ではいられないのは、監督官庁の出先機関である旭川運輸支局も同じ。かつて、旭川トヨタのグループ会社でナンバーの封印作業を統括する立場にあった人物は、定年退職して、現在は独立行政法人自動車技術総合機構の非常勤職員として旭川運輸支局で行われる車検作業を補助する立場にある。本誌は現場の状況を熟知しているはずのこの人物にコンタクトを試みたが、自宅に電話をかけてもすぐに切られてしまい、話を聞くことはできなかった。同機構に電話連絡したところ、この人物が在籍していることを認めたため、記者に連絡するよう伝言を依頼したが、締め切りまでに連絡はなかった。
しかし、この人物が姿を見せている旭川運輸支局なら、監督官庁としてたっぷりと詳細な話を聞き、問題の核心に迫ることができるはずであり、車検制度全体の信頼性を担保するためにも、そうしなければならないのではないか。(本誌には、この人物が「自分には関係ない」と周囲に主張しているとの情報ももたらされている)。
その旭川運輸支局からの連絡という問題発覚の端緒からすでに半年以上。旭川トヨタから問題の全体像を明らかにするような発表はいまだにないが、こうした状況の下でさえ西川体制の継続が認められるような事態になれば、株主のコンプライアンスの姿勢、さらには天下のトヨタ自動車本社の言う「販売店ガバナンスの強化を図る」との説明の信ぴょう性にも大きな疑問符がつく。
