東川源水公園でマナー違反横行

 北海道の屋根・大雪山系の自然が生み出した名水を自由に汲むことができる「大雪山源水公園」(東川町)。平成の名水百選にも選ばれたこの天然水を目当てに早朝から日没まで多くの人が訪れる人気スポットだが、中には取水口にホースを差し込んだり、わずか「100円以上」の協力金を支払わずに利用するなどのマナー違反が後を絶たず、利用者の間から不満の声があがっている。

ミネラル豊富
 旭岳源水は、旭岳をはじめとする大雪山系の大自然が蓄えた雪解け水が、長い年月をかけて濾過されて出来た自然の恵みをたっぷりと含んだ天然水。日本の湧き水は軟水が多いが、旭岳源水は硬度110、ph値7.2という弱アルカリ性の中硬水で、炊飯や麺ゆでに使ったり、コーヒーやお茶を入れるのに使う人も多く、「まろやかさが増す」と評判だ。
 北海道は羊蹄山「ふきだし公園」の湧き水など、天然水が豊富に湧き出ることで知られているが、なかでも旭岳源水はカルシムをはじめマグネシウム、ナトリウム、カリウムなどのミネラルがバランスよく豊富に含まれていることでも知られている。
 この天然水を汲むことが出来るのが東川町ノカナンにある旭岳源水公園で、東川町から旭岳・天人峡方面へと延びる道道1160号を車で約30分の距離にある。
 公園入口のすぐ近くに駐車場があり、「源水岩」と名付けられた取水場が3基設置されている。1基につき3つの取水口が取り付けられており、訪れた人たちはこの9つの取水口から水を汲むことができる。1分間に約4600リットルという豊富な湧出量を誇り、水温は常に6、7度。駐車場は除雪をしているので冬期間でも利用することができ、年間を通じて清冽な水を汲むことができる。
 東川町が源水公園を整備したのは04年。当初は3つの取水口がついた源水岩が1基しかなく、水汲みの順番を待つ人たちが長い列を作り、また駐車場のスペースも手狭だったために、利便性を高めるために09年に再整備が行われた。取水場をさらに2基増やし、ペットボトルやポリタンクなどを置きやすいように台を設置。水を汲んだ容器を運搬するための台車も用意し、トイレも整備。駐車場も18台まで駐車できるように拡張された。

取水口にホース
 旭岳源水は「平成の名水」にも選ばれた銘水で、源水公園には、この天然水を目当てに地元や旭川市民をはじめ、多くの観光客が訪れる。東川町の直近のデータでは、18年4月下旬から10月末までの半年間の車両入り込み台数は、乗用車が2万917台、バスは112台。冬期間のデータはないが、夏の期間には及ばないものの、やはり多くの利用者が訪れている。
 こうした湧き水の名所では珍しいことではないが、源水公園でもまた、一部の心ない利用者によってマナー違反が繰り返されている。
 その一つが取水口の独占。観光客は、水筒や小さなサイズのペットボトルに水を持ち込んで水を汲んでいく人が大半だが、車で訪れる利用者の中には、大きなポリタンクを何個も持ち込んで水を大量に汲む人も少なくない。
 数多くのポリタンクを持ち込むため、取水口を占領して水を汲み続ける人もおり、長時間待たされる利用者からは「夫婦で大型のペットボトルを大量に持ち込み、他に待っている人たちがいるのに全部汲み終わるまで複数の取水口を独占している」と非難の声があがる。
 また効率よく水を汲むために、用意してきた自前のホースを取水口に差し込むというマナー違反を平然と行う人もおり、見かねた利用者が諫める場面も珍しくない。
 こうしたマナー違反に対し、東川町都市建設課では「著しい場合には管理人が注意しています。多くの方に気持ちよく利用していただくためにもマナーを守って利用をお願いしたい」と話す。

「支払う必要ない」
 また東川町では、08年に協力金箱を設置し、施設管理の費用に充てるために、車1台につき100円以上の協力金を呼びかけている。
 左上の写真のように、取水口のすぐそばに大きな看板と協力金箱が設置されているが、大量に天然水を汲みながら、協力金を払わずに公園を後にする人も実は少なくないようだ。
 週に1度のペースで水汲みに訪れるという男性は、「水を入れたポリタンクの重さで軽トラックの荷台が沈むほど大量の水を汲んでおいて、協力金を払わずに帰ろうとする中年の男性がいた。見かねて声をかけると、『東川町が観光促進のために整備しているのだから、支払う必要なんかない』と言って、車に乗り込んでしまった」と話す。
 こうしたマナー違反は、どうやら管理人の監視がない時間帯に行われているようで、ある利用者は強い口調で次のように話す。
 「確かな数字は記憶していないが、町が協力金の協力状況を調査した結果が広報誌に紹介されていた。管理人がいる時間帯は協力金を収める人は7、8割程度で、時間外になると1割程度となっていた。あれだけ美味しくて体にも良い水を汲ませてもらえることに感謝の気持ちを抱くことすらしない利用者が多すぎる。数年前には台風による大雨で施設の一部が決壊するなどの被害もあり、その修復も含めて管理には多くの費用がかかっているはず。これほど整備された環境で銘水を好きなだけ汲むことができるのだから、100円くらい払うのは当然だ」
 こうした協力金を払わない利用者に対し、同町の担当者は、「あくまで協力金なので、強制できるものではありませんが、施設保全などより良い環境づくりに役立てており、皆さまのご協力をお願いしたいと考えています」と話す。
 なお、同町によると、18年度の4月下旬から10月末までの協力金の決算額は199万3千円。前ページの車両入込数は、乗用車だけでも優に2万台を超えており、本来ならば協力金の総額も200万円を超えているはず。わずかの協力金を惜しむ利用者がいることはこの数字を見ても明らかだ。

使用禁止の名所も
 全国の湧き水スポットの中には、マナー違反のために使用が中止となったところや、有料化になったところもある。
 マナー違反のために源泉での取水が禁止となったのが岡山県真庭市の塩釜の冷泉。節度を超えた水の持ち帰りや、水くみのために長時間駐車する車が周囲の迷惑になるなどの理由で1994年に源泉での取水が禁止となった。また、福岡県東峰村宝珠山の「岩屋湧水」では、利用者が取水口を長時間独占するなどのマナー違反が横行。それまでは清掃協力金として募ってきたが、09年に有料化に踏み切った。
 湧出量が豊富で、夏期には2人の管理人が常在する源水公園では悪質なマナー違反が横行しているわけではないようだが、人気のスポットを大切に守っていくためにも、利用者の節度が求められている。

表紙2002
この記事は月刊北海道経済2020年02月号に掲載されています。
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