旭川医大人事めぐり疑問の声

旭川医大の医師が学外の医療機関で無届けのアルバイトをしていれば明白なルール違反。では、親族が経営する医療機関や介護施設から、勤務実態がないのに報酬を受け取っていたとしたら?─ある人事をめぐり医大内部でいま問題が持ちあがっている。兼業をめぐる問題は過去にもくり返し批判されてきたが、コンプライアンスが徹底されているとは必ずしも言えないようだ。

医大医師の兼業は基本的役割だが…
 道北、道東で医師が不足しているのはまぎれもない事実であり、旭川医大が1973年に設置されたのも、この地域で働く医師を養成すると同時に、医療機関に医師を派遣するのが主な目的だった。現在、旭川医大はこの地域にとり不可欠な「医師供給源」となっている。道北、道東は面積が広く、交通機関が大都市圏ほどには発達していないために、行くのに数時間、帰りにまた数時間を費やすケースも少なくない。
 医科大学はもともと、医師派遣という役割を担っていることから、週1日(8時間)学外の医療機関で勤務して報酬を得ることが認められている(大学から見ればその分、人件費を削減できる)。医師の側から見れば、日ごろの研鑽の成果を第一線の医療で生かすことができ、患者の側から見れば、単純に医師が増えるだけでなく、最新の知見を活用した治療を受けられるとの期待がある。
 しかし、この兼業がこれまで何度も疑惑を招いてきたのも事実。過去には、医療機関が医者の数を書類上充足させるために勤務実態のない医者の名前だけを借りる名義貸しが横行していた。兼業とはやや異なるが、旭川医大では一昨年11月、麻酔科教授が医局からの医師派遣先から多額の謝礼を受け取っていたことが問題視されて懲戒解雇され、同12月には製薬会社などから不正な報酬を受けていたことを理由に別の教授が停職1年の処分を受けている。
 医療の現場では多額のカネが動くために、誘惑に駆られ、本業そっちのけでアルバイトに励む人も出てくる。このため、旭川医大の医師が兼業する場合には、事前に届け出て許可を得ることが義務付けられている。なお吉田晃敏学長については今年、滝川市立病院とアドバイザー契約を結んで月40万円の報酬を長年受け取っていたことが問題となったが、医大関係者によれば、この報酬については学長が自ら大学に事前に報告しており、教授たちの間でも情報が共有されていた。社会的に許されるかどうかや金額の多寡はともかく、ルール違反ではなかったことになる。

勤務実態なくても由々しき問題
 一部の医大関係者の中で、従来のイメージとは異なる「兼業」に絡む問題が最近話題になった。登場するのは第三内科(消化器内科/血液・腫瘍内科)の最高責任者である科長(医学部では 内科学講座《病態代謝・消化器・血液腫瘍制御内科学分野》教授)、外来医長にこの春、昇進したとみられる若手医師だ。なお、各診療科にはトップの科長、ナンバー2の副科長、病棟部門を統括する病棟医長、外来部門を統括する外来医長などのポストがある。
 第三内科の人事異動に絡んで、昨年度、新しい外来医長の人選が行われた。本誌が取材して集めた情報を総合すれば、審査の時点で特任助教を務めていた若手医師が候補に登ったが、教授は履歴書やさまざまな書類を見ていて気が付いた。兼業についての報告が空白で、学外でアルバイト(兼業)して収入を得た形跡がないのだ。教授は若手医師に尋ねた。「これまでバイトをしていないようだが、それでは生活できないのではないか」。若手医師は答えた。「私は親族の経営している医療機関から収入を得ているので、バイトする必要がありません」。なお、若手医師の父親は、旭川市内で長年、医療機関や介護施設を経営している。
 焦点は、若手医師に父親の経営する医療機関や介護施設での勤務実態があったのかどうか。あったとすれば、事前の報告をせずに兼業していたことになり、明白なルール違反となる。一方、勤務実態はなく、いわば「お小遣い」として親から金銭を受け取っていたとすればどうか。ある医大関係者は、それも深刻なルール違反だと指摘する。
 「市内の開業医の中には、子息が旭川医大で学び、医大病院で医師として勤務している人もいる。勤務実態がないのに金を与えていたとすれば、本来は医大が負担するべき人件費を、親が負担していたようなもの。医師派遣先の決定などに関して、親の関与する医療機関が優先されないよう、不明朗な金銭のやりとりは厳に慎むべきなのに…」

表紙2107
この続きは月刊北海道経済2021年07月号でお読み下さい。
この記事をシェアする
  • URLをコピーしました!