駅前イオンから一挙11店撤退

イオンモール旭川駅前に異変が起きている。5月に11店が撤退し、館内のあちこちが白い板で囲まれた。契約期間の満了が重なっただけでなく、コロナ禍、とくに外国人旅行者の減少が影響したとの影響がある。消費者の流れを変えた「駅前イオン」での相次ぐテナント撤退、そして新しい店の登場は、中心街の人の流れをどう変えるのか─。

開店時からの店も消えた
 イオンモール旭川駅前(駅前イオン)が2015年3月にオープンしてからしばらく、旭川の中心街である平和通買物公園では暗い話題が多かった。真新しいモールに消費者が集中した結果、最後の百貨店・西武は旭川から撤退、残った商業施設からも相次いでテナントが去り。空きスペースが広がった。
 あれから6年余り。この5月末から6月上旬にかけて駅前イオンを訪れた人は異様な光景に驚いたかもしれない。付近の店に空きスペースを広げた一因であるはずの駅前イオンでも、売り場のあちこちが壁で囲まれ、最近まで営業していたはずの店舗の閉鎖と連絡先を告げる張り紙が張られていたからだ。1階駐車場の奥、忠別川河川敷に近いエリアは囲まれ、店から運び出されたとみられる商品棚などが積まれている。
 駅前イオンのウェブページにある「閉店のお知らせ」によれば、5月に撤退したのは「クラフトハートトーカイ」(手芸用品、3階)、「ビレッジ」(アパレル、2階)、「Bou Jeloud」(アパレル、2階)、「QBハウス」(理髪、3階)、「宗家 源吉兆庵/日本橋屋長兵衛」(和菓子、1階)、「ケンタッキーフライドチキン」(1階)、「エアウィーブ」(寝具、3階)、「ドコモショップ」(携帯電話、3階)、「そば処花の家」(そば、1階)、「ハーモニカ」(アパレル、2階)、「ABCクッキングスタジオ」(料理教室、3階)の11店に達する。

介護看護人材の紹介 マシンフィットネス
 去っていく店もあれば、新たに進出する店もある。最近、登場した店は3つ。いずれも旭川市内の企業が経営している店だ(うち2つは本州のフランチャイズに加盟)。
 3階で5月1日にオープンしたのは、「介護・看護求人支援センター旭川」。市内の企業、㈱ネクストライト(平澤幸憲社長)がFC加盟して道内初出店する。コロナの影響で全国的に外出している人は減っているにも関わらず、5月中に100人の求職者が訪れ、求人企業(施設や医療機関含む)が20社に達するなど出足は好調だという。
 介護と看護、いずれの分野でも人手不足は著しい。求職者と求人企業の間をとりもつのが求人広告媒体や、東京などの人材仲介業者。求人企業の側には、高額な仲介料や広告料を負担してようやく人材を見つけたのに短期のうちに離職してしまう、求職者の側には思っていた職場や雇用条件と違うといった不満があった。平澤社長も自ら各種の介護事業を展開する過程で、人材探しの難しさを痛感していた。
 そこで同センターでは従来にないかたちの仲介で双方が満足できるサービスを提供することを目指す。
 「たとえば介護職の場合、施設に就職した人が短期間のうちに辞めてしまうことがあるのは『介護観』が違うのが大きな理由。このため当センターでは、求職者との面接を経て、条件に合う施設が見つかれば、介護業界を熟知したスタッフも同行して施設を見学します。求職者が物怖じして聞けないような重要な質問もスタッフが代わりにして、求職者の疑問や不安をできるだけ減らすようにします」
 旭川市内や道北地方ではいまも次々と各種の介護施設が新設されているが、人手不足のためにフル稼働できていないところも多い。「旭川生まれの旭川育ちなので微力ながらお役に立ちたい」と、事業経営に乗り出す前に看護師として働いていた経験を持つ平澤氏は語る。
 駅前イオンの3階、介護・看護求人支援センター旭川のすぐ近くでは、平澤氏のもう一つの店「スマートスタジオ」が7月1日のオープン予定に向けて準備中。こちらは都心部型のフィットネス施設だ。
 スタジオ内部には「パワープレート」と名付けられた機器が10台備え付けられている。この機器にはハンドル部分と、振動する部分があり、機器の上で立ったり、座って足を上げる姿勢を取ったりして筋力を強化することができる。使い方は目の前のモニターに表示される他、そばに付き添うスタッフが教えてくれる。運動に必要な時間は1セット20分。
 「これまでの仕事で、まだ若いのに介護が必要な状態になった人を見てきたことが、今回、健康に役立つフィットネス事業に進出する理由になりました」(平澤社長)
 なお月額料金は通い放題でも6578円(税込み)。駅前イオンの家賃はそれほど安価ではないはずで、採算は取れるのかとの疑問が湧くが、平澤社長は「それなりのコストにはなりますが、それ以上に収益を確保できると期待しています」と説明する。

リユース品販売店 外国人復活にも期待
 同じ3階で5月15日にオープンしたのが「愛情買取リング」。ハンドバッグ、宝飾品、時計のリユース品(中古品)を販売する店だ。同じ店舗で買取も行っている(高級アパレル品は買取のみ)。
 リングはイトーヨーカドーの地下で店を営んでいたが、今年5月のヨーカドー閉店を受けて駅前イオンで新しい店を構えることにした。買物公園では他にマルカツ1階でも店を持つ。マルカツ店は高齢の人に親しまれ、「昔買ったものをもう使わなくなったので買い取ってほしい」と足を運ぶ人が多いが、マルカツ内での相次ぐテナント撤退で建物としての集客力に陰りが出てきたことから駅前イオン進出を決めた。デパートが相次いで撤退したいま、駅前イオンは旭川を代表する商業施設。そこにリユース品の店が進出したことは、この業界の認知度が社会で高まったことを示していると言えそうだ。
 駅前イオン内でのリングの開店はコロナ禍と重なり、緊急事態宣言下では土曜日曜の営業ができない(1階の食品フロアーや食堂街は営業)不利な状況でのスタートとなった。それでも電話やDMによる営業活動の成果もあり、開店から約3週間で手ごたえを感じている。
 実は、リングは買い取った品を自らの店舗で消費者に売るだけでなく、海外販路の開拓にも力を入れている。モノを大切にする日本のリユース品の品質の高さは海外でも広く知られている。いまは駅前イオンからはインバウンド客が消えているが、コロナ禍が収まり、外国人旅行者が直接リングに来店してくれることを、平島社長は心待ちにしているという。
 「高級品も使わずにただ眠らせておくだけでは、徐々に価値を失ってしまいます。使わないものがあったら、ぜひお持ちください」と平島社長は呼びかける。

フードコートに長期の「空き家」
 冒頭で紹介した通り、駅前イオンの公式ホームページには撤退した11店が掲載されているが、他にも店舗撤退後、封鎖されたままのスペースがある。たとえば1階のイートインスペースの一番奥、「はなまるうどん」と「無印良品」にはさまれた一角からオムライスなど洋食の店「ポムの樹Jr」が昨年5月末に撤退してから1年以上、後継の店が進出していない。宮下通に面した入り口から少し入ったところにある一角(駅前イオンが開店した直後にはもりもとが入居していた場所)も、現在は無人ゾーンとなっている。
 イオンモール㈱本社は本誌の取材に対し、次のように説明する。「大規模リニューアルではもっと多くの店が入れ替わる。今回が大規模だとは考えていない。個別の店の撤退理由については契約上の問題もあり、説明できない。空き店舗となった部分については、それぞれ新たに出店していただけるところを探しているが、現時点で明らかにできる店はない」。
 現在も営業を継続しているテナントの関係者は「多くの店が5月末に閉鎖したのは、たまたま契約期限切れの時期が重なったためだろう」と見る。別の人物によれば、当初の契約期間は6年間。駅前イオンのオープンは2015年3月27日。それから6年余が経過したことになる。
 建物が大きい以上、一部が空き店舗となるのは自然な現象。しかし、1年も有効に活用されない部分があるのは、開店から6年が経過した駅前イオンの集客力に変化が起きたためなのか、コロナのあおりで一時的に人の出足が鈍っただけなのか。
 よく駅前イオンの1階フードコートで食事をする人物はこんな見方を示す。
 「コロナ上陸前、JR旭川駅からすぐアクセスできるフードコートでは、とくに外国人の姿が目立った。他の客が食べているものを見てから各自利用する店を選べるフードコートは、家族連れの外国人観光客に便利なのだろう。中国語、韓国語、東南アジア系の言語が飛び交っていた。それだけ物販店の外国人向け売り上げの比率も高かったはず。コロナのために外国人の姿が北海道からほぼ消えて、一部の店は収束まで待たずに撤退する道を選んだのではないか。イオン旭川西もコロナの影響は受けているはずだが、あまり外国人がいないので、打撃は駅前イオンより軽いはずだ」
 流通業界関係者は、外国人の北海道旅行ブーム、駅直結という条件が重なる旭川の駅前イオンの外国人向け売り上げ比率は、日本全国のイオンの中で有数の高さだったはずとの考えを示す。だとすれば打撃はそれだけ深刻だったことになる。
 本州以南の地方都市の中には中心街からイオンが撤退して地域経済が打撃を受けたこともある。いま旭川駅前ではツルハビルが完成間近となり、高層マンション建設に向けた既存建物の解体も進んでいるが、これらの施設の影響もあわせ、駅前イオンの集客力がどう変化するのかに関心が集まりそうだ。

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この記事は月刊北海道経済2021年07月号に掲載されています。