旭川赤十字病院医療過誤裁判で和解

 いまから5年近く前に行われた副腎摘出手術が適切だったかどうかをめぐり旭川地裁で開かれていた裁判で、原告(患者の女性およびその母親)と、被告(旭川赤十字病院を経営する日本赤十字社と担当した医師)の間で12月24日に和解が成立した。被告が「遺憾の意」を示し、「解決金」として原告に合計4000万円を払うなどの内容。被告は医療ミスがあったと明確に認めたわけではないが、判決を待たずに多額の解決金を支払ったということは、事実上、医療行為に問題があったと認めたことになる。再発防止が重要なのはもちろんだが、注目すべきは、被告がこれまで他の患者にも不適切な診断を行い、健康上の被害が発生している可能性だ。

摘出手術の前提条件
 旭川赤十字病院で、問題の副腎摘出手術が行われたのは2017年3月のこと。当時22歳の女性は、原発性アルドステロン症と診断されていた。副腎に良性腫瘍ができてホルモンの一種、アルドステロンの分泌量が過剰になり、高血圧になってしまう病気だ。なお、副腎とは左右の腎臓の上にある三角形の小さな臓器。腎臓が尿の濾過を担っているのに対して、副腎は複数のホルモンを作っている。このうち人体に不可欠なナトリウムを蓄える働きがあるのがアルドステロン。このホルモンが分泌過剰になると塩分が大量に蓄えられるため高血圧になる。高血圧症の人の約5~10%は、原発性アルドステロン症だと言われている。
 治療のためには腹腔鏡を用いた副腎摘出手術が行われる。ただし、副腎は人体に欠かせない臓器であることから、手術ができるのは左右どちらかの副腎に異常があり、もう片方が正常な場合(片側性)に限られる。当然、摘出されるのは異常がある方の副腎だ。両方の副腎に異常がある場合(両側性)や、何らかの理由で手術ができない場合には摘出という選択肢は最初からなく、薬物投与など他の治療方法を探ることになる。
 原発性アルドステロン症の診断、そして左右の副腎のうちどちらに異常があるのかを調べるために行われるのが「副腎静脈サンプリング」。太ももの付け根から細長いカテーテルを差し込んで、副腎からの血液の出口となる副腎静脈までカテーテルの先端を送り込み、採血して検査する。患者の身体に一定の負担があり、気軽に何度も行えるものではないが、異常のある副腎を特定するためにはこの検査が不可欠だ。例えば腕の血管から採取した血液を調べれば、血中のアルドステロン濃度が正常なのか異常なのかはわかるが、左右どちらが異常なのかはわからない。
 原告の患者は旭川赤十字でこの検査を受け、担当医に説明を受けた。「おそらく左側の副腎に異常がある」。右側については数値が異常に低いレベルだった。「血液サンプルをうまく採取できなかった可能性があるが、おそらく採取できているでしょう」と医師。患者は医師を信頼して手術を受けることを決意して、左側の副腎が摘出された。
 なお、原告の母親は手術を受けることを決断した当時の経緯について、「医師から『手術をしなければ一生薬を服用しなければならず、妊娠もあきらめなければならない』と言われ、娘は怖かったが手術を受ける決心をした。医師に勧められたからこそ、健康になると信じて手術を受けた。決して『一か八か』で手術を受けたわけではない」と語っている。

表紙2202
この続きは月刊北海道経済2022年02月号でお読み下さい。
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