家庭教育推進団体 役員は統一教会関係者

 安倍晋三元首相が奈良県内で選挙の応援演説を行っている最中、背後から銃撃されて死亡したのは7月8日のこと。以来、マスコミでは「旧統一教会」(現在の世界平和統一家庭連合)に関する情報が飛び交っている。「それは大都会の話。遠く離れた地方都市・旭川には関係ない」とは言い切れない。旧統一教会に関わりのある人物が市民生活に関わる条例の制定を、複数の議員を巻き込んで推進してきたことが明らかになった(本誌の取材後に活動を離脱)。家庭教育そのものは反社会的なものではないが、市民は条例制定の背景にある動きを知っておくべきだろう。

5月に市内で講演会
 本誌7月号でも紹介したが、5月23日に旭川市内のココデで「家庭教育を考える~親の孤立化を防ぐ取り組み~」と題して講演会が開かれた。講師は静岡県議会議員の藤曲敬宏氏。静岡県で8年前に制定された家庭教育支援条例の取り組みや成果、今後の課題などについて語った。
 講演で氏が語ったのは「幼少期からの家庭教育は心の豊かさや思いやり、善意の判断など基本的な倫理観の醸成に重要な時期」「(条例制定は)子育て支援の核が家庭教育支援策になると同時に、縦割り行政から部局横断的に横串を指す効果につながった」といった話。旭川でも家庭教育の欠如を痛感させる事態が相次いでおり、講演会の参加者も家庭教育支援の必要性を感じたはずだ。
 主催者の「旭川家庭教育を支援する会」で事務局次長を務めていたのがA氏(市民団体の情報を集めたサイト「asahikawa.genki365.net」には代表者としてA氏の名が登録されている)。会は2020年8月23日に設立された。ウェブページには「児童虐待、育児放棄などが目立ってきている中で、次代を担う子どもが健やかに育つ環境づくりなど、家庭教育への支援がより必要となってきています。旭川市における家庭教育支援条例の制定と、家庭教育の支援並びに推進を目的として本会を設立いたしました」(抜粋)との説明がある。
 議員、教育関係者などの意見を集めて条例案が今年1月にまとめられた。この条例案はまず、「家庭は教育の原点であり、すべての教育の出発点である。基本的な生活習慣及び豊かな情操、思いやりや善悪の判断などは、愛情による絆で結ばれた家族とのふれあいを通じて、家庭で育まれるものである。家庭教育においては、生涯にわたる人格形成の基礎が培われる幼少期が特に大切な時期であるため、保護者の役割が極めて重要である」などとうたっている。さらに、保護者の責務として「子どもの教育について第一義的責任を有することを自覚しなければならない」、祖父母についても「子育てに関する知恵および経験を活かし、保護者と連携しながら家庭教育の支援を行うよう努めるものとする」などと定めている。子どもの学びのほか、「親としての学びの支援」「親になるための学びの支援」に関する規定もある。

もう一つの肩書き
 おそらく、家庭教育の重要性を全面的に否定する人はいないだろう。家庭の状況は千差万別であり、教育に時間やお金を投じることができない家庭をどう支援していくのか、条例が家庭という「私」の領域に踏み込むことがどこまで許されるのかについての論争はあるが、この旭川でも教育や子育てをめぐりさまざまな事件や事例が発生しており、家庭教育の機能不全が数々の問題の一因となっていることは否定できない。「家庭教育を支援する」と聞けばほとんどの市民は「良い政策」と評価するのではないか。
 しかし同時に、これらの動きの背景にある動きに目を移せば、不安を感じずにはいられない。
 会の中心的な人物で、活動の出発点ともなったA氏にはもう一つの肩書きがある。同性婚に反対する団体「同性婚問題を考える旭川の会」の事務局だ。同性婚を法的に認めるべきかどうかについては賛否両論があり、反対の声を上げる集会を開いたとしても、それは憲法が保障する言論の自由の範囲内の行為。同性婚推進派の集会と同様、反対派の集会の自由も守られなければならない。
 興味深いのは同性婚問題を考える旭川の会がこれまでに開いた行事のゲストの顔ぶれだ。ネットに残る情報によれば、2019年12月7日には平和大使協議会の事務次長が来旭して何らかの行事を開いた模様(同日に撮影されたと思しき画像には世界日報の編集委員の姿もある)。平和大使協議会とは旧統一教会系の組織であり、その本部は東京新宿のビルの5階にあり、同じビルには1階から8階まで旧統一教会系列の組織がずらりと入居している。
 2020年8月23日には同性愛問題を考える旭川の会主催で「同性愛先進国 アメリカの悲劇と混乱」と題して世界日報の記者が講演している。世界日報も旧統一教会とのつながりが深い。
 話を家庭教育支援をめぐる動きに戻そう。家庭教育支援は、旧統一教会系のメディアが推進している活動でもある。来年4月1日に発足する子ども関連行政を担当する省庁の名称が「こども庁」から「こども家庭庁」に変更された背景にも、旧統一教会に近い自民党議員の働きかけがあったとの見方がある(旧統一教会系の団体は、名称変更を評価しているものの、それが旧統一教会からの働きかけによるものかは明らかにしていない)。
 旭川でも条例制定を「旭川家庭教育を支援する会」が推進しているわけだが、すでに教育の専門家も関わった具体的な条例案を旭川市に提出している。また、活動には現役の国会議員、旭川市議も参加している。自民党系の市議の一人に話を聞いた。
 「何度か行ったが、しくみづくりには一生懸命だが、肝心の具体的な家庭への支援の活動は薄いような気がしたので参加しなくなった。会と旧統一教会の関係についてはまったく知らなかった」
 別の市議の話。「教育について学校や社会、地域、家族それぞれの連携が必要だという主旨であったため、私も昨年から参加しており、議論されることの重要性を認識している。市内外から様々な有識者がオープンな場で講演されており、宗教的な意味合いがある会ではないと認識している。なお、宗教を信じる方々は尊重しているが、公共の福祉に反し、社会に不安を与えることはあってはならないことだと思う」
 本誌はA氏本人にも書面で取材。A氏は7月27日に回答を寄せた。
Q 現在の「旭川家庭教育を支援する会」における立場は?
A 事務局次長を務めている。
Q 現在の条例案の状態は?
A 1月15日に「教育関係者による意見交換会」を行い、そこに参加して頂いた、旭川市総合政策部、子育て支援部、旭川市教育委員会社会教育部の各部長に条例案を渡した。現在も、より良い内容にしていくために、中身を継続して検討している。更により多くの有識者に紹介して、検討して頂く。
Q 同性婚問題を考える旭川の会と世界平和統一家庭連合の関係は?
A 特に関係はない。それぞれ個別の目的と活動をしている別団体だ。
Q 家庭教育を支援する会と世界平和統一家庭連合の関係は?
A 前の質問と同じく、特に関係はない。それぞれが個別の目的と活動をしている別団体だ。
Q あなたは世界平和統一家庭連合の信徒なのか。
A 私個人の内面の信仰については、返答を差し控えさせていただく。
 なお、後日、A氏に対面で取材したところ、A氏は旧統一教会と「一部関係している団体に職員として勤務している」と明らかにした。同時に「旭川家庭教育を支援する会の活動は個人として関わっており、仕事とは何ら関係のない話だ」と強調した。

判決書に記された生々しい実態
 信教の自由は、憲法で保障されている。他にも宗教組織から手厚い支援を受けていて、政権与党の一角として政策の立案や推進に深く関わっている政党がある。旧統一教会の活動や政界との関連がことさらに問題視されるのは、その活動の反社会性が突出しているためだ。
 生々しい実態を、誰でも読むことができる。「裁判所」のホームページにある判例集を「統一教会」や「世界平和統一家庭連合」などのキーワードで検索すると、平成13年11月30日に大阪地方裁判所で下された損害賠償請求事件の判決文に行きつく。元信者10人が起こした裁判の判決で、裁判長は被告の統一教会(訴訟の途中で世界平和統一家庭連合に改称)に対して、1億5833万円の支払いを命じた。判決書に記載されていた手口の一例を紹介しよう。
 原告Aさんは重い病気にかかり夫に先立たれ消沈していた。信者がAさんに対して家系図を示しながら、「御主人が死んだのは先祖の因縁のせい。あなたの子どもも20歳まで生きられるかどうか分からない。父親も御主人も成仏ができなくて地獄で苦しんでいる」と語りAさんを不安に陥れ、500万円の「本翡翠念珠」と540万円の「多宝塔」を購入させた。夫の生命保険金が下りたあとは2100万円分の物品を購入させた。─判決書にはこうした手口が原告10人分、詳細に記載されている。

「今後も会長として活動続ける」(東代議士)

 旭川市内にも、世界平和統一家庭連合の施設がある。信仰を続けながら幸せに暮らしている信者の家庭もあるのだろう。が、安倍元首相襲撃をきっかけに、この宗教団体の実態に改めて注目が集まっている。逮捕された男の母親が数千万円を教団に寄付して自己破産、家庭が崩壊したことを男が恨んでいたとの報道があるが、それほどの寄付を受け入れる教団は果たして「普通の宗教」なのか。ちなみに、一時日本からの芸能人の参加などで話題を集めた合同結婚式は、コロナのために規模を縮小したとはいえ、今年も4月に韓国で開催された。
 家庭教育の推進そのものは、単親家庭の子や経済的な事情や親の健康状態の十分な家庭教育を受けられない子もサポートするのであれば、多くの子どもたちの幸せに合致する。ただし、一般市民とも関わりの深い条例が旭川市でも制定されるのであれば、誰がどのようなプロセスで条例案に関わったのか、市民に広く公開する必要がある。
 現在、旭川家庭教育を支援する会の会長は、東国幹衆議院議員が務めている。本誌が東事務所に書面で送った質問と、即日返送されてきた回答は以下の通り。
Q 会長就任の経緯は?
A 複数の世話人からの賛同のもと打診があったのでお引き受けした。
Q 支援する会と世界平和統一家庭連合の関係について何か知っているか。
A 何も知らない。
Q 今後も旭川家庭教育を支援する会の会長として活動するか。
A 活動する。
 東氏は危機感を感じていないようだが、それには歴史的、かつ全国的な事情もある。
 政界関係者にとり、「統一教会」よりもなじみ深いのはむしろ「国際勝共連合」。教祖である文鮮明氏が1968年に韓国で設立、同年には日本での活動を開始している。いまでこそ右派は韓国に批判的だが、当時はソ連・中共・北朝鮮からの共産主義勢力を跳ね返すためのパートナーだった。自民党と勝共連合の密接な関係は、「霊感商法」が明らかになったあとも変わらなかった。自民党には、統一教会から寄付を受けたり、会合に参加したり、イベントでビデオで祝賀メッセージを寄せる国会議員がゴロゴロいる。その代表格が銃撃されて死亡した安倍元首相。にもかかわらず、自民党内から統一教会との関係を見直すべきだといった声は聞こえてこない。
 本誌は、旭川家庭教育を支援する会の落合博志副会長にも取材した。
 「家庭活動支援を通じて地域を良くしたいという純粋な思いで活動してきた。A氏が旧統一教会に関与しているのなら、関係を解消した上で、これからも会の活動を続けていく」(落合氏)。A氏からは8月4日付けで「一身上の都合で事務局次長を辞任する」との辞任届が提出された。

累計の全国被害額 1237億円
 自民党の一部の国会議員たちは旧統一教会と関連のある団体だと知った上で知ってイベントに参加しているが、旧統一教会については、正体を隠した活動で仲間を増やして信徒集めにつなげているとの指摘がある。たとえば「CARP〇〇」といった団体は社会問題や環境問題、SDGsに関心のある若者を集めてセミナーなどを開催し、札幌でも活動の実績があるが、実質的には旧統一教会の別動隊だとみられている。
 旭川家庭教育を支援する会の参加者も(すべてではないが)A氏の背景を知らなかったと強調する。会を取材した本誌記者も、「同性婚問題を考える旭川の会」や旧統一教会との関わりについては知らなかった。A氏は「それぞれが個別の目的と活動をしている別団体」と強調するが、関係を隠していることこそが旧統一教会の問題点だ。
 霊感商法の被害者やその家族を支援している「全国霊感商法対策弁護士連絡会」のウェブページによれば、相談のあった被害額は2018年だけで21億9100万円あまり。1987年からの累計では1237億円と、自然災害に匹敵する規模になる。行政や政治が利用され、お墨付きを与えるようなことがあってはならない。

表紙2209
この記事は月刊北海道経済2022年09月号に掲載されています。
この記事をシェアする
  • URLをコピーしました!