特別栽培米でせんべいを共同開発

写真左から茂木浩介社長、島山守穗組合長、村本暁宣社長

 北海道を代表する米どころとして知られる旭川。その魅力を全国にアピールしようと、特別栽培米「ゆめぴりか」を原材料としたせんべいをJAあさひかわと壺屋総本店、日本醤油工業が3社で共同開発した。こだわりの特別栽培米を壺屋総本店の協力工場が独自の技術で加工し、厳選生産された生しょうゆで味を付けた逸品は、市民はもちろん観光客向けのギフト商品として広く全国にPRしていく考えだ。

地元企業とコラボ
 旭川で生産された特別栽培米を使った米菓のコラボ企画を提案したのは、壺屋総本店の村本暁宣社長。親交のある米農家から、「北海道は米どころでありながら、新米の時期にイベントや祭りが少なく、なかなかアピールする機会がない」という声を耳にしたことがきっかけとなった。
 最近では米粉を使用した商品は増えているものの、米自体の魅力を全面に打ち出すギフト商品は少なく、当初は「何とか自社で米を使用した菓子開発に取り組めないものか」と考えを巡らせていた。そんな矢先、同社の協力工場である埼玉県越谷市の草加せんべい工場「山香煎餅本舗」から、独自の技術でふっくらと米を炊き上げ、さっくりとせんべいを揚げる技術があることを聞き、せんべい開発に乗り出すことにした。
 これまで、多くの地元の企業と連携し、様々なコラボ商品の開発に取り組んできた村本社長は、商品の付加価値を高めるために今回もコラボ開発にすることを決め、旭川市を通じてJAあさひかわに共同開発の話を持ちかけたところJAあさひかわは二つ返事で快諾。高品質のキッコーニホン醤油で知られる日本醤油工業(旭川市曙1条1丁目)にも協力を呼びかけ、今年5月から開発に取り組んだ。

特別栽培米を使用
 通常、せんべいを作る時には、破砕米や古米が使用されるが、今回のコラボ開発で使用されているゆめぴりかは、農薬を通常の使用よりも7割、化学肥料も5割減少したこだわりの特別栽培米。業務向けの米を使用することで利幅を優先することもできたが、生産者が苦労して育てた高品質の米として商品をアピールするため、あえて特別栽培米を使用。村本社長は「普通はこの米でせんべいを作ることはしません。工場から『この米で作るんですか?』と言われたほどです」と振り返る。
 工場では、草加せんべいと同じ揚げ焼きで製造し、他の品種の米で作った物よりも、ぷっくりとした大きな粒のままで揚げているのが特徴だ。
 つけダレには、昆布だしに、熱処理をしない製法で作られる厳選生産されたキッコーニホンの生しょうゆを使用した。
 茂木浩介社長は「せんべいの製造では、上にかける醤油やたれを『みつ』と呼びます。みつの味で美味しさを味わいながら、米の美味しさを感じるのがせんべいと言われています。お米の美味しさ引き出すには、火入れの時に生じる火香(ひが)の少ない醤油が合うと思い、香りの穏やかな生しょうゆを選びました」と話す。
 「たんぼの神様」とネーミングされたコラボ商品は、9月23日、JAあさひかわ直営のあさがお神楽店と永山店で先行発売。続いて9月30日から3日間の日程で開かれたき花の杜の工場祭でもデビューした。また日本醤油工業では、10月から工場直売店で販売を本格化させた。またJAでは農協組織のネットワークを活かし、ホクレンショップなどでも販売を計画。日本醤油工業では、通販サイトにも掲載し、販売を促進していく考えだ。
 ターゲット層は、市民をはじめ観光客で、茂木社長は、「3社の店舗で販売し、店舗を訪れた観光客に購入してもらうことで全国の皆さんにおいしいおせんべいを味わって欲しい。軽いので持ち運びに便利で、お土産やギフト向きの商品だと思います」と笑顔で話す。

夢のあるコラボ開発
 さて、今回のプロジェクトのように企業が連携し、共同で商品を手がけるコラボ開発は旭川でも広がっているが、どのような効果が期待できるのだろうか。
 早くから積極的にコラボ商品の開発に取り組んでいる村本社長は、「開発の過程で色々な方から届く声は我々にとって大きな財産となっています。また自社だけで商品開発に取り組むと、採算を考えて途中で断念してしまうケースもありますが、他社とコラボをする場合にはそういう訳にはいきません。地元意識をしっかりと持ち、奮起して開発を行う良い機会だと思っています」と話す。
 また、道内の市町村と連携し、この15年間に900近いアイテムを開発した茂木社長は、「お互いが持っていない物を合わせて作るところにコラボ商品の楽しさがある」と話す。「開発の段階で、利益は二の次にして、『こんな物があったらいいね』などと夢を持ちながら出来ることが何よりの魅力。必ずしも全てが成功するわけではなく、今も試行錯誤を続けています」。
 ゆめぴりかを使用した甘酒の開発など六次化を進めているJAあさひかわでは昨年、十勝清水町農協と小豆パウダーを使用し、農協間のコラボ商品として取り組んだ。他企業とのコラボに取り組んだ感想を島山守穗組合長は、「単独で商品開発を続けていますが、声をかけてもらい、いい商品を作ることができました。コロナ禍で生産者も厳しい状況ですが、我々が作っている物が消費者に食べて貰えることがうれしい」と語った。
 地元3社がタッグを組んで手がけた新たなコラボ商品が、全国に広がる日が待ち遠しい。

この記事は月刊北海道経済2022年11月号に掲載されています
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