コロナ借金〟反動で倒産急増の恐怖

 新型コロナの感染拡大で厳しくなった中小企業の資金繰りを支えた無利子、無担保「ゼロゼロ融資」の返済が始まった。企業倒産を歴史的低水準に抑える効果はあったが「倒産は免れたけれど、返済資金がない」と道北の企業がいま頭を抱えており、一転、倒産増加の懸念が出てきた。生活福祉資金の返済も始まり個人破産多発も心配される。

歴史的低水準
 新型コロナウイルスが〝襲来〟した2020年は国内の企業倒産が、30年ぶりに8000件を下回った。毎年200件台だった北海道の企業倒産も175件と、低水準。道北地区(上川、宗谷、空知の奈井江以北)も24件にとどまり、1971年に東京商工リサーチ旭川支店が調査を開始して以来、最少となった。
 20年2月以降の感染拡大に対応して、急速に悪化した中小企業の資金繰り支援を国が開始し経営破たんを防いだことが大きい。裁判所が緊急性の高い案件以外の開廷を控えたことで破産手続きが停止状態となり、また手形・小切手の不渡り・取引停止処分猶予なども企業倒産減の要因となった。
 その流れは21年、22年と続いている。
 上のグラフにあるように、道北地区での倒産は21年は年間で21件にとどまった。11月こそ5件を記録したが4月、8月と倒産件数ゼロの月も2度あった。今年22年は1月の2件で始まり3月に4件をカウントしたもののその後は最少の1件が続いている。1月から9月までのトータルでも13件で、ひと月当たり2件を割り込んでいる。3年近く倒産件数は「歴史的低水準」となっている。
 しかし今、一転して急増の危惧が広がっている。

過剰債務の企業
 企業の信用調査会社・東京商工リサーチの集計によると、「22年度上半期(4~9月)の全国の企業倒産は今年4月から9月まで6ヵ月連続で前年度同月比を上回り、20年以来2年ぶりに3000件台、3141件となった」。北海道の倒産件数も、前年度上半期よりも38件増(62・3%増)で、減少傾向にピリオドが打たれた。
 倒産増の要因は、コロナ禍で中小企業の資金繰りを支えてきた緊急避難的な支援策の縮小だ。実質無利子・無担保のいわゆる「ゼロゼロ融資」の新規受け付けが9月で終わった。これに加えて、物価高に伴うコスト上昇が、企業の経営環境を悪化させている。
 道北地区はいまはまだ例外的に平静な状況を保っている。しかしジャンボジェット機の離陸に例えて過去に盛んに言われた首都圏と道北の経済情勢に似ている。不況を抜け出し機首と機体(首都圏)は浮上し好況だが、尾翼(道北)は依然不況が続いているというものだった。好況も不況も道北に届くにはタイムラグがあるようだ。いま全国的に増勢に転じた企業倒産も、しばらく遅れて道北に〝来襲〟する。
 「コロナが猛威をふるう状況下でも、政府の支援策があって道北の多くの企業が踏みとどまってきた。しかし倒産として集計されない休廃業は増加しており、経営マインドは下降している。ゼロゼロ融資で救われたが、事業規模以上の借り入れで過剰債務となっている企業も少なくない。年明け以降返済がピークとなり、行き詰まる企業が出てくるだろう」(東京商工リサーチ旭川支店)

半数以上が利用?
 数回に分けてゼロゼロ融資を受けたという市内製造業の社長に話を聞いた。
 「コロナで需要が一気に縮小し、すがる思いで最初に政府系金融機関から借り入れ、その後、地銀と信金からも借りた。いずれも制度開始間もなくのことで、総額で数千万円になる。その年20年から返済を始めている。返済はまだ続くが、借りたものは返さなければならない。厳しいが関係機関に迷惑をかけないようにやっていく」と話し、こうも続けた。「うち同様に、同業や取引先の多くがゼロゼロ融資を利用している。感触としては、旭川の中小企業の半分か、それ以上、6割近くが融資を受けているのではないか。うちもそうだが、かなりの企業がゼロゼロ融資の資金で別途の短期借り入れを完済しており、そういう意味では助かっている」
 市内サービス業の社長は、より深刻な状況に直面している。
 「インバウンド需要の消滅で売り上げが激減し資金繰りのため迷わずゼロゼロ融資を受けた。この制度がなければ倒産していた。融資を受けている間にコロナが収まり経営を立て直せると考えていたが、コロナ禍は予想に反して長期化し返済時期に入ってきた。モノの値段が軒並み上がりウクライナ情勢もいまだ不透
明だ。旅行客は少し戻ってきたが、売り上げの急回復は見込めそうもない。この先返済を続けていけるか正直いって自信がない」と話す。

23年返済ピーク
 ゼロゼロ融資は20年3月に始まった。当初は日本政策金融公庫や商工組合中央金庫などの政府系金融機関が手がけ、申請が殺到したことから20年5月からは民間の金融機関も融資できるようになった。
 コロナ禍で影響を受けた中小企業が金融機関に申請をし、審査を経て融資が開始される。融資後3年間は、本来借り手が金融機関に支払う利息分を国や都道府県が負担する。原本返済の猶予も最長5年まで認められ、信用保証料も国や都道府県が負担して減免するという仕組み。
 金融機関にとっては確実に融資を回収できて利子も稼げるとあって、20年5月以降、旭川地区でも地銀と信用金庫などが〝融資争奪戦〟を繰り広げた。一方、中小企業にとってはきわめて借りやすい仕組みであり、また金融機関のセールスもあって、身の丈に合わない額までの融資を受けた所が少なくない。
 民間金融機関はひと足早く21年3月で新規受け付けを終了し、政府系金融機関はこの9月で同じく新規受け付けを終えた。道内では地銀や信金など民間金融機関の貸し付け分だけで1兆1700億円を融資している。
 返済条件などは借り入れた企業によって様々で、前出の市内製造業者のように20年に借り入れその年に返済を始めた企業もあるし、また、1年、2年の猶予期間をおいてから返済を開始する企業もある。
 民間融資分の保証を行っている北海道信用保証協会によると、制度が始まった20年に返済を始めた企業は全体の32%で、昨年、または今年に返済開始する企業が約27%、実質無利子期間の3年が経過した23年から返済を始める企業の割合29%となっている。ほぼ3割ずつで、ゼロゼロ融資を利用した旭川の中小企業の半分程度が返済を実施していると見られ、来年には全体の9割が返済をすることになり、ピークとなる。

代位弁済急増
 経営が行き詰まって返済ができなくなった場合にそなえ、中小企業は各地にある信用保証協会に保証申請しており、万が一の場合、信用保証協会が「元本」の返済を肩代わりしてくれる。肩代わり返済を「代位弁済」というが、直近の北海道信用保証協会統計資料をみると〝コロナ借金〟に行き詰まる企業増加の兆候がみえてくる。
 直近7年間の保証債務の件数と代位弁済の件数の推移に注目すれば、コロナ禍が始まる前の19年まではどちらも緩やかな減少傾向をたどっていた。保証債務件数は9万件前後で、代位弁済件数は250件から400件の間を上下している。インバウンド需要が旺盛で、北海道の企業業績が堅調だったことを示している。ところが20年に入ると新型コロナウイルス感染拡大で業績が悪化し資金がひっ迫。国が始めたゼロゼロ融資などに企業が飛びつき保証債務件数は急増し、当面の資金が充たされたことで代位弁済件数は急減している。グラフでは、保証債務件数一気に12万件を超え、代位弁済件数は100件にまで減少している。
 そしてコロナ禍が予想外に長引き、民間金融機関のゼロゼロ融資受け付けが終了し返済も始まったことで、代位弁済の方は急増している(保証債務件数に増減はない)。
 残高もまた同じように、コロナ発生前までは緩やかに下降していたが、新型コロナウイルス感染拡大に対応した融資が始まると保証債務残高は急増。一方、代位弁済額は急減している。コロナ感染に身構えたが、企業の財務は国の救済策で余裕ができた状態。しかし返済が始まり、新規貸し付けが終了したことで、代位弁済額は再び急増している。
 「コロナ融資で倒産は避けられたが、返すお金がない」と、苦しむ道内の中小企業の財政事情が反映されている。旭川の中小企業の多くも、返済資金確保に頭を抱えている。

物価高倒産
 「代位弁済の推移は、今後の企業倒産の増減を予測するうえで参考になります」と、東京商工リサーチ旭川支店。前ページのグラフにある債務弁済件数・残高はコロナ前の水準に近づきつつあり、企業倒産もそこへ回帰するとの指摘だが「燃料費などが高騰、さら円安によって小麦など多岐にわたる物価高という要因も加わっている。コロナ融資返済局面での諸物価高騰で〝物価高倒産〟も危惧される」と付け加える。
 物価高はあらゆる業種に大きな影響を与えているが、中でも運輸、食品、建設のダメージが大きいとされる。
 市内の運輸業の社長に話を聞いた。
 「ガソリン代の高騰、さらに車両価格、タイヤ代、修理代と軒並み上がっている。しかし荷主に〝配送料を上げたい〟というと〝じゃあ、ほかの業者を探す〟となってしまい、価格転嫁して請求できない。真綿でジワジワ締め付けられるような経営状態だ。廃業も時々考える」。また市内の食品関連業者も「国の支援策でコロナをどうにか乗り越え緊急事態宣言が明けて売り上げが戻ってきた。この先もやっていけると希望がみえかけたが、材料費の高騰に直撃されている」と苦渋の表情だ。
 民間のシンクタンクは「23年から25年にかけて倒産問題が深刻化する」と警鐘を鳴らしている。
 前出の運輸業者、食品関連業者は「国が何とか手を打たなければ、コロナ融資返済に加えて物価高の大波で道北の多くの中小企業が破綻してしまう。各界からのSOSが届いたのか、経済産業省がゼロゼロ融資の返済負担を軽減するための制度を考え始めたときく。我々のような中小・零細を救う有効な手段を早期に実施してほしい」と、切実に訴える。

この記事は月刊北海道経済2022年12月号に掲載されています
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