629ぺーパン川氾濫 人災認めた道

工事現場付近のぺーパン川(早苗橋から)=10月中旬

 今年6月下旬の大雨に伴い旭川市東旭川町で河川改修中のぺーパン川の工事箇所から水があふれ、近くの民家2戸に床上浸水などの被害が出た問題で、事業主体の道は工事施工に伴う人災だったと認め、被災した2世帯に対する補償を決めた。被害発生から3ヵ月後にようやく下った補償の判断を遅きに失したと見る住民は少なくなく、家が水浸しとなった被災者の男性は、説明に来た道職員に「『ちょっと遅いんでないか』って言ってやった」との不満を口にする。道は依然として「ミス」や「瑕疵」を認めておらず、水があふれた詳細な経緯は明らかにされていない。

床・壁・戸に残る被害の痕
 6月28日から29日にかけ、前線を伴った低気圧の影響で上川管内は大雨に見舞われた。29日早朝、旭川市東旭川町米原のぺーパン川に架かる早苗橋から上流数百㍍地点の河川改修工事箇所から水があふれ、早苗橋近くに住む2世帯が床上浸水などの被害に遭った。あふれた水は一気に田畑をなめつくし、早苗橋のたもとに暮らす石山正徳さん(80)は、消防に連絡してボートで逃げざるをえなかった。石山さんの年齢を考えれば、まさに「間一髪」だった。
 石山さんの住宅には今も水害の痕跡が残っている。玄関の上がり框(かまち)、居間の引き戸、居間の壁……。あらゆる場所に白い線が残る。「なかなか消えないだわ」。石山さんは水に浸かったためにところどころ隆起したフローリングをさすった。
 家が水浸しになった後、地域の住民たちの温かな支えを受けながら、石山さんは工事主体の道からの説明を待った。道の所管職員が石山さん宅を複数回訪問しているが、「私たちはちゃんとやるべきことはやってきた」というばかりで、納得のいく説明はなかった。あの程度の雨で水がこんなにあふれるのはおかしい─。長年この地に暮らす石山さんは疑念を募らせた。
 道は8月下旬、本誌の取材に対して、調査中なので細かい原因を聞かれても説明できないとし、「水があふれたことと工事との因果関係が確認された場合は補償について検討する」との考えを示していた。

ぺーパン川氾濫工事が原因と自認
 事業主体の北海道は、度重なる水害を防ぐことを目的に、ぺーパン川の早苗橋上流数百㍍のところに頭首工を設け、湾曲する流路を直線的にして川幅を広げる改修をしていた。工期は今年3月~来年3月末。
 河川改修については、雪代や雨の多い出水期の河道内の工事を行わないとの原則がある。ぺーパン川の今改修はまさにこの出水期にあたる。ただ、例外として、国土交通省は工事箇所に水が入ってこないように水を一時的に遮断する仮設構造物・「仮締切堤」の設置を条件に、河川堤防を開削する工事の施工を認めている。このため、今回の河川改修において仮締切堤が設置されていたとみるのが自然だ。
 この仮締切堤には国交省の設置基準があり、明記された原則の履行・具体化の有無が焦点となっていた。基準にはこう記されている。《仮締切設置後の断面で一連区間の現況流下能力を確保することを原則とし》。この〝現況(工事前)流下能力〟を維持・確保できなかったと見る業界関係者もいる。いわゆる工事という人為が介在し、工事前の流下能力を確保できなかった可能性だが、道は具体的な工事の中身と水があふれたことについて口をつぐむ。

今回の氾濫に係る調査結果の説明は
 「2階から縁の下まで見せてほしい」。9月下旬、複数の道職員が石山さん宅を訪問し、居間に上がって図面を示し、今回の工事と水があふれたことの因果関係を説明した。補償の範囲を調査する旨を伝え、「謝ってくれた。だけど私は言ったの『遅すぎるんじゃないですか』って」。石山さんは、工事箇所のこの辺りから水があふれたという説明を受けたが、なぜ水があふれたのか、その原因については何も聞いていないという。
 道は本誌の取材に「工事の施工と発生した損害の間に因果関係が認められたため補償を決めた」と話す。「工事の瑕疵(かし)、あるはミスを認められるか」と問うと、「私は『瑕疵』『ミス』とは一切言ってませんよ。工事施工と発生した損害の間の因果関係を認めたということです」と話し、最後まで落ち度を認めなかった。
 道は、今回の氾濫に係る調査結果の説明会、報道発表を今後実施する考えはないとしている(10月末現在)。被災した2世帯それぞれに謝罪し、補償の中身を詰めるいわば〝一本釣り〟で幕引きする考えだ。
 だが、川は上流から下流へ、流域には複数の地区・自治体がまたがる。河川管理者として公費で改修工事をし、その施工が原因で災害が発生した。そして被災者をさらに公費で補償する。こうした事案であることを踏まえれば、道は自治体として説明責任を果たすべきではないのか。このような簡便なかたちで幕引きを図るようでは、河川付近に暮らす住民は気が気でないはずだ。

この記事は月刊北海道経済2022年12月号に掲載されています
この記事をシェアする
  • URLをコピーしました!