共産党が荻生擁立 野党協力瓦解

 日本共産党の旭川地区委員会は7月3日に記者会見を開き、次の衆院選挙に党の独自候補として荻生和敏氏を公認候補として擁立すると明らかにした。衆院選6区で過去2回、実現した野党統一候補の擁立が、次回は成立しないことになった。共産党としては止むにやまれぬ選択。喜んでいるのは他党の候補を応援する必要がなくなった共産党員、そして勝算の強まった自民党の関係者だ。

立憲泉代表発言で独自候補擁立へ
 荻生氏は現在、日本共産党旭川地区委員会の副委員長を務めている。衆院選には中選挙区制の時代も含めて過去4回出馬しており、有権者にはおなじみだ。記者会見で荻生氏は「比例代表での議席獲得を目指す」と語るとともに、日本の二つの歪み(「大企業の儲け優先」「アメリカの言うなり」)を是正したいと思いを述べた。
 現在73歳の「新人候補」の体力が気になるところだが、荻生氏の趣味はマラソン。「昨年のオホーツク網走マラソンで完走、自己ベストを更新した(5時間38分12秒)」と語り、自信たっぷり。
 立憲民主党の泉健太代表が5月、共産との選挙協力を「やらない」と明言したことから、共産は全国各地で候補者選びと擁立に向けた動きを加速しており、北海道ではいち早く人選が済んだ道6区と9区(胆振日高管内)で3日に候補擁立を発表した。
 共産などとの協力で当選した議員も少なくない立憲内部では、泉代表の頑なな態度に戸惑いが広がり、小沢一郎氏らのグループが反発している。こうした状況を受けて泉代表は6月30日の記者会見で「各県の事情を踏まえて柔軟に考えたい」と発言、共産との選挙協力に含みを持たせたものの、それでも共産は候補の発表に踏み切った。「選挙で共産党が躍進することが、野党共闘の再構築につながる」と荻生氏。今後、立憲と共産の再接近があるとしても、それは衆院選が終わったあとになりそうだ。
 市内の立憲関係者は語る。「泉代表の冷淡な態度は、共産党を毛嫌いする連合・芳野友子会長の支持をつなぎとめるのが目的。もっと早く地域ごとの事情に配慮する方針を示していれば、他の地域はともかく、北海道では立憲と共産で競うような事態にはならずに済んだのではないか」

選挙協力で多くを失った
 共産のこうした動きは、必ずしも立憲への反発によるものだけではない。野党協力を通じて共産が失うものも多かった。2014年の衆院選挙、共産は比例北海道ブロックで畠山和也氏が議席を獲得しているが、その後は衆院でも参院でも落選続き。大きな要因が、選挙協力による共産の露出度の低下だ。比例への注目度は衆院でも参院でも低いが、今回、荻生氏ら共産の候補が各選挙区から出馬すれば、選挙区での当選は困難でも、共産党への注目度が高まり、畠山氏が議席を奪還することができると、共産は期待している。
 では、共産党の独自候補擁立は、次の衆院選の6区での戦いにどのような影響を及ぼすのだろうか。勝敗を断定する材料はないが、過去の選挙の得票状況をもとにある程度の推測はできる。
 前回衆院選(2021年)で、当選した東国幹氏と落選した西川氏の得票差は3万5000票あまり。ただ、この選挙は旭川市のいじめ問題の影響で、西川氏にとり猛烈かつ突然の逆風が吹き荒れたため、今後の選挙を占う材料にはしにくい。その前、2017年衆院選の結果を振り返ると、当選した立憲・佐々木隆博氏と落選した自民・今津寛氏の差は2万2461票だった。佐々木氏の得票のうち、共産党の支持者が投じた票はどれだけだったのか。同じ選挙、衆院比例代表の共産の得票は、旭川市が1万4216票、士別・名寄・富良野の各市が合計2193票、上川管内の町や村が3455票だった。合計すれば1万9864票。佐々木氏、今津氏の得票差よりも少ない。つまり、この選挙でもし共産が独自の候補を擁立していたとしても、単純計算の上では佐々木氏は当選したことになる。
 しかし、次の衆院選は事情が異なる。まず、立憲の集票力の低下傾向は明らかだ。今年4月に行われた道議選の立憲の候補2人(宮崎アカネ氏=当選、松本将門氏=落選)は合計で3万1874票しか取れなかった。前回道議選(2019年)の立憲の候補2人(笠木薫氏=当選、松本氏=当選)の合計得票は3万7404票だったから5500票余りも減らしたことになる。これに対して自民・東氏には2期目の現職候補という強みがある。いまの状況が次の衆院選でも継続しているなら、西川氏が厳しい戦いを強いられるのは必至だ。
 次の衆院選挙がいつ行われるのかは見通せないが、比較的共産との関係が良好だった道内の立憲関係者としては、それまでに共産との関係が改善する奇跡を祈るしかない。
 6区での共産党の独自候補擁立を喜ぶ人がいるとすれば、他の党の候補に投票しなければならないことに不満を募らせていた根っからの共産党員と、勝算が高まった自民党の支持者しかいないのではないか。

この記事は月刊北海道経済2023年08月号に掲載されています。
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