レクサス旭川周辺 街路樹枯死の謎

 雨量が豊富な日本の都市の魅力の一つが街路樹。旭川もいたるところに、春には新緑、夏には深緑、秋には黄色や紅の葉でまちの風景に彩りを添える並木道がある。冬に雪や氷をまとう木々も北海道を代表する風景だ。神楽岡付近の国道237号もその一つ。2012年から15年にかけて街路樹が相次いで枯死したと考えられる全国でも話題のスポットを訪ねた。

器物損壊の疑い
 この夏、ニュースに最も多く登場した企業の名前は中古車全国大手の「ビッグモーター」だろう。スキャンダルの中心は、修理に持ち込まれた車両に故意に傷をつけて修理代金を水増ししていた疑いだが、この企業の異常性を際立たせているのが、店舗前の街路樹に大量の除草剤をまいて枯死させていたとの情報。店舗所在地の地方自治体が調査に乗り出し、土壌から除草剤の成分が検出された店舗については、東京都、神奈川県、愛知県、福岡県が器物損壊の疑いで警察に被害届を提出した。このうち東京都では多摩、立川、練馬などにある9店舗前で除草剤の成分が検出されている。複数の地域で同様の現象が確認されたことで、当初の会社側の(枯死に)「関与していない」との説明が嘘だったことが明らかになった。
 元社員からは「社員総出で店舗前の街路樹を抜いた。店長から指示があった」との赤裸々な証言も飛び出している。

ハルニレ並木が途切れる場所
 街路樹が枯死する問題は、旭川市内の自動車販売店の前でも起きていた。ネットで8月初旬に話題になった場所、レクサス旭川(旭川市神楽岡14条9丁目)を訪ねた。軒先の国道237号では、クルマやトラックが行き交っている。このあたりの国道では左右に並木が連なり、富良野線側(東側)には背の高いポプラもところどころに生えている。旭川と美瑛・富良野方向の間をレンタカーで移動する道外からの観光客が喜びそうな景色だ。
 ところが、美瑛川方向(西側)にある歩道では、それまで続いていたハルニレの並木が、トヨタ系の自動車部品販売店、ジェームスの前でいったん途切れる。切り株が残っているということは、かつてここにあった木が切り倒されたということだ。
 歩道を南に歩いていくと、ジェームズの隣にあるのがレクサス旭川。ここでもやはり、いくつかの切り株があった。
 このあたりの並木では、他の店や企業の前にも枯れ、根元から切り倒されて除去された木がある。木も生き物である以上、枯れるのを完全に防ぐことはできない。ただ、これほどの頻度で切り株が並んでいる箇所は、レクサス旭川前以外には見つからなかった。
 レクサスは日本を代表する高級車自動車ブランド。ショールームには庶民には到底手の届かない高級車が並ぶ。運営しているのは、旭川の経済界を代表する企業の一つ、旭川トヨタ自動車だ。まさかビッグモーターのような悪質な行為はないだろうが、人為的な要素がからんでいないかに注目しないわけにはいかない。

伐採依頼していない
 ネットのSNSなどで、悪い意味で「バズった」ことを重く見たのか、旭川トヨタはウェブ上に8月4日付で次のような文書を掲載した。
 店舗側歩道に街路樹があり、秋になると大量に落葉するため、弊社店舗営業スタッフにて毎日30~60分かけて落ち葉掃除を実施しておりました。
 約10年近く前(正確な時期は確認中ですが)、ちょうど枝払いをしていた業者さんがおられた為、 落ち葉の話をして、こちら側の木も枝払いできないかと相談したところ、「自分の一存で出来ないので開発局に確認する」と持ち帰られ、その後、許可が下りたとしてご連絡を頂き、樹木の枝払いを実施頂いたものです。その後、枝払い後の樹木が弱り、2021年頃、木の根元から伐採が経緯でございます。
 一部報道に掲載の、 販売店から依頼があったために伐採したということではなく、通常の維持管理の一環で行ったという見解と伺っております。
 現在、北海道開発局にも確認中ではございます。 確認が取れ次第、改めて当内容をアップデートさせていただきます。
 地域に密着し住民の皆様に喜んで頂く経営を目指している販売店として、あらためて、皆さまにご心配とご迷惑をお掛けしたことを深くお詫び申し上げます。

 お詫びはしているものの、レクサス旭川として自ら街路樹に手を加えた事実はなく、伐採の依頼すらしていないと強調する内容だ。その通りなら、街路樹の枯死とレクサス旭川を結び付けて非難されるのは、まったくの「もらい事故」ということになる。しかし、本当にそうだろうか。

原因は不明(旭川開建)
 本誌はグーグルストリートビューで、ネット上にデータが残っているレクサス旭川前の過去の様子を確かめた。2014年7月の時点では、確認できるだけで237号の歩道上に4本のハルニレの木が、たくさんの葉を茂らせている。同じ国道の街路樹と比較して、何ら差異は感じられない。葉が多すぎて、道路からは店舗の高級感あふれるファサードや、輝く「LEXUS」の文字が見えにくいほどだ。ところが、約1年後の15年7月に撮影された画像では、4本とも葉や枝はほぼすべて切り落とされ、ほんのわずかな新緑の葉が生えているだけ。旭川トヨタの説明にあった「枝払い」はこの直前に実行されたとみられる。
 それから約2年後、17年8月の画像は痛々しい。葉はひとつもなく、生命の兆候が感じられない。樹皮が一部剥がれてしまっているものもある。この時点で完全にハルニレ4本が枯死したのは明らかだ。18年5月、19年6月と時間が経つにつれて樹皮のない丸裸の部分が広がり、22年9月の時点で枯れ木が撤去されている。
 国道の街路樹を管理している旭川開建道路保全課に電話取材した。問題のハルニレは、旭川開建からの委託を受けた民間業者が枝を落とした。「丸裸」となった樹木を見るとやりすぎではないかという気もするが、ハルニレはこのような状態からも再生することができ、問題はないのだという。
 焦点となるハルニレが枯れた原因については、病害や虫害などさまざまな要因が考えられることから「不明」(道路保全課)。ただし、民間業者による枝落としについては問題がなかったとの見解だ。
 過去の写真を見ていてもう一つ、気が付いたことがある。レクサス前の樹木の根元に、雑草がほとんど生えていないのだ。周囲の企業や店の前では、街路樹の根元に大量の雑草が生えているが、むしろこれが自然。一戸建てに住んでいる人なら誰でも雪解け期から秋まで悩まされているが、雑草の生命力はすさまじい。抜いても抜いても芽が出てきて、1ヵ月も放置しておくと玄関先や店先が「ボーボー」状態となっていることがある。レクサス旭川は、どんな方法で雑草に対応し、ほぼ完ぺきな状態を維持していたのか。これは仮説だが、丸裸からでも回復するほど強い生命力を持つハルニレも、同じ時期に根元に除草剤をまかれたら影響を受けてしまうのではないか…。

除草剤は不使用
 本誌は旭川トヨタに電話取材した。「レクサス事業責任者」の寺沢和久氏の説明は、前述したネット上のウェブ上の説明とほぼ同じだった。記者は、雑草除去の方法を尋ねた。
 「手作業、またはホームセンターで購入した道具を使って、一本一本抜いている。除草剤などは使っていない」(寺沢氏)。だとすれば、旭川開建も言う通り、枯死の原因を断定するのは困難だ。
 ここまでの記事では、レクサスの前、国道の歩道に植えられていたハルニレについて述べてきた。SNSなどで注目を集めていたのもこれらの木々。実は、他にもレクサス旭川の周辺で枯れた木がある。
 レクサス旭川前の交差点を、美瑛川堤防に向かって曲がると、植樹用に土をコンクリートで囲んだ「植樹桝」がある。レクサスの店舗用駐車場の最も奥まった辺りまででその数は3つ。2012年4月の時点では、うち2つに木が生えていた(その時点での樹木の生死は不明。残りの植樹桝一つには何も生えていない)。14年7月の画像では葉が確認できず、この時点では枯死していた模様。2本の枯れ木のうち、1本は18年5月までに、もう1本は翌年6月までに撤去された。記者が訪れると、うち一つの植樹桝には、いまも切り株が残っていた。
 同じ道路のさらに奥に生えている木から判断して、ここにはナナカマドが植えられていた。ナナカマドはハルニレと違い、枝をすっかり落としてしまうような管理は行われない。ナナカマドがいつ枯死したのかは不明だが、2012年から15年にかけて、ハルニレと合わせて少なくとも6本、2種類の木がそろって枯れてしまうのは、単なる偶然や「原因は不明」で片づけられないレベルの特異現象なのではないか。

環境にやさしい車
 レクサスの高級車に到底手が届かない記者に、ショールームの内部に足を踏み入れる度胸はないが、一部のモデルの名称の末尾には、「h」や「e」のアルファベットが付加されているのがガラス越しに見える。それぞれハイブリッド、電気自動車を意味する文字。簡単に言えば同じクラスのガソリンエンジン車と比べて、車両からのCO2排出量が少ないということだ。この時代、地球環境にどれだけ優しいかが、ブランドイメージに直結し、売れ行きも左右する。
 ハルニレやナナカマドの木がそろって枯れてしまった理由が気にならないわけではないが、視線を遮る木が1本もない分、レクサスのラインナップを飾る数々の高級車の流れるようなボディラインは、国道を行き交うドライバーの目に魅力的に映るはずだ。

この記事は月刊北海道経済2023年10月号に掲載されています。
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