ムネオ維新離党で維新の独自候補擁立早まる?

 「ロシアの勝利を100%確信している」─所属する日本維新の会に事前の届け出をせずにロシアを訪問し、ウクライナに侵攻したロシアに肩入れするような発言を現地のマスコミを通じて行った鈴木宗男参議院議員に対する除名処分を前に、鈴木氏は自ら離党した。今後も新党大地代表として残り約2年の議員任期を全うするとみられるが、北海道の政界への影響は小さくないとの見方がある。全国進出を狙う維新が、北海道の地方議会での候補擁立を加速するというのだ。旭川や上川では自民党の議員の多くが鈴木氏と密接な関係にあり、これまで維新の候補はいなかったが、維新が遠慮することなく旭川を含む地方都市の議会で候補を擁立すれば、札幌市議会や仙台市議会のような「躍進」の可能性もある。

議員活動継続へ
 「発言が問題とはもってのほか」「政治家の認識で言ったことで処分となれば民主主義の根幹にかかわる」─などと語っていた鈴木宗男参院議員は、日本維新の会から除名の通告を受ける前、自ら離党した。
 ロシアの通信社が伝えた鈴木訪ロ中の「ロシアの勝利を100%確信している」といった発言は、日本政府の見解とも、大方の軍事評論家の見方とも異なる。が、鈴木にとっては北方領土の返還がライフワーク。数千キロ離れたウクライナ情勢のために、北海道と目の鼻の先にあるロシアとの関係が悪化し、北方領土返還の希望が絶たれるのは我慢できないという個人的な心情に突き動かされるまま行動したのだろう(もっとも、ウクライナ侵攻後のロシア政権関係者の発言から見て、ロシア側に4島どころか2島を返還する気がわずかでもあったのかは甚だ疑問だが)。
 鈴木は維新の参院議員になってからも、地域政党・新党大地の代表を務めている。参院比例区の候補が離党した場合、議員辞職して議席を政党に返すべきとの見方があるが、辞職は法的な義務ではなく、鈴木の場合には個人の知名度を生かしての当選だったこともあり、維新除名以降の議員活動継続の支障にはなりそうもない。2025年の任期切れまで国会で活動を継続するだろう。そもそも、逮捕、失職、収監、国政復帰といった波乱万丈を潜り抜けてきた鈴木にとり、維新からの離脱は、政治家人生における数多くの「エピソード」の一つにしかならない。
 より大きな影響を受ける可能性があるのが、旭川市を含む道内の地方議会だ。

無名候補も当選
 今年4月の統一地方選で維新は全国の地方議会に600人の議員を送り込むとの目標を立てた。結果は774人。維新といえば基盤は大阪だったが、この統一地方選では奈良知事選で勝利、衆院和歌山1区の補欠選挙でも議席を得た。道内でも大躍進。道議選では山崎まゆみ(札幌市東区)が初めて議席を獲得、札幌市議会(定数68)では一挙に5議席を得た。東北でも仙台市議会で一挙に5議席を獲得した。
 前回、2021年の衆院選、維新は北海道1区(札幌市中央区など)に旭川医大卒の医師、小林悟、道2区(札幌市東区など)に山崎泉、道3区(札幌市白石区など)に小和田康文を擁立(いずれも比例との重複)したが、いずれも議席獲得はならなかった。しかし、地方議会での躍進を見ると、地方での伸長を足掛かりに、「次の衆院選では立憲民主党を上回り、野党第一党を目指す」との維新の目標も、夢物語とは思えなくなる。
 地域に歴史も組織もない政党でさえ、旭川市議会で議席を獲得できる。それが証明されたのが、今年4月の旭川市議会議員選挙だった。れいわ新選組の野村パターソン和孝と、参政党の笠井まなみが当選。このうち野村は前回の市議補選で立憲民主から出馬して当選、離党しての出馬であり、SNSでの積極的な発信の効果もあり、十分な知名度があったが、笠井は出馬するまで全く無名の人物で、市内に支持組織があるわけでもない。それでも当選したのは参政党の手取り足取りの支援があり、既存政党への不満の声を追い風にすることができたためだ。言うまでもなく、維新の知名度は参政党よりはるかに高い。

親密な関係
 統一地方選の直後、記者は自民党所属の市議に尋ねた。「若者が手を挙げて、政党からのサポートを受ければ、今後の旭川市議選でも議席を獲得できるのではないか。例えば旭川市でも維新にその気があれば、議席獲得は容易なのではないか」
 議員は即答した。「それはない。6区の自民党代議士、道議はいずれも鈴木と関係が良好。鈴木は維新の会国会議員団副代表という要職を占めている。鈴木がいる限り、この地域で維新が候補を擁立することはないはず」
 道6区の衆院議員、東国幹も、道議会旭川の自民党議員3人(安住太伸、林祐作、木下雅之)も、鈴木や新党大地との関係は良好。ほとんどの自民党の議員にとり、鈴木は自分が生まれる前から中川一郎の秘書として政界で活動していた圧倒的な存在だ。大地が立憲民主と袂を分かった2015年以降、自民党にとって大地は立憲民主や共産などの野党統一候補陣営に対抗するために欠かせない仲間だった。この秋に開かれた自民党議員の行事でも、鈴木本人が登壇してマイクを握る姿が目立った。
 その鈴木が維新から去るとすれば、状況は変わってくる。維新が鈴木の立場に遠慮することなく、札幌以外でも独自の候補を擁立するかもしれない。
 一昨年秋に行われた衆院選で、道における比例代表の得票数は、維新の会が1万193票で5位。4位の共産党(1万1308票)に肉薄した。ただし、この中には大地の支持者の票も入っている。その前、2017年の衆院選は大地が1万248、維新が4305。焦点はいま純粋な維新票がどこまで増えているのかということだ。
 維新が旭川市議選で候補を擁立すれば、影響を受けるのは自民だけではない。大手マスコミ各社の政党支持率調査では維新が立憲を上回る状況が定着している。維新が自民に批判的な無党派層の声の受け皿になれば、他の野党からも票と議席を奪うことになる。
 当面の焦点は3年半後の統一地方選挙に向けた維新の動きだが、維新は地方での勢力伸長をバネに国政での躍進を目指しており、将来的には衆院6区でどのような動きを見せるのかにも注目が集まる。

この記事は月刊北海道経済2023年11月号に掲載されています。
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